建築とまちづくり2023年9月号(NO.533)

目次

<目次>

特集
大震災に備える――関東大震災から100年

室崎 益輝
災害の時代に備える

窪田 亜矢
花露辺集落による大震災の備え方
――決断と応答責任

高林 秀明
生活再建のための災害ケースマネジメントの課題
――被災者の主体性の側面から

中島 熙八郎
「創造的復興」をフレーム・アップする行政の手法
――2016年熊本地震被災地益城町・南阿蘇村を中心に

遠州 尋美
『東日本大震災100の教訓 復興検証編』を編んで
――大震災の市民版復興検証白書をみなさんのお手元に

丸谷 博男
関東大震災の遺構をまとめて学ぶ事

連載
「居住福祉」の諸相〈8〉
人々が集うお寺
岡本 祥浩

構造の楽しみ〈5〉
仕上げに隠れた微細な構造
松島 洋介

私のまちの隠れた名建築〈19〉
旧観慶丸商店
宮城県石巻市
西條 芳郎

<主張> 最近のドイツ・米国の省エネ施策 

大橋 周二 (有)大橋建築設計室/全国常任幹事

 これまでも本誌主張で海外の省エネ施策について紹介をしているが、国内では、2025年に改正省エネ法が施行される。
 今年4月、日本断熱住宅技術協会と日本外断熱協会の共催で、ドイツとアメリカの省エネ施策の現状を紹介するセミナーがあった。会場は大阪、東京、札幌の三都市で、いずれも100名近い参加者で関心の高さを感じた。このセミナーでは私も、札幌市内で補助金を活用した外断熱改修事例と札幌のマンションの現状について紹介した。
 ドイツでは1976年に断熱条例として法規制が始まり、2002年の省エネ条例以降、2007年の建物の年間エネルギー消費量を表記するエネルギーパス制度、2009年には新築建物への再生可能エネルギーの導入と続き、さらにこれらの施策が2020年に統一され、実施の過程にある。
 これまでドイツでは公営の集合住宅の断熱改修を視察していたが、民間では賃貸が多く、個人所有の分譲マンションは全体の9・5%と少ない。日本と同様、建物の老朽化と所有者の高齢化も進み、改修費用が大きくなる断熱改修を敬遠する意見もあり、その対策が課題の一つと聞いた。自治体によっては、補助金の導入や住まいながらの改修ができるよう断熱パネルを外壁に固定する工法の開発も進んでいる。
 アメリカは連邦制のため国内の法規制は各州においてその基準が定められている。なかでもマサチューセッツ州ボストン市では、昨年8月女性市長が「今後新築建造物は化石燃料を禁止とする条例を推進」することを表明した。今年4月のセミナーでは、ボストン市の条例として、新築の集合住宅はパッシブビルディング認証を取得することが必須条件とし、5階建て以下は2023年1月より、6階建て以上は2024年1月以降実施となっている。(パッシブビルディング:外皮を適切な性能にし、エネルギーを最小限使用しながら快適に暮らせる建物)
 ボストン市では新築に限らず既存建物においても、省エネ化と合わせカーボン排出量を減らすため、既存改修条例とカーボン税が準備されている。「断熱性能基準を満たさない建築物には、所有者に対し2030年から約3千万円のペナルティが課せられる」ことになっている。
 日本国内ではすでに「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が2015年に成立している。2022年には、300㎡を越える非住宅は適合判定を受けることとなった。300㎡以下の住宅、非住宅は建築主への説明義務、住宅では300〜2000㎡は届け出(集合住宅を含む)となっている。この改正省エネ法について、いまだ実施の是非を問う議論がある。そのひとつに「全国一律の規制」という意見である。しかし、改正法では外皮性能基準である、地域別の外皮熱貫流率の数値基準を全国8地域とし、1・2地域である北海道の0・46に対し6地域となる東京23区は0・87、8地域の沖縄には数値基準はない。 この外皮性能の算定は、屋根、外壁、基礎、窓、熱橋部分を部位毎に算出し、その数値を全体の外皮面積で割った数値(UA値)で評価している。従って、極端に性能が良い部位があることで、全体の基準を満たす結果を得ることもある。バランスの良い断熱性能向上を図るという点では問題である。この点はより検討が必要と考える。マンションの外断熱改修で利用している、長期優良住宅化リフォーム推進事業のように、各種補助金制度では、すでに改修前後の性能向上を評価する上で、この外皮性能計算による評価を義務付けている。
 前記のとおり、ドイツ、米国ではすでに、新築をはじめ、既存建物まで、建物から排出されるCO2の削減について、罰金を含む法規制が行われている。米国では設計段階で建設段階と維持管理段階(建設後の使用時)にともなうCO2排出の検討を義務付け、新築か既存利用かの基準をもうけその判定を行っていると聞いた。
 設計、施工に関わる実務者の一人として今一度、国内での法整備についてより理解を深めたいと考えている。

<特集> 大震災に備える――関東大震災から100年

災害は「(天災は)最後通牒も何もなしに突然襲来する」(寺田寅彦『天災と国防』)。言うまでもなく南海トラフ地震も首都直下地震なども、である。いま私たちが問われているのは、この「敵」に社会がどう向き合うか、そのためになにをどのように学ぶのかである。
 室崎益輝(むろさき・よしてる)は、その学び方は、復興の目標と実態に即して学ぶ。特に前者の目標については、被災者の自立と次に備えた安全、とりまく社会矛盾を正すという3点を統合して進めることが重要だとしている(『建築とまちづくり』№492)。
 しかし、災害の矢面、つまり被災したコミュニティおよび政府機関が、これらの課題について全面的に向き合っているのだろうか、もちろんそれは否である。すでに政府は、東日本大震災復興のスピードアップに乗じて、創造的復興の恒久化となる大規模災害復興法を制定(2013年)した。その第3条の基本理念では、ハード批判をかわすかのように「災害を受けた地域における生活の再建および経済の復興を図る」としている。しかし、中身はハード事業のオンパレードで、詐欺ではないかと思わざるを得ない。
 最近の東日本大震災の復興関連の政府検証にも問題が多い。政府検証の特徴は、①施策の反省はしない、②縦割り、③住民合意・主体形成については避けることの3点である。しかし、面白いのは「(政府自らの)成果」に透けて見えるのが、住民本位そして住民主体の取り組みと普遍的原理(人権、主権等)である。
 状況としては「創造的復興」と「市民主体の復興」の厳しいせめぎ合いが、これからも続く。特に「創造的復興」を支える産官学金(技術者も含む)という現代の「メガマシン」(人間―機械システム。ルイス・マンフォード)は、AI・デジタル化のなかでいっそう力を増し、私たちも巻き込まれる。
 このような複雑化したせめぎ合いを想定し、これまでの教訓を引き出し、検証しつづけることを継続すること以外に「大震災に備える」道はないのではないか。間違いなく、大災害はまちづくりや建築活動の歴史に決定的な影響を与えている。死者・不明10.5万人超、虐殺という100年目の関東大震災もふまえ、事態に備えたい。


特別編集委員/阿部重憲
担当編集委員/高田桂子

<ひろば> 富山支部――第1回・2回「おしゃべり勉強会」

本企画の発端は、富山支部編集委員会の見直しにはじまります。もう一度、支部として活気を取り戻し原点回帰する意味からも「会員紹介」を特集しました(富山支部機関誌『ゆるゐ』№198,2023.2.1)。その原稿依頼がきっかけで、富山支部会員である柳原春秋さんからこれまでの仕事のことや海外視察について、おしゃべりして談笑できたら「至福のひと時になるのでは」と本企画の提案がありました。
 「第1回おしゃべり勉強会」は、2023年4月1日(土)14時から柳原さんの事務所の(株)地域建築設計(富山市丸の内)にて行われました。参加は5名と少人数で、お茶菓子をいただきながら行いました。ちょうど事務所から見える桜は満開で人通りも多くにぎわっていました。前段は、柳原さんの自己紹介としてこれまでの仕事や病院建築に携わる経緯、海外の設計事務所の視察や新建設立時期の建築運動史など多岐にわたり、全体的に濃密な勉強会となりました。
 主に20世紀を代表する建築家F・L・ライトの作品についてのお話しでは、当時の帝国ホテルをご覧になられた経験談が印象的でした。また、タリアセンウエストの視察については、F・L・ライトの理想(理念)が徹底して感じられるご説明でした。教育施設であるタリアセンでは「生活すること」「学ぶこと」「つくること」などが渾然と一体となった場所で、自由に(有機的に)建築が生まれていったことが想像されました。
 第1回目の勉強会は、あっという間に過ぎ大変楽しいひと時となりました。柳原さんにとっても「至福のひと時」になっておられたら、本企画は小規模であっても十分に意義があったといえるでしょう。
 続く「第2回おしゃべり勉強会」は、2023年6月17日(土)14時より開催されました。「森の幼稚園(デンマーク)を訪ねて気づいたこと」をテーマに、柳原さんの事務所とリモートを併用し開催しました。今回はこども環境研究会の皆さんにお声掛けし、参加は8名となりました。内容報告は、富山支部機関誌『ゆるゐ』№199(2023・10)に掲載を予定しています。なお、第3回勉強会の準備も進められているご様子。学ぶ(インプット)楽しみだけでなく、教える(アウトプット)新建の楽しみ方もあるのだと、パワフルな先輩方に見習うことは多いです。
(富山支部・西一生)

<ひろば> 京都支部――酬恩庵一休寺拝観と支部会員の自邸建設現場見学会 

 5月20 日(土)午後1時、近鉄新田辺駅に集合、6名の参加でした。駅から一休寺へ向かう途中に会員自邸の建設現場があるのですが、まずは横目で見ながら通り過ぎます。有名建築家の新築マンションの現場を見ながら批評したり、参加した他の会員が京田辺市で経験した現場と今回建設地との様子の違いなど、少人数のおかげでみんなでワイワイとおしゃべりしながら歩きます。天気も気持ちの良いお散歩日和でした。
 一休寺に行ったことのある方はご存じかも知れませんが、総門を入ると木々の梢から光が注ぐ明るい石畳の斜面をのぼり、尾根のような部分から庫裏への門をくぐって玄関へ「おりる」ようになっています。丘の北側斜面に開かれたお寺なので、方丈の庭を南面させるためには、こうした順路になるのもうなずけます。庫裏で拝観料を払い、まずは方丈の縁側で庭を楽しみました。方丈を囲むようにして三つの庭があります。メインの南庭は、サツキの生垣と大きなソテツが目をひく枯山水庭園で、檜皮葺の虎丘庵と一休禅師の墓(宗純王廟)を背景とした明るい静かな庭です。東庭は十六羅漢になぞらえたと言われる石組みがあり、北庭は滝を模した石組みの蓬莱庭園で、かつてはここから木津川を行き交う船が見えたそうです。コンパクトながらぎゅっと魅力の詰まった庭でした。宝蔵、開山堂、蓮池、石像の並ぶ裏庭、浴室など一通り見学しました。宝蔵の自動扉にみんなで着目したのは、少し職業病だったかも知れません。
 自邸の建設現場に戻ります。外構はまだ完成しておらず、引き渡し前ですが、中に入らせてもらいました。見どころとしては、一つは外壁。近付いて見るのと離れて見るのとでだいぶ印象が変わるところが気に入って採用したそうです。もう一つは2階角の窓でしょうか。窓の向かいに桜の木があり楽しめます。実はこの敷地を購入した時には、桜の木の方向と重なるように電柱が立っていたそうです。駐車場との兼ね合いもあり、移設なしにはこの家の計画はあり得なかったようです。2階のリビング、ダイニングがワンルームで、天井が高く、手すりがほっそりと上品に作られていることもあって視界の邪魔にならず、広々と感じます。
 その他、2階への階段はゆるやかでのぼりやすいとか、造り付けの家具のこととか、いろいろと思いのこもった家づくりの話を聞き、みんなで感心した一日でした。
                                      (京都支部・桜井郁子)

<ひろば> 枚方市駅前のまちづくり市民運動―300人に迫る大集会

 6月24日(日)、枚方市総合文化芸術センター別館大ホールで「市民の声をいかした枚方市駅前のまちづくりを」と題して枚方のまちづくりを考える市民ネットワーク主催の集会が開かれました。本誌で既報の通り、新建大阪支部は4つの市民団体が集まったネットワークの活動に、企画づくり、チラシ、ホームページづくりと全面的に協力しています。これまでは支部会員が講師の学習会という形で集会を開催してきましたが、今回は講演会、シンポジウムとして内外から3人の講師を招き、枚方市駅前のまちづくりについてそれぞれの専門分野からのお話をいただき、その後に講師と参加者とが意見交換するという企画です。
 基調講演として、中山徹氏(奈良女子大学教授)から「枚方市駅前再開発とまちづくり〜どこに問題があるのか、どうすれば変えられるのか」というテーマで、現在の状況を踏まえた、これからのまちづくりのありかたとして、「人口減少を前提としたまちづくり」「環境負荷を少なくするまちづくり」「災害に強いまちづくり」が主題であり、現在の市の計画は正反対の考え方であると指摘されました。
 特別講演(1)として、巽照子氏(図書館問題研究会大阪支部長)は「まちづくりはひとづくり」として自身が館長を務めるモモの木こども図書館の地域での役割や、フィンランドの図書館の事例を紹介しながら、まちづくり、コミュニティづくりにおける図書館の役割を話されました。
 特別講演(2)の大原紀子氏(造園設計、新建大阪支部)は「まちづくりにおける緑・公園の役割」として、そもそも公園は「公共の福祉の増進」を目的としたものであり、営利企業のビジネスチャンス拡大に資するものではないと現状の公園行政の問題を指摘し、枚方市駅前のまちづくりについては、現状の岡東中央公園は営利事業の場ではなく市民のための公園として守るべきであると訴えました。
 オンライン参加20数名を含む270余名の参加者で、意見交換の時間も大いに盛り上がりました。チラシを発行してから約2週間で300人近くを集め、当日の設営、撤収の人員配置など市民グループの底力を感じました。また、別の市民グループからも連絡があり、少しずつ運動が広がっています。
 枚方市では9月3日投開票の市長選挙戦が始まっています。現職に対抗し市民の声をいかしたまちづくりを掲げる無所属の元教師がギリギリになって立候補し、各市民グループがそれぞれに、あるいは協同して支援活動を活発に展開しています。この選挙結果が枚方市駅前のまちづくりを左右することは明白で、それを踏まえた次の運動の展開が重要です。                        (大阪支部・大槻博司)

20230624枚方大集会

<ひろば> 京都支部――納涼会&新入会員歓迎会

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