建築とまちづくり2022年10月号(NO.523)

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<目次>

特集
九州特集 地域文化の再評価・新しいしくみづくり

矢房 孝広
暮らしや生業に繋がる知恵は生き残れるか
――評価軸の変化と適応

大中 幸子
まちの入りあい地
――好きなことを、好きなとき、好きなように

村上 雄二
コラム:「シュガーロード」の菓子文化を繋いで取り組むまちづくりの可能性

北島 力
継続する歴史まちづくりの現場から
――伝統建築技術伝承、空き家再生、コミュニティ持続~福岡県八女市八女福島重伝建地区

北島 智美
暮らし続けたいまちへ
――柳川の伝統を温め伝える地域のしくみづくりと実践

徳安 和美
博多からの恋文

丸田 洋二
コラム:ダムに沈んだ煉瓦造りの発電所

佐藤 研一
竹の新しい利活用を考える

連載
原子力災害避難計画を考える〈9〉
自治体と原子力災害の特殊性
池田 豊

タイの住まいづくり・まちづくり(13)
筏住宅の再生、生業の創出――バーン・マンコン事業5
石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈9〉
Y邸
札幌市西区
久田 香

主張
建設残土処分問題と盛土造成
甫立 浩一

新建のひろば
福岡支部――22新建学校in福岡
北海道支部――建築セミナー「小樽の木骨石造建築について~その歴史と構法を学ぶ~」
33回大会期第5回(6月12日)・第6回全国常任幹事会(8月28日)報告

<主張>  建設残土処分問題と盛土造成

甫立浩一 (株)宮工務店/全国常任幹事

 災害を引き起こしかねない盛土が、知らない間に、どこから、なぜ運ばれてくるのでしょうか。
 盛土による被害といえば、2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山土石流災害が記憶に新しいと思います。熱海市の土石流災害後に調べた危険な問題のある盛土は、全国で1375カ所、静岡県内では189カ所もあるといいます。行政の担当者も目を光らせて、パトロールをしていますが、不法投棄などもあり、簡単には解決できそうにありません。
 熱海市の災害現場の横には、所有者によるメガソーラー設置のために造成した第2の盛土と言われる部分があり、崩落や土石流災害に対し、引き続き周辺住民の不安があります。
 2017年に愛知県弥富市では、市役所建設の残土を、民間の空地へ処分。盛土30㎝と申請し、実際には10mも積まれ、裁判で残土処分業者が敗訴します。その後に業者の社長が病気で亡くなり、土地管理者は、弥富市と元請けであるゼネコンを訴えていますが、今でも残土はそのままとなっています。撤去費用は、概算で約7700万円と言われています。
 2019年に愛知県瀬戸市では、リニア開発に関わる工事での建設残土が、住宅地の横にある畑に、盛土1mの申請のところ3mも持ち込まれました。搬入業者は、産業廃棄物処理法違反で書類送検されましたが、証拠不十分で不起訴となりました。瀬戸市は民事不介入で、土地管理者の責任としたため、近隣に迷惑を掛けたくない土地管理者は、盛土1mへ戻すために400万円の自己負担で造成工事をおこないました。
 2012年より関東や関西からの大型タンカーが、紀北町の港経由で三重県尾鷲市の山林へ毎月1万トン以上の建設残土を持ち込み、空からしか見えない山頂に、大型ダンプで搬入、廃棄をしています。このため、住民の飲み水である銚子川が濁り、山のふもとにある鉄工所では、作業する機械に井戸水を利用していたために不具合が出ています。紀北町議会での県外からの残土搬入抑制の条例は、残念ながら否決されました。
 2009年に広島県東広島市、2012年に滋賀県大津市北部伊香立地区、2014年に大阪府豊能郡豊能町、2018年西日本豪雨時に、京都市伏見区にある大岩山など、各地での土砂崩落が相次ぎ、滋賀県大津市では、建設残土の排水から鉛・ヒ素・シアン・フッ素・ホウ素が検出されました。
 国内での建設残土は、年間1億4000万㎥(東京ドーム100個分以上)発生し、そのうちの7割が有効活用されずに廃棄処分されています。
 2022年3月1日に宅地造成等規制法の一部を改正する法律案が閣議決定されました。一歩前進だと言われますが、規制の遵守、安全性の確保、再利用の促進など問題の解決は、簡単ではないと思います。
 しかも、国は次世代原子力施設の新規建設を検討する一方で、SDGsに名を借りたメガソーラー事業が各地で進められています。2014年に秋田県井川町、2018年に京都府宮津市、2019年に群馬県利根郡片品村、2021年に宮崎県延岡市、2022年に長野県王滝村と、いずれもスキー場などの跡地に建設されています。メガソーラーはその規模や立地などから、管理や造成が問題になることが多く、注意が必要です。
 2020年に奈良県平群町では、メガソーラー建設による土地造成のため、甲子園球場12個分の建設残土を搬入する開発行為が計画されました。しかし虚偽の申請等が問題となり、建設工事差し止めを求めた裁判に発展しています。
 三重県尾鷲市方面には海釣りに、冬には家族旅行で雪山に出かける者としては、安心安全な環境への配慮を切実に願います。仕事で建設に携わる者として、国土を荒廃させず、環境破壊を許さない声をあげていきたいです。

<特集>  九州特集 地域文化の再評価・新しいしくみづくり

    今号は都市や都道府県単位ではなく九州全域を対象とした地域特集です。しかし一口に九州といってもとても広く、それぞれの地域で独特の歴史を重ねており、共通しているのは日本のなかで古代から大陸ともっとも近く、新しい人や文化が一番に入ってきた地ということであり、そうした歴史が各地で独自に積み重なりながら時を経てきたということでしょうか。
 ただそうした歴史を持つ九州でありながら、最近は大都市・福岡に人口が集中し、他の地域は人口減少と高齢化が激しく、経済面でも停滞という日本の縮図のような状況に陥りつつあります。このような特徴を持つ九州で、これまでの地域文化を再評価し、地域づくりやまちづくりを進めるしくみをつくる取り組みが各地で見られます。その手法は新しい人と人、人と地のつながりを生かして広がっています。
 市民活動を育てつなぐ場づくり、地域を再評価しまちづくりへ生かす取り組みとして宮崎の諸塚村、福岡の八女市、柳川市、博多、筑紫野、鹿児島の旧曽木での取り組みは、場所や組織形態は違いますが、そこに住む人が地域に根ざして、地域の文化を守り継承している事例です。古くから使われてきた竹という素材を現代に活かしていく活動も、地域文化の継承といえるでしょう。今号では全国規模の活動から足元の視点まで幅広く取り組みを紹介し、これからの九州各地での建築とまちづくりを展望します。

特別編集委員 伊藤捷治、大坪克也、鹿瀬島隆之、片井克美、
       城戸万之助、新谷肇一、古川学、巻口義人、
       矢野安希子、渡邊美恵
担当編集委員 桜井郁子

<ひろば> 福岡支部――22新建学校in福岡

 8月6日(土)に福岡支部では山本厚生さんに講師としてお越しいただき、新建学校を開催しました。当日は会場16名、Zoom14名、計30名の参加がありました。感染防止のため大幅に規模を制限して行いました。 今回の新建学校では、山本厚生さんが「今伝えたいこと」について広い内容でお話をしてくださり、〝これまでの総まとめ〞を受け取っているような気持ちになりました。〝新建のこれからを見据えた上での福岡支部への期待〞を強く感じ、身が引き締まるようでした。
 講義では山本さんが娘さん一家の暮らす神奈川県の丹沢へと住まいを移され、新しい土地で地元の方々と交流を広げていく過程もお話しいただきました。山本さんが大事にされてきた日本の家の要素を余すことなく取り入れた住まいを丹沢の地に実現され、その〝家〞に惹かれて興味を持ったさまざまな方がご自宅を訪れ、そして厚生さんとヒカルさんお二人のお人柄の魅力によってたくさんのつながりが広がり深まり、その中から「自分たちのまちを良くしたい!」というまちづくりの運動まで発展している様子が大変興味深かったです。住まいは人と人をつなぐ仕掛けになり得るのだと、実例を示してもらったようでもありました。
 また、お話の中で地元の人を巻き込んでいき、〝一人一人の自覚を促していく〞様子も語られましたが、これには山本さんの〝人の話を引き出してしまう凄さ〞を改めて感じました。わたしは二〇歳そこそこで山本さんに初めてお会いしましたが、父以上に年齢が離れているにも関わらず、歳の差を忘れてしまうくらいに会話が楽しかったことをハッキリと覚えています。いつも時間があっという間に経ち、まるで友人と会話をしているような気持ちになることに衝撃を受けたのですが、それは今でも変わりません。そう思わされるのは一体なぜなのだろうと考えるのですが、山本さんは話す相手の立場までおりてきてくださるからなのかな、そんな〝人との向き合い方〞がさまざまな人との関係を深めていかれている秘訣のひとつかも知れないと思ったのでした。
 最後は日本国憲法の条文や『収容所から来た遺書』から、山本さんの父君の生き様や遺書の内容もご紹介いただきながら、未来への確信を持とう、未来を語り合うことが今を乗りきり、これからを生きる力になる、といった力強いメッセージを語っていただきました。
 今回の企画を立ち上げた頃には思ってもみなかったほどに、コロナ感染が広がる状況と重なってしまい、参加人数や懇親会など規模を縮小せざるをえなかったことは悔しい思いでしたが、この大変な時期に「福岡にだけは絶対行く!」と近々の予定をすべてキャンセルして万全の体制で来福してくださったお二人には感謝でいっぱいです。また、当初大反対(お二人の安全を思えば当然です……)されていたご家族にも、最終的にお二人を送り出していただいたことに心より感謝をいたします。
                           福岡支部・中島梢

<ひろば> 北海道支部――建築セミナー「小樽の木骨石造建築について~その歴史と構法を学ぶ~」

 9月3日13:30よりZoomにて開催した建築セミナー「小樽の木骨石造建築について〜その歴史と構法を学ぶ〜」は道外から10名、支部会員14名を含め計30名の参加でした。
 講師は建築史家で一級建築士の駒木定正先生です。この企画は、昨年10月に開催した建築セミナー、北海製罐小樽第3倉庫をめぐる「これまでの100年からこれからの100年へ」に続く企画です。
 講演では、①小樽における木骨(もっこつ)石造の特色②わが国の草創期洋風建築としての木骨石造③新潟および鹿児島との比較調査④小樽の木骨石造の耐震調査の4点について詳しい紹介がありました。小樽には明治から大正にかけて建築された木骨石造建築は現在でも300棟以上が現存し、活用されています。
 木骨石造建築は、木造の骨組と外装材である石材を鎹(かすがい)で固定する、防火性能の向上を目的とした構法です。同様の木骨石造建築が1870年代に建築された新橋停車場でも採用されており、鎹を使用していることも紹介されました。また全国各地にも同様の構法があり、新潟、鹿児島でもボルトを用いた接合方法など共通点について触れられました。
 北海道は開拓初期からアメリカの建築の影響を受けたものと推察しますが、外壁に使用されている石材は小樽周辺にある凝灰岩であり、独自の発展を遂げたものと思います。
 セミナー終了後、参加したみなさんから感想が寄せられています。
・小樽のまちづくりを考える時、まちの歴史、宝物である石造建築物の今後の残し方について気になっていました。木骨石造建築物などの『まちの宝物』を活用しながら進めるべきだと思っております。
・今日のお話を聞いて得た点は「木骨石造建築物の耐震性は低くない」ということで、これで建物存置・活用を前面に出して語り合えると思っています。良い機会を与えていただき、本当にありがとうございました。
・最近はマスコミも北海道の100年をテーマに小樽、旭川、室蘭、釧路を取り上げています。やはり地域に目を向けて先人が築き上げてきた歴史をしっかり理解して今に活かすということは、大切なことだと感じました。
                        北海道支部・大橋周二

<ひろば> 33回大会期 第5回(6月12日)・第6回全国常任幹事会(8月28日)報告

  全国常任幹事会はオンライン会議の長所を生かし、従来の回数や時期にかかわらず必要に応じて開催しています。ここでは表題のとおり2回分をまとめて報告します。

建築まちづくりに関わるこの間の情勢
・各地で私企業の儲けのための大規模な開発が続いており、特に東京の神宮外苑や京都府立植物園などの公共空間がそのターゲットになっていることが大きな問題であり、住民の反対の声が大きくなっている。
・建築物省エネ法が用途規模にかかわらず適合義務化されるが、地域特性にかかわらず全国一律の適用や等級区分の問題などが指摘される一方、気候風土適応住宅などの取り組みが期待される。
・原発の再稼働および新設を首相が表明したが、災害避難計画や放射線防護対策の後退など、国民の安全を顧みない政策が進められようとしている。
・大阪カジノについて、住民投票を求める署名が法定数を大きく上回る21万人超の署名により、住民投票条例案が提起されたが否決された。

建まちセミナー茨城(9/11(日)〜12(月))
 申し込み状況(8/9現在63名)、企画内容が報告され、セミナー後の動画配信や藤本さんの連続講座の提案があった。

各地のセミナーの状況
・8月6日の福岡の新建学校は現地16名、オンライン14名の参加で、山本厚生代表幹事が「今伝えたいこと」という表題で講演。
・9月3日予定の北海道のオンライン建築セミナー「小樽の木骨石造建築について〜その歴史と構法を学ぶ〜」(講師は駒木定正先生)は8/28現在23名申し込み。
・中部ブロックのセミナーは石川県で10月22日の予定。

研究会活動
・子ども環境研究会が5月15日に1回目、7月10日に2回目が開催され、今後2カ月に1回のペースでオンラインにて開催する。2回目は会員外3名を含む21名が参加した。次回は9月4日予定。
・環境と建築研究会は建まちでの特集も見据えながら、9月中旬を目途に取り組み内容の方向性を話し合う。気候風土適応住宅もテーマに盛り込みたい。
・マンション研究会は10月中旬以降で、管理計画認定制度のテーマから再開する予定。

各委員会活動状況
・建まち編集委員会――年間特集後半の企画報告等。
・支部・ブロック活動推進委員会――新リーフレット案検討、茨城セミナーに間に合うように完成させる。
・政策委員会――「すまいづくり運動」「すまいづくりの社会化」をテーマに建まち11月号特集と連動させる(8/5、9/2に編集委員会と合同会議)。
・Web委員会――新ホームページの充実と各支部ホームページの作成支援に取り組む。

組織・財政状況
・財政は、会費納入がほぼ順調であることと、オンライン会議による支出減により、収支は安定している。建まち印刷費値上げについても頁数の調整により大幅な予算超過を回避するとともに、広告増収(常時最低1頁目標)に取り組んで財政安定化に寄与する。
・32回研究集会報告集CD売上は約40枚、各支部に5枚ずつ頒布し普及を図る。
・7月末時点で会員数は654名、建まち読者は152名で、大阪大会からそれぞれ28減、3減となっている。自然減は避けられないが、前回の研究集会や企画等の会員外参加者に働きかけるなどして、少なくとも現状維持以上の取り組みをする。

他団体との連携
 自治労連「地方自治研究集会」東京 10/1――全体会、10/2――分科会、新建から2名参加予定。

次回全国幹事会
・10月8日(土)9:30〜16:30オンラインで開催
・各地の状況と取り組みを、大会決定(方針・活動の指針)に照らしながら報告、議論したい。
・各セミナー、研究会、委員会の報告と予定(三つの委員会分散会の時間を検討する)
・組織財政報告(2022年度決算と2023年度予算案含む)
                        全国事務局長・大槻博司

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