建築とまちづくり2026年5月号(NO.563)

目次

<目次>

特集
不条理に突き進む原発、地域の選択

乾 康代
原発は過疎地にという政策

池田 豊
原発事故から15年 福島の現在地
――現地視察が突きつけた「見えない現実」

飯塚寿之
日常の暮らしに「覚悟」を問う社会はおかしい

林 広員
福井の原発をめぐる動きと私たちの運動

中田 潤
ドイツにおける脱原発

大島堅一
エネルギー政策における原発の位置づけと課題
――第7次エネルギー基本計画と政策反転

連載
失われた町、受け継がれる舎<いえ>(21)
エピローグ~垂水五色山西洋館のこと(前篇)
中尾 嘉孝

社会派 聖地巡礼(16)
ピンク・ストーンの町、アッシジ
中林 浩

主張
都市のジェントリフィケーションと向き合う
岡田 昭人

本多昭一さんを偲ぶ

書棚から
原子力と都市計画

新建のひろば
京都支部――北欧紀行写真報告会
愛知支部――「仕事を語る会」

<主張> 都市のジェントリフィケーションと向き合う

岡田昭人 かたちつくり研究所/全国幹事会副議長

 古くなった建物が更新され、まち並みが洗練されていく様子は、一見すると「都市の再生」として歓迎されるべきものに映ります。しかし、その変化の背後で、長年その場所で生活を営んできた人々が静かにまちを去らなければならなくなる「ジェントリフィケーション」という現象が、日本の各地で深刻な課題となっています。
 都市が高級化し、低所得層が排除される現象を「ジェントリフィケーション」と呼びます。1964年にドイツ出身の社会学者ルース・グラスが、ロンドンの労働者階級の居住区に中流階級が流入し、元の住民が追い出される様子を表現するためにつくった言葉です。
 日本では、「都市再生」の名のもとで、この概念が指し示す「ディスプレイスメント(追い出し・置換)」が構造的に静かに進行しています。それは単なる住み替えではなく、都市が「生産と生活の場」から資本を効率的に循環させる「消費の場」へと変質していくプロセスだと言えます。
 都市のジェントリフィケーションは、「まちの改善」としてだけではなく、投資の増大が不動産価値や家賃を押し上げ、長年住んでいた人々や地域に根ざした小さな個人商店が、経済的な理由でその場所に居られなくなってしまう「置換(ディスプレイスメント)」を伴うものです。資本が最大の利益を求めて都心部へ再投資されるとき、そこにあった人々の暮らしは「投資の対象」へと一方的に書き換えられてしまいます。
 ジェントリフィケーションは、大規模な高層住宅の建設、さらには商業施設の高級化といった多様な形態で進行し、特に住宅が「投資物件」へと転用されることで、地価や家賃は生活実態から乖離して高騰し、若年層や長く暮らす住民が地域に住み続けるためのコストを押し上げ、まちなかでの居住を困難にし、強制的な追い出しではない静かな排除が進んでいます。
 さらに、Park| PFI(公募設置管理制度)等の手法による公共空間の「質的向上」にも注意が必要です。公園の商業化と洗練化は、利便性を高めますが、その「おしゃれなテイスト」に合致しない層を心理的に排除するような公共空間の置き換えを招いています。これは、多様な市民の「居場所」という「公共性」を犠牲にした、公共空間の商品化に他なりません。
 ジェントリフィケーションが進むことで、目に見える景観だけでなく、長年築かれてきた地域の人間関係や文化、生活の知恵といった大切な「地域のアイデンティティ」が失われてしまいます。新しい住民や資本の流入によって、既存住民が自分のまちに対して抱いていた帰属意識が損なわれ、心理的な疎外感を感じることも少なくありません。
 私たち建築家・技術者は、この問題に無関心ではいられません。私たちが関わる仕事や活動が、結果として誰かをまちから追い出すことになっていないか、常に問い続けなければなりません。市場の論理や経済的な価値を優先するあまり、社会的な弱者を公共空間から排除したり、既存の暮らしを蔑ろにしたりすることは、持続可能なまちづくりとは言えません。
 これからのまちづくりにおいては、何よりも「包摂的な視点」が不可欠です。誰でもが安心して住み続けられるよう、土地の価値を市場の論理から切り離して、コミュニティ全体で管理していくような仕組みの検討も必要です。また、大規模な再開発ではなく、既存の建物の魅力や歴史を活かしながら、小規模な改修を積み重ねるなど、ゆっくりと丁寧な変化を促す「修復型のまちづくり」をより一層進めることも必要です。多様な人々が共生できる空間をつくるためには、開発によって得られる経済的な利益を地域社会へと適切に還元し、また公的施策として公共住宅の供給や家賃補助などの住まいへの支援なども求められます。
 住民が自分たちのまちの将来を主体的に決めていけるよう、対話と協議の場を支えることも私たちの重要な役割です。私たちは、都市のジェントリフィケーションという現象を注意深く見て、その功罪を正しく理解し、次世代に豊かな都市空間を引き継いでいく役割があるのではないかと思います。

<特集> 不条理に突き進む原発、地域の選択

 東京電力・福島第一原子力発電所の事故から3月11日で15年が経った。福島の7自治体が「帰還困難地域」に指定され避難が長く続き、現在も約2万3000人以上(最近の調査では5万1000人以上)の人びとが避難生活を続けている。
 原発の30km圏には避難計画が義務づけられたが、住民を被ばくさせず、命を守る避難計画は不可能であり、戦争が起これば原発は攻撃対象となる。
  住民は、大きな被ばくリスクを抱え不安な生活を強いられていることを訴えているが、政府はこれを無視して、原発推進を掲げる第7次エネルギー基本計画を2025年に策定した。24年には女川原発再稼働、福島原発事故後初となる東京電力の柏崎刈羽原発再稼働、北海道電力の泊原発の再稼働表明、関西電力の美浜原発での原発新設の表明など、加速度的に政府、電力業界は原発依存度を高めている。
 政府は、原発は核燃料サイクルで資源を有効利用でき、かつクリーンだというが、正しいか。核燃料サイクルは破綻しており、核のゴミの処分問題は解決していない。発電コストや電力価格は、再生可能エネルギーと比較すると高く、未来の電力として中心となるものではない。この合理性がなく不条理と思える原発推進をなぜ政府は推進しようとするのか。
 廃炉が見通せない福島原発事故の被災地、そして各地に存在する原発や核関連施設がある地域の住民は、政府の政策に翻弄され続けている。
 国際的に見るとどうだろうか。福島原発事故が世界に与えた影響は少なからずあった。事故以前から原発廃止の議論を進めていたドイツでは廃止への決定打になり、台湾も原発廃止を方針に盛り込んだ。しかし、隣国の中国、韓国は、事故後、自国への影響を懸念したが、原発政策を変更せず、アメリカ、フランス、イギリスは原発を推進する姿勢を変えはしなかった。そのなかでドイツは2023年に、台湾は昨年、最後の原発を停止した。長い時間をかけても安全で持続可能なエネルギーを導入し社会に定着させている。
 今号では、政府の原発政策の特質と問題点を明らかにし、脱原発が地域にとってなぜ必要かを地域の現状や取り組みから探る。
 さらに脱原発を実現したドイツでの取り組みを紹介する。ドイツでは脱原発の議論は単にエネルギー技術の選択の問題ではなく、人びとの「生活の質」の問題、政治文化の問題、ひいては国家および社会そのもののあり方ないし方向性をめぐる問題が位置していた、という明確な趣旨は、日本でも地域の将来を選択する際に重要な論点となるだろう。
特別編集委員/乾 康代
担当編集委員/高田桂子

<ひろば> 京都支部―北欧紀行写真報告会

 ハートピア京都を会場に、ヒュッゲ設計代表・瀬尾真司さんによる北欧旅行の報告会が行われました。京都支部ニュースの表紙を3年以上飾ってきた写真を、カラーで見たい、他の写真も見たい、合わせてお話ししてもらおうということで企画されたものです。1月30日に開催された第1回はヘルシンキ(フィンランド)、ストックホルム(スウェーデン)についてで参加者は9人、2月25日に開催された第二回はベルゲン(ノルウェー)、コペンハーゲン(デンマーク)についてで参加者は7人でした。スライドを見ながら旅先の風景や建築について参加者らと語り合いました。

北欧の街並み
 路面電車が並走しているような目抜き通りでも、車道と歩道の境には簡素な縁石があるだけで柵や植え込みを設けていないところが多く、通り全体が広く感じられました(「車が歩道に突っ込むことはないのだろうか?」、「車はどこに駐車しているのか?」など参加者の間で議論になりました)。また歩道に街路樹やポール灯が少ないため、通りの反対側からも個々の建物のファサードがよく見えます。大半の建物はそれほど古くもなく、凝ったデザインでもありませんが、良い意味で中庸さに統一感が感じられ、街並みとしてはとても美しかったです。

ナショナル・ロマンティシズム~北欧モダニズムの建築
 建築学生だった頃、ヘルシンキ中央駅(1914/エリエル・サーリネン)、ストックホルム市庁舎(1923/R.エストベリ)のような建築は保守的に思えたのですが、今回見直してみると、デザインの語り口に余裕があり、仕上がりも抜群に良いと感じました。E.G.アスプルンドやアルヴァ・アアルトなどのモダニズム建築家の作品も、オランダやドイツなどの人工的で、わかりやすい表現に比べ、懐が深く、穏やかな雰囲気が漂っています。いったいこの違いは何によるものか、距離的なものか、自然気候か、はたまた木造文化に起因する感性の柔軟さによるものなのか、など様々なことを思い浮かべながら楽しい時間を過ごさせていただきました。(京都支部・神崎尚志)

<ひろば> 愛知支部―「仕事を語る会」

 2026年3月14日(土)愛知支部の支部総会の後に、午後から仕事を語る会を開催しました。参加者は7名でしたが、久しぶりに顔を見てお互いの仕事のことを語ることは、とても大切な時間だと思いました。
 まずHさんより、近隣のエアコン室外機の騒音対策についての相談でした。昨年秋から、リフォームの相談を受けています住宅の隣地に、新しくアパートが建ち、年末年始を過ごして、夜の低周波の振動と音が気になるとのことでした。アパート建設会社に騒音対策を求めましたが改善されず、リフォームをするのか、もしくは土地売却をして新しい場所に引っ越すのかも悩まれているということでした。
 長年、レンタカーとカラオケボックスの複合施設を設計されていたNさんより、近隣との間に、防音壁(遮音壁)を建てる提案を受けました。それだけで改善をすることができるかどうかですが、ひとつずつ対策をしていくことも大切であるとのことでした。Nさんは、カラオケルームの音漏れにも色々と苦労しており、屋根の構造や音波の伝達、人間の声の周波数が機械音と異なること、また低音域の問題が高音域と異なることを指摘されました。最終的には、重量のある材料が低音を抑えるのに重要であることを確認して、空気層や吸音材の使用方法なども大切であることを説明されました。またNさんは、相続税対策の賃貸マンションの設計を相談されることも多いが、建設費用の高騰で、家賃相場の変化により収支が合わずに、現在は賃貸マンションの建設は困難であると判断しているようでした。着工戸数の激減している住宅についても議論をしました。住宅開発事業をしている会社が、賃貸マンションに住まわれている方が家族が増えて、マンションから一戸建てに移る際に、顧客として繋がるような仕組みを検討しているようでした。
 Fさんからは、建設している保育園の建設費高騰による、補助金事業の大変さを聞かせて頂きました。実際に、2年前に概算工事費を確認して実施設計に進み、工事請負契約に進む前の見積もり合わせの段階で、建設工事費の予算オーバーがあり、設計を見直し、施主と確認をして設計変更をして工事に進めたとのことでした。概算工事費の時より、2~3割の工事費の高騰により、施主との信頼関係を損なう恐れもあると聞きました。また、Fさんは、新しく住宅設計のプロデューサー的な役割で、関わる新しい事業を模索しています。若い人たちと、相談・連携をしながら、進めています。第1号となる住まい手さんも見つかり、現在は、土地探しをしているとのことでした。その中で、Fさんの後継者となる設計者も育て、次につなげる仕組みも考えているようでした。
 Kさんからは、ここ最近の持病による体調の変化もあり、今までできていた仕事の丁寧さが損なわれている悩みを聞きました。そのことで、色々と考えてしまい、自信を失っている発言をされました。しかし、参加者からは、Kさんが積み重ねてきていた活動や仕事を誉め称えました。現在の状況であっても、活躍できる場の提案も参加者からたくさんありました。また、県外からも信頼して頼ってくれる人もいることなども伝えて、自分のできることを、前向きな気持ちで、どのようにするのかをみんなで考えました。
 Oさんは、3月末に閉鎖する設計事務所のことを伝えてくれました。2001年に、女性3人で立ち上げ、皆さんが設計された環境共生を目的とした、地球に優しい事務所でした。打合せも、複数体制で対応をして、メインの設計者とサブの設計者を決めて、住まい手の発言を聞き逃さない工夫がされていました。また、定期的に、一般消費者に向けての勉強会を開催して、精力的な活動をされていました。Oさんは、新しく仕事を受け継ことはできないが、住まい手の相談にのり、新建愛知の仲間を通して信頼できる仲間へお願いができるので安心していることも語りました。
 その他も色々と話題がありましたが、終了時間を延長してしまい、懇親会がなくなり、夜のお食事会になってしまいました。
 皆さんの支部でも、自分お仕フォームの相談を受けています住宅の隣地に、新しくアパートが建ち、年末年始を過ごして、夜の低周波の振動と音が気になるとのことでした。アパート建設会社に騒音対策を求めましたが改善されず、リフォームをするのか、もしくは土地売却をして新しい場所に引っ越すのかも悩まれているということでした。
 長年、レンタカーとカラオケボックスの複合施設を設計されていたNさんより、近隣との間に、防音壁(遮音壁)を建てる提案を受けました。それだけで改善をすることができるかどうかですが、ひとつずつ対策をしていくことも大切であるとのことでした。Nさんは、カラオケルームの音漏れにも色々と苦労しており、屋根の構造や音波の伝達、人間の声の周波数が機械音と異なること、また低音域の問題が高音域と異なることを指摘されました。最終的には、重量のある材料が低音を抑えるのに重要であることを確認して、空気層や吸音材の使用方法なども大切であることを説明されました。またNさんは、相続税対策の賃貸マンションの設計を相談されることも多いが、建設費用の高騰で、家賃相場の変化により収支が合わずに、現在は賃貸マンションの建設は困難であると判断しているようでした。着工戸数の激減している住宅についても議論をしました。住宅開発事業をしている会社が、賃貸マンションに住まわれている方が家族が増えて、マンションから一戸建てに移る際に、顧客として繋がるような仕組みを検討しているようでした。
 Fさんからは、建設している保育園の建設費高騰による、補助金事業の大変さを聞かせて頂きました。実際に、2年前に概事を気軽に相談ができる「仕事を語る会」はお勧めだと思いますので、是非やってみて下さい。
(愛知支部・甫立浩一)

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