建築とまちづくり2021年10月号(NO.511)

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<目次>

<主張> どこからどこまでが仕事なのか

 隆子さんとの付き合いは長い。ある時事務所に訪ねてこられた。自宅の一部を改装して、地域の居場所を作ろうと思うという相談だった。隆子さんが生まれ育った町内は、京都市南区、東寺のちょっと南。「退職した男の人がふわふわとクラゲみたいに歩いてるんや〜」。隆子さんの観察眼とその描写はなかなか鋭い。二人で笑いながらそれは問題ですねと共感。道路に面した和室を土間に改装。キッチンとトイレを設えた20㎡ほどの小さな空間だが、表の駐車スペースも含めていろんなイベントもできる。こうして隆子さんの「居場所よっとーくりゃす」の活動が2008年に始まる。
 もっともこの活動には前史がある。隆子さんと夫の二三夫さんは以前から生協の個人引き取りステーションの運営を自宅でしていた。週に一度生協から届いた品物を利用者に受け渡す。ところが注文品を取りに来ては長話や相談をする人がいっぱいいる。地域にはいろんな課題がある。この経験が隆子さんの原点にある。栄養失調のお年寄りをなんとかせねば、が子ども食堂のはじまり。仕事しかしてこなかった男性(前述のクラゲ)が男の料理教室をきっかけに家のことを話せるようになる。ひとつひとつ課題を見出しては解決の方法を考えることの繰り返し。
 一方同じ頃、高齢期を安心して暮らしたい、と一人暮らしの女性が事務所を訪れる。一緒に勉強するところから始めませんか、と「集まって暮らす安心の住まい研究会」を立ち上げる。隆子さん夫妻も参加し、高齢期の住まい事例を探るなか、グループリビングCOCO湘南に出会う。自立と共生という理念に胸を打たれ、みんなでこれだと確信する。それからは物件探しと運営組織づくり。一括借り上げ型のオーナーを見つけ、研究会の議論と入居希望者の要望を反映させたリフォームをし、2016年第1号グループリビング「ことらいふ嵯峨野」完成。同時にそこを運営するための株式会社を設立。二三夫さんが社長となる。
 隆子さんのよっとーくりゃす活動はスタッフも徐々に増え、包括支援センターなどからも随分当てにされる存在になっていた。
 2017年電話がかかる。「グループリビング作らんとあかん、3軒続きの空き家買うてん。建て替えたら何人住める?よっとくりゃーすもそこに移したいねん」。見ればボロボロの小さな借家建京町家、旧借地権付き。3階建に建て替えて6部屋と地域サロンといったところか。買う前に相談してほしいと思う。しかし建設コストを吸収できるシナリオがどうしても描けない。隆子さんの混沌とした長電話に付き合うこともしばしば。このまま改装して地域サロンと4軒の住まいでいこう。そう方針転換をしたら歯車が回り始めた。いまの町並みボリュームを守り、むしろ元の骨格に減築をして建物の間に路地を引き込みコモンに。このエリアには小さな町家がいっぱい残っていて次々に空き家化している。それらを安心の住まいや店や仕事場に置き換えていくことができれば、隆子さんの思い描く昔の町内に近づくはずだ。隆子さんの問題意識は、いかに自治の力を養うか、地域で最後まで生きるには一体どうすればいいのか。5年を経たことらいふ嵯峨野にもいろんな課題が見えてきている。
 こうして5年前から活動を休止していた研究会を再スタートすることになった。また事務局を担うことになる。自分たちが関わってきたものを検証し、次の構想を描くことや、連鎖し連続する取り組みに魅力を感じている。
 よっとーくりゃすの近くの訪問看護ステーションに勤務している友人を研究会に誘ったら、もう一人ケアマネも誘っていい?と言った。いろんな問題を抱えた家庭に飛び込んでいる彼女たちにとっても地域の連携は大切だろう。面白くなりそうだ。それ仕事ですか?と事務所で突っ込まれないことを願う。

川本真澄・もえぎ設計/全国幹事会副議長

<特集> 新建活動年報2019-2021
        ―新建50年の総括を新たな活動形態で展開

 今大会期は新建の50年の歴史の中でもっとも困難だった2年間ではないでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大で、全国企画、支部企画とともに日常活動がほとんど不可能になり、計画していたことが途中で頓挫し続けることは精神的に打撃的でした。
しかし、社会は止まってはいません。居住の貧困や災害、都市破壊など建築とまちづくりの問題は待ったなしで起こってきました。
 その中でもオンラインを利用した会議や支部企画が徐々に始まり、そして2020年末からの全国研究集会のオンライン連続開催は、多くの会員が発表し、交流を深めることができました。あらためて地域に根差した会員の活動を実感しました。支部やブロックでは50周年企画を新しい活動スタイルを模索しながら成功させてきました。
 一方では支部の取り組みはまだこれからという地域もあります。何もできなかったし、会員同志が会えなかったという地域もあるでしょう。
 本特集は2年間の会員活動紹介ですが、成功例を取り上げるだけが目的ではありません。新建憲章の実践に向かって一緒に取り組もうという全国の新建会員へのエールです。
設立50周年の取り組みを経て、新建の未来を語り合おうという機運が生まれています。本特集と大会議案を読み、語り合い、次の50年に向かっていきましょう。

担当編集委員:高田桂子/永井幸

<ひろば>  京都支部―
                         オンライン企画「みている世界を覗いてみれば」

    京都支部では「みている世界を覗いてみれば」と題して、ひとつの限られたエリアを参加者がそれぞれ個別に訪れて写真を数枚撮り、それをオンライン形式で紹介しあう、という企画を始めました。
   第一回目は「上七軒」という京都にある花街のひとつで、通りの両側には今も京都らしい町家が建ち並ぶ長さ300mほどの通りで行いました。参加者には馴染みのある場所ということもあり、一人5枚から15枚を紹介しあいましたが、同じ場所を撮った写真があるかと思えば、新しい発見となる写真、納まりやデザイン談義になる写真が登場するなど、話は尽きない企画となりました。
普段、旅行に行った際には写真を撮ることが多いのですが、数人で行くと同じところを歩いているのにみなが違う写真を撮ることがあります。建築関係以外の人と行くとさらに顕著です。その時に、一緒に歩いているときには興味を持っているものが分からないが、写真で見るとその人の好きなものや興味があるものが分かって、その人のことを理解できるきっかけになるなと感じていました。本企画はそのような体験を元に、会員の相互理解につながるのではと思い始めた次第です。
   この企画が上手くいくコツのようなものがあるとすれば、訪れた人が無理なくエリア全体を歩ける程度の広さを設定することではないかと思います。そうすれば、同じ写真があれば共感でき、違う写真があれば発見につながる。そういう面白さが出るのではないでしょうか。一本の「通り」はそれに相応しい場所だと思います。京都は魅力的な「通り」がたくさんあります。それらをひとつひとつ訪れて、皆で談義できれば楽しい企画になるのではと思っています。
                                                                                                 京都支部・瀬尾真司

 

 

<ひろば>  住まい連の夏期研修・交流会、光が丘団地で開催

    国民の住まいを守る全国連絡会(住まい連)の夏期研修・交流会を8月29日(日)練馬区の光が丘区民センター(光が丘団地)で開催しました。コロナ感染対策を行い、30名(会場定員の1/2)が参加、参加者の半数が団地の居住者でした。
 最初に坂庭国晴・住まい連代表幹事が 開会あいさつ、住まい連の紹介と活動、光が丘団地とのつながり、また、熱海土石流災害にふれ、市の公営住宅の現状にもふれました。そのあと、地元議員からのあいさつとして、山岸一生さん・衆議院東京9区(練馬区)候補予定者(元朝日新聞記者)、とや英津子さん・東京都議会議員、島田拓さん・練馬区議会議員が、それぞれ光が丘団地と住宅政策などについて話しました。
 
「光が丘団地の現状と多様な居住をめぐって」―特別報告、2人の代表から 
 研修交流会は、団地の現状と多様な居住をテーマに2人の居住者代表が特別報告を行いました。第1が 「コロナ禍の下で急速に進む高齢化・国際化・人口減少」と題しての高橋司郞・光が丘地区連合協議会会長の報告です。以下その要点を記します。
①光が丘団地の特徴―都営住宅、コーシャハイム、URが混在。入居にあたっての所得制限、分譲、賃貸が併存。
②高齢化が急速に進む光が丘団地の住民―団地によって高齢者の比率が50%超も時間の問題、5年以内に後期高齢者の仲間入り、家賃の高さがネックとなって、子どもたちが両親の面倒を見るため、容易に入居できない。
 ③国際化の進展―UR賃貸では、入居者の10%、大使館の官舎、アオバインターナショナル スクール開設10年経過、地域で定着。
 ④急速に進む人口減少―ピーク時の人口 4万2000人、現在 2万7000人。
 このように、団地の現状の特徴を話し、高齢化の急進展とともに、国際化が進展していること、人口減少も急速であることを報告しました。光が丘(パークタウン)団地は、住宅戸数1万2000戸、都営2650戸、公社1510戸、公団(UR)7840戸です。計画人口4万2000人でしたが、現在2万7000人となっています。

「光が丘団地(光が丘パークタウン)の過去、現状と未来」
 第2は、この表題で都営光が丘第3アパート元自治会長・小山謙一氏が報告しました。                 
光が丘団地の歴史、光が丘団地の基本計画の概要などにふれ、現状の光が丘の賃貸住宅の家賃について、①UR賃貸住宅 10万6200円~25万円、②公社ハイム賃貸住宅 9万8000円~13万円、③都営住宅 6000円~5万5000円を示し、URと公社住宅の高家賃について問題を指摘しました。そして、「光が丘団地の活性化を図るための方策」をつぎのように提起しました。
① 地域コミュ二ティの崩壊を食い止め活性化することが再生にとって緊急に必要。②高齢化問題を検討する活動を自治会活動に位置づける。③高齢者が集まれる場所を日常的に確保する。④従来型のリクリエーション活動にとらわれず、高齢者の暮らし、生き甲斐、福祉、医療、年金、介護、終活全般についての講演会や相談活動を活動の中心に位置づける。⑤高齢者にあまり負担をかけない形の自治会活動を検討する。⑥新たに自治会とは別に独立した地域のボランティア組織を立ち上げる。⑦地域ボランティア組織は地域の高齢者の暮らしなどの問題を自覚的かつ自主的に取り組む住民と専門家によって組織。⑧地域ボランティア組織は、自前の財源を確保し、活動するため有償ボランティアとしてコミュティビジネスを実施する。
 これらは、光が丘団地のこれからを切り開く上で重要な活動、取り組みといえます。
 
住まい連各団体から報告と発言―新建は文書報告行う
  特別報告の後、各団体から報告・発言を受けました。全国借地借家人組合連合会(細谷事務局長)、東京公社住宅自治会協議会(奥脇事務局長)、東京都庁職員労働組合住宅支部(北村元支部長)、都市機構労働組合(竹内元書記長)、中小建設業制度改善協議会(星野会長)、     新建は、「住宅団地の再編・第9分科会の趣旨と開催経過、今後に向けて」、「第32回全国研究集会の開催内容」を文書で報告しました。      
                                                                                            新建東京支部・坂庭国晴

 

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