活動の指針 今日の建築まちづくりの課題
以下に掲げる課題は従来からの「建築まちづくり運動が取り組む」普遍的課題を網羅しているのではなく、現在の建築まちづくりの状況を新建憲章や第33回大会の方針にてらして、私たちの活動や仕事に身近に今日的課題としてまとめたものです。活動方針にあるように、新建憲章の具体化として掲げ、会員の仕事や専門分野の活動の指針としましょう。
社会情勢の変化により建築とまちづくりの課題は変化します。期間を決めて見直し、社会変化に敏感にこたえられる新建活動を展開しましょう。
1.豊かな居住の権利を確立する
①居住の権利の確立と居住の貧困の克服
すべての人がふさわしい住居に住む権利は、憲法が定めた基本的人権であるという理念を広く社会に確立するために行動する。コロナ禍や災害の頻発で居住不安が強まる中で、住宅セーフティネットの重要性が高まっている。民間任せではなく、公共住宅と地域の連携で確保するなどの制度改革の観点を含めて、深刻な居住の貧困と生活環境の格差の解消に、住民運動などと連帯して取り組む。
②住宅ストックの改善・活用
世帯数の減少や空き家・空き地の増加を直視し、住宅ストックの改善を図り、住宅セーフティネットや高齢者住宅等への有効活用の方向をさぐる。
③欠陥住宅の解消
欠陥住宅や違法建築問題などの相談活動に取り組み解決の努力をし、さらに原因の究明、責任の明確化、不良業者の追及を行い、欠陥住宅問題の解消を図るために相談活動を旺盛に行う。
④民間借家の居住の安定
民間借家の入居制限や保証業者の横行を排して、家賃補助制度の実現と住宅セーフティネットなど居住支援体制の拡充に努め、定期借家制度は廃止し借地人・借家人の権利の向上をめざす。
⑤公共住宅政策の拡充
公営住宅制度の改悪、公団・公社住宅の民営化や戸数削減政策に反対し、公共住宅の拡充による真の住宅セーフティネットの確立をめざす。
⑥マンション居住の持続
マンションやアパートの維持管理にかかわる仕事を積極的に行うとともに、区分所有集合住宅が持続可能で良質な住宅ストックとして機能するように努める。
⑦新たな住まい方の提案
住民主体で進めるコーポラティブハウスをはじめ、シェアハウスや高齢者の集住等の新たな住まい方を検討し、要求にねざした取り組みを進める。
2.住民が主体のまちづくり・施設づくり
①住民主体のまちづくりへの転換
規制緩和や民間活用による利益優先の都市政策から、「まちづくりの主体は住民」を基本として、住民や多様な地域の主体的組織などと連携したまちづくりへの転換をめざす。
②過剰な都市開発に市民と共に抗する
将来の展望もないまま、選択と集中による特区制度などの悪用で進められる大規模開発計画は、住まいや暮らしを奪うだけでなく、都市空間と環境の破壊をもたらす。危機感を持った市民や多分野の専門家と共に異議を申し立てていく。
③住民主体の地方再生
地方切り捨てにつながる「地方創生」ではなく、住民主体の地方再生を住民とともに進める。地方再生は、地域に根ざした暮らしの中に豊かさがあることを実現する施策を進める。
④開かれた都市計画
自治体の審査会やマスタープラン作成過程の公開を求め、専門家の目でチェックする。また、各種審議委員に積極的に参画する。
⑤コミュニティの形成
お年寄りが住み続け、子どもたちが健全に育つ安全で安心なまちづくりを推進し、地域の居場所づくりなど豊かな地域コミュニティの形成を図る。
⑥地域施設の増設・改善
学校の統廃合などによる公共施設の市場化に反対し、地域の公共施設づくりの運動に住民とともに取り組む。とりわけお年寄りや体の不自由な人びとの視点で地域施設を点検し、その増設と改善を図る。
⑦空き家・空き地等の有効活用
空き家や空き施設、空き地などを地域のために有効活用する取り組みに積極的に参加する。
⑧施設運営と施設設計
PPPやPFI、指定管理者制度の実態を検証し、住民本位の施設運営を実現する。公共施設の設計過程における住民や利用者の参加を推進し、開かれた設計者選定方式の確立を目指す。
⑨まちづくり組織
まちづくり・施設づくりにおける住民組織、NPOなどの参画を促進するまちづくり条例の策定などの公的な制度の拡充を図る。
3.防災と安全に優れた国土・まち・建築の構築
①防災計画
まちから国土に至るまで、実効性のある総合的な防災計画の立案を住民・行政とともに進める。生活関連施設の防災性の向上は迅速な復興にとって不可欠であり、建築分野の主要任務として積極的に取り組む。
②耐震改修の促進と改修技術の改善
公共施設や避難に関わる建築の耐震補強を、行政の責任で完全実施するように働きかける。建築物の耐震性・安全性の診断と補強技術をさらに改善し、耐震相談・補強工事に積極的に応じるとともに、公的助成を拡大する運動を拡げる。
③被災者救済
被災者の生活実態に対応した生活再建支援制度の早期の確立をめざし、当面「災害救助法」「被災者生活再建支援法」抜本改正の運動を進める。同時に、在宅被災者、自主避難者への支援を求める運動を進める。
④防災活動・支援活動
過去の災害の経験を踏まえて専門家として市民の防災意識の向上に努め、避難マニアル・マップの作製などに協力する。災害時には地元組織や災害支援組織と協働して支援活動に取り組む。
➄原発事故
福島原子力発電所の事故原因の徹底的な解明とその公表を要求する。廃炉に向けて国と東電の責任ある対応、被災者への救済を求め、原発の再稼動、汚染水の海洋投棄に反対する。
4.環境と共生し、風土を大切にした建築とまちづくり
①環境危機
地球環境の悪化、特に温室効果ガスによる気候変動は深刻な状況にある。すべての建築とまちづくり行為において、環境への負の影響に最大限の配慮をする。
②自然エネルギーへの転換
エネルギーに関して、以下の主張を明確にし、政策や制度の変革を求める。自然と人々の営みと共存できない原発の廃止し、廃炉に向けた計画を推進する。CO2排出の多い石炭火力発電は廃止し、自然・再生エネルギー利用への抜本的改革を進め、施設や住宅への再生エネルギーの導入とそのための補助を促進する。一方で、森林破壊につながるメガソーラー開発は規制を強化する。
③省エネルギー・省資源と環境負荷の低減
省エネ・省資源を進め、環境悪化防止のために、正しい省エネ技術の向上と既存ストック建築物の再生・活用を軸とした建築とまちづくりをめざす。あわせて、環境負荷が少なく自然と人間にやさしい技術と建材の活用及び発展に努めると共に、生活者が自らできる環境維持の実践を住まい手とともに進める。正しく環境負荷を低減する建築技術のあり方について、実践を通して検討し追及する。
こうした理論や実践について新建内外での活発な議論を行う。
④日本の森林資源の活用
日本の木材自給率は30%台で世界第2位の木材輸入国である。CO2削減と森林保護のため、さらに地域経済の循環のため、国産材を最大限活用していく。合成された新建材の使用は極力避け、無垢の国産材の利用を推進する。森林資源が持続するために、林業者が経営的に成り立つ制度の確立に取り組む。
⑤大規模開発による自然破壊
自然を破壊する大規模開発(都市再開発・ダム・高速道路・リニア新幹線・メガソーラーなど)については有効性、安全性の確認を厳しく求める。特に大規模災害の恐れがある強引な開発には反対し、見直しや中止を求める。大規模開発行為に対するパブリックコメント、環境アセスメントに専門家として参画する。
⑥景観の保全
風土と歴史に根づき、人びとに馴染んだ風景を大切にするまちづくりと建築行為を実践し、景観保存運動や景観法の地域に即した運用などに積極的に参画する。また、緑豊かな景観を育て、安らぎを生み、都市の微気象悪化を防ぐ。
⑦歴史的遺産
近代以降を含めた歴史的建築の維持保全の必要を訴え、伝統的建築物の再生に取り組むとともに、様々な文化財の価値を正しく評価し、安易な観光資源としての利用には反対する。
5.住民のための建築行政を確立する
①建築関連法規・制度について
建築基準法や建築士法、建設業法など建築関連法規の問題点について論議を深め、特に利潤追求のみを目的とした制度や環境破壊につながる規制緩和に反対し、建築関係諸団体とも協同しながら見直しや充実を求める。
②建築指導行政・建築監視制度
まちこわし、環境破壊につながる建築行為や開発行為を差し止めるなど、市民運動と連携して住民主体のまちづくりに寄与する建築指導行政のあり方を探りその確立をめざす。違法建築はもとより、既存建築の安全性についても実質的に確保できる制度づくりを目指す。
③建築基本法
建築基本法制定に関しては、住み手使い手のための建築創造を実現するための建築法体系の再編、という立場を明確にして臨む。
6.建築界のあるべき姿を求め、建築設計者・技術者の職能を確立する
①職能の確立
ストック社会・縮小社会を迎えて、開発型・市場型の建築まちづくりからの基本的な転換が求められる。人々との信頼とネットワーク、建築諸団体との連携により、建築家・技術者の専門性=職能を確立しその幅を広げていく。
②伝統技術の継承と発展
伝統技術の継承や土地の資源の循環を一連の流れの中で捉えて、伝統構法・技術・技能のサスティナブルなあり方を追求し、その継承と発展に力を尽くすとともに、それを担う技術者、職人の養成に取り組む。
③地域生産体制・地産地消
地域に根ざし、住民に信頼される建築生産力・体制の継続と組織化を進める。地域産材・国産材の使用を関連生産者との協働で拡大するとともに、自然循環材の良さを生かした住まいづくり、ものづくりに取り組む。
④設計・施工技術の継承
設計・施工分野で出向や下請け化、仕事の細分化、デジタル化が進む中で、技術力が継承されない状況が生じており、技術者の技術向上の要求や課題に応えうる活動に取り組む。
⑤設計者選定・施工者選定
公共建築におけるPFI(民間資金等活用事業)方式やDB(デザインビルド)方式などの選定方式を見直し、民間建築においても設計者・施工者のそれぞれの職能を発揮する選定方式を探り、提起する。
⑥相談活動のネットワーク化
会員や支部などが関わっている相談活動の取り組みについて情報交流し、課題や知識・技術を共有し発信していく。また相談活動を広げていく。
7.豊かな建築創造のために自由・民主主義・平和を守る
①自由・民主主義・平和
「建築とまちづくりの豊かな発展は自由・民主主義・平和のなかでこそ実現ずる」という考え方が、建築界共通の理念となるよう努める。
②国民主権と表現の自由を守る
日本国憲法の改定の動き、日本学術会議任命拒否問題、私権の制限を強める重要土地等調査規制法など、国民主権や表現の自由を守るために取り組む。
③民族の違いを超えた活動
民族の違いを乗り超えた交流、対話、信仰を継続発展させること、とりわけアジアの国々との交流を深める取り組みを行う。
④人権、ジェンダー平等、多様性の尊重
特に人間は生まれながらにして自由であり、個人の尊厳と権利は平等であるという人権を守る取り組みを、あらゆる分野で進める。ジェンダー平等を新建の内外で進め、LGBTQなど多様な生き方が尊重される社会になるよう取り組む。
⑤核兵器の廃絶
多くの国が参加する核兵器禁止条約に対し、唯一の被爆国である日本の批准の促進に取り組む。
⑥米軍基地による居住環境悪化に反対する
米軍基地の拡大によって居住環境や自然環境が脅かされていることに、多くの地域住民が反対の声をあげている。特に沖縄では辺野古基地建設によって失われる住民の暮らしや自然環境に抗する大きな声が全く反映されていない状況が続いている。平和に主権を持って暮らす観点から基地のあり方を考える取り組みを進める。