建築とまちづくり2021年9月号(NO.510)

建築とまちづくり誌

<目次>

<主張> 憲章の実現にいま一歩踏み出す時

 現在、私たちが経験している深刻な事態は、コロナ禍によって可視化された現代社会の分断と格差のただ中にある人々の関係性を修復し、その活動を担うことによって経済社会の歴史的とも言える軌道修正に向かう方向に舵を切ることが、不可避かつ切実な課題を提起されていると言えます。
 待ったなしの温暖化防止・抑制のためのCO2排出量削減を指標とした気候変動への対応は、暮らし、社会、経済の転換によってしか実現しないことを私たちは知っています。そうした自然破壊から自然再生に向かって踏み出すとともに、人々の関係性、社会性を意識的に強めることの大切さを再確認し、人類にとって必須といえる「人々のつながり=共同性」を再生し、新たな関係として修復し直すかも、今日の大きな課題です。成長志向の市場動向に目が奪われ、可視化されにくいままに深刻化している現実の中で、新建のこれからの活動を考える上での転換点の時期だと言えます。
 もはや事態は、分断された個人による「自助」で解決できるようなものではなく、ここまで人々の関係性を脆弱化してきた社会のあり方を、根本からシフト・チェンジし、社会のつながりや関係性を共有し合える仕組みに組み替える社会変革的なレジリエンスの発揮が切実に求められています。
 日々の会員の関わる活動は多岐にわたりさまざまなネットワークがすでに築かれています。また建築やまちづくりの分野にとどまることなく、さらに幅広い分野と相互に結びついて、より多くの専門家や市民とのネットワークを築いていくことが必要です。
 地域には多様なミッションを持った市民や組織が活動しています。それらの人々との協議や連携などによって、暮らしを再構築していく要望の実現や組織を超えた地域課題への取り組みにつなげることができます。
 この連携・連帯を広げる活動によって、コロナ禍で鮮明になった格差や差別、住まいの貧困、また惨事便乗型の経済構造などという状況から脱却して、暮らしを守り人権や人間性を回復する社会的連帯経済の構築など、支え合って暮らしていく地域社会の再生への取り組みとしていくことができます。
 新建は、このような社会関係の転換を推進する担い手として、会員の「個」の自立的活動を支援しつつ、個人の意思で意図的にさまざまな人とつながりあい、自らのニーズや願いを実現するアソシエーションです。アソシエーションは、目的をもって設立され、メンバーが自覚的に参加する組織です。私たちは憲章を持ち、その実現のために、会員個々の活動はもとより、支部や全国的な共同活動、あるいは多様な組織の連携により、暮らしを支える建築や空間、人々の関係を再構築し、私たちが願う社会の実現につなげていきたいと願って活動する組織です。このことは新建が会員のニーズや願いを実現する仕組みとしての「手段としての組織」であることと同時に、会員の自由な意思に基づく会員間や地域の人々との連携に支えられた共同の活動によって憲章を実現する「目的を持った組織」と言えます。
 憲章の実現のためには会員個人、新建だけではなし得ず、この共同の活動によって住まいや地域の居場所などの仕事や事業を生み出し、より多くの専門家や市民や住民とともに暮らしを支え合う環境づくりに向かう活動に、積極的に踏み出すことがより求められる状況になっています。
 これから、私たちの活動が普遍性を持つと多くの人々と共有できれば、地域づくりの協同組織への展開や、職能の広がりの展望とあわせ、新建としての発展的変容も含めて模索することになりそうです。

岡田昭人 住まい・まちづくりデザインワークス/全国幹事会副議長

<特集>  コロナ禍で変わる地域コミュニティ

   新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの生活や社会をあらためて考える機会になりました。
 本誌ではコロナ禍が私たちの社会や暮らしに与えた影響を建築とまちづくりの視点で考える第1弾として、「コロナ禍の居住支援と暮らしの現状」を今年1月号で特集しました。
 今回は第2弾として地域コミュ二ティに焦点をあてます。
 人と会いづらい日常のなかで人々の暮らしにどのような変化があったでしょうか。不安や孤独を感じる人が増え、若者や女性の自殺が多くなっています。罹患したら重症化する高齢者は自宅に引きこもりがちな状態が続き、子どもと働く親、ケアを受けている人たちは保育所や介護施設の閉鎖縮小で地域のなかに縮こまり、ケアを受けにくい状況が続いています。
 人間は人と対することで良くも悪くも刺激を受け、癒しを感じ、思考を深めることができます。私たちは仕事や活動のなかで地域コミュニティを育て、つながりを深めていくことを大事にして取り組んできました。地域には、コロナ禍以前からも地域のつながりの希薄さを直視し、取り組んできた人たちが多くいます。コロナ禍の困難のなかでつながりを諦めず、困難な時期だからこそ、つながり合う活動を形を変えながらも続けています。今号ではそうした組織や活動の取り組みを紹介します。
 子ども食堂や子ども図書館、多世代の居場所、防災コミュニティづくり、マンション管理組合の事例を通し、地域コミュニティをさらに広め深めていくために私たちが果たす役割を展望したいと思います。

                                                                                                担当編集委員/高田桂子

<ひろば> 愛知、岐阜、三重支部―
                        古田さん「再生のユートピア」を語る

   東海3支部企画・新建50周年プレ企画を7月14日の夜にリモートにて行いました。北海道から九州までリモートにて、計28名ほどご参加いただきました。
   ① 小説「再生のユートピア」で想い描いた未来(古田豊彦さん)②対談(古田豊彦×福田啓次)田園都市構想と岐阜県恵那市・岩村 ③質問タイム・座談会の3部構成で行いました。
   本当は岐阜県恵那市・岩村のシェアカフェにてリアルな合宿企画を夏に予定していましたが、延期がつづき、プレ企画として思想的なことや岩村の場所性を知る企画となりました。岩村シェアカフェの方も交えて、愛知支部の古田豊彦さんに小説「再生のユートピア」について語っていただき、福田啓次さんとともに田園都市構想と岩村についてお話いただきました。
   古田豊彦さんは岐阜県中津川市出身で、ペンネーム「池上ゆたか」として、図面で表現できないことを小説にされました。自動車の交通事故で家族をなくした主人公がユートピアを彷徨います。自動車王国の愛知への批判やトヨタの未来都市ウーブン・シティへの対抗軸としてなど、さまざまな読み方ができる小説だと思いました。
   対談では、日本列島をさかさまに見たり、海外のまちの事例や古田さん手書きの解説図などから、岩村の地理的意味や自治の歴史などをお話していただきました。質問タイムでは、参加くださった全員のお話を聞く時間がなかったのが残念でしたが、今後につながる時間となり、小説の続編に期待する意見もでました。岩村での断熱対策の大変さや、岩村を活気づけるためにもぜひ現地へいつでも来てほしいとの話もありました。個人の直接的な関係づくりの大切さが感じられる日々です。また早くリアルに集まれる日が来るといいなと思います。リモートで意見交換とはなかなかいかなかったですが、貴重なご意見をたくさんいただきました。
   企画後には、小説購入依頼や個人的に古田さんと交流したい方などの問い合わせもあり、関係づくりの良いきっかけになったと思います。愛知の福田事務所にて会場設営いただき、なんだかラジオみたいですねと和気あいあいとした雰囲気で開催できました。多くの参加者のみなさま、ありがとうございました。

                                                                                                      愛知支部・黒野晶大

 

 

 

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