建築とまちづくり2023年1月号(NO.526)

2023年発行

<目次>

特集
脱原発と住民自治

池田 豊
地方自治から考える原子力災害避難計画

大石 光伸
原発とまち

池田 豊
コラム:ザポリージャ原発危機と日本

和田 悠
脱原発運動からデモクラシー市民運動へ
――板橋における航跡

乾 康代
大量廃炉時代の原発立地地域の脱原発と地域再生を考える

板倉 真琴
コラム:未来へ何を遺せるか

連載
「居住福祉」の諸相〈1〉
ごちゃまぜと触れ合う住まい方
岡本 祥浩

タイの住まいづくり・まちづくり(16)
山岳少数民族の住まい
石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈12〉
福岡県立美術館
福岡市中央区
照井 善明

主張
イコールパートナーという視線―日台市民交流を続けて
垂水 英司

新建のひろば
研究会だより/第4回子ども環境研究会報告
研究会だより/第1回「環境と建築研究会」報告――省エネ法の改正をどうみるか
33回大会期第8回常任幹事会報告

<主張> イコールパートナーという視線
                                                   ―日台市民交流を続けて

                                                     垂水英司   兵庫県建築士会顧問/全国代表幹事

 このところ、コロナの関係でしばらくご無沙汰だが、神戸に続いて台湾で発生した震災を契機に日台の市民交流を長年続けてきた。早いものですでに23年になる。その間、大小の曲がり角があったことが思い返される。
 2016年、いくつかのニュースが台湾から届いた。たまたま台湾関係の出版物にコラムを頼まれていた私は、それらのニュースに触発されて、これからの日台は「イコールパートナー」にならなければならないといった趣旨の短文を寄稿した。
 日本人の台湾認識は、植民地として支配していた時代の台湾認識、戦後の高度成長期に日本企業が進出していった頃の台湾認識、そして、台湾で独自の経済成長と民主化が進んでいった頃の台湾認識というように、「支配者」と「被支配者」、「先進」と「後進」という関係性から、次第に対等な関係性へ変遷してきた。それでもなお「イコール」と言えない残滓が残っていた。私の日台交流は、「イコールパートナー」としての間合いや距離感をどうとるかを考え続けた23年間でもあった、との思いがある。
 話が後先になったが2016年届いたニュースとは次の二つであった。一つ目は台湾に初めて女性総統(蔡英文)が誕生したことだ。女性が政治のトップに就くという現実性が覚束ない我が国と比べて、女性の社会進出という点で台湾に一周以上遅れたとの感は否めなかった。二つ目は、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が経営危機に陥った日本の総合家電大手シャープを買収するに至る話題である。かつて高度成長期に世界へ知れ渡った日本の集団的企業文化に向かって、現代のグローバルな物づくり現場を単身渡り歩く台湾のワンマン企業家が、直接対峙するかのような場面をたびたび目撃することになった。
 すでにいくつかの点で台湾は日本を確実に追い越している。言い換えると、イコールパートナーの関係性を構築できる時機到来ではないだろうか。とはいえ、それにはまだ随分長い時間が必要だろうと内心で思ったものである。ところが、最近の状況を見ていると、この傾向は予想を超えたスピードで加速している。コロナ・パンデミックに対する台湾の初期対応は特筆に値するものだった。状況把握と果敢な決断、徹底した情報公開、そしてIT技術の駆使。私は思った、「こんな台湾見たことない」。
 翻って日本のコロナ対策は後手・後手を踏んだ。台湾が自ら生産に乗り出したマスクを世界に供給しようというとき、我が国は「アベノマスク」の配布を決定した。マスクだけでなく、日本の企業の生産力量も低落してきている。端的な例は半導体で、巨額の国費を投入して台湾の世界的な半導体メーカー「TSMC」を熊本県に誘致している。特に最近の我が国の状況をみると、さまざまなシステムが壊れてきているのではとの危惧さえ抱く。イコールパートナーどころでない。台湾からこんな声が聞こえそうだ。「どうしたんだ、日本は」。
 私が考えるイコールパートナーの要諦とは、面積や人口、経済規模、ましてや軍事力などではない。重要なのは、社会、歴史あるいは文化であり、まずはパートナーのことをよく知ること、そしてパートナーをリスペクトできることだと思っている。今、台湾危機が喫緊の課題としてクローズアップしてきている。すぐさま軍事増強に走ろうとするのは以ての外だ。また、親台湾的な心情のあまり、ステレオタイプな反中国的な見方が広がるのも危険だ。台湾、さらには中国を初め近隣アジア諸国に無数のイコールパートナーの輪を広げることが、ますます重要になっている。私たちの日台交流もそうした中の小さな一つに過ぎないが、焦らず継続していければと願っている。

<特集> 脱原発と住民自治

    2011年の福島第一原発事故を契機に、原発の安全性への疑問や、放射性廃棄物の最終処分場問題があり、安いと言われてきたコストは高くなることが明確になった。この10年で廃炉となった原発は多く、現在は10基のみが稼働している。
 地球温暖化が問題になるも、二酸化炭素を排出しない原発を、政府はグリーンエネルギーとして再稼働を進めてきた。そして昨年(2022年)、岸田内閣は「原発最大限活用」としてこれまでの原発政策を大きく転換した。ロシアのウクライナ侵攻後によるエネルギー不足を理由に原発再稼働の緩和や老朽原発の稼働、そして「次世代原発」が進められようとしている。国の思惑とは別に、原発に対する国民の意識はどうだろうか。
 東日本大震災前後で原発に対する信頼度は大きく下がったと言われているが、2022年に原発の再稼働に賛成か反対かを聞く世論調査(朝日新聞)でも反対が約6割となっている。エネルギーとして原発が必要と考える人でも、原発の危険性を完全に否定できるだろうか。一度事故があれば原発立地地だけが危険なわけではない。福島第一原発の場合は、福島から関東や東海まで放射能汚染の被害が及んだ。昨年連載した池田豊氏の「原子力災害避難計画を考える」では、日本の原発の立地自治体が居住地に近接していること、各自治体任せであり広域をカバーする避難計画ではないこと、原子力の特殊性を無視した避難基準緩和を行っていることが明らかであった。
 世界に目を向けるとOECD(経済協力開発機構)加盟の先進国では原発廃炉が進んでいる。ウクライナ侵攻後のヨーロッパでは、自然エネルギーへの転換が加速することが予想されている。
 欧米に比べて原発と居住地が近い日本で、安全性の点から脱原発による意義は大きい。また、脱原発によって地元に利益還元されない産業構造を転換し、地域でのエネルギー循環を作り出すことが真の意味での地域再生につながっていくことが期待されている。
 脱原発へと取り組む視点を4点あげたい。
 ①原発が地域に与えるリスクを明らかにする②原発事故による放射能拡散の影響からまちづくりを考える③廃炉および廃炉後の地域再生を構想する④再生可能エネルギーへの転換と地域再生を明らかにする。
 どの道をたどるにも住民の意思決定から作り上げていくことがあるべき姿であろう。まちづくりと同様、住民自治が大きな要となる。今号では①~③の視点から住民の意思決定から脱原発へと進む取り組みを取り上げ、脱原発後の地域再生の姿を展望する特集としたい。
                                                                                  担当編集委員/高田桂子

<ひろば>  研究会だより  第4回子ども環境研究会報告

   11月27日に第4回子ども環境研究会がオンラインで行われ、小伊藤亜希子さん(大阪公立大学)から「いま、子どもを育む空間に求められること」というタイトルで、学童保育施設を中心とした報告がありました。参加者は14名でした。

子どもをめぐる情勢
 子どもの放課後はだんだんと少なくなってきているようです。小学校の授業時間はさらに増加していて、限界と言われてきた週に28コマを超えている(毎日6限以上にあるってこと!?)という話があり、子どもも競争社会に晒されている状態と実感しました。共働き世帯が増え、学童や全児童対策などで過ごす子どもが年々増加しています。その環境は空き教室や空き家が活用されたものが中心です。ここ20年で施設数は倍増、登録児童数は約3倍に増えたようです。

小さな集団規模と小さな空間
 学童の生活の場の基準面積は一人当たり1・65㎡が求められますが、これは保育所の2才から5才までの最低基準の1・98㎡より小さく、成長するごとに基準値が小さくなっていきます。これだけの部屋を準備すればよいとなっていますが、これまでの研究会の報告にもあったようにプラスアルファの場所も子どもたちの生活を豊かにしてくれるはずです。静動分離のためには2室2領域が必要で、さらに2室3領域あると遊びの多様性が生まれるというお話があり、中園氏の研究である2室3領域を持つつばめの家が事例で紹介されました。つばめの家で静的な遊びをする多目的室、動的な遊びをするプレイルーム、それ以外に畳コーナーもあり、レゴをするなどの2室とは違うことができる大事なコーナーになっているそうです。25人定員であるけれども、15人から20人より多くなると気が散って遊びがとまるシーンもあるようです。静動の遊びが同時並行する同空間では25人定員が厳しいことも伝えられました。
 大阪市の全児童対策も紹介されました。空き教室を利用した事業で、初めて聞くと学童保育と混同しそうです。トイレや手洗いなどは学校と兼用しており、遊ぶスペースの近くになくキッチンももちろんありません。居場所の選択が複数あり、状況に応じて自分で選択ができたり、少人数で過ごせる落ち着いた小規模な空間があったりするとよいのですが、学校をそのまま利用しているため、あまり設備投資がされていないのだなと察します。少子化で余った教室の利用を放課後の地域の子どもがだれでも過ごせる場所としてそのまま使えばいいだけではなく、そこには保育がもっと発展的になるように工夫がハードにもソフトにも必要です。学童とは異なるけれども学童を利用していない子どもも過ごせるのはいいことだと思いますが、さらに充実させていってほしいと思いました。

子どもの移動性自由度と海外の放課後事例
 7〜15歳の子どもが子どもだけで移動する自由度合いがどれほどあるのか、16か国の比較調査によると、一人で夜歩けたり、バスに乗れたりといった指標などで、日本は移動性自由度が高い国であり、国際的にも高いほうです。1番はフィンランドだそうです。自主登校あるいは下校している、送迎なしなど子どもたちだけで移動する日本は珍しく、カナダやアメリカでは子どもだけで遊ぶのは禁止されているようです。
 韓国では子どもの放課後事業が国の主要政策として推進されているようです。その目的は経済格差を是正することにあります。ソウル市では塾の終了時間を10時に規制するなど、遅くまで塾通いをする子どもがほとんどのようです。放課後学校という名前で、学校で放課後に運動、勉強や英会話教室などが開かれているようです。効果は一定ありますが、私的塾はあまり減っていないようで、放課後学校のあと塾に行く子どもたちも中にはいるようです。塾のバスが学校前で待っているという光景も見られるとか。移動性自由度は高く、子どもだけで買い物もできるようですが、なにせ時間がないので遊ばないとの報告には圧倒されました。
 中国もその状況と似ていて、去年政府が学習塾(非営利以外)を禁止するといったニュースが駆け巡ったようです。
 カナダの学童保育は1日40ドルもするようですが、低所得者には安い料金で利用できるようです。1日3つ程度のプログラムが用意されていて、子どもが自由に選ぶことができるようになっています。カナダでは学童も保育園においても国や自治体に責任はなく、ヨーロッパと同じようなイメージを勝手に持っていましたが、意外とそうでもないことに驚きました。
 一方、スウェーデンでは放課後には余暇ホームで過ごし、年齢が上がると自由参加型のオープン余暇ホームを選択できるそうです。大人の雰囲気が漂うバーみたいなところもあって、さまざまな趣味活動ができる空間が用意されている話がありました。先の3か国の様子からすると、子どもが安心して生活できたり遊べたりする観点が薄く感じられ、日本の政策とは大いに異なっているようです。日本の学童の長年培われてきたいいところを認識できたことは大きな収穫でした。子どもを育む施設や環境が豊かになるように来年も引き続き考えていきたいと思います。
                                                                                    (京都支部・目黒悦子)

<ひろば>  研究会だより
第1回「環境と建築研究会」報告―省エネ法の改正をどうみるか

    2022年12月14日(水)19時よりオンラインで研究会を開催しました。「省エネ法をどうみるか」と題して、東京支部の高本直司さんと、柳澤泰博さんからお話を聞きました。お話の後には、参加者からお二人への質疑応答と、テーマ「省エネ法をどう見るか」に対する意見を皆さんからも出してもらいました。全国から42名の参加がありました。数名の会員外の方も参加されていたことは新建としても大歓迎です。片井克美さんの進行で、充実した2時間はあっという間に過ぎました。
 今回の第1回研究会と2023年開催予定の第2回研究会の内容は、2023年『建まち』誌4月号の特集で詳しく報告しますので、ここでは簡単な概要報告といたします。
 まず初めに、東京支部の高本直司さんは、地球温暖化の世界的危機状況を分かりやすく説明しました。それから2050年までにカーボンニュートラルにするためには、日本の住宅省エネ基準をどれくらいのレベルに引き上げなくてはならないかを国のロードマップを示しながら説明しました。また、断熱気密の悪い住まい環境とヒートショックによる死亡数の関係から、住まい手の健康のためにも、光熱費の削減のためにも、より高いレベルの高断熱高気密住宅の重要性を訴えました。そして、自身の設計した3階建て住宅(耐震等級3、断熱等級5)における、さまざまな設計手法やアイディアを紹介しました。夏と冬での換気の流れを逆にする手法など大変勉強になりました。
 参加者から高本さんへの質疑応答の後に、東京支部の柳澤泰博さんが、実践報告をしました。独特な設計手法「自然流(じねんりゅう)」による長期優良住宅(耐震等級3、断熱等級5、1次エネルギー等級6)の紹介です。まず断熱等級5、1次エネルギー等級6を、ほぼ自然材料だけで達成していることに驚かされました。国産で高品質の構造材、床板、セルロースファイバー断熱材、木製建具、内装壁紙と、外壁の内側にフィルムを張らない呼吸する家を実現しています。日本の森林を守り、地球温暖化防止にも貢献する自然素材だけを使って高断熱住宅は作れるという証を示してくれました。
 参加者からの柳澤さんへの質疑応答の後は、参加者皆さんで自由発言という形で進行しました。発言した皆さんも、普段の設計において、省エネ法とどう取り組んでいるかを話されました。基本的には高断熱高気密に進む流れに異論はありませんでしたが、その方法論について議論するには時間切れになりました。今後の研究会でも引き続き議論していければと思います。
 さて、第2回の「環境と建築研究会」は2023年2月を予定しています。今のところ「プリウスが良いか、自転車が良いか」というテーマで開催する予定です。皆さん、「私なら、こんな生活を考えて、こちらを選びます」という意見をもって参加していただき、議論が盛り上がることを期待します。日程が決まり次第ご連絡しますので、ぜひ参加ください。
                                                                                          (神奈川支部・永井幸)

「ラーゲリより愛を込めて」
  父・山本幡男の強い信念を受け継いで
『支配・収奪のない未来へ』―「世界文化再建」と私たちの役割

講 演:山本厚生氏(建築家/新建築家技術者集団全国代表幹事)
日 時:2月12日(日)10時~12時(開場9時30分)
場 所:板橋区立グリーンホール1階ホール(東京都板橋区栄町36-1)
参加費:1000円

    2022年12月「ラーゲリより愛を込めて」の上映が始まりました。原作は辺見じゅんさんの「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」で、戦後のラーゲリで起きた実話です。瀬々敬久監督によって映画化されました。今回、お話をする山本厚生さんは、幡男(はたお)さんの次男で遺書を受け取ったひとりです。遺書に託されていたこと、「片時も忘れてはならぬ」こととは何か。日本民族の「歴史的使命」とは何か。そしてその思いを受け継いで、厚生(こうせい)さん自身の生き方や考えを「未来への伝言」として語っていただきます。

お申込みはホームページのフォームからお願いします
(参加費は会場の受付でお支払いください)
https://nu-ae.com/20230212yamamoto/

タイトルとURLをコピーしました