Ⅰ 建築とまちづくりをめぐる情勢
1.コロナ禍で可視化された様々な社会的な問題
2020年1月に中国から始まった新型コロナウィルスによるパンデミックは瞬く間に全世界を覆いつくし、9月初めには世界中で感染者2.2億人、死者455万人という大きな犠牲をもたらした。しかも、感染症対策により全世界で社会経済活動が大きく制限され、人々の生活にも大きな影響をもたらしている。
一方で、地球規模の気候変動はますます悪化し、巨大台風や集中豪雨など異常気象に伴う大きな災害が世界各地で頻発している。日本では、毎年繰り返される豪雨で「今までに経験したことのない雨」という気象庁の発表はこの数年間、毎年繰り返されるフレーズとなってしまった。
パンデミックも気候変動も、人間による経済成長へのあくなき欲望が大きな原因の一つともいわれ、このままでは「地球システム」の存続さえもが危うくなってくるのではないかという指摘もある。
この数十年間、世界中で経済のグローバル化と弱肉強食の新自由主義と呼ばれる政策や経済活動が進められてきた。その結果、世界中で自然破壊や環境汚染はとどまることなく続いている。現代は、人類の経済活動が地球に与えた影響があまりにも大きいため「人新世(ひとしんせい)」という地質学的概念が使われ始めているほどである。
またコロナ禍は、いままで見えにくかった格差やジェンダーギャップをあらわにし、社会的なひずみが可視化された。世界の一握りの富裕層が大きく資産を増やしている一方で、多くの人々、とりわけ社会的弱者は生活に困窮しコロナの蔓延に苦しめられている。
日本でもすすめられてきた新自由主義的政策、中でも雇用の「規制緩和」は多くの非正規雇用者を生み出した。そうした不安定な雇用にあった人びとがコロナ禍により職を失い、住まいを失うなど真っ先に影響を受けている。格差は拡大し、憲法で保障する、健康で文化的な最低限どの生活を営む権利さえ損ない、脅かしている。
パンデミックと気候変動が明らかにしたのは、今までの延長線上での成長戦略を続けていくと地球は持続不可能な状態にまで陥るのではないかということであり、社会や経済成長のあり方までもが問い直されている。
2.建築とまちづくりを取り巻く5分野での課題
①経済優先・開発優先のまちづくりが自然と人の関係をゆがめてきた
超大型台風・集中豪雨が頻発し、毎年大規模災害が発生している。静岡県熱海市で発生した大規模な地滑りでは、死者26名と行方不明者1名という犠牲が出た。業者による違法な埋め立てとそれを見逃してきた行政の問題が指摘されている。
「経験したことのない豪雨」は日本だけではなく、世界各地でも発生している。今年はドイツやベルギー、アメリカ・ニューヨークでも大規模な水害が発生し、甚大な被害が報告されている。地球温暖化による異常気象は待った無しの状態となっている。
東京オリンピック・パラリンピックが無観客で行われたが、オリンピック中からコロナ禍は第5波となり、全国で「災害級」の蔓延となってしまった。「人流抑制」を呼びかけながら、その一方で人が集まるような催しを行う事など誤ったメッセージを出してきた政府のちぐはぐな対応が指摘されている。また、オリパラのために新設された大規模な施設は、今後の維持管理や利用のめどが立っていない、莫大な赤字など終わった後も多くの問題が残されている。
2021年3月、甚大な被害を出した東日本大震災から10年を迎えた。被害を受けた地域では、大規模な復旧工事が進められているが、人の生業が置き去りにされているケースも多い。生業を取り戻す復興が重要である。一方、東松島市あおい地区の集団移転では、被災した住民を中心に新しい住まいまちづくりが取り組まれた。この事業には多くの新建会員もかかわっていた。
この地震で過酷事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所では、予定していた廃炉の工程は遅れに遅れ、いまだにデブリの様子さえもはっきりとしていない。そのような状況で、政府は汚染水の海洋投棄を決定した。さらなる環境汚染につながる行為であり、漁協を始め多くの反対の声が広がっている。
②住まいの貧困や外国人労働者の処遇
公的住宅の削減が進む中、コロナ禍により住まいを失う人たちが現実となった。しかし、「住まいは人権」という視点が抜け落ちた住生活基本計画では生活困窮者を救うことはできない。政策の順序が「自助・共助・公助」とされる中にあって、住まいを失った人や住まいに困っている外国人などに手を差し伸べたのは、“コロナ支援・家や仕事を失う人をひとりにしない支援”を行った「抱樸」や「自立生活サポートセンター・もやい」などのNPOであった。政府に対しては家賃補助や公的住宅の拡充といった政策の転換が求められている。
建設現場で働く外国人が増えている。多くが外国人技能実習生としての来日であるが、深刻な人手不足の建設業界での担い手となっている。コロナ禍により外国人労働者の入国が止められる中、日本語学校などの支援機関は経営に苦しんでいる。また、この技能実習生制度には多くの問題が指摘されており、正式な労働者として迎え入れる仕組みが求められている。
③市場原理主義におかされた建築分野と、住民との共同で進む建築の動き
住宅などの省エネ基準が強化された。住む人に快適で、温室効果ガス削減のためには省資源を追求した住宅は必要である。住宅メーカーはこぞって外皮性能の良さを謳い、過剰なまでの設備を備えた住宅の建て替えを促している。政府も数々の優遇措置やポイントを準備し建て替えへの誘導に躍起となっている。法的な規制のみが先行し、本当に必要な省エネ性能と暮らしを見据えた住宅の提供は行われているのだろうか。建て替えに依らない省資源住宅への改修のかけ声だけは聞こえているが。
各地で大型再開発が進んでいる。特に、特区制度による大幅な規制緩和で今まで不可能だった規模の建物への建て替えが問題になっている。人口が減少、縮小する社会で、今までのような経済成長を求める開発は持続可能といえるだろうか。工事中の仮囲いにはSDGsの文字が躍っているが、建て替えによる温室効果ガスの排出は考慮されているだろうか。経済成長と温暖化対策とを並立させ、バランスも考えずに二兎を追うことの矛盾であろう。
木造建築の主要材料である輸入木材がストップし、ウッドショックといわれる木材の価格高騰が起きている。輸出国の需要増とコロナ禍に連動した輸入木材の減少が直接の要因であるが、根本的には国内林業の育成を放棄し、安い輸入木材を優遇し続けた政策の結果である。日本の自然を守り林業を守るための政策が求められている。
福岡市のマンションでは1995年の入居直後から、住民が室内の傾斜などの不具合を指摘していたにもかかわらず、分譲会社・建設会社は無視し続けたが、25年後の2020年になって初めて施工不良を認め、建て替えに応じた。建築に携わる技術者の対応が試されている。
第32回全国研究集会では、各地で行われてきた空き家や旧校舎などを活用した様々な再生事例が報告された。身近な場所で生活の豊かさを求め、地域の人たちと専門家の共同で再生させる取り組みには新建会員も多くかかわってきた。
歴史的建造物は経済成長の前に再開発や建て替え等で消えていくことも多い。その土地で親しまれ培われてきた景観がないがしろにされてきた例もある。しかし、壊さずに活用を求め再生した例も多い。その中で「伝統建築工匠の技」がユネスコの世界遺産に登録された。優れた日本の伝統技術を存続させる取り組みである。
④拡大する格差と依然として解消しないジェンダーギャップ
日本の相対的貧困率は6人に一人ともいわれ、OECDの中でも7番目と貧困率が高く、この数値がそのまま子どもの貧困となっている。貧困は高齢者世帯、単身世帯に多く、とりわけ女性の一人親世帯に多いと言われている。2020年は男性の自殺者は減ったものの、女性は934人と大幅に増加している。コロナの影響といわれているが、格差の増大やジェンダーギャップが生きることの意味を失わせているのではないだろうか。
障害者やLGBTQ、外国人などマイノリティへの人権侵害やヘイトクライムが増加しており、住まいの貧困でも同じだが、人権問題としてとらえる必要がある。
⑤医療や福祉の切り捨て、教育・学問への介入
新自由主義政策のもと、医療費削減計画で保健所や公的医療機関の縮小・削減が進められてきた。コロナ禍で保健所は中核的な役割を担わされたが、保健体制の縮小のため対応できず、機能不全に陥っている。第5波では、各地で医療崩壊としか言えない状況となってしまった。
第5波の感染が広がる中で、小中高は新学期を迎えた。少人数学級や授業のオンライン化といったコロナ対策は全て学校に転嫁されているが、通常の授業を始めた学校も多く、学校での感染が懸念される。
政府は大学の経営力向上を図るため、産業界や公的機関などの外部人材を入れた意思決定機関を各大学に設置しようとしている。新聞の見出しでは“「稼げる大学」へ外部の知恵導入”とも書かれ、ここにも学問を金儲けとしか見ない姿勢が見て取れる。
2020年10月、政府は日本学術会議会員選考において6名の任命を拒否した。学術会議法にも反する任命拒否は700近くの学会や諸団体(新建も声明を発した)から批判されたが、政府はいまだに拒否し、理由も明らかにしないままである。学問の自由を侵し、政権の意にそぐわない委員を任命しないという暴挙であるとの指摘がされている。
⑥平和を守る運動
核兵器禁止条約が2021年1月に発効した。86ヵ国が署名、55ヵ国が批准している(9月24日現在)。世界中から核そのものを無くしていく大きなうねりは、核保有国やその傘のもとにある各国(日本も)の思惑を超えて広がっている。政府は核の傘のもとにこの条約に背を向けているが、唯一の被爆国として許されない姿勢である。
世界に目を向けると、戦火や人権抑圧に追われ、難民として暮らす多くの人びと、住まいはもとより食事や医療さえもままならない生活がある。
東アジアでは中国とそれを取り巻く国との軍事的緊張が高まっている。米国の軍事体制へ組み込まれた日本。それに抗して平和を願う日本国民の民意が試されている。
Ⅱ 第32大会期の活動のまとめ
1.全体的なまとめ
今期は設立50周年の節目に当たることを活動方針の軸に据え、様々な取り組みを展開した。それは、50年という積み重ねを振り返ることであり、現在の私たちの活動や仕事の立ち位置を確認することであり、これからの50年を展望することである。これらをイメージした50周年記念事業への取り組みが、全国企画や支部・ブロック企画として計画された。ところが、大会数ヶ月後から突然始まったパンデミックによって、“集まる”というこれまで当たり前だった活動スタイルを大きく変える必要に迫られた。全国の会員がその時々の開催地に集まって研鑽を高め交流する恒例の企画も、50周年記念企画も、支部やブロックの集まる企画も断念したり変更したりせざるを得なくなった。車座になって議論を交わす会議も一変した。この状況下でどう活動を続け広げていくのか模索が繰り返された2年間であり、振り返れば新しいカタチの活動と成果も生まれている。
設立 50 周年記念企画については当初、東京に集まって第 32 回全国研究集会とあわせて実施する予定で、2019 年 4 月から実行委員会準備会で検討し、同 9 月から実行委員会として具体化を進めたが、参集して開催することが困難になり断念した。
第 32 回全国研究集会は、今期はオンライン開催を試みることとなった。11分科会が独自に開催日時や回数、報告を設定し、新建HPのカレンダーで開催情報を掲載した。その結果、興味のある分科会に好きなだけ参加できるようになり、報告も含めて会員外への広がりが見られた。分科会ごとにテーマをより深く掘り下げ、今後に継続することにつながったと同時に、各分科会を横に貫くテーマも認識できたのではないか。また、開催オープニングの会と終わりの会を開催し、初めに私たちの活動の意義を確認し、最後にこれからの展望を語りあうことで、私たちがこれまで大切にしてきた“集まって話し合う”カタチが表現された。
各支部、ブロックの活動についても、東京支部の建築運動100年やアメリカの建築、西日本ブロックの新ローカリズム、大阪支部の中之島、京都支部の遠くの会員リレートーク、東京支部の建築とまちづくり展などがインターネットを活用して取り組まれ、支部の枠を超えた企画参加や交流も広がっている。
50周年記念事業の一環として取り組まれた建まち誌50周年年間特集(2020年1月〜12月)は、まさに新建の歴史、現在、展望を丁寧に綴った圧巻の内容となった。10月号は500号記念誌となり、11月号は全支部からの活動記録が寄せられた。この特集は会員内外に改めて新建の姿を伝え共感を広げ展望を語るものとなっている。
初めて取り組まれた会員アンケートは、約半数の回答数が得られ、新建を構成する人々の素顔を知るとともに、活動の特徴や課題を見出し、今後の活動の羅針盤にもなるだろう。
今期起こったパンデミックは、一人一人の会員の仕事や活動に、また職場の労働環境や自身の暮らしにも様々な影響を及ぼした。繰り返し発生する災害とも相まって命と暮らしを守る社会とは何かということに直面させられている。しかしそんな中で取り組まれた今期の活動は、いつもに増して会員間の対話を深めてきた。互いを気遣うこと、想いを馳せること、そしてそれぞれが積み重ねてきた仕事や活動から生まれている事象や課題を可視化し、集団で対話をする中で、新建としてそれらをどう継続発展させていくのかを考える力を蓄えたといえる。
2.支部・ブロック活動のまとめ
全国の多様な活動の内容は、2020年4月全国幹事会の前に「各支部の活動状況報告書」や『建築とまちづくり』誌2020年11月号で特集された「新建を豊かにする各地の活動~支部活動を振り返って」として、すべての支部から報告された。
(1)支部の企画・活動
①会員の日常業務を報告・交流をする機会を毎年定例化している支部活動
福岡・奈良、愛知・千葉支部での「仕事を語る会」、京都・神奈川・東京支部での「実践報告会」、東京での「建築とまちづくり展」、神奈川支部「セッションSK(ネットでのラジオ生放送)」、福岡支部「オンライン建まち誌読書会」、その「オンライン建まち誌読書会」をラジオ放送にした「建まちラヂオ」、岐阜・千葉・群馬・北海道支部などでは「定例会」が行われた。
②建築技術や新たな知見を得る連続企画を定着させている活動
東京支部の「近代建築運動百年史」、「春夏秋冬のある暮らし」、「ドキュメント アメリカの建築」、北海道支部の「マンション外断熱改修現場見学会」、京都支部の「南禅寺・岡崎の景観と環境を考える」や新シリーズ“まち歩き”「岡崎エリア散策編」、大阪支部の“建築風土の転換を示唆するビジュアル誌”「ほらみてみぃ」創刊、愛知支部の「木の空間づくりプロジェクト設立」、など多彩に展開された。
③単発の講座や企画も盛りだくさんな支部活動
奈良支部「会員のご自宅見学会」「奈良の古道」散策シリーズ、大阪支部「中之島を緑の島に」シンポジウム、愛知支部「改正省エネ法リモート勉強会」、東京支部総会「住まいとまちづくり運動への転化」、「台風15号・19号豪風雨災害学習会」、神奈川支部「山間を感じ、古民家を訪ね歩く」などの活動があった。
④新建学校
今期はブロックでの設立50周年記念企画が開催されるなどにより、支部の企画としては開催されなかった。
⑤複数支部での合同企画
愛知・岐阜・三重での新建設立50周年プレ企画として、「再生のユートピア」が開催された。
⑥組織化しての会員の活動
「設計協同フォーラム」(関東)、「エコハウス研究会」(全国)「木の空間づくりプロジェクト」(愛知)などの組織を設立して活動の幅を広げ、その活動を通じて専門性を生かし、新建の憲章や理念を発揮している。
⑦支部ニュース
支部ニュースを定期・不定期で発行している支部は、宮城・群馬・埼玉・東京・千葉・神奈川・静岡・富山・愛知・京都・大阪・岡山・福岡の14支部で、配布だけではなく、ホームページやメールで配信をしている支部もあり、情報共有が広がった。
⑧支部ホームページ
今まで更新をしていた支部でも更新が遅れてきているのが現状であるが、全国のホームページに「支部紹介」のページがあるので、各支部が活動を報告して同ページを活用することが望まれる。
(2)ブロックの活動
①ブロック会議
これまでは、日程調整や予算の関係で集まることが困難であったが、オンラインでの開催で結果的に集まりやすくなった。東北北海道ブロック会議(北海道・岩手・青森・宮城)は、オンラインにて4回開催し、毎回6名が参加した。関東ブロック会議(群馬・埼玉・東京・千葉・神奈川・静岡)は、開催されていないが、新建50周年記念企画の開催予定であった「新建設立50周年実行委員会」に多くの会員が集まって幅広く議論されたことはブロックの活動として意義があった。中部ブロック会議(新潟・富山・石川・福井・岐阜・長野・愛知・三重)は、オンラインにて2020年10月に開催し7名が参加した。西日本ブロック(滋賀・京都・大阪・奈良・岡山・福岡)は2020年12月に開催し11名が参加した。その他、新建設立50周年記念企画の実行委員会としてのブロックでの集まりも開かれた。
②ブロックで取り組まれた企画
中部ブロックは2020年1月18日に新建設立50周年記念事業「新建設立50周年の今、伝えるメッセージ」(23名参加)を開催し、西日本ブロックは2020年8月23日に新建設立50周年記念企画「新ローカリズムの思想を語る」~建築人としての理念と作法~(現地26名参加、オンライン64名参加)を開催した。
3.全国の活動のまとめ
(1)第32回全国研究集会
研究集会についても集まれないためオンラインで開催し、2020年11月から2021年7月の間に11の分科会が延べ50回以上開催され、100本以上の報告があり、延べ1000人以上が参加した。これは例年100人程度が2日間参集し、ひとつの分科会を6~8時間で実施していたことに比べて、飛躍的に多くの報告、会員外を含む多くの参加が可能となり、分科会ごとにテーマを掘り下げ、多様に展開することにつながる新しいスタイルが実現された。
(2) 新建50周年会員アンケート
2020年6月より「新建50周年・未来への会員アンケート」を実施した(『建まち』2020年6月号に掲載)。全会員の約半数から回答が得られた。アンケートワーキンググループでは、結果を集計、グラフ化し、新建会員の実態と新建活動に対する評価等を分析し、単純集計は『建まち』2020年12月号にて報告した。その後の分析と討議を経て、詳しい報告を2021年11月に『新建白書2020』としてまとめた。
(3)新建賞
第14回新建賞は2021年5月から募集を開始し、8月15日に締め切って19件の応募があった。11月の審査委員会で最終審査を行い、新建賞を決定する。第33回大会にて審査結果発表、表彰し、『建まち』誌に受賞内容を掲載する。
(4)新建災害復興支援会議の活動
32大会期の2年間も全国各地で豪雨、台風、地震と大きな災害が相次いだ。また、コロナ禍での避難所問題が緊急に解決すべき課題として浮上している。
復興支援会議として全国災対連の世話人会議に毎回出席し、2020年秋に行われた「災害対策全国交流集会2020」は東京会場とオンライン開催というなかで、ウェブチームの一員になり役割を果たした。2021年の集会は11月7日に宮城県で行う予定であったが、オンラインのみの開催となり、準備を進めている。支援会議事務局を中心に、「建まち」誌50周年特集号や第32回全国研究集会分科会「防災と復興」に取り組んだ。
東日本大震災から10年、各地の会員は講演会・シンポジウム・出版など様々な形で力を発揮した。その他、和歌山県津波避難タワーなどの視察、阪神淡路大震災25周年メモリアル集会に参加した。9月17日の「関東大震災メモリアルシンポジウム」では参加者50人のうち半数以上が新建会員であった。
(5)各委員会の活動
①『建まち』編集委員会
2020年は「新建設立50周年記念特集」とし一年間にわたり分野別特集や支部特集、『建まち』創刊500号特集を企画した。新建50年の取り組みを概観し、会員の地域での建築活動を紹介し、新建の将来を語るメッセージを発信する特集に取り組み評価を得た。この年間企画では、ページを増やし多くの会員に執筆してももらうとともに、会員に特別編集委員として企画から編集に参加してもらうことを主として取り組んだ。
2021年は通常に戻って発行し、コロナ禍を記録する特集を2回取り組んだ。コロナ禍でひろば欄が活気づいたものにならなかったのが残念だったが、毎号情報を集め掲載してきた。2020年末から取り組まれた全国研究集会分科会の報告を毎号掲載した。連載記事の「新日本再生紀行」「日本酒蔵紀行」「タイの住まいづくり・まちづくり」「世界の災害復興から学ぶ」「建築の保存とは何か」「忙中閑」「暮らし方を形にする」「都市の緑」なども好評で、他の建築ジャーナルにはない特色ある機関誌として、新建活動の主要な一翼を担っている。
支部会議やオンラインを使った『建まち』読書会が継続して行われており、「建まち」の記事をあらためて見直す機会になっている。
編集委員会はオンラインで東西編集委員会を月1回ずつ行い、企画と編集、発行を行った。オンラインで行うことで特集テーマや執筆者を合同で検討できるようになったため決定がスムーズになった面がある一方で、編集委員の参加が限られており一部に負担が偏っていることが課題である。
ホームページへの掲載が以前より迅速にはなったが、2021年分の掲載はまだ進んでいない。
②活動活性化委員会
コロナ禍により支部やブロック会議は集まりにくい状況であるとともに、これまで距離的な問題で集まることが困難なブロックもあったが、オンラインによる移動を伴わない集まりは日程調整さえできれば、かえって参加しやすいという一面もあった。
このような状況で明確になったのは、すべての新建会員に案内や連絡が届く体制を確立することの重要性である。現在は、郵送やホームページへの掲載、メーリングリストへの配信によって連絡しているが、メーリングリストへの登録率はあまり高くなく、登録促進など、Web委員会との連携も重要である。
③政策委員会
2020年は『建まち』誌で以前から続く連載「新日本再生紀行」で、地域住民との間で共有できる建築とまちづくりの教訓や課題が報告された。しかし、全国会議を開くことが困難になり、委員会として時宜を得た政策的提言などの活動はできなかった。また、政策課題については、住生活基本計画について「住まい連」の一員としてパブリックコメント提出に協力したが、具体的な課題としては取り組めなかった。
④Web委員会
ホームページ(HP)の更新は担当者を複数選任して協力して更新する体制を整えたが、未だ一部の担当者の努力に支えられている状況が続いている。『建まち』誌の案内とひろば欄の更新は担い手不足で滞っており、協力体制の強化が必要な状況である。
各支部のHPは3支部でUPされており、コロナ禍でも工夫をして活動をしているが、HPの更新が出来ない支部やコロナの影響による活動の停滞で更新されていない支部もある。
各メーリングリスト(ML)については、双方向の会員MLは活発に交信され、入退会の管理も随時行われているが、一方向のお知らせMLはあまり活用されておらず、登録者も会員の60%程度に留まっている。フェイスブック(FB)はあまり活用されていない。
⑤新建叢書出版委員会
2018年に第2号を発行した後、いくつかの出版候補はあげられたが、委員会の開催や意見交換が進まず、新たな出版計画の具体化はできていない。
⑥規約検討委員会
組織の現状との齟齬や会員区分などの整理を含めて前々大会以降、改定の検討をすすめてきた。前大会での上程を見送った上で、慎重に検討をすすめ幹事会での検討も踏まえて今大会で起案した。
⑦50周年事業特別委員会
委員会で検討してきた2020年の全国研究集会に合わせた50周年記念企画がコロナ禍で中止となり、その後の委員会の開催も不充分であったが、全国的な企画や支部・ブロックなどで主に以下のような記念事業が様々に実施され、新建活動の50年を振り返るとともに今後を語り合うことができた。
・2019年の福岡での「建まちセミナー」を50周年企画として位置付け、会員の新建活動を交流した。
・各支部・各ブロックで記念企画を独自に行うことができた。
・2019年の全国大会での中島明子さんと佐藤美弥さんの記念講演を記念企画として位置付けた。
・『建まち』2020年発行分を「50周年年間特集企画」として編集し、新建の50年を様々な会員や視点でまとめることができた。
・全会員アンケートを実施し、会員の仕事やおかれている状況を『新建白書』としてまとめた。
(6)他団体との交流
「全国災対連」は結成以来22年が経過し、新建は世話人団体の中で唯一の建築関係団体である。今期は被災者生活再建支援法改正への運動で若干の前進があった。毎年の全国集会では、防災減災を意識して活動している。なお2020年は東京会場とオンラインの併用で開催され、110名が参加し、2021年は11月7日に完全オンラインで開催予定である。
「住まい連」の取組みでは、住生活基本計画に対するパブリックコメント提出への協力やシンポジウム「コロナ危機、災害多発と公的住宅の役割」への参加、2021年夏期研修・交流会への文書報告などの活動を行った。
地方自治研究全国集会は、2020年は中止され、次回2022年(愛知)の実行委員会に参加して準備が進められている。
4.組織、財政活動のまとめ
(1)組織運営
前大会で議長、副議長、事務局長が総入れ替えとなったことにあわせて、大会で決定された方針に沿って会議のあり方を検討した。これまでは全国常任幹事会を年2回(全国企画に合わせて+1回)、全国幹事会を年2回(内2年に1回ブロック会議)、全国事務局会議を月1回開催し、全国事務局が起案し、全国常任幹事会で検討、具体化して全国幹事会で審議、決定するという流れで進めてきた。この中で全国事務局と全国常任幹事会の役割が重複している部分を合理化し、常任幹事会で情勢認識、課題の抽出と課題解決の方向を一貫して議論して幹事会に提案し、事務局は組織運営の実務に特化するように役割分担を整理した。これによって各構成員の役割がより明確になり主体性の向上も図られた。コロナ禍によって、すべての活動分野において例年の方法を踏襲できないことと、前述のように全国事務局会議の合理化により、今大会期の常任幹事会は17回に及んだ。
全国幹事会については、第32回大会内での開催後は、2020年の6月と9月、2021年の4月と9月にオンラインで4回実施した。すでに報告されているようにブロック会議は適宜オンラインで開催されており、2年間で4回の全国幹事会のうち1回はブロック会議という形にはなっていないが、ブロックでの活動は展開されており、全国幹事会の代替ではなく独自の役割を担いつつある。
(2)組織整備と会勢状況
新しい支部設立が期待される茨城県については、『建まち』2021年4月号を茨城特集とし、茨城で活躍する方々に報告を頂いた。今期の茨城支部設立につなげていきたい。
会勢状況について、第32回千葉大会2019年9月30日時点で会員724名、読者185名、賛助会員8名であった会勢が、2021年9月30日現在で会員682名、読者155名、賛助会員8名となっている。今期は24名の入会、66名の退会があり、結果的に42名の減勢となった。読者も30部の減誌となり、賛助会員は増減なしであった。
(3)財政活動
新建活動を支える財政は引き続き厳しい局面が続いている。会員の会費と『建まち』購読費が予算の基本であるため会員と読者の漸減は予算を圧迫し、集団の活動に制約が出ている状態は変わらない。今期の現象として、直接集まっての会議や全国企画ができなかったことから支出が減り、結果として決算は黒字となった。ただしこの状況が今後も続くとは考えられないため財政的には現実に即した対応が迫られている。全体的な「新たな建築運動のスタイル」を模索する中で、会議費の位置づけや必要な設備投資など、収支計画の考え方を検討していく必要がある。
Ⅲ 第33回大会期の活動方針
新建は2020年に設立50周年を迎えた。建築運動が50年も続くということは大変なことである。これは会員の皆さんの持続的な努力のたまものであり、建築とまちづくりの本流ともいうべき私たちの提案や実践が共感を持って受け止められている結果ではないだろうか。積み重ねてきた活動の成果はこの間の50年を記念した、いろいろな企画で評価された。
今、コロナ禍の中で会の運営や活動が困難な状況になっているが、その一方で様々な分野で矛盾が分かりやすくなってきている。まちや住まいがますます住み手、使い手、住民の暮らしからかけ離れたものになろうとしている今こそ、それを私たちのものに取り戻す取り組みが必要ではないだろうか。今回の新建50年の節目の大会を機に新建活動の「これから」を大いに語り合おう。
1.全体としての方針
―新建50年の実績を活かし建築運動をより高める
33回大会期は50周年を節目として会員の関わってきた実績と蓄積を振り返り、それが無数に存在してきたことを改めて実感した。分野ごとに深められてきた課題の相互の関係性も見えてきた。今期はそれらの建築運動を改めて捉え直し、すべての人がそれぞれに相応しい居住環境を持つことが当たり前の社会になるような活動に高めていきたい。また、この間に培われた技術や運動や生き方を次の世代に伝承していくことにも意欲的に取り組みたい。
新型コロナについては、感染症としての実態の解明と共存の方法が模索されおり、いわゆる「新しい生活様式」を軽々に行動規範とすべきではない。その一方でコロナ禍において今まで見えなかった社会の姿が顕れたのも事実で、それらをも踏まえ、これまで培ってきた、住まい手・使い手の切実な要望に応え、地域の市民・住民や多様な組織などと連携し、一人ひとりの建築家技術者が「新しい地域社会」の担い手となる展望を切り拓く大会期としよう。
①蓄積した技法・手法を普遍性のある社会的な方法へ研ぎ澄ます活動
つくり手である私たち建築技術者は、住まい手・使い手との対応から新たな学びを得ることで、それを基にして要望に応えていく技術や手法を獲得していくことができる。そうした応答の実践を積み重ね、互いに認識を共有し合いながら、より普遍性のある建築やまちづくりへ高めていく活動を行う。
・つくる過程を住まい手・使い手と共有・計画し、その過程を経ることが、よりよい建築やまちづくりに繋がることを再確認しよう
・実践している内容を整理し、新建をはじめ多くの建築技術者や市民と情報を共有し、多くの実践例との科学的な比較や評価などの指標を通して、社会的に普遍性のある技術や手法に高めていく活動をしよう。
②新建の枠を超えてネットワークを広げる活動
日々の会員の関わる活動は多岐にわたり様々なネットワークがすでに築かれている。また建築やまちづくりの分野にとどまることなく、さらに幅広い分野を相互に結びつけて、より多くの専門家や市民とのネットワークを築いていこう。
地域には多様な役割を担った市民や組織が活動している。それらの人々との協議や連携などによって、身近な要望の実現や組織を超えた地域課題への取り組みに繋げることができる。
空き地や空き家の利用や公共施設の再編の課題など、所有者や利用者などの個人や単独組織だけでは困難なことも、多様な主体による取り組みで解決できる事例もでてきている。私たち建築技術者が、地域の連携・連帯・協同のための担い手になる活動を広めていこう。
このネットワークを広げる活動によって、コロナ禍で鮮明になった格差や差別、住まいの貧困、また惨事便乗型の経済構造などという状況から脱却して、暮らしを守り人権や人間性を回復する社会的連帯経済など、支え合って暮らしていく地域社会の再構築に取り組もう。私たちの職能を発揮し、新しい地域社会の空間や機能、住まい方、地域協同のあり方や組織づくりなどについて、再考する機会としよう。
③豊かな建築創造に必要な法制度の整備に取り組む活動
2021年4月から改正省エネ法が施行された。この改正省エネ法の中には、外皮基準が適用除外となる「気候風土適応住宅」が制定されている。この背景には、熊本や沖縄などの気候風土に適応した住まいの研究活動があり、地域の気候風土に応じた要件を設置できるようになった。
住まいづくりでは、今の住宅政策や住宅市場では見過ごされている様々な要求に応えるための、地域で支える住まいづくりの実践が数多く展開され、運動が仕組み自体を変えてきた事例もある。
こうした活動をそれぞれの場所から発信し、誰もが納得して建築・まちづくりができるように、土台となる法制度や仕組みをよりよくしていく力にしていこう。
また、省エネ、省資源、気候変動、カーボンニュートラルなどについて、積極的に議論の場を設け、その内容を共有しながら深め、会の内外に発信していこう。
④新建憲章を基に具体的なビジョンを描き、共有していく活動
新建憲章は前文と6項目からなるが、これが私たちのビジョンとなるためにそれぞれの具体的なイメージを描き、掘り下げ、共有していく作業が必要である。前文にある「人びとの願う豊かな生活環境」とはどんな世界なのか。「建築とまちづくりを社会とのつながりの中でとらえる」とは何か。「人びとに支持される建築とまちづくりの活動」をすすめる私たちの職能はどうあるべきなのか。「平和」な社会をどう築くのか。大いに議論を交わしながら今後の50年を見据えていこう。憲章の具体化として「今日の建築まちづくりの課題」を掲げ、活動の指針としよう。これらは、会員の日々の仕事や活動の中にある身近なもの、日々の議論や考察の中で語られているもので構成され、社会と共に変化発展していく。
⑤会員を増やし、会を維持していくことに意識的に取り組む活動
一人一人の仕事や活動でつながる人々だけでなく、住民運動や様々な取り組みの中で出会った人々をも対象に、一緒に新建活動に参加してほしいと広く呼びかけよう。
2.組織活動・各委員会活動の方針
(1)支部・ブロックの活動について
2020年4月に各支部から集約した「各支部の活動状況報告書」では、周りの支部との協力が不足している傾向がみられ、各支部・各ブロックでの会議や日常的な交流の中で活性化を進めていくことが望まれる。
会員はコロナ禍によって参集が困難な状況の中でも様々な創意工夫の中で新しい活動を模索してきた。また、各支部のニュースや企画の案内は郵送だけではなくメールでの配信により、全国の支部企画へのオンラインでの参加が可能となり、これらを活用した活動も有効である。
今後も全国企画だけではなく、各支部間や各ブロックでも企画の案内を全国メールに配信して参加を呼びかけ、全国から参加できるオンラインによって新しい形式の「集まって交流できる場」を創造し活動の活性化につなげていく。
(2)全国組織・各委員会の活動について
①『建まち』編集委員会
『建築とまちづくり」誌の定期発行を確実に維持しながら、会員に特集企画等への参加を求め、内容の充実と執筆者の掘り起こしを図る。編集実務を担う編集局の層を厚くすることも緊急課題であるとともに、表紙体裁などの見直しを検討する。
テーマとしては、新建の次の50年に向けて未来を語り合い、理念の実践である会員の仕事の紹介を通して社会へ広く発信したい。コロナ禍で困難になった座談会や取材等など雑誌作成過程そのものを新建活動とする取り組みをあらためて追求したい。
『建まち』を広く知ってもらい読者を増やしていくために、諸団体・大学への寄贈を積極的に検討する。Web委員会と連携してホームページ内容の充実を図る。
②政策委員会
今期は学習会「ルイス・マンフォードの『都市の文化』を読む」を予定している。また、住生活基本計画の検討をもとに「住まいづくり」の構想について話し合うことを検討する。その他、オンラインでの意見交換などで、取り上げるべき政策課題についての検討を行う。
②活動活性化委員会
企画や連続講座等がオンラインで開催され、全国の会員が興味のある企画に気軽に参加ができるようになったことによって、すべての新建会員に案内や連絡が届く体制を確立することの重要性が明らかになった。新しい形式で集まって交流できる場は「新たな活動スタイル」のひとつであり、全国企画だけではなく、各支部や各ブロックの企画案内を全国メールに配信して、全国からの参加促進のため、全国の会員の連絡先の集約を進める。なお、時には電話による近況報告や出欠の確認なども交流を深める意味で大切である。
コロナ禍による仕事の減少や定年退職・高齢化が理由の退会によって会員減少もあったが、このような時期であっても、「新建のよさ」を丁寧に自分の周りに伝えることによって会員の入会が増えている支部もあることを念頭に、入会促進のための「新建リーフレット」の刷新に取り組む。
④Web委員会
HPの更新は各支部を4つのブロックに分け担当者を複数選任して更新する体制を確立する。各支部のHPの更新には、委員会として援助できる部分があれば協力する。『建まち』誌との連携については、各号の案内とひろば欄の更新を滞りなく作業できる体制を構築する。MLについては、特に「お知らせML」(情報発信の一方向メーリングリスト)の登録者を増やし、全会員の登録ができるように各支部に協力をお願いする。FBは会員なら誰でも書き込み可能なので活用を期待する。
⑤新建叢書出版委員会
いくつかの出版計画の候補の再検討とともに、会員や読者の意見を聞きながら、今後も叢書の出版を継続するのかどうかの検討を行う。同時に、他の方法で新建の政策や実践の発信ができないかも検討する。
(3)組織を維持していく上での財政方針について
・財政実務・会計処理を確実に進めながら、現会員の会費100%納入と同時に、未収会費の回収を進めて財政基盤の強化を図り、健全化への取り組みを引き続き継続する。
・財政基盤の安定、強化の基礎は会員と『建まち』読者の拡大にあり、その観点からも組織拡大に積極的に取り組むとともに、憲章に賛同する多くの人々に支えられる新建を目指し、賛助会員を増やす。
・『建まち』誌への定期広告・竣工広告・祝賀広告などに取り組み、収入を確保する。
・収支バランスをみながら支出の削減を図るとともに、オンラインでの集会、講師の依頼やオンライン設備投資など、新しい活動スタイルに対応した積極的な予算を構築する。