建築とまちづくり2021年1月号(NO.503)

建築とまちづくり誌

<目次>

特集 コロナ禍の居住支援と暮らしの現状

新型コロナ禍の居住の危機を、人権としての住宅・居住保障政策の実現につなぐ
──人にやさしい居住政策を 中島 明子

コロナ禍での居住支援と公的支援制度の拡充 小田川 華子

「住まいは人権」を当たり前に 林 治

コロナ禍での日本の生業支援の実態と課題 山本 篤民

《インタビュー》「住宅確保給付金」
──運動による前進、重要課題、今後の展望 坂庭 国晴

私とコロナ禍 大橋 周二 巻口 義人 杉山 昇 甫立 浩一

◆新建のひろば
東京支部──相談事例検討会

◆連載
《建築の保存とは何か 1 》旅館再生から考える─令和2年7月豪雨・熊本県人吉市 磯田 節子
《日本酒蔵紀行 7 》飛騨市古川町 赤澤 輝彦
《都市の緑 1 》D=2000の森─2mあれば森がつくれる 大原 紀子

<主張>非常時の計画 原発避難計画は可能か 

乾 康代 元茨城大学教授/新建全国代表幹事

2020年春、私たちの地球はコロナパンデミックに襲われ、これまで世界の感染者合計は7630万人、死亡者数169万人、日本はそれぞれ19・9万人、2900人に達した(12月20日現在)。このコロナ感染拡大を防ぐため、無数の計画が中止された。
 東京五輪は昨年夏、開催予定だったが、中止ではなく、今年夏への延期という異例の決定がなされた。だが今年、コロナが収束している保証はない。菅首相は、計画続行を正当化させるため「コロナに打ち勝った証として開催する」と述べた。考えてみれば、東京五輪は福島第一原発の事故収束についてなんの見通しもない2013年、安倍前首相が「アンダーコントロール」と嘘をついて招致を成功させた。非常事態に直面しても、すぐに収束する(あるいはコントロールされている)、だから計画続行は問題ないという計画者の心性は、計画者の正常性バイアスと呼べるだろう。しかし、これがどれだけ危険な事態を招くかは、現下のコロナ危機で私たちは日々経験している。
 非常時の計画の問題はもう一つある。近年、巨大な災害が相次ぎ、被害も大きくなっている。非常時の対応計画はどこまで可能なのかである。以下では、3・11を経験した日本で初めての策定で、その策定がもっとも困難な原発広域避難計画を取り上げる。
 まず、平時が前提の計画はどのようなものか。たとえば住生活基本計画は、国民の住生活の安定の確保および向上の促進に関する基本的な計画である。市民の住生活は、家族、人口、社会、経済などさまざまな要因が絡みあって変化し、市民のニーズも変化する。これらの変化要因を分析して計画をつくり、実施後、その成果を踏まえ新たな課題も取り込んで5年程度で改正される。このサイクルを過程として計画の目的が実現されていく。
 原発避難計画は、原発立地と周辺の自治体に策定が義務づけられたもので、計画の「実効性」が求められている。この計画は、原発事故に際して市民の一斉避難(あるいは避難行動に出ないこと)を指示、誘導するものである。
 東海第二原発がある茨城県では、避難計画の対象者は94万人、避難手段は自家用車か自治体が用意するバスなど、避難先は人口27万人の水戸市の場合、もっとも遠いところで164㎞先の群馬県高崎市である。この数字を見るだけでも計画の実現性は限りなく低い。
 計画の課題を具体的に見ていくと、複合災害(原発事故と風水害、地震、津波、コロナなどとの複合災害の対応)、初期被ばく(そもそも被ばく前提の避難は許されるのか、特に乳幼児の被ばく)、災害弱者の避難(施設入所者、病院患者、高齢者などの避難)、避難経路(道路不通、橋陥落などへの対応)、道路渋滞(何10万台もの避難自家用車が幹線道路に入る)、避難者受け入れ自治体(受け入れ先との折衝、絶対的避難所不足)などがある。
 先に確認したように、計画とは、策定と実施、新たな計画策定のプロセスそのものであり、これによって計画目的が実現される。しかるに、原発避難計画はそもそも初めてだから、このプロセスがない。一発勝負の計画なのである。
 また、この計画は、大規模一斉避難行動について規定するが(避難しないことも規定する)、その策定要素は上記のように多様で、しかもそれぞれの要素条件はあらかじめ確定できない。さらに、計画どおりに住民が行動するとは限らないという、もっと予想困難な要素もある。
 避難計画の策定があまりに困難なので、茨城県大井川知事は昨年6月、「(原電の「安全対策工事」完了予定の2022年12月より)もっともっとかかる」と述べた。計画はいつできるか分からないというのである。計画期日を確定できない計画はもはや計画ではない。事故によってしか実効性を検証できない計画が、「実効性ある避難計画」になれるはずもない。

<特集>コロナ禍の居住支援と暮らしの現状

 新型コロナ感染症の世界的大流行は、一年になろうとしています。このウイルスによって私たちの社会や生活は大きく変わり、人類の存在自体を脅かしていると言っていいでしょう。
 2020年12月、日本ではコロナが原因の失業者は8万人近くになったと厚労省が発表しました。就業者の約4割が非正規雇用者であり、なかでも若年層や女性の非正規は6割に上り、コロナ禍の中で大きな打撃を受けています。
 コロナ禍による社会の変化は、仕事を失うことから、住まいを失うことにつながり、長引く流行によりまちづくりや地域コミュニティ、教育、文化にも打撃を与えています。
 今年の本誌特集では、コロナ禍が社会や建築とまちづくり分野へ与えた影響についていくつかの特集にしていく予定です。感染症の大流行はこれで終わりになることはなく、私たちは将来に備えなくてはならないでしょう。今回のコロナ禍を記録し、打開策を探りたいと思います。
 本誌では、住まいの貧困の実態や「住まいは人権」「ハウジングファースト」を目指す居住支援の取り組み、あるべき居住制度の姿をこれまでも特集してきました。今号では第一弾として生活の基盤である住まいに与えた影響について特集します。
 3月にはネットカフェ閉鎖にともなう追い出しから路頭に迷う人が出ましたが、ネットカフェが住まいの代わりになってきたのが日本の居住制度の現実です。コロナ禍以前からその脆弱さを危惧し、居住支援をはじめとした生活支援に取り組んでいる人や組織が全国各地に広がりつつありました。コロナ禍によって日本の貧困な住まいの制度がはっきりと映し出される機会になったわけです。
 今号はコロナ禍で困難になった住まいの確保をどのように支援したかを明らかにし、そして日本の居住制度はどのようにあるべきなのかを考える特集としました。
 建築とまちづくり分野への影響はさまざまな形でおよんでいます。私たちの暮らしを成り立たせるためにどのような対策が取られたかを振り返り、今後の対策を考えます。

担当編集委員/高田桂子

<ひろば>東京支部――相談事例検討会

 東京で相談事例検討会が始まったのは1998年1月からです。それからおよそ月に一度あつまって、自分たちが関わり始めた相談事例にどう考えて取り組んだのかを中心に、これまでの事例経験から考えたこと、ほかの人からの意見や知見など、多岐にわたって話し合う機会です。現実の事例が目の前にあれば、雑談でも多くの示唆が得られます。相談には建築の技術的なことだけでなくさまざまな課題が含まれています。制度や近隣関係、さらには人間関係も関わってきます。私たちも含めて相談を受けた人たちが少しでも有意義な関わりを持てるように、事例を検討していこうとしています。
 相談事例検討会としたのには、その前提に建築やまちづくりにかかわる技術者は「みんなが相談員」との考えがあったからです。誰かに依頼するのではなくだれもが相談を受けていけるように、そのための交流プラットフォームと考えて始めました。
 始めた当初に、誰もが相談員ということのありうべき姿とそのことへの矜持を実感したことがあります。それは象地域設計に遊びに行った時、隅の一角で当時の所長の萩原さんが一人、どこかのマンションの図面を見ていた姿でした。聞くと、萩原さんに来た欠陥についての相談なので自分がやっているんだとのこと。もちろん他のメンバーと相談しながらも自分が責任を持って取り組む静かな姿に、建築技術者の矜持を感じました。そして、誰もが相談員という姿に近づくには、技術や制度、現場の経験などまだまだ多くを学ぶ必要も感じて「事例検討会」としました。
 まだ若くして亡くなられた萩原さんにはもっと多くのことを学びたかったと思います。もちろん、その後にも多くの方にいろいろと教えてもらうことができています。そのことも事例検討会を続けていく原動力だと思います。
 これまでをみてくると、その時々で相談事例の課題の重心が動いているのが分かります。それは社会の姿の反映でもあるようです。欠陥住宅の問題が目についた時には建築条件付き建売など都市部の敷地の流動化が起こり、とくにその細分化をうながす流れがあちこちで起こっていました。粗製乱造ともいえる住宅づくりが新築してすぐの欠陥を発現します。マンション建設問題が続いた時には、農地や工場地、商業地の集約が顕著で町場産業の衰退が垣間見えてきましたが、住宅地の寮の跡地などにマンションができる問題は、マンション建設側が地域への配慮や尊重をすっかり失ってしまった姿を見ることになりました。建設や行政が私権や所有権、資本の方にしか目を向けられなくなった姿は、建築に係る私たちにとってどんなことを伝えているのかと思います。他にもさまざまな相談事例が語られています。とりあえずの報告は「ホワイエ」に載せています。
 参加者はその時々でさまざまですが、コアメンバー数人とともに自身がかかわった相談事例の技術面だけでなく、実現したマンション耐震改修の見学(写真1)や関係あるシンポジウムや会議などへの参加と資料交換、さらに相談から派生した社会的課題の現場への訪問として母子生活支援施設の見学(写真2)など、手を変え品を変え続けています。

 ここ数年は東京神田にあるとしまち研で定期会合を開いています。とはいえ、新型コロナウイルス禍は対面での会合を難しくしていて、個別の技術的な話題というよりもより社会的で長く考えていかなければならない課題に話が集まっています。たとえば、マンションなどに孤住化する高齢者の住まいをどんな仕組みで再構築できるのか。いろいろな方から聞く相談を通じての人々の住まい方の変化、相続を含めての土地や建物の現在と今後のかたちへの模索などを介して、これからの住まいを現場に即して考えていくことにも取り組みたいと思っています。

東京支部・大崎元

 

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