建築とまちづくり2022年6月号(NO.520)

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<目次>

特集
子どもを育む空間を再考する

小伊藤 亜希子
いま、子どもを育む空間に求められること

大塚 謙太郎
子ども主体の保育への出発点
――建築的小空間の調査から

清水  肇
学童保育施設を生活の場にするために

佐藤 未来
保育を支える設計
――エピソードに学ぶ

粟原 知子
地域のつながりの中で子どもが遊ぶことの大切さ

福屋 聖恵
コラム:ふくふくハウス(旭川)
――『地域は家族』を実現するために築くために必要な空間を建てました!

連載
原子力災害避難計画を考える〈6〉
スリーマイル島原発事故と避難問題見直し
池田 豊

日本酒蔵紀行〈23〉
辰野町小野
赤澤 輝彦

タイの住まいづくり・まちづくり(10)
パイロット地区:チャロエンチャイ――バーン・マンコン事業2
石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈6〉
日本福音ルーテル市川教会
千葉県市川市
泉 宏佳

連続講座
マンフォードの『都市の文化』を読む
講師 岩見良太郎

<主張> 「大きな物語」の崩壊を京都に見る

                                                                      久永雅敏    もえぎ設計顧問/全国常任幹事

 新建政策委員会主催の岩見さんによるマンフォードの「都市の文化」を読み解く連続講座を聞き、そのあと時をおかず東京の神宮外苑の再開発の勉強会に出て、大げさな言い方をすれば、戦前戦後の都市計画の崩壊(「大きな物語」の崩壊)を実感したような気がします。この崩壊の実態を私が活動する京都の事例を通して報告し、考えるきっかけにできたらと思います。おそらく「成長戦略」に基づく住民不在の「まちこわし」は大都市だけではなく、これまでのまちのあり方を一変させるような乱暴なやり方で、各地で起きていることではないかと思っています。

 ここで取り上げるのは、ホテル問題です。「観光立国」がうたわれ、インバウンドをさかんに呼び集めた時期、京都のまちをまさにホテルラッシュがおそいました。ホテルの乱立だけではあきたらず中心市街地の路地のおくまで「民泊」がおし寄せるという異常な事態でした。しかしコロナ禍をきっかけに、このホテル騒ぎがややなりをひそめたかに見えたのもつかの間、疲弊した住民の暮しより観光客を優先する「賑わい」づくりが、またぞろうごめき始めたように見えます。
 それを後押しする一つが2017年に京都市が創設した『上質宿泊施設誘致制度』です。この制度の趣旨を、京都市はこう説明しています。「京都の奥深さを伝える様々な魅力がある三山の山すそなど、宿泊施設の立地が制限されている区域においても、その魅力や地域特性を最大限に活用して、――地域活性化、京都経済の発展に貢献する宿泊施設を上質宿泊施設として誘致したい」。「本制度によって上質宿泊施設候補に選定された計画については、宿泊施設の立地が制限されている区域において、都市計画法や建築基準法等の関係法令に基づき、特例的に開業を認める措置(特例措置)の活用を検討します」。
 都市計画法や建築基準法の規制は何のためにあるのか、行政みずから特例措置という名で無法状態をつくり、しかも、自然豊かな落ち着いたまちに「賑わい」という言葉で、一私企業の儲けの場を提供しようというものです。

 上質宿泊施設誘致制度と建築基準法の特例処置を予定しているホテル計画の概略をいくつか紹介します。いずれも上質宿泊施設として選定済みで、歴史や自然豊かな住宅地に、京都以外の事業主が計画しているのも共通しています。
 世界遺産仁和寺の門前に、24年開業予定で、大規模なホテルが計画されています。第1種住居地域で、延べ面積3000㎡までならホテルも建築可能ですが、それをはるかに超える特例措置で計画されています。
 仁和寺にほど近い閑静な住宅地にも23年開業予定で高級ホテルが計画されています。「旧鳴滝寮」という歴史的にも価値のある旧邸宅で元京都市の厚生施設でした。ここは第1種低層住居専用地域で、ホテル建築はそもそも不可能です。
 二条城の北側にも「シャングリラホテル京都二条城」という1万2000㎡の大規模ホテルが計画されています。ここも第1種住居地域で、面積制限をはるかに超える大きさです。事業主は香港の業者で、24年開業予定。
 その他、京都御所や同志社大学の近くの相国寺の北側にも大規模な高級ホテルが計画されています。ここも第2種中高層住居専用地域でホテルは建てられません。
 他にもいろいろ計画されていますが、きわめ付けともいえるのは京都駅前の中央郵便局の建て替え計画です。高さ60m、ホテルを含む複合商業施設構想です。ここは「都市再生緊急整備地域」に指定されており、「特別地区」に決定されればあらゆる規制を取り外すことが可能な特例中の特例と言えます。京都市は2007年に「新景観政策」を策定し、住民の意思を尊重する一定の見識を示し、建築物の高さは31mを限度としました。しかし、あれから15 年、早くも自らの意思をかなぐり捨てようとしています。

 私たち専門家は、都市はこうあるべきという都市計画(大きな物語)の崩壊ともいえるこのような事態を黙ってみていていいのでしょうか。黙って見過ごすわけにはいかないと思います。

<特集>   子どもを育む空間を再考する

   子どもへの虐待や家庭内暴力がしばしば報道され、過干渉やヤングケアラーの増加等、取り巻く環境から心身を病む子どもが増えるなど、子どもを取り巻く環境は大きく変化しています。
 一日の大半を園内で過ごす保育園児、放課後は学童保育施設で過ごす小学校の子どもたち。そうした状況を現在の施設や環境は受け止めきれずにいます。保育園では待機児童が解消されないなか、規制緩和により子ども一人当たりの面積や職員を減らして保育施設を設置することを可能にしてきました。また、設置数を増やすことが第一義に作られてきたため、子どもたちの生活と空間についての議論と実践が置き去りにされてきました。
 学童保育は制度として認められるようになったものの、子どもたちが過ごす環境についての議論はこれからというのが現状です。
 子どもたちが豊かに発達するためにはどのような空間が必要でしょうか。
 住まい、保育園、幼稚園、学校、日常的な遊び場、地域が連携しあい、子どもたちを育む空間となっています。そうした空間を作り出す設計技術者として私たちはなにができるでしょうか。保育専門の設計技術者が保育施設を作る時代から、誰もが地域の保育施設を作る時代になっています。新建会員は住まいから施設、地域づくりまで子どもを取り巻く環境に携わっていると言えます。本特集では、生活のなかで子どもにとって良い空間や地域をどのように作っていったらいいか、をあらためて提起したいと思います。
 保育園や学童保育施設という集団のなか育つ子どもたちにとってどのような空間が必要か。さらに地域での子どもたちの空間として、遊び場や居場所について考えます。
 住まいや学校などは本特集では対象にできませんでしたが、課題と会員の実践を追い、別の特集としてまとめたいと思います。

 それにしても私たち大人は子どものことをどれだけ理解しているでしょうか。大人のこうでありたいという思い込みで空間を作ってはいないでしょうか。
 子どもたちが喧嘩をし、笑いあい、納得し、ぼんやりとしながら心と体を成長させていく空間を、私たちがどれだけ観察し、想像しながら作っていくか。繰り返しの作業が子どもを育む空間を豊かにしていくのではないでしょうか。子どもに関わる多くの専門家と連携し合うことも大切です。
 最後に、大人が整えてあげられる一番の環境は平和であることです。
                                                                             担当編集委員 高田桂子・馬場麻衣

<ひろば>  神奈川支部―リモートで話す会

    神奈川支部の2020年、そして2021年は、コロナ禍により、ほぼ活動がストップしていました。例年であれば、まち歩き、そして、実践報告会は必ず開催してきていたのですが、まち歩きは屋外とはいえ、皆が集まるのはためらわれ、また、支部メンバーの多くがリモートで話す環境が整わず、また、なにかと打ち合わせに使っていた横浜のボランティアスペースを自由に使えなくなるなどが重なって、どうしようかと考えているうちにアッと言う間に2年が経ってしまいました。
 これではいけないと、2022年の総会後、定期的にリモートで話す会を開催してみようという意見が出ました。1年前にはリモートでの会話そのものに、どこか尻込みするようなところもありましたが、さらにもう1年経った現在、支部の各会員も大分リモートの環境が整い使える人が増えてきたので、とにかく皆で気軽に話す機会を作りたいと思い、毎月第3土曜日に開催すると決め、この試みがスタートしました。
 3月の第1回のリモートで話す会は「グローバリズムの世の中と私」というテーマを掲げました。今の世の中は、資本主義の創り出した「グローバリズム」にすべてを牛耳られてしまっているが、それに流されてはいけないのではないか、というのがテーマ設定者の思いです。時間になってパソコンに向かってみると、残念ながら参加者は4人だけ。そのうちの1人は途中で退席となってしまい、そのようなちょっと寂しい状況での開催となってしまいました。
 今回のテーマを考えるヒントとして、老荘思想、タルムード、メタ認知など、東西のさまざまな思想を例に挙げた資料を見ながら話しました。南北問題のような社会の問題としても捉える話もありつつ、自分自身がどう向き合っていくか、という話を掘り下げようという試みに重きを置いた話も出ました。なかなか話し甲斐のあるテーマだったので、なんだかんだで3時間近く話は続き、もちろん結論の出ることもなく、このことについてはまだまだ話をしたいと感じつつ話す会は終了しました。
 4月の第2回のリモートで話す会は「私のまちの空き家」というテーマで開催したところ、前回の倍以上の人数が参加し、愛知から甫立さんまで参加していただきました。
 空き家は、特定空き家の制度ができてから、行政も空き家対策に取り組んでいるのではと思います。地元大磯町や二宮町は定期的に空き家協議会を開催し、不動産関係者、弁護士、行政書士、建築士等々が集まり、空き家対策を話し合う場を設けていますが、今一つ具体的な対策につながるような流れはできていないような印象を受けます。二宮町の場合、町外向けに発送する固定資産税の納税通知にシルバーボランティアによるメンテナンスや空き家相談会の開催の案内を同封しているとのことで、これに対し、オーナーからポツポツと問い合わせがあるようです。しかし、不在の家のメンテナンスでは特定空き家の回避はできても、空き家の解消とまではいかなくて、依然として空き家は一定数存在しています。そんな様子を思い浮かべつつのテーマ設定でしたが、実際に話し始めて、「空き家」という言葉で各自が思い浮かべる事が実にさまざまであることが意外でした。
 空き家と言うと、まず「活用の可能性」を考える私に対し、社会の負の存在を技術者として安全な存在にしていくことを提案アピールすべきという意見や、空き家という言葉から新築以外の建物として捉えた人など、普段この言葉に向けている眼差しの違いが新鮮でした。
 空き家すなわち使っていない建物は、上手く利用すれば社会にとってプラスになっていく存在だろうと思います。シャッター商店街の空き店舗を利用してできた一つのお茶飲み処から地域の活性化につながった例もあります。負の存在であればあるほど地域の財産に転換できたら、そして、そのようなプラスの可能性を空き家のオーナーに知ってもらえる機会づくりができないだろうかという気持ちは宙に浮いたままですが、いずれ一歩踏み出せる機会をつくりたいものです。
 5月は第3回のリモートで話す会ですが、さて、どのような展開になるでしょうか。
                                                                                                  神奈川支部・大西智子

<ひろば> 機関紙コンクールで特別賞受賞

    本誌の印刷を依頼している㈱きかんしと、利用者親睦団体である「あたごくらぶ」では、毎年新年号を対象に表彰をしています。2022年の機関紙コンクールで「建築とまちづくり」は特別賞をいただきました。500号を超える積み重ねがありいただいたものと受け止め、今後も読んでいただける誌面づくりに努力します。
                                                                                                                       編集委員会

 

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