建築とまちづくり2026年4月号(NO.562)

目次

<目次>

特集
住まいは人権①「子ども」を守る/護る“社会的養護”の「居場所」

山本恒雄
一時保護所というところ
社会的養護の現場:「保護」と「住む」ための子どもの「居場所」と対人支援

茂木健司
「シェルターの場」から保護・補償的体験の場へ
――「児童相談所一時保護施設」の現場から

藤間公太
施設養護は「家庭」を目指すべきなのか?

松本歩子
保護される子どもから、住まう主体としての子どもへ
――学童保育にみる意見表明・参画と地域の居場所

中村みちよ
震災から生まれた居場所
――八日町の一角で広がるつなぎの実践

木下 勇
子どもの外遊び・社会参画を促す人間の安全保障のための持続可能なまちづくり

連載
失われた町、受け継がれる舎<いえ>(20)
平成の保存運動「二勝、一敗、一分」
中尾 嘉孝

社会派 聖地巡礼(15)
城崎温泉、短編小説の威力
中林 浩

主張
仕事は誰のために
石原 隆行

新建のひろば
東京支部――特別講座「アルヴァー・アアルトとモダン」
大阪支部――枚方市「ワイワイにぎわい祭り」への参加

常任幹事会声明
アメリカとイスラエルによる国際法違反のイラン攻撃に強く抗議する

<主張> 仕事は誰のために

石原隆行 江別市役所/全国常任幹事

 昨年より建築業界では性急過ぎる制度改革により様々な問題が生じている。改正建築基準法により建物の法律適合審査を省略出来る対象が大幅に縮小し、改正省エネ法により全ての新築・増改築をする建築物に省エネ基準が適用された。これにより書類・図面作成やその審査の業務負担が大幅に増加し、設計・審査・建設工期等が長期化し、コスト増加、リフォームへの大幅な制約、工事着工数の減少等が生じている。これはCO2排出削減や、省エネ化に伴う重量増加への安全対策等のため必要な措置だが、別の意味でこの法改正は遅すぎると言いたい。
 実はこの審査省略規定は太平洋戦争敗戦当時の約420万戸もの住宅不足への対応ではなく、昭和40年代に入り目標の「1世帯1住宅」が達成され量的な不足が解消されて以降、昭和53年に経済対策として実施した法改正によるものだった。これにより様々な審査用の書類や図面が作成されなくなり、後年に増改築等を検討する際、建物の具体的な仕様等の必要な情報が図面等から読み取れず現地調査を必要とする建築物が量産され続ける事となった。国が「建築の健全なあり方の構築」より「経済」を優先した結果、売買時に必要な情報提供が出来ず、建築への信頼が損なわれ、必要な業務も見えなければ報酬に結びつきにくくなった。これは建築の施策と言えず、早急に撤廃すべきだったと考える。
 そもそも全ての施策は「国民の安全と幸福」実現を目的としているはずである。ところがそのために必要な「要素・条件」を整えるための手立てのみが目的化して、本来の目的を失念するのは本末転倒も甚だしい。しかし実社会においてはさして珍しくないことのようである。
 例えば近年多数みられる「大規模再開発」は確かに災害対策や利便性向上自体は望ましいが、そもそも人口減少社会において高層ビルで床面積を増やす事に矛盾がある。オフィスや各種サービス施設とその利用者が再開発地区に集約されることで周辺地域が過疎化し、空きビルが増加する可能性がある。南アフリカのヨハネスブルクでは600棟以上の空きビルが貧しい人達に30年にわたり占拠されスラム化したという大規模な管理不全の失敗事例もある(ハイジャック・ビル)。
 社会運営上の前提とされる「経済成長」は常に「質」よりも「経済成長率」ばかりが重視されている。成長の恩恵は大企業や富裕層に偏り、多くの市民の生活は一向に改善されていない。
 「少子化問題」では若者の雇用、結婚、子育て、教育環境の支援・整備等は行われているが、女性のキャリア形成やライフワークバランス等への施策は無く、「女性たちはどう生きたいのか」に向き合ってきたとは思えない。これらには共通して「国民の安全と幸福」という本来の目的が忘れ去られており、その結果、仕事の生産性向上どころか新たに余計な仕事を生み出している。
 また、そもそも目的実現には「社会の有り様」や「仕事等に取り組む姿勢」が健全であることが大前提だが、現代社会は平和や人権、民主主義等を蔑ろにする事案が多いと感じる。新建では「建築とまちづくり」運動に臨むスタンス、基本姿勢等を記した新建憲章があり、「平和を守ろう」、「建築とまちづくりを、社会とのつながりの中でとらえよう」と記している。私たちが様々な立場で自らのスタンスを見直し、個人や地域、行政や企業の健全さを確かなものとし、本来の目的を「希望」として共有できれば、そこに様々な協働が生まれ、人を大切にする社会を創造していけるものと私は考えている。

<特集> 住まいは人権 ①「子ども」を守る/護る“社会的養護”の「居場所」

 年間特集の第1、第2回は、「住まい」の人権を考えるべき当事者として、守る/護るべき「子ども」と「困難を抱える○○」「要支援○○」「要配慮○○」という「ラベリング」によって語られる人々を対象にしつつ論じてもらいます。第1回は「子ども」です。こうした「逸脱のラベリング」を前提とした建築論・まちづくり論、計画論の問題性については第3回で考えます。
 「子ども」を「住まい」の権利当事者として捉えると、そこには「社会」の役割が必要であるとされます。本号では「社会」の担い手を公的機関と民間活動に見ていきます。
 子どもの「一時保護」は公的機関の役割のなかでももっとも見えにくい、見せない領域です。「一時」なのに長期化が問題になり、必ずしも子どもに了解されないDV加害者からの避難と閉鎖的な隔離施設は、さまざまな入所型施設のなかでももっとも「全制的」といわれます。しかし、現場ではそうした姿からの転換を、「指導」から「支援」、「ケア」へと認識を変容させて取り組んでいます。しかし、施設建築としての取り組みはもっとも遅れており、「二律背反」的な課題に応答できていません。さらに、そこに「制度」の凝り固まった「目的合理性」が重なって子どものニーズが見えなくなっています。それでも、論考では、大切な課題のありかや子どものニーズに向けての現場での考え方を示していただきました。また、「一時保護」を含む「社会的養護」の「保護」「養護」「支援」の施設に見られる「家庭的」という言説の問題は、とくに空間・環境を担うべき私たち建築・まちづくり技術者にとって極めて重要な論点です。深く考えていく必要があります。
 一方、民間活動の視点からも、子どもが「住む」を回復、確保する取り組みを知ろうと考えました。そこでは「居場所」をキーワードに、「居場所」を保障する場が「住まい」であり、それを保障することが「住まいの権利」の核心に近づく第一歩と考えたとき、DVなど「ドメスティック=家庭」からはじき出された「子ども」をどのように支え、子どもの「居場所」をだれが、どこで、いかに確保するかは、「逸脱のラベリング」をはぎ取って子どもの回復を社会化する大切な動きです。  担当編集委員/大崎 元

<ひろば> 東京支部―特別講座「アルヴァー・アアルトとモダン」

 1月31日(土)、特別講座「アルヴァー・アアルトとモダン」を、新建東京支部主催により渋谷区文化センター大和田で開催しました。講師は水島信氏で、参加者は18名(会員7名、会員外11名)でした。
 水島氏は現在ドイツ・ミュンヘン在住で、ドイツ連邦バイエルン州建築協会会員として活動されています。2024年11月には、立教大学文学部教育学科主催(東京支部共催)の公開講演会「ドイツ流まちを創ることのすすめ」において、ドイツと日本のまちづくりの違いについてご講演いただきました。また東京支部では、2015年にも「アルヴァー・アアルトの空間」と題した勉強会を開催しており、今回は改めてアアルトを主題とする講座となりました。
 講座では、アアルトの初期からの歩みをたどりながら、そのデザインソースの源流を読み解く内容が展開されました。アアルトを語る際には、「モダニズム建築家」と位置づけるか、あるいは「ヴァナキュラーな地域的建築家」と捉えるかがしばしば議論になります。しかし水島氏は、アアルトはそのいずれにも単純には括れない存在であると指摘されました。
 若き日のアアルトは新古典主義的建築を手がけ、とりわけスウェーデンの建築家アスプルンドに強く傾倒していました。その影響のもと、イタリア滞在時には、正方形平面に円形ドームを組み合わせたロトンダ形式建築(パンテオンに代表される中央ドーム形式)に見られるトップライトに魅了されます。
 1920年代後半になると、ル・コルビュジエやCIAMの影響を受け、アアルトはモダニズムへと傾倒していきます。パイミオのサナトリウムやヴィイプリ図書館など、初期モダニズムを代表する作品を次々と設計し、その中でイタリアで学んだトップライトの試みを取り入れていきました。しかし、イタリアと北欧では太陽高度や日射の強さが大きく異なります。イタリアでは強い日差しを制御する装置として機能したトップライトも、太陽高度が低く日射量の弱い北欧では、柔らかな光を室内に取り込む「あかり(光庭)」として再解釈されました。アアルトはこの風土の違いを読み取り、それを建築的表現へと転化させていきました。
 水島氏は、アアルトがモダニズムを無批判に受け入れたわけではないことを強調されました。合理性や機能主義を学びながらも、自然光への繊細な配慮、曲線的表現、空間のずれといった人間的で有機的な要素を積極的に取り入れていきます。やがて彼はモダニズムの画一性から距離を置くようになりますが、それはモダニズムを否定したというよりも、モダンの原理を内面化したうえで地域性や風土と融合させる方向へと発展させた結果であると位置づけられました。
 今回の講演は、アアルト建築の立ち位置を改めて考えるうえで多くの示唆に富むものでした。講演後の懇親会でも活発な意見交換と交流が行われ、参加者にとって大変有意義な時間となりました。(東京支部・柳澤泰博)

<ひろば> 大阪支部―枚方市「ワイワイにぎわい祭り」への参加

 去る3月7日(土)、枚方市駅からほど近い岡東中央公園で「ワイワイにぎわい祭り」が行われました。主催は四つの市民グループが集まって構成されている「枚方市のまちづくりを考える市民ネットワーク」(以下、市民ネットワーク)です。枚方市駅前のまちづくり運動については『建築とまちづくり』2025年9月号に詳しいのでそちらを参照していただくとして、これまで市民ネットワークでは市の計画の矛盾や如何に民間企業が儲けるために市民の土地を使おうとしているかの仕組みを、様々な学習会を行って説明し議論してきました。岡東中央公園は現市役所と隣接し駅から5分とかからない場所にありながら、子ども用遊具も設置されており少し懐かしさを感じることができる公園です。昔は緑ももっと多く地面は真砂土でした。イベントなどに使われるためか殆どインターロッキングなどの舗装に変わってしまいましたが、大きなステージもあり〝人が集まる〞にぎわいのある公園です。
 市の計画で岡東中央公園が開発範囲に含まれる事態となり、公共の公園が開発用地になってしまう可能性が出てきたことで、普段の学習会に参加しない、市役所移転の話も知らないという市民の方々にも広く知ってもらわねばという危機感が生まれてきました。公園で手作りの祭りを行い、お金を使ってカフェで過ごすのではなく、五感をフルに使って楽しく過ごしてもらう中で、公園の役割やあり方を知ってもらうイベントです。当日は晴れて、2000人ほどの参加がありました。
 祭りでは、段ボールの中に入って競争するミニミニ運動会、ポン菓子、綿菓子、フラワーアレンジメント、古着古本販売など13のブースを出し、舞台ではエイサー、チャンゴ、合唱や弾き語りなどがにぎやかに繰り広げられていました。新建大阪支部が出したのは射的、輪投げ、モルック体験、そしてパネル展示です。パネル展示では枚方市駅周辺の古い写真、この計画の流れや問題点、市民ネットワークの提案、市の計画との費用の比較などのパネル製作を行い、読んでいただいた市民の方々にアンケートをお願いしました。
 新建大阪支部の射的や輪投げは大好評で、笑い声や拍手がさかんに起こっていました。私たちのイベントは手作り感満載で、民間企業の作ったカフェで個々人が時間を過ごすのと違い、スタッフ側と輪投げを投げる子どもたちの距離が圧倒的に近く、親御さんと一緒になって一喜一憂する本当のにぎわいがありました。最近よく見かける立体都市公園制度を活用した商業ビルの屋上の公園では、このように公園の中だけでなく音楽や子どもたちの笑い声が街に広がって滲み出していくことは難しいと思います。
 今回「ワイワイにぎわい祭り」を開催するに当たっては枚方市の『にぎわい空間創出事業』の支援を受けています。300人以上の来場者数の見込みがあり、営利を目的としない、会場図面やその他書類の提出など様々な条件があるものの、椅子テーブルやテントなどの貸し出しがあり使用料が無料になります。市民ネットワークのメンバーはイベント事は素人で準備も当日も大変でしたが、少しでも公園の在り方を示すことができ、岡東中央公園は大切な場所だということを再認識しました。 
 これから運動はまだまだ続きますが、どのように市民を巻き込んで理解を深め広げていくかという課題に取り組んでいきたいと思っています。 (大阪支部・大原紀子)

常任幹事会声明

アメリカとイスラエルによる国際法違反のイラン攻撃に強く抗議する

2026年3月3日
新建築家技術者集団 常任幹事会

 アメリカとイスラエルは2月28日、イランへの攻撃を強行し、最高指導者ハメネイ師を殺害しました。トランプ大統領はこの大規模作戦を「成功」と宣言し、「軍事作戦は中断なく続く」「大波はこれからだ」と強調しています。報道によれば、この軍事作戦で130以上の都市が攻撃を受け、死者は500人を超えており、南部では小学校が攻撃され100人以上の子どもたちが犠牲になったとされています。
 アメリカとイスラエルによるこれらの行為は、国連憲章に明確に違反するものであり、国際秩序と法の支配を根本から覆す、断じて許されない暴挙です。とりわけ、核開発に関する査察受け入れの協議が進行している中での攻撃は、道義的にも許されるものではありません。本来、独立国の体制はその国の主権者が決定すべきものであり、他国による軍事的介入は重大な主権侵害です。国連のグテーレス事務総長も「国際平和の安全を損なう」と述べ、強い危機感を表明しています。
 新建築家技術者集団は、民間人や民間施設への攻撃、および民間人に甚大な損害を与える武力行使を強く非難します。また、トランプ政権によるベネズエラへの軍事侵攻と大統領拉致に続く今回の暴挙に対し、強い憤りを持って抗議します。
 私たちは、今回の武力攻撃に対して以下の事項を強く求めます。
 ◎アメリカ・イスラエル両国は、ただちに戦争を中止すること。
 ◎日本政府は、国際法および国連憲章の観点から、両国の軍事攻撃に対し明確に抗議すること。
 ◎すべての紛争当事国は、敵対行為と軍事行動を直ちに停止し、紛争の平和的解決に向けた外交的手段に立ち返ること。


以上

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