建築とまちづくり2021年5月号(NO.507)

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<目次>

<主張> 蓄積された50年の活動成果を活用しよう

 本誌の裏表紙に昨年1月号から「『建築とまちづくり』アーカイブス」が連載されています。1971年5月に創刊され、昨年500号を達成した本誌に掲載された記事の紹介です。
 本誌(13号までは『新建』という誌名)第1号は松井昭光編集長(当時)の「新しい建築運動の胎動がはじまった」ということばから始まっており、創刊の半年前に誕生した新建築家技術者集団の機関誌としての発足メンバーの意気込みが伝わってきます。松井編集長は機関紙『新建』の役割として次の3点を挙げています。
 ①建築家・技術者の要求や問題点をとらえて、相互の交流の場を提供すること②住民運動と連帯して、住民本位の都市環境づくりに……どのように技術者として参画していけばよいのか③実践活動の中から運動が総括され、抽象化され、理論化されて、それがまた、新たな実践への導きの法則として検証され、生かされていくこと……新しい建築学の創造と現代建築の理念を作り出していく糸口になる。
 1976年4月の第14号からは『建築とまちづくり』と改名されました。「広範な建築技術者や住民とともに、単体の建築施設を考え、住みよい豊かなまちづくりを創造していく上で、建築界内部はもちろん、社会住民側の『外にも開かれた機関紙』としての役割も果たせるように、それにふさわしい誌名にいたしました」。この時のことを高橋偉之さんは「バナナジュースのことを〝バナジュー〞と言われてこれがなんだかわかるか。『新建』という名称はこれと同じやないか」(500号主張から)との説明に納得したと述べています。
 いま、私の机の周りに『建築とまちづくり』誌が500冊積み重ねられています。新建50年の活動の理論と実践の積み重ねで、貴重な時代の証言や実践報告が満載された宝の山です。これからの新建にとっても、また各会員の建築運動や仕事にとっても道しるべともなるものです。
 この宝の山を全国の会員のみなさんにも届けたいと思い、PDF化しています。初期の誌面は劣化しており、スキャナーで読み込むのも注意が必要な状態ですが、秋の全国大会までには完成させたいと思います。みなさんへ届ける方法や記事を使いやすくする方法は模索中で、みなさんの知恵をお寄せください。
 新建活動の成果は『建築とまちづくり』誌だけではありません。この一年間、コロナ禍により、集まっての活動がほとんどできないなかにあって、Webを活用した新しい活動スタイルが模索しながら続けられてきました。各支部の勉強会や読書会、例会などが全国どこからでも参加できるようになり、支部の企画に全国の会員が参加しています。空間を越えた参加での広がりは、新しい活動の場を作り出すことができました。
 昨年から続いているWeb第32回研究集会も空間を越えたために、驚くほどの活発さを見せています。発表者や参加者も会員のみならず、会員外の方にも広がっています。今までの研究集会にない広がりと深さを実現できました。この研究集会の報告にはDVDでの出版を予定しています。より多くの報告や資料も掲載します。
 今まで行われた研究集会での報告書集もPDF化したいと考えています。
 昨年6月13日から始めた、建築とまちづくり読書会は毎週土曜日に行い、4月末で、46回となりました。10名前後の参加者で行っていますが、北海道から沖縄まで、自由に参加する緩やかな集まりです。顔を合わせ、輪読していますが時々の話題も含め楽しい集まりです。朝6時からと早い時間ですが、みなさんのご参加を期待しています。『建築とまちづくり』誌のPDF化ができれば、過去の記事も含めての輪読も考えています。
 コロナ禍にあり、集まることが困難な時ですが、新建で蓄積された活動成果を次の活動につなげていきましょう。みなさんもご一緒に。

片井克美・片井建築設計事務所/全国幹事会議長

<特集> 環境破壊を止める建築行為のあり方

 新建が設立された50年前は四大公害病の裁判で次々と被害者が全面勝訴し、利潤追求のための環境汚染が断罪された時期であった。これらの被害は比較的地域が限定され、人体への影響の発現が早かったため、排出物質と健康被害の因果関係が明らかになり、原因企業が特定された。
その後もアスベストによる中皮腫、ホルムアルデヒド等に起因する化学物質過敏症など人体に悪影響を及ぼすことがわかっていながら、被害が顕在化するまで有効な措置は講じられず人の命よりも経済活動が優先され続けた。そしてアスベストは除去工事が、その有害性を逆手に取って市場拡大の材料として利用されている。安価で使い勝手の良い材料を用いて人々の命と健康を脅かしてきた利益優先至上の経済活動は、根本的に見直されることなく続いている。
 四大公害病やアスベストの経験を教訓として生かすことなく経過した50年後の現在の環境破壊は、特定企業による特定地域にとどまらず、地球規模に広がり、致命的ともいえる深刻な状況である。経済のグローバル化は公害のグローバル化でもあり、その拡大は経済活動の範囲にかかわらず制御できない状態に至っている。世界の海に漂うマイクロプラスチックはあの時の水銀やカドミウムと同じではないか、PM2.5は四日市ぜんそくが世界に広かったようなものだ、と多くの人が気づきはじめている。化学物質の排出による環境汚染、健康被害だけではなく、温室効果ガスによる地球温暖化が自然災害の激甚化の要因であることは誰もが否定できない。
 経済成長によって豊かさを手に入れたかに見えたのは錯覚であり、物質的豊かさや利便性と引き換えに地球環境というすべての生き物の生存条件を手放そうとしている。利益の最大化を至上命題とする経済活動からの大転換を図り、持続可能な地球に戻す作業に早急に着手することが求められている。
 このことは一人一人が日常生活の中で意識的に取り組むとともに、人々の生活空間である建築やまちをつくる私たちは、目前の幸せと持続可能な豊かさをどのように実現していけるのか。多種多様な石油由来建材からの脱却、各過程における消費エネルギーの最少化、そもそものつくり方の転換をも迫られている。新建材が存在しない時代の「伝統的な技術」や「先人の知恵」は非効率と切り捨てられてきたが、環境と共生してきた長い歴史をもち、自然に対して合理的な方法である。これらを今こそ再評価して現代に取り入れながら、環境と健康を念頭に、生活者とともに建築とまちづくりの新しい価値観を構築していかなければならない。
本号では建築やまちづくりに関わる環境と技術について、いくつかの取組みを通じて、今後の私たちの人としての営為、職能人としてのあり方を考えてみたい。

特集担当編集委員/永井幸・高田桂子・大槻博司

<ひろば> 東京支部50周年実行委員会報告

 東京支部では支部50周年記念として、7月3日(土)~4日(日)に板橋区立グリーンホールで「建築とまちづくり展(仮)」を開催し、秋には記念誌を発行するために実行委員会を3月よりスタートしました。第1回実行委員会は19名、第2回は18名、第3回は19名が参加しています。
 月に2回、2週間に1度のペースで6月いっぱい予定を組み、途中では具体的な作業をするという大変ハードなスケジュールになっています。実行委員長は5回の連続オンライン講座「近代建築運動百年史-その時、青年たちは何を考えたか-」の講師など、いつも精力的に力を発揮されている丸谷博男さんに決まりました。丸谷さんから「歴史をまとめる大切さに併せて、建築・まちづくり技術者の役割・意味を問わねばならない時期です。新建は『原点』を持ちながらここまできて組織として曖昧になっている部分も生じていると感じます。『どうあるべきか』考えねばならない。歳月が過ぎると記憶は正確でなくなり、忘れしまうものですが、記録は残ります。『記録とメッセージ』という形で『生き生きとした言葉』を次の世代につなげましょう。」と挨拶がありました。
 不定期発行だった「東京支部ニュース(現在のホワイエ)」を毎月発行しようとなった経緯、歴代の編集者のこと、集まった原稿はすべて載せるという本多昭一さんの提案から、膨大なページ数となり、輪転機をまわしての印刷が大変だったことなどが記憶をたどりながら話されました。ホワイエは今年の4月で588号となり、それを辿るだけでも、支部の歴史がうかがわれそうです。
 過去も大事にしながら「新しい波」がどうつくれるのか、いろいろなことがマンネリ化している中で「脱システム」になるようにしたい。「モヤモヤ感」が払拭できるようにしたい。一人の会員が一人づつでも誘って来られる内容にしようという意見も出されました。
 「『東京を“きる”』戦後75年・新建50年の時の流れを受けて」をテーマに①復興を概観する ②繁栄という都市災害③団地・ニュータウンの現状と回復④都民とともにつくってきた運動⑤建築技術者の悩みと夢⑥新建が取組んでいる、取組みたい個別課題について報告(まちづくり・施設づくり・住まいづくり・リノベーション・商店街の行方・歴史的建造物・ジェンダーなど)⑦工務店・設計事務所の未来を描く⑧次の世代へのメッセージ「夢見る少年少女、次の世代に何を渡せそうか」と、分類と報告グループを提案しました。各グループでは必要に応じて座談会やミーティングなどをしてもらい、実行委員会のたびに20分程度の報告を聞いて内容を深めて、記念企画当日はリレートークやパネル展示をする。まとめたものを50周年誌につなげるなど、イメージを具体化していくことになりました。
 テーマ別報告の皮切りに4月15日の第3回実行委員会で千代崎一夫さんが「都民とともにつくってきた運動」としてグラントハイツ返還と跡地利用計画・放射36号線三六四季の道・飯田濠を守る・東京問題特別委員会の活動などを報告しました。
 また、実行委員会は片柳順平さんが詳細に記録してくださり、それを読んでいただくだけでもたくさんの情報や知識が得られ、支部としての活動の財産になっています。
昨年秋に東京で開催する予定だった全国の50周年記念行事を進める際に討議をした内容や、「新建創立50年の今、伝えるメッセージ」も振り返りながら、「生活派建築宣言」「社会派建築宣言」、そして「未来派建築宣言」のために、実行委員会や全国の取組みを通して、たくさんの会話ができ、新しい仲間を迎えられる支部50周年の節目にしたいと思います。

                                                                               東京支部常任幹事・山下千佳

 

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