建築とまちづくり2022年5月号(NO.519)

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<目次>

特集             人はどこに住むのか

室崎 益輝     災害危険と集団移転

鈴木  浩      被災者・避難者の居住確保に向けて   ――多発する大規模災害

佐藤  滋      若者の小さな渦が日本列島を覆う   ――七つの潮流

松村 秀一      弱い個人は柔らかな絆を希求する

岡本 祥浩      グローバル時代の居住を考える

岡部 明子     「デジタル田園都市」に向かうことの真意

連載               原子力災害避難計画を考える〈5〉
                      軽視しつづけた避難計画        池田 豊

日本酒蔵紀行〈22〉    恵那市岩村町       赤澤 輝彦

タイの住まいづくり・まちづくり(9)
コミュニティ主導のスラム住環境整備 ――バーン・マンコン事業1
                                                                             石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈5〉
元・鐘紡社宅      京都市左京区      桜井 郁子

主張
米国のパッシブ・コンサルタント養成講習から学ぶ      大橋 周二

新建のひろば
東京支部――神宮外苑地区再開発の再考に向けた取り組み
第33回大会期 第2回全国幹事会報告

<主張>  米国のパッシブ・コンサルタント養成講習から学ぶ

                                                       大橋周二(有)大橋建築設計室/全国幹事会副議長

 昨年4月改正省エネ法が施行された。戸建て住宅の設計時には設計者に説明責任が義務づけられ、300㎡を超える建築物は、住宅では届け出、非住宅では省エネ適合判定を受けることになった。設計者の多くがこの制度の導入によって設計および確認申請業務に実務的な負担が多くなったことは実感している。
 私は、分譲マンションの外断熱改修にとり組んでいることもあり、こうした省エネ設計には比較的早い段階で関わっているが、国が進めるカーボンニュートラルと言われる施策のなかで、高性能な戸建て住宅には1戸当たり100万円を上限とする補助制度を創設し、分譲マンション改修の分野でも長期優良住宅リフォーム推進事業では同様な補助制度が作られ、100戸規模のマンションの省エネ改修では上限工事費の1/3、1億円の補助金が受けられる。
 これらの、補助金制度のベースには、すべて前述の改正省エネ法による外皮性能基準のクリヤーとWEBプログラムによる一次エネルギー消費量の削減がどうはかれるかを数値で示すことが基本になっている。益々、小規模の設計事務所、地域工務店ではこうした施策にどのように対応、対処していくべきか対応が必要となっている。単に制度の批判ではなく、建築主・発注者の立場にたって考えてみる必要があると感じている。
 昨年、米国で行われているパッシブハウス・コンサルタント養成講座を受講した。主催は米国で高性能な建物づくりを推進する設計者・施工者・メーカー各社で構成される団体PHIUS(米国パッシブハウス協会)である。この講座は、基礎編12講座、応用編10講座あり、基礎編では建物の外皮基準、気密・断熱についての考え方、建築設備を学び、応用編では、建築物理、パッシブハウスに適したデザイ手法について、グループワークによる交流、発表を行う実践的な内容である。最後の学科、デザイン試験に合格するとコンサルタントとしての資格が付与される。全てZoom開催であり、日本の改正省エネ法を理解する上でとても参考なった。
 省エネ法で定められている日本の気候区分は、北から順に南の沖縄にむかって1〜8地域に分類されているが、米国では、温暖な南から順に北に向かって8分類されている。
 2011年に米国南部で作られたパッシブハウスでは、室内での湿度が高くなったため、全国一律の基準での対応は難しく、冷暖房負荷、除湿負荷の計算が必要であり、室内発熱量の見直しが求められた。さまざまな気候区分を持つ米国では、南部の高湿度、高温地域での工法開発なしにはパッシブハウスの普及はないと考え、団体としてPHIUS+2015基準が制定され、現在は2021年基準になっている。
 PHIUSは、設計者、施工者による任意の団体ではあるが、今日では政府関係団体にも認知され、PHIUSが創設した設計基準や講習制度は、ボストンはじめ各州の大学でも学生たちが学び、自治体によっては、この設計基準にもとづく公共施設の設計、建設も行われると聞いている。
 積雪寒冷の北海道では、全国に先駆けて多くの建築関係者が断熱、気密対策にとり組んできた。その成果は具体的には暖房費の削減に貢献し、外装材、窓の性能向上もあった建築デザイン面でも開放された住宅建築が進んでいる。

<特集>  人はどこに住むのか

   人は、入学、就職、結婚、退職といった人生の節目で移住転居します。戦後の経済成長期には大都市へ人口が集中し、ピーク時には年に150万人もの人々が大都市に移住しました。そして、移住した人はアパートから戸建マイホームへの住宅双六を登りながら定着していきました。
 これがメインストリームですが、生まれた土地で暮らす人ももちろん沢山います。どちらを選択しても、日本人はあまり移住を繰り返さずに安定した居住を求めます。そこで、居住を脅かす再開発やインフラ整備事業に抗して、住み続けられる地域がまちづくりの目標だったのです。
 しかし、前世紀の終わりごろから事情が変わって来ました。
 そのひとつが災害という外圧です。経済成長期は幸いに大災害が起こらず、阪神大震災の時は「こんなことが本当に起こるのだ」というのが率直な気持ちでした。その後、東日本大震災が起こり、各地で地震、大水害、地滑りなどの災害に直面することになりました。いかにして安全なところに住まうかは、危険地域での事前移転を含めて大きな課題です。
 原発事故は天変地異が引き金の人災ですが、放射能汚染から身を守るため被災者はどこに住めばいいのか、過酷な選択を迫られています。どこに住んでも居住の基本的権利は守られる社会が求められています。
 一方で、外圧ではなく自らの理由でどこに住むかを決める人々が増えています。東日本大震災で、ボランティアの若者がそのまま居付いて復興に関わる姿が話題になりました。考えてみれば、日本のいたるところで生業と暮らしの契機はあるわけで、自らに合った居場所を積極的に探していいはずです。メインストリームの陰に隠れていた当たり前のことに気付いた小さな営為が各地で芽吹いています。
 さらに、グローバル化やDXの進行など社会の変化が居住のあり方を変えています。日本はすでに外国人の労働なしでは成り立たない社会です。国を越えて住まう人々が抱える問題と向き合うことが必要です。また、コロナ禍でのリモートワークの経験から、人々は新たな働き方と住まい方を獲得しつつあります。
 ひとは20万年前にアフリカのかの地で誕生して以来、移動と定着を繰り返してきました。今もその過程にいるのかも知れません。

 当初は、住まうという視点のライトな文明論という特集企画でしたが、執筆者のみなさんは現実を直視し、課題を明らかにして下さいました。じっくりお読みください。
                                                                                        特集担当編集委員/鎌田一夫

<ひろば>  東京支部―神宮外苑地区再開発の再考に向けた取り組み

    東京では、規制緩和による無秩序な大規模再開発ビルの乱立が続いています。東京の都市問題に取り組んでいる東京問題研究会は、2021年9月から10月にかけて「規制緩和と乱立する大規模再開発を問う」と題する連続講座を開催、その結果を、『建築とまちづくり』誌12月号の特集「規制緩和と大規模再開発の乱立を糾す」にまとめました。
 2022年に入り、神宮外苑において、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事が事業者となり進める大規模再開発について、1月29日には日本イコモス国内委員会が100年を超える樹木を含む既存樹木保存の提言を行い、2月には東京新聞が、規制緩和により国立競技場のザハ案より高いビルが続々建ち、神宮外苑の歴史的景観が守れないとする記事を掲載するなど、問題点が明らかになりました。神宮外苑の再開発は、国立競技場に隣接して高さ55m屋根のラグビー場、ホテル付野球場を建設するとともに、都市計画公園区域を除外して高さ80mと185mの事務所、商業などの複合棟、青山通りに面する超高層の伊藤忠ビルを現在の3倍の高さ190mに建て替えるという計画で、しかも1000本もの既存樹木の伐採、移植を行う内容であり、自然的景観を保全し、建築物を抑制すべき風致地区において、行うべき開発ではありません(図1)。
 東京問題研究会は、2月23日に会員に向けた「神宮外苑地区再開発問題とその取り組み」と題する検討会を開催し、会員への再開発計画の周知を図るとともに、この問題に対する取り組み方針や体制を協議しました。その結果、この問題を検討する組織をつくり、まず東京支部としての見解をまとめることとし、3月3日の再開発の再考を求める幹事会声明を発表(図2)、都知事に対しても再考を求める要請書を提出しました。また、同じ時期に神宮外苑の樹木の保存と再開発の見直しを求める都民の5万人にもおよぶ署名が提出されましたが、都知事は3月10日に再開発を進めるための再開発等促進区の地区計画の変更を告示しました。
 東京問題研究会は、再開発の再考を求める声明の内容を、多くの人々に知ってもらうために、東京都・関連区の都市計画審議会および学識経験者委員、建築・都市計画・造園関係の学会・業者団体、神宮外苑周辺町会・自治会、オリンピック・パラリンピックを考える都民の会などの住民団体、約30団体・個人に声明文を送付しました。その結果、新宿区都市計画審議会は、審議会として新建東京支部の声明が
あることを東京都に伝えることになりました。
 東京問題研究会はその後も現地視察を行い、4月には東京都環境局が主催する「都民の意見を聴く会」に8名が応募し、4月15日に公述を行いました。公述にあたっては、市民グループ「神宮外苑を守る有志ネット」とも連携して公述内容を検討し、それぞれの応募者が神宮外苑への思いを、環境審議会委員に伝えることができたと思います。 東京都では、環境影響評価と都市計画決定の手続きに関係がなく、環境影響評価の検討結果を都市計画に反映することなく、都市計画決定することが可能です。そのため、事業者はしゃにむに事業化に向けた手続きを進めることが考えられるため、これに対する取り組みと、東京問題研究会として計画論、空間論の両面から、私たちの声明を強化する取り組みを進めているところです。
                                                                                                         東京支部・若山徹

図 1                                         

図 2 

【要請書】神宮外苑の大規模再開発の再考を求める | 新建築家技術者集団 東京支部 (nu-ae.com)

<ひろば>  第33回大会期 第2回全国幹事会報告

  今期第2回幹事会が、4月10日(日)9:30~16:00にオンラインで開催され、代表幹事、幹事会顧問を含めて全55名中42名が出席しました。片方代表幹事は、開会あいさつの中で、新自由主義的な大規模開発やまち壊しが続くなかでの専門家の役割、新建運動の重要性を述べられました。
 今回の幹事会ではロシアによるウクライナ侵攻が続いていること、ウクライナは原発大国であることという情勢を踏まえて、会議の冒頭に乾代表幹事から「ウクライナ原発危機と日本の原発リスク」について報告がありました。これは『建まち』誌4月号の主張(乾代表幹事執筆)と同誌連載「原子力災害避難計画を考える」――池田豊氏(京都自治体問題研究所)執筆――を資料に、さらに日本の各原発が損傷を受けた時のハザードマップを示して、この戦争は原発攻撃を手段にしていることが特徴であり、原発は「核兵器」であることを理解し、一刻も早く止めなければならない、と訴えられました。

幹事の役割分担と各委員会活動
 今年初めにアンケートによって各全国幹事の希望を集約して、各委員会構成を確定しました。既存の各委員会に加えて「企画担当」や「他団体対応」などへの希望もありました。以下、各委員会からの報告概要です。
・『建まち』編集委員会――今期後半の特集企画、10月号で予定している九州特集等
・支部・ブロック活動推進委員会――「活動活性化委員会」からの名称変更、新建紹介の新リーフレットづくり等
・政策委員会――2月まで7回の連続企画「ルイス・マンフォード『都市の文化』を読む」の報告、「住まいづくり」「都市計画のあり方」など今後の活動予定
・Web委員会――大会以降の経過報告および新建ホームページ刷新にかかる各支部へのアンケートなどの活動報告
・叢書出版委員会――停滞中であるが『建まち』誌の特集予定「子どもの空間を考える」を機に進展を図る
・災害復興支援会議――災対連との連携等の報告

新建白書報告
 新建50周年を機に取り組まれた会員アンケートを「新建白書」としてまとめて昨年11月に発刊し、この白書から見えてくることをベースに3つの座談会を行い、他団体からの評価を含めて『建まち』誌3月号でまとめたことが報告されました。
 この後、次の議題の各支部活動状況報告に先だって4つのブロック(北海道・東北、関東、中部、西日本)に分かれ、交流を含めて、ブレイクアウトルームによる分散会を行いました。

各支部活動状況報告
 事前に依頼した支部活動アンケートをもとに各支部から活動報告を行いました。コロナ禍により活動が停滞している報告がある一方、オンラインなどを活用しさまざまな工夫によって支部活動が行われている報告がありました。

2022年 年間計画概要
 コロナ禍の終息は見込めない状況であり、1カ所に集まる全国企画の開催は困難であるため、今年はオンラインやハイブリッドなどを駆使してブロック別に建まちセミナーを開催しようという提案がありました。今後、各ブロック会議などを開催して内容などを検討していきます。
 通常であれば、今年は全国研究集会の開催年ですが、前回の第32回全国研究集会が、2020年11月から2021年8月まで11分科会が断続的に開催されたため、今年は開催せず各分科会が日常的に研究会活動を継続することが呼び掛けられました。そしてその蓄積をまとめて発表できる形で次の研究集会につなげられることを期待します。

新ホームページ紹介
 今年初めからWeb委員会で取り組んできた新建の新しいホームページが、画面で共有されました。ページの構成、ホームページのない支部の活動紹介の方法、会員が投稿できるページなど多様な活用方法が説明されました(https://nu-ae.com/)。

他団体等との連携
 今年10月に東京でハイブリッド開催される第16回地方自治研究全国集会の実行委員会に参加、第2分科会を担当しています。

 最後に藤本代表幹事から、都市計画の問題、住まいづくりの問題など、課題ごとに絞って議論することも大切であるという提言とあわせて閉会のあいさつがありました。
 次回の全国幹事会は、9月10・11日頃に開催することが報告されて散会しました。
                                                                                                  全国事務局・大槻博司

 

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