建築とまちづくり2023年12月号(NO.536)

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目次

<目次>

特集
日本の森を守る
――地域生産力の現状と展望

岩城 由里子
地元の木にこだわった家づくり

伏見 康司
木材を形成する大工職人

福田 啓次
「木の空間づくりプロジェクト」の取り組みから

大原 紀子
川上から川下をつなぐ
――材木を見る目を育てる仕組みづくり

渡邊 美恵
九州の山とまち
――森や木材利用における顔の見えるつながりづくり

佐々木 文彦 稗田 忠弘 高本 明生
柳澤 泰博 岩城 由里子 田村 宏明
大原 紀子 渡邊 美恵
日本の森林を守る――各地の取り組み

連載
「居住福祉」の諸相〈11〉
人と自然とものがたり
岡本 祥浩

構造の楽しみ〈8〉
「もたない」ってどういうこと?
松島 洋介

私のまちの隠れた名建築〈22〉
斜めの家
新潟県上越市
中野 一敏・室岡 耕次

主張
建設関係での働きやすい環境とは?
甫立 浩一

特別決議
ガザ地区での即時停戦と人道支援を求めます
大阪・関西万博の中止を求めます

新建のひろば
宮城支部――東松島・女川・石巻震災復興視察研修
空き家をシェア社宅に――東京中小企業家同友会台東支部の取り組み

<主張>  建設関係での働きやすい環境とは ?

甫立浩一 (株)宮工務店/全国常任幹事

 2019年4月1日に施行された「働き方改革~一億総活躍の実現に向けて」で、中小企業の工務店という建設現場で働いているものとして、そこで働く関連職種の生の声を聞きながら、実現に向けて、どのように考え方を変えていくかを思う今日この頃です。
 営業職の若い方が会社に来られた時、「今の働き方」について聞き、「残業せずに早く帰ってたくさん遊んで、これからも建設関係で働いてね」と声を掛けています。そうやって周りに声を掛けながら、自分自身の働き方を振り返っています。
 僕もひどい時には、夏前から年末までの間に取った休みが二日間でした。その二日とは、新建の大会と親族の集まりといった用事があるので、単に仕事を休んだだけで身体を休めてはいなかったということでした。その結果、体調を崩し、月に何度もギックリ腰を繰り返していました。
 ずっと「なんとかしないと、このままでは腰を痛め、生活に支障が出て、仕事ができない」と考えて、その結論が、柴犬を飼い、毎日散歩するということにたどり着きました。毎朝毎晩歩くことにより、ここ2年間は、ギックリ腰がまったくなくなりました。ふだんは車での移動が多く、まずは歩くことがよいのではないかとシンプルに考えていました。しかしそれだけでなく、柴犬を飼うと、家族で愛犬を連れてキャンプに行き、柴犬を譲っていただいた長野県妻籠宿のクロス屋さんの所に姉犬がいるので会いに行く、等々、必然的に休むというより、先に予定を入れてしまい、そのために仕事を調整したりして、愛犬や家族との時間を作ることが増え、大きく気分転換もできました。
 大きな会社の営業さんは、残業が少なく、週休二日と有休消化と言われているようですが、現場の職人さんは、天気や現場での都合により、土曜日や祝日は、仕事をしていると聞きます。しかし、この頃の若い方は、上司から祝日に仕事をお願いと言われても、用事があるので無理ですと断ることが多いということも聞きます。休日手当よりも自分の時間を大切にしている方が多くなっている気がしています。また、土木工事の若い方でも、11月初めに子どもが産まれたので、来年1月の休暇明けまでは、育児休暇を取ると聞き、こうした傾向は好ましいと思っています。これまでの、身体に負担を掛ける働き方を身をもって知っているものとして、少しずつでも環境が変わってきたのだと思います。
 職人さんは、一人で仕事をしている方も多いので、その方たちは、釣りやゴルフなどの予定を先に入れて、そちらを優先して、気分転換をされている方も多いですね。60歳定年でも元気な方は多いので、働き続けられる環境であれば、継続して働き、次の世代の方に技術や経験を引き継いでもらうことも大切だと思います。
 もう一つは、賃金の問題です。週休二日を確保しつつ、残業をしなくても家族が食べていけるように収入や賃金を上げていかないと、本当の働き方改革の実現はできないと思います。そんななかで、日本国際博覧会協会(万博協会)は、「大阪万博」で建設工事に携わる労働者の時間外労働の上限規制を除外するように国に要請したと報道がありました。しかしなぜ今、このような時代に逆行をした発言が出てくるのか、政府自らが「働き方改革」掲げているにもかかわらず反応が鈍いのかは、理解できません。現場で働く方々の命と健康に直結する問題です。新建でも大きな声をあげていくべきだと思います。

<特集> 日本の森を守る――地域生産力の現状と展望

今年は世界の平均気温が史上最高を記録し、産業革命以前より1.4℃上昇しました。パリ協定での目標1.5℃まで0.1℃しか残されていません。乾燥により世界各地の森林が火災で消滅し、二酸化炭素を大量に放出している状況です。世界の森林を火災や焼き畑による開墾、違法伐採から守らなければなりません。にもかかわらず、森林率が国土の7割弱を占める日本が、他国の森林を伐採する面積は、アメリカ、中国に次いで世界3番目に多い(2015年)といいます。総合地球環境学研究所によると「日本人の一年間の木材使用料は2001年から2015年のデータを平均してみると2.22本/年でその内、2.07本/年は日本国外からの調達である」というのです。一方、日本国内の森林の状況も危機的な状況と言えます。林業の人手不足と経営の悪化により、森林の整備ができません。大雨による土砂崩れも頻発しています。皆伐が増えるばかりで、その後の再造林ができない状況です。
 地球環境のためにも、日本の持続可能な森林保全と林業の健全な継承のためにも、私たちは今、なにができるのでしょうか。本特集では、川上(林業)、川中(流通)、川下(消費)それぞれの課題を共有し、みんなで解決を模索する各地の取り組みを紹介します。これらの積極的な取り組みは、エンドユーザーである建築主に近い私たち技術者が「木の家に住むこと」の意義と正しい情報を共有し、少しでも国産材利用を増やしていくうえで、大いに役立つのではないでしょうか。


特別編集委員/岩城由里子・大原紀子・甫立浩一
担当編集委員/永井 幸

<ひろば> 東松島・女川・石巻震災復興視察研修

新建宮城支部久々のイベント「東松島・女川・石巻震災復興視察研修9月16・17日」も、京都支部からの参加と、会員外、地元住民の参加や、地元の方からの話題提供による研修会も行なわれ、大いに学んだ行事でした。
 仙台駅東口で待合せ、京都支部の久守一敏さんも合流。一路東松島へ。まずは東松島市の大規模集団移転の一つである野蒜北部丘陵地区に到着。真新しい住宅地の一角に古民家のような風格ある建物があります。これは、佐々木文彦さんのお仕事・古民家再生による診療所である。待合室の古民家風の雰囲気がとても心地よい。この空間に佇むこと自体が診察と思わせる雰囲気。医院名は「森さい生医院」。栗原市若柳から築130年の古民家を移設したそうである。建主(医師)の親族は、1960年代まで野蒜を拠点に診療活動をしていたとのこと。建主(医師)は「新しい地(集団移転地)で生活をスタートさせた皆さんの健康を守ることに責任の重さを感じる」と言い、これが復興にふさわしい仕事なのではないか。
 流失した旧野蒜駅(今は東松島市東日本大震災祈念公園)に向かう。周りは災害危険区域(東松島市の場合は津波防災区域)が指定され、住宅の建築行為が制限されている。以前に訪ねた時には、ポツンポツンと建っているという感じであったが、今回は考えていたよりも結構建っている。津波被災地を新たな工業団地として整備した場所を見て、防潮堤に上り360度見回した。何と言っても強烈なのが延々と伸びる防潮堤である。この防潮堤によって守られるものは工場?広大な空地?そもそもこの辺の土地はもともと海、北上川によって運ばれた砂による堆積層とのことで、ますます防潮堤の役割への疑問が膨れ上がる。
 集団移転による東矢本駅北地区を見て、石巻市街に向かう。津波被災を契機に整備された土地区画整理事業地区には、空地が目立つ。被災市街地復興という名称の土地区画整理事業なのだから、事業後は早期に建物が建っていても良いのであるが、本当に空地、資材置き場が多い。間もなく石巻市の市街地のシンボル日和山に到着。相変わらず眺めはすばらしい。その先には広大な石巻南浜津波復興祈念公園が広がる。
 本当の復興とは、なぜこれだけの犠牲者であったのか、その背景、要因を明らかにすることから復興は始められなければならないのではないかと考えている。今回は、中心部の視察時間がなかったが、各種の復興に係るハード事業を行った地区と、そうでない地区の落差がますます広がっているようだ。市街地再開発関連の事業リストによれば、事業計画および実施設計が終了したことになっているのは11地区で、うち事業完了は5地区、他は事業化が困難または断念と聞いている。
 16日の研修後、追分温泉2階の部屋を借りての大内石巻森林組合長さん話題提供による座談会および懇親会を行った。地元参加者を含め11名(内新建会員5名)が参加した。 (宮城支部・ 阿部重憲)

<ひろば> 空き家をシェア社宅に―東京中小企業家同友会台東支部の取り組み

「どうする空き家、実態に即した対策と利活用」を報告討論する「2023年住宅研究、交流集会」が10月28日、台東区上野区民館で開かれました。人口減少時代に増え続ける空き家をどう利活用するか、国民の住まいを守る全国連絡会(住まい連)、日本住宅会議など4団体が共催しました。
 空き家特措法が改定され、空き家活用の促進、空き家活用促進地域、空き家管理活用支援法人などが自治体を中心に取り組まれることになります。坂庭住まい連代表幹事は「全国の空き家は木造戸建てが240万戸、空き家活用可能は100万戸か」と述べ、空き家特措法改定と利活用の課題、空き家等管理活用支援法人、地域コミュニティ、街づくりなどを報告しました。
 報告を受けて空き家の利活用に取り組んでいる3団体の実践報告がされました。(財)世田谷トラストまちづくりの空き家等を地域貢献活用した10年の実践報告、東京土建豊島支部が中核となって、地域の街づくり、空き家対策に取り組んでいる事例が報告されました。私と大三工事株式会社・中村浩之氏は東京中小企業家同友会台東支部が取り組んでいる「空き家をシェア社宅に」の運動と事業活動を報告しました。
 台東区の人口は19・8万人、住宅総数は11・5万戸、最近はディべロッパーの空き家、土地買いが進んでいます。台東区の空き家調査では空き家件数は823件、再利用可の空き家が359件となっています。台東区で街の活性化と中小企業経営、雇用の拡大に取り組んでいる中小企業家同友会台東支部は会員企業の若手社員の区内住居確保と高家賃に悩んでいます。給料が相対的に低く、高額な奨学金返済を抱えている若手社員は企業の住宅手当を充当しても台東区内には住めず、1時間以上の満員電車通勤を強いられてライフワークバランスが壊され、早期退職につながっています。
 台東支部では3年前から台東区内に各社の若手社員が共同で住まい、暮らし、地域貢献する「シェア社宅」を空き家、古いアパートを耐震補強、改修してつくる運動を支援しています。台東区役所に「若手社員を住まわせ定着させるために、シェア社宅用の空き家情報の提供、改修補助金の支給」を政策要望しています。
 また台東支部はシェア社宅を要望する会員企業で「シェア社宅プロジェクト」をつくり、空き家所有者への宣伝、交渉、事業計画提供と合わせて、シェア社宅事業参加会員企業の募集をしています。空き家プロジェクトは空き家所有者への呼びかけリーフ、シェア社宅の魅力動画の宣伝ツールを制作し活用しています。空き家プロジェクトの営業活動では、入谷地域で空き家の改修を望む所有者に改修設計、採算計画を立て交渉しましたが、採算計画で承諾を得られず交渉中となっています。
 空き家特措法の改定で空き家活用の促進が国の方針となり、台東区が空き家活用、改修に前向きに取り組み、空き家情報の提供、改修補助金制度が創設されることが「空き家をシェア社宅に」実現につながると期待されています。
(星野輝夫)

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