建築とまちづくり2023年5月号(NO.530)

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目次

<目次>

特集
賃貸住宅の豊かさを展望する

大月 敏雄
賃貸集合住宅の広がりと21世紀のミニマリズム

鮎川 沙代
若者と高齢者の助けあい居住のかたち
――藤沢市ノビシロハウス

安谷屋 貴子
コラム:「部屋に住む」のではなく「町に住む」感覚
――荒川区トダビューハイツ

《インタビュー》
鵠ノ杜舎、地域に「nezasu」賃貸住宅を作るプロセスとしくみ
――ブルースタジオ・丸山アーバンに聞く

関川 華
フランスの賃貸住宅事情
――紆余曲折から生まれた都市における住まいの選択肢

連載
「居住福祉」の諸相〈5〉
社会的擁護からの巣立ちを支える寮
岡本 祥浩

構造の楽しみ〈2〉
勘と経験と電卓で構造計画
松島 洋介

私のまちの隠れた名建築〈16〉
吉田医院と福井神社
福井県福井市
西 一生

主張
老人会の会長になりました
片井 克美

新建のひろば
さらなる運動のひろがりを~枚方市駅周辺再整備は市民参加で
京都支部――実践報告会「千本北大路界隈での取り組み」
オンライン講座 新建ゼミ これからの建築人は何を目指すか! ~藤本昌也さんとのクロストーク~

<主張> 老人会の会長になりました

片井克美 片井建築設計事務所/全国常任幹事

今年度1年間、地域の老人会(シニアクラブ)の会長を務めることになりました。参加は任意で会員数は110名ほど、会員の年齢は99歳から66歳で親子以上の年齢差があります。老人会の活動としては、神社清掃や独居老人の見守りなどのボランティアや資金集めのための古紙回収、年に2回の日帰り親睦旅行、忘年会などです。また、月に1度、社会福祉協議会の協力でサロンの運営もしています。役員は60代後半から70代前半の男性です。農村部でもあり、ほとんどの会員は長く住んでおり、特に男性の大半はここで生まれ育った人たちで、私もその一人です。
 老人会は、数十名から100名ほどの地域単位クラブがあり、市町村、県、そして公益財団法人全国老人クラブ連合会というピラミッド状に組織されています。「地域を基盤とする高齢者の自主的な組織」で、①生活を豊かにする楽しい活動や、②地域を豊かにする社会活動を通じて、③明るい長寿社会づくり、保健福祉の向上に努めること、を目的とされています。会員の会費により運営されていますが、老人福祉法により、地方公共団体からの補助金も受けています。
 全国の老人会の悩みは会員減少です。高齢者は増えているのに、会員は減っているのです。私の住む町も全国と同じように、高齢者は増えている(15年で1・5倍)のですが、老人会の会員は減っています。役員のなり手がいないため運営できずに活動を止めたり、組織そのものが消滅している地域もあります。ネットで「老人会」と検索すると、全国の組織で会員減少の指摘や嘆きがあります。若手の老人(?)が入会しないのです。
 私の地域でも同じで、65歳から入会できますが60代は数名しかいません。後は80代以上と70代が同数くらいです。この数年間の会員数を調べたら、70代以上の会員数はあまり変わっていないのに、60代が1/6以下になっていました。高齢の会員を若い会員がお世話するという体制で、老々介護にも似た、特に女性に負担がかかるような構図にもなっています。お世話する若い会員がいなければ組織が成り立たなくなってくるのです。
 一方、小学生で組織する子供会の会員も激減しています。小学校の児童数は15年前に比べて5%ほど減ってはいますが、子供会の会員は1/3くらいになっています。子供会に入らない子供が増えているのです。野山で遊んでいる子供たちを目にすることも少なくなりました。
 老人会や子供会の会員減少は地域とのかかわりが希薄になり、地域のコミュニティが崩壊しているのが原因といわれています。私の住む農村部では地域コミュニティは、生活する上で必要であったのですが、無言の圧力もあり維持されてきたように思います。その残骸は残っており、移住や結婚によりこの地域に移り住んだり、その中に入れない人たちにとっては、既存のコミュニティは息苦しく最小限のかかわりとならざるを得ないと思います。自立した個人が参加でき、発言できるコミュニティが求められています。新建憲章に謳うまちづくりと一緒です。
 超高齢社会となり、高齢者を排除したり、若い人との分断を図るような極端な論調がネットやテレビでも話題となっていますが、今まで社会を維持してきた高齢者を排除することなく、一緒に生活できるコミュニティを創っていく必要があると思っています。私の住む地域でも独居老人が増えています。地域で誰一人取り残さない取り組みはどうすればよいのか。今までのコミュニティを検証し、若い人たちとも交流ができるような老人会を目指しています。防災士として地区防災組織つくりにもかかわっており、連携した活動も模索中です。
 誰もが人生の最後に、ここに住んで良かったと思って死んで行ける地域を目指し、新建憲章や皆さんたちのお知恵を拝借しながら、地域コミュニティ再生の足掛かりを築く試行錯誤のこの1年を楽しみにしています。

<特集> 賃貸住宅の豊かさを展望する

戦後の住宅難を一刻も早く解決するために始まったとされる持家政策ですが、高度経済成長、バブルと崩壊を越え、縮小社会に入り、「量より質へ」といわれ早20年以上経とうとしています。いまだ民間賃貸住宅の質は、持家のそれとは比べるまでもなく低く、多くの人々はみな住宅すごろくの途中と認識しています。
 しかし、ライフスタイルは多様化し、生涯未婚率は男性で28%、女性で17%です。シングルペアレントの家庭やLGBTカップル、若者同士のシェア居住も身近になりました。高齢者の独り暮らしも増加し続けています。すでに、社会の世帯構造は、持ち家だけではカバーしきれないほど変化しています。
 数の面でも同様です。世帯類型別の世帯数をみると、夫婦と子どもからなるいわゆる標準世帯は今後30年で現状の6割、745万世帯になります。一方で、単独世帯は微増微減ののち現状とほぼ同じ1786万世帯になり、2050年には全体の4割が単独世帯になると予測されています。またそのうち半数が高齢単身世帯であることも認識する必要があるでしょう。この状況でも、まだ私たちは持家をメインとした住宅生産を続けるのでしょうか。
 では、なぜ良質な賃貸住宅が少ないのでしょうか?この疑問が本特集のきっかけとなりました。諸外国の政策と比べても、我が国では金銭的にある程度余裕のある人が家を持つことに主眼があり、どんな人にも“住まう”ことを保障するという点に欠けています。その結果、民間の賃貸住宅の多くは投資家による投資目的のものとなり、人が住まうことが二の次になります。それにより人々は早く賃貸を出て持家を持ちたいと考える負のスパイラルに陥っているのです。
 本特集では、その中でも萌芽的な取り組みに焦点をあてるとともに、海外事例や居住者の視点から、これからの賃貸住宅を展望します。                      担当編集委員/馬場麻衣

<ひろば> さらなる運動のひろがりを ~枚方市駅周辺再整備は市民参加で

本誌2月号で紹介した枚方市駅周辺再整備を考える市民運動のその後の報告です。2月号では、昨年9月に市役所移転条例案が議会で否決され、バラバラに活動していた市民グループのネットワーク化を図るべく、11月、12月に個別に学習会を開催して共同を呼び掛け、1月に代表者会議を開催し、2月に大集会を計画したところまで報告しました。
 2月11日に4団体で構成する「枚方のまちづくりを考える市民ネットワーク」主催で「市役所移転と周辺のまちづくりを考える学習会」を開催しました。新建でチラシを作成し各団体で約2万枚配布しながら精力的に参加を呼びかけました。各団体の読みを合計した参加者は多くて70名程度だろう、余ればあちこちに配布することにして資料は100部用意しようということで、メインの資料と参加者アンケートは新建が作成し、各団体の活動紹介や市会議員の議会報告などをそれぞれ準備しました。チラシに申込みQRコードを付けてオンライン参加も受け付けるなど、今どきの手法も駆使して可能な限り宣伝に力を入れて当日に臨みました。そして当日フタを開けて見ると、なんと現地120余名、オンライン20余名で計150名を超える参加者があり、資料は不足するわ立ち見は出るわで、うれしい大混乱という感じになりました。
 新建からこの開発の問題点として一部の民間企業に利する道理のない、制度を悪用した開発であり、高層ビルが建てば日影やビル風の問題は避けられない(2月号参照)などを説明し、市民のまちづくり運動の重要性を提起しました。各市民団体からはこれまでの活動と今後の運動の方向性の報告、市会議員からは当局が見込んでいるスケジュール(2024年3月に都市計画決定)などの説明があり、会場からはたくさんの発言がありました。
 市職労委員長や枚方社保協(社会保障推進協議会)会長などからも共闘の発言があり、あっという間に2時間半が過ぎ、最後に、ともに運動をひろげていきましょう、と締めくくって閉会しました。アンケート回答は64票、『建まち』2月号予約販売4冊という成果もありました。当日の模様は専用ホームページ(f-hirakata.com)からユーチューブで見ることができます。
 後日、今後の活動について相談しましたが、3月議会では市役所移転条例案の再提出はないだろう、4月に市議会議員選挙があるので、この問題を争点に引き上げ、条例に反対する議員を増やそう、ということで当面は各団体で活動し、8月の市長選挙に向けて5月ごろから、ネットワークとしての動きをつくろうということになりました。
 ところが、市は3月議会初日(3/3)の全員協議会で突然「改定案」を出してきました。駅前広場と70年代の再開発ビル(サンプラザ1号館)を含む、市街地再開発事業を予定している②街区と、公園を含むほとんどが市有地で土地区画整理事業を予定している④街区の境界線を変更し、公園(約5000㎡)を②街区に組み込んだ案です。これはサンプラザ1号館の建て替え負担軽減に資する保留床を大量に造るための再開発用地を確保しようという狙いであることは明らかです。しかも説明図では議会で否決された市役所の移転案がそのまま表現されています。市会議員からこの情報がもたらされ、4団体で急遽集まってこの狙いを説明して対策を検討し、「緊急学習会」を開催しようということになりました。
 開催は3月18日、宣伝期間が短かいので参加者は30名くらいだろうと、前回のような広い部屋は予約していなかったのですが、この回も予想を上回り現地40余名、オンライン20名程度と60名あまりの参加で部屋はいっぱいになりました。最悪のシナリオCGを作成して前述の「改定案」の狙いを説明し、全国的に公園が開発に利用されようとしている現状を報告しました。区画整理・再開発対策全国連絡会議事務局長の遠藤哲人さんがオンラインで参加されていたので、会場発言として神宮外苑前の開発に対する専門家と市民の反対運動について話してもらいました(区画・再開発通信4月号に掲載されました)。一般市民の発言も多く、終了後にはある政党の「枚方勝手連」の活動をしているという2人の子育て世代の女性が「同じ意見だ、私たちのニュースに2/11の動画QRコードを載せて拡散させてもらってる」と話しかけてくるなど、少しずつ着実に市民の中で広がってきていることが感じられました。
 3月末からパブリックコメント募集が始まったので、新建で作成したサンプルコメントを各団体が拡散し、みんなで意見を出そうという運動を展開しています。市議会議員選挙は楽観を許さない状況ですが、8月末頃の市長選挙も見据えながら、まずは今年度末の都市計画決定を阻止すべく運動をひろげていきます。なお、本誌2月号を読んだ市民グループの一人から『建まち』購読の申し込みがありました。
                                   大阪支部・大槻博司

<ひろば> 京都支部――実践報告会「千本北大路界隈での取り組み」

 3月25日、会場となったもえぎ設計に6名、オンライン2名の8名参加で実践報告会をおこないました。千本北大路界隈での取り組みを2本、報告してもらいました。

「千本北大路のまちづくりを考える会の活動報告」むぎ設計工房 吉田剛さん
 共同代表の伊藤さんと一緒に会場に来ていただきました。伊藤さんは会員ではありませんが地理学を専攻されていて、これまでに諸外国のまちづくりを実際に数多く見てこられたそうです。特に英国の田園都市計画を間近に見たことが、建築の世界との接点ではないかと仰っていました。
 吉田さんからは、会の活動の経緯から話が始まりました。京都市が、市営楽只団地の老朽化を理由に住民を集約居住させ、団地を取り壊す手法を進めていること、その余剰地となった敷地を大企業に定期借地させ、地代収入を得ようとしていることなどについて、「おかしい!」と声を挙げたことが活動の端緒だったそうです。2019年から始まった活動でした。住民に対して行った認知度調査では、7割の住民が建て替え問題自体を知らないことも分かりました。
 会のメンバーには、イラストの上手な元保育士さん、編集に長けた人や、まちづくりの専門家が居て、地域住民に対し計画を知らせるリーフレットや、会の計画案などを素早く配布し地域に共有しています。地域住民へのアンケートからは「緑を残しつつも、必要な建物は最低限つくり、地域の憩いの場をつくって欲しい」という意見が多く、地域が商業施設や大規模開発を望んでいないことがよく分かりました。
 千本北大路はライトハウス(視覚障害者総合福祉施設)が存在しているなど古くから「福祉」に手厚い地域という印象が強い場所です。京都市はこの地に「賑わいの場所創出」を目指しているようですが、周辺にある多くの福祉施設の利用者が日常的に散歩に行けるような「憩いの場」を実現させるべきだと報告を聞きながら感じました。

「地域密着型総合福祉施設ふなおか」地域にねざす設計舎T APROOT 瀬尾真司さん
 千本北大路の交差点の南西に位置する福祉施設についての紹介です。
 2022年竣工、鉄骨4階建ての建物で、「小規模多機能」「地域密着型特別養護老人ホーム」「有料老人ホーム」「ショートステイ」の機能が混在しています。これまでは大規模な老人施設を郊外につくる例が多かったのですが、在宅介護を主とする政策が取られて以降、自宅から近いまちなかで機能混在型の施設の需要が高まっています。利用者の体調や介護度が変わっても、同じ建物の中で比較的長い期間、最適なサービスを受け続けられることがコンセプトです。いろいろな施設を転々とする必要がなく、利用者にとっては機能混在型のメリットは大きいと感じました。
 外観は、上の階へ行くほど外壁ラインをセットバックして庇を設けるなど、近隣に与える圧迫感に配慮したデザインです。外部はボリューム感を軽減することを目的にデザインされ、内部は利用者の居心地を大切にした「住まい」のスケールでつくられています。各利用者ユニットごとに内装の雰囲気やサインの色味を変え、利用者が帰る場所を分かりやすく認識できるようになっていたり、介護者の不足を補うために自動洗浄機能を備えた介護浴槽を取り入れたり、調理者の負担を減らしつつできたてさながらの食事を提供するクックチル方式を採用するなど、随所にさまざまな工夫があることを解説してもらいました。例えばクックチル方式では、厨房面積の削減や配膳の省力化による労働環境の改善にもつながります。
 トイレや浴室には多くの手すりが配置され、個々の利用者によって異なる「さまざまな機能障害」に対応できるように配慮されていました。こういった施設がまちなかにどんどん増えていけば良いと感じました。
                                  京都支部・大森直紀

オンライン講座 新建ゼミ  これからの建築人は何を目指すか!  
~藤本昌也さんとのクロストーク~

 昨年茨城での建まちセミナーで、藤本昌也氏の講演がありましたが、内容が盛りだくさんでもあり、時間が短すぎました。そのため延長戦として各講師によるオンライン連続講座があり、各回ともに盛況に実施されました。これをさらに内容を深めるような連続講座を開こうと声が上がり、準備会が始まりました。当初は、東京支部内での企画のイメージでしたが、全国イベントとすることになり、全国幹事会の政策委員会も一緒に取り組むことになりました。
 十一月からスタートし、概ね月に一回のペースで準備会を行ってきました。途中から藤本さんにも参加してもらい、どのような講座内容にするかを検討し、ようやく三月頃に、概要が固まってきましたので、その内容を紹介します。
 全体テーマとしては、今後ますます加速していく人口減少時代の日本にあって、どのような建築が必要とされているのか、どんな住環境を作っていくと良いのか、建築人として今考えなければならないことを議論する講座とする。その中で、建築人としてどんな分野で生きていくのか、その一歩を踏み出しているチューター役の方から取り組みを紹介してもらい、藤本昌也さんからも、50年以上にわたり建築家として開拓してきた新しい分野の方法論を話してもらう。それらを踏まえて、クロストークの中で、今後の建築人が生きる道を切り拓くヒントとなるような内容にしたい。各回で、「建築とまちとの関係」「建築人の役割」をチューター役の方に意識して報告してもらい、クロストークの中ではこの2つを中心に据えて展開していきます。
 第一回は、「つながる住まい」と題して、新建でも古くから取り組まれてきた、コーポラティブハウスのような人と人がつながる住まいにスポットを当てます。チューターに川本真澄さん、高田健司さんを迎え、多様なコーポラティブ的住まい方をご紹介いただきます。それらを1990年代に多摩ニュータウンでコープタウンとして手がけてきた藤本さんからも発言してもらいながら、クロストークに展開していきます。
 日程は6月19日(月)19時~21時です。新建ホームページよりお申し込みください。第2回を7月に、第3回を8月にも実施予定です。皆さん、ぜひご参加下さい。      東京支部・江国智洋

2023新建ゼミ「私たち建築人に何ができるのか ! 」 – 新建築家技術者集団-新建webー (nu-ae.com)

【訃報】
 『建築とまちづくり』前編集委員長の鎌田一夫氏が去る三月二十三日に七十九歳で永眠されました。鎌田さんは2009年から2020年まで本誌編集委員長を務め、特に新建設立50周年記念特集(2020年)では精力を傾けて取り組まれていました。追悼記事は7/8月号で掲載予定です。 (編集委員会)

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