建築とまちづくり2024年3月号(NO.539)

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目次

<目次>

特集
縮退社会での建築とまちづくり――住まいと生活施設

中山 徹
人口減少時代における建築、まちづくりの基本方向

「住み続けられるまちづくり」をめざして
――京都市洛西ニュータウン

脱炭素と複合型コミュニティでまちづくり
――奈良県生駒市

清水 肇
生活の場面をつくる、沖縄・「えぐち商店」の取り組み

橋本 彰
あるニュータウンの今~ヴィンテージタウンを目指して~

連載
「居住福祉」の諸相〈14〉
岡本 祥浩
島の居住福祉資源

構造の楽しみ〈11〉
松島 洋介
走行クレーンのおうち~移動荷重と設計技術~

私のまちの隠れた名建築〈25〉
南山手乙27番館
旧長崎外国人居留地
鮫島 和夫

主張
能登半島地震被災地支援に協力を
片井 克美

新建のひろば
京都支部――対話型のトークセッション
「枚方市の財政を考える」学習会が開催されました
福岡支部――第8回「仕事を語る会」
新建災害復興支援会議――能登被災地視察速報

<主張> 能登半島地震被災地支援に協力を

片井克美 全国幹事会議長/新建災害復興支援会議 担当常任幹事

 1月1日16時10分に発生した能登半島地震は、マグニチュード7・6の直下型地震で石川県から新潟県にかけて大きな被害をもたらしました。なかでも石川県能登半島地域における被害が大きく、石川県だけで死者241名(災害関連死15名含む)、安否不明者7名、避難者1万1449名、住宅被害に至っては7万5000棟余と甚大な被害となっています。また、断水が約1万8000戸、停電約610戸と、発災から2カ月が経ったにもかかわらず生活インフラの復旧も進んでいません(2月29日現在 NHK)。
 発災直後から、国や石川県の救助の遅れや被災者に対する緊急対応の遅さが指摘されていました。2週間以上にわたって孤立が続いた集落もあったようです。道路の寸断などの地理的条件があったとはいえ、孤立集落の様子や避難所でのスフィア基準にはほど遠い状況など、被災した人たちへの支援が足りないことが連日報道されてきました。
 発災から2カ月が過ぎ、復興に向けた動きも始まりましたが、2月末現在で応急仮設住宅の建設は300戸止まりとなっており、入居申請8000戸とは大きな隔たりがあります。
 2月11日・12日には仙台で『東日本大震災100の教訓 復興検証編』の出版記念セミナーが行われました。13年前に未曽有の大震災に直面した東日本、その復興には巨費が投じられましたが、依然として復興から取り残された被災者の苦しみが報告されました。以前に出版された『東日本大震災100の教訓 地震・津波編』とともに、この大震災での緊急対応から復旧・生活再建・復興について経験と教訓が紹介されています。
 セミナーの最後に、塩崎賢明さんが「災害に対する事前の備えが欠けているという実態=復興災害が、今も能登でくりかえされている。……常設の防災復興省の創設が必要ではないか」という問いかけに共感しました。これらの本で指摘されているように、国や自治体が発災から復興に至るまでまともな検証や対策を行ってこなかったことと、過去の災害の教訓が生かされていないことが、今回の能登半島地震においても初動の遅れや避難所での混乱につながったのではないでしょうか。
 東日本大震災を機に東日本大震災復興支援会議を立上げ、東北や関東圏の会員が相談活動や復興支援活動を長期間にわたって行いました。その後、新建災害復興支援会議と改称し、各地の被災地に引き続き調査や支援を行ってきました。昨年3月に亡くなられた千葉支部の鎌田一夫さんや今年2月に亡くなられた東京支部の三浦史郎さんは歴代の事務局長を務め、特に東日本の復興支援に積極的にかかわられた方々でした。お二人が先立たれたのは残念ですが、彼らの想いや経験を能登半島地震被災地の復興に役立てたいと思います。
 今回の能登半島地震に際しては、1月2日に事務局より「お悔みおよびお見舞い」、そして支援金の訴えを全国メールで発信しました。2カ月間で40万円ほどの支援金が寄せられました。その後、1月8日、15日に会議を開催し、支援に向けた体制を検討してきました。そして1月28日の全国常任幹事会で「能登半島地震復興支援本部」の立上げを承認しました。本部長は丸谷博男さん(東京)、事務局長は新井隆夫さん(群馬)、事務局次長は山下千佳さん(東京)で、他のメンバーは地元の石川・富山・新潟・福井支部の会員です。体制が整ったところで1月29日、2月19日と支援の方法を巡って会議を行いました。3月6日、7日には先発隊として現地視察に派遣をし、全国災対連の加盟団体である農民連が開催する輪島診療所での「炊き出し」にも参加をして、今後の連携についても相談してくる予定です。4月には北陸ブロック会議を開催するなど、現地視察と支援活動を開始する方向で進めていきます。
 全国の会員の皆さんのご支援・ご参加をお願いします。

<特集> 縮退社会での建築とまちづくり――住まいと生活施設

人口減少と大都市への人口集中により地域社会の縮退(shrink)が懸念されてきました。しかし、いまだに大規模開発が行われ、住まいやオフィスもすぐに陳腐化し空き家を残しつつ新規建設が際限もなく続いています。効率優先で社会は動き、東京や大阪など主要都市は世界都市として肩を並べたいとしながらも、社会格差は広がり豊かな社会にはなっていません。次世代へ大きなリスクを残して再開発を日本中で進行しているのが現状です。
 本誌の2024年特集では「縮退社会での建築とまちづくり」をシリーズとして取り上げ、住まいと社会施設、交通、中心市街地の再編、施設再編を4つのテーマを追ってみたいと思います。
 今号は「住まい・まちづくり」に焦点を当てます。
 戦後、都市は拡大を続け、山を切り崩してニュータウンを建設し、質より量を優先した住宅が作られてきました。60年近く経ち、都市部にも郊外にも空き家が目立ってきているのに、新しく大規模マンションが住民を追い出しながら建てられています。
 一斉に入居したかつてのニュータウンや住宅団地では高齢化が著しく、またスーパーや郵便局・金融機関など生活に密着する施設が撤退し、通常の生活が送れない「限界ニュータウン」「限界分譲地」が出現しています。
 こうした状況のなかで住民主導で生活を取り戻す取り組みが始まっています。
 今号では、京都府の洛西ニュータウンでの住民主体のまちづくり、奈良県生駒市の複合型コミュニティづくり、沖縄県の自治会が中心のえぐち商店、兵庫県の西神ニュータウンの地域文化づくりの事例を紹介しますが、どの事例も自治体や公的機関などと連携しながら、住民主体を意識ながら取り組まれているのが特徴です。そして住み続けてきた地域で、知恵を絞りながら取り組んでいく姿が見えてきます。
 中山徹氏は「学校の統合か、少人数学級の導入か」「コンパクトシティではなく公共空間の充実、乱開発の是正を進めるべき」「人口減少を逆手に取り、負の遺産を改善するべき」「住民参加によるまちづくりの基本方向」という4つの視点を提示。縮退社会での建築とまちづくりを考えていく上で方向性を示していただきました。会員の闊達な意見交換で今後の特集を充実させたいと考えます。
                               担当編集委員/髙田桂子

<ひろば> 京都支部―対話型のトークセッション

1月26日に「京都のまちを対話でつくる……市民と行政と専門家の対話の方法」というテーマで企画を持ちました。語り手は、会員で京都市役所、まち再生・創造推進室所属の村上真史さん。入庁以来携わってこられた京都市景観政策について語っていただきました。そして村上さんのお話の受け手を河合博司さんにお願いしました。河合さんは、研究者で地方自治が専門分野です。在住の町内でも住民主体のまちづくりの実践を重ねておられます。
 村上さんの話を受けて、河合さんがコメントを挟み、会場参加者ともトークを繰り広げていくというやり方を試みました。参加者は19名でうち会員外の方が6人、学生も2人参加してくれ、予定の2時間を30分延長する盛り上がりとなりました。 村上さんからは次のようなことをお聞きしました。
 京都市はその歴史や文化を保存継承するために、美観地区や風致地区制度をはじめさまざまな景観政策に取り組んできた。しかしながらバブル時代の経済至上主義の波に圧倒され、古きもの・伝統的なもの、京町家や三山の眺望などがいつの間にか消えていく事態に陥った。そこで新しいものを受け入れつつも京都らしい「新たな景観の創造」という観点が生まれ、議論を経て高さ規制強化を含む「新景観政策」が2007年に施行された。
 一方で、景観は本来市民とともに創造していくものだという視点から2011年に「地域景観づくり協議会制度」ができ、現在16の地域で協議会ができている。歴史的に景観保全が重視されてきたエリアにおいても、新しく入ってきたホテルや観光客向けの店舗や大型マンションなど、これまでの住環境と相容れないような事態が起こった時にこの協議会制度を用いて、場合によっては京都市職員も中に入って対話が試みられている。祇園の鉾を上から見下ろす露天風呂計画を阻止したり、ド派手な看板を町並みに合うものに変えさせたり一定の成果は上がっている。とはいえ、日本における「敷地主義」が矛盾を生み、相応しくない建築であっても止めることができないジレンマを感じる。
 今後の展望について 景観政策は一進一退を繰り返し、町中で経済至上主義と住民自治のせめぎ合いはずっと続いている。大企業による市場の独占や中央集権化する政府から脱却し、財源も含めた自治権の確立が求められる。市民と事業者の非対称性が課題であり、行政がどういう立場に立つのか公平性が求められている。
 そして最後に、対話型の新しい形が生まれている市内の事例を2箇所紹介された後、「ファンダム・シティ」という概念を教えてもらいました。ファンダムとは、熱心なファンがつくるゆるやかなネットワークのことだそうです。地域に愛着を持つファンに支えられたまちを描くというイメージです。
 フロアからは、公務員の役割とはなにか、という投げかけや、真の京都らしさを語る時に文化や暮らし、そして生業が現れたものであるべきだという観点、対話の形がまだまだ不十分、学生の中にはまちづくりに興味のある人が多いと感じるが参加できる場があまりないなどの発言がありました。
 河合さんは最後に、公共財というものは、原則として非排除性を持っていなくてはならない。今日の議論の中で、現行法規の壁の話が出てきたが、法律の限界を突破する方法はいっぱいあるし、優れた事例もあることを知ってほしいとコメントされました。   (京都支部・川本真澄)

<ひろば> 「枚方市の財政を考える」学習会が開催されました

「市民の声を生かして枚方市のまちづくりを」掲げて活動している「枚方のまちづくりを考える市民ネットワーク」は、去る2月3日(土)に、森裕之さん(立命館大学政策科学部教授・財政学)を招いて、「枚方市の財政を考える」学習会を開催しました。会場である総合文化芸術センター別館には、市民52名、Zoomでは12名が参加しました。この学習会は、枚方市の一般会計予算は年1800億円程度なのに対し、枚方市駅前地区で進められている大規模開発の総事業費が約1000億とあまりにも多額であることから「市の財政は大丈夫?」「私たちの暮らしはどうなるの?」などの市民の率直な疑問に答えるために開催されたものです。
 森先生は、開口一番「市の財政は家計(企業)と仕組みは同じ」と切り出し、随所にユーモアを交えて、財政の仕組みや枚方市の問題点を詳しく説明してくれました。枚方市の財政状況は借金も少なく、基金もあるので、企業なら「優良企業」レベルであるが、これは行財政にとって必ずしも健全な姿ではないと指摘。なぜなら枚方市の公共施設などの老朽化は類似規模の公共団体59団体のうち2番目に位置すること、枚方市の庁舎や市民会館、学校施設、体育館、保健所など個別に見た場合でも、老朽化の進行が著しいことを具体的なデータでわかりやすく解説してくれました。このことはつまり、現在の維新市政が、市民生活にとって必要不可欠な建物の修繕や更新にまったくお金をかけていないことを如実に示すものです。また、福祉や医療などにかかる経常経費の割合も高い水準にあることから、今後整備が急がれる公共施設の修復や建替え更新、新庁舎建設、さらには駅前の大規模開発などにより、将来の市財政リスクについて十分注意すべきと問題を提起。今こそどのような整備や開発を進めるのがよいのかについて市民の判断が求められていると締めくくりました。
 会場からは「市庁舎を国の施設と一体の合同庁舎とすることはいかがなものか」「予算を決議せずに市庁舎の移転を先に決めてもよいのか」「駅前には市民本位の施設を整備してほしい」などの活発な意見が出されました。また、枚方市の堤議員からも枚方市議会の現況についての報告がありました。
 その後の経緯を見ると、同市民ネットワークは、街頭宣伝に加え、2月19日には市役所を約200名の市民で取り囲む「ヒーマンチェーン」を実施。21日に開催された枚方市の議会全員協議会では多くの議員から発言が相次ぎ、26日の市長の所信表明では「市役所移転条例」の発言はありませんでした。このように、この間の市民活動は枚方市議会に多大な影響を与えてきていると思います。
 新建大阪支部では、専門家の立場から、引き続きこれらの市民運動を支援し、共同の活動に取り組んでいきます。
(大阪支部・中西晃)

<ひろば> 福岡支部――第8回「仕事を語る会」

福岡支部では2024年2月6日に、継続して行なっている「仕事を語る会」を開催しました。今回は長年の会員で、新入会員の入会のきっかけを数多く持つ、構造設計者の川﨑薫さんのお話を伺いました。終了後の懇親会では勢いもあってか、家族会員も含む5名の新入会がありました。新建パンフや『建まち』誌は、例会では必須のアイテムです。以下、参加した会員の報告です。
 川﨑構造設計の川﨑薫氏は、構造設計一筋の方と思いきや、大学時代には絶対的なソフトを開発しておられたことなど驚きました。しかしながらタイミングの妙で、コンピューターソフト会社への就職ではなく構造設計の世界へ!そこから現在のご活躍に連綿とつながっておられることに驚きと納得をした次第です。残るか転職か、残るか独立かなど、幾度の岐路を前向きに選択されたこと、今後もまだまだ100歳までも仕事するなど刺激的なお話でした。
 構造設計といえば姉歯事件を思い起こしますが、あの事件で意匠設計に比べ安かった構造設計費が倍増したお話など、興味深いお話も印象的でした。これまで関わって来られた代表的な構造設計には「西部ガス油山研修所」「山鹿市のさくら湯再建」「吉野ケ里遺跡」そして進行中の「首里城再興プロジェクト」など、どれも高度な技術力ばかりではなく、過去に思いを馳せ、想像を巡らせ設計をされる川﨑氏の感性にも触れることができました。
 特に私の気を引いたのが、山鹿市(熊本県)のさくら湯でした。山鹿市には私が通った熊本県立鹿本高校があります。高校時代はさくら湯の横を自転車で通学していました。コンクリート造りで建物内には売店などがある、どこの田舎にでもありそうな公衆浴場でした。再建にあたり当時を窺い知る資料がないなか、和紙だけで創る伝統工芸の山鹿灯篭を展示している「山鹿灯篭民芸館」で、当時のさくら湯を窺い知る作品を発見され、それを再現するためにさまざまな検討を重ねて構造設計に携わられたことは、帰省のたびに「さくら湯」に入湯する私にとって大変感慨深いお話でした。現在進行中の首里城再建プロジェクトはじめ川﨑氏の益々のご活躍をお祈りしながら、川﨑氏が設計された建築物に触れる機会をこれからも楽しみにしています。 (福岡支部・坂本二美)

<ひろば> 新建災害復興支援会議――能登被災地視察速報

 2024年3月6日7日の2日間、能登地震の被災地を訪問しました。参加者は丸谷博男さん、千代崎一夫さん、山下千佳さん、杉山真さん、新井隆夫の5人です。杉山さんの車で移動し、6日は金沢市~内灘町~七尾市~金沢市(泊)、7日は金沢市~穴水町~輪島市へと視察しました。今回は道路状況がかなり悪いとの情報もあったため、最小人数での視察となりました。
 印象に残ったこととして
①道路は迂回路通行、路面は凹凸激しく、路側の崩落個所多数などがあり、移動は時間を要しました。
②建物被害は特に内灘町では液状化により被害(傾き、全壊、敷地路盤の傾斜、地中からの砂の噴出等)が多くみられました。和倉温泉(埋め立て地が多い)のホテル旅館も被害が大きく全休状態。
③生活インフラは上下水道の復旧が遅れ、町のあちこちに架設トイレが置かれていました。
④建物は全壊と被害最小との差が大きく、構造によるものと地盤状況の違いによるものかなど、今後の検証が必要と思われます。
⑤特に地盤の液状化対策は今後の地震対策として大きな課題を突き付けられた思いです。
 被災地写真を新建HPに掲載してますのでご覧ください。(新建災害復興支援会議事務局長・新井隆夫)

【訃報】
全国事務局長を務められた三浦史郎氏が去る二月十九日に七十八歳で永眠されました。長く全国常任幹事として活躍されました。追悼記事は5月号で掲載予定です。

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