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<主張> 改正省エネ法の施行/改めて新建で議論を
一昨年から本誌主張で、建築物省エネ法の改正について、建築技術者としてどう向き合うか、欧州や北米など海外の施策事例の紹介を行ってきました。
私自身は省エネ法の制定については否定するものではないことは、これまでも主張してきた通りです。いよいよ、今年4月1日より改正省エネ法が施行されましたが、施行前の駆け込み申請や省エネ法にもとづく申請実務について設計事務所からの相談も寄せられており、まだ十分に浸透していないと感じています。
新建第32回全国大会では、今日の建築とまちづくりの課題の中で、「環境と共生し、風土を継承する建築とまちをつくる」ことを提起しています。
この中で、「地球環境は深刻な状況にあり、建築行為がもたらす負の影響に最大限配慮する」と述べ、具体的には、自然エネルギーへの転換、省エネルギーと環境負荷の低減、大規模自然破壊、景観の保全、歴史的建築物の保全などに取り組むことを明記しました。
特に省エネルギーと環境負荷の低減という課題では、正しい省エネ技術の向上を呼びかけ、既存建物の再生・活用も重要なテーマとして位置づけていると思います。
昨年から開催されている新建全国研究集会(オンライン)の「環境とデザイン」分科会では、「これからの環境問題と建築技術者の課題」をテーマに、環境破壊をどうとらえるか、建築分野でのCO2削減や建物の省エネ化について、全国各地の実践例を交流しています。
今年4月22日米政府が主催する気候変動に関する首脳会議に先立ち開かれた、地球温暖化対策推進本部会合で、菅首相は、気候変動対策、脱炭素化は待ったなしの課題として、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、2013年度に比べて46%削減することを目指すことを表明ました。
私が参加している省エネ・高性能住宅づくりを推進する団体では、これらの動きを好機ととらえ、その普及に向けた、各種セミナーや有料講習会を開催するなど、コロナ禍のなかでも活発な活動を行っています。
ご承知のとおり、国交省は4月1日から改正省エネ法施行に向け、昨年から「住宅省エネルギー技術講習テキスト」、全国版、北海道版、沖縄版と地域別にオンライン講座テキストを作成し、全国の建築士事務所に配付を行っています。すでにこの内容は把握されていると思いますが、さらにすべての建築物に対する「省エネ義務化」に向けた動きも同時に進んでいます。
今年3月2日には改正地球温暖化対策推進法が閣議決定され、政府が進める2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念とし、全国の自治体に再生可能エネルギーの導入目標を努力義務としました。
また、2012年に制定された住宅性能表示制度(品確法)についても、現在4段階に分類されている断熱等級区分を見直し、より性能の高い5等級の新設、さらに分譲・賃貸では欧州のエネルギーパス制度にならい光熱費表示制度の検討が始まった報道もあります。
私は、2019年5月の本誌主張の最後に、「地域に根ざし、その特性を考慮した建築活動を進めている新建会員が、この省エネ施策に関心を持ち、全国的な交流を行う必要がある」と書きましたが、現在の省エネ施策の動向を注視することとあわせて、あらためてこのことを強調したいと思います。
大橋周二・(有)大橋建築設計室/全国常任幹事
<特集> 「相談活動」からみえる社会の変容と専門家の職能
市民と専門家の最初の接点は「相談」の場面です。仕事の依頼が前提の相談もありますが、多くは、悩みごと、困りごとです。「悩みごと困りごと」には、物事を進めていく途上で発生する場合と、身の回り、あるいは自身に予期せず起こる場合の二つに大別されます。
建築まちづくりの場面では、前者は住まいづくりや施設づくりをすすめていくなかでの「悩みごと困りごと」で、住まい方や施設計画、運営の考え方や土地、資金などの問題、課題をどう解決していくかという相談が専門家に持ち込まれます。後者は開発や建築行為による環境悪化や景観破壊、災害による損壊、瑕疵問題、コロナ禍における住まいの喪失などの主に外的要因によるものです。
社会状況の変化とともに相談内容も変化し多様化してきます。高齢化の進展、家族のあり方、暮らし方、働き方の変化は住まいづくりに影響し、住宅にかかわる相談の多様化をもたらします。また、経済活性化を主眼とした規制緩和は地域住民の生活環境、景観の悪化、災害の危険性の増加につながることもあります。
「悩みごと困りごと」に耳を傾け、共に解決策を見出していくことが、市民が求める基本的な専門家の役割です。私たちは変化し多様化する相談に応えていくなかで、提案した解決方法が仕事として依頼されることもあれば、新たな手法を編み出すことで自らの専門性や対応力の向上につながることもあります。課題を解決するために住民運動のなかで役割を果たし、あるいはその悩みの元となる制度や政策的な課題解決のための運動に発展することもあります。さまざまな「悩みごと困りごと」の解決に取り組み、専門性を生かして役割を果たすことで市民の信頼を獲得し、それによって生業が成り立つという展開が、専門家としての生き方の原点ではないでしょうか。
本特集では、私たちの職能そのものといえる「相談活動」に焦点を当て、社会的背景や地域の特性の中で課題の解決に取り組んだ事例、少なからず社会的影響力を発揮してきた事例、事業活動として継続しているなどの実践的な事例に学び、専門家の社会的役割を確認し、活動継続の重要性と相談活動の先にある環境改善、真の豊かさにつながる展望を考えてみたいと思います。
特集担当編集委員/桜井郁子・大槻博司
<ひろば> 第32回大会期 第3回全国幹事会 報告
2021年4月18日(日)にオンラインにて今大会期の第3回全国幹事会を開催し、代表幹事5名を含めて32名の出席がありました。
支部活動状況報告
支部活動状況アンケートは25支部中18支部から提出があり、いくつかの支部から報告がありました。コロナ禍で予定していた企画が中止になったりしていますが、オンラインによっていろいろ工夫して集まりを持っている状況が報告されました。しかし、オンラインは利便性が高い反面、新しい会員との交流が深まらないなどの指摘がありました。東京支部では支部50周年企画や実践報告会を準備しており、全国の会員に発信する予定です。また、ニュースを発行している支部は郵送からデータ配信への移行が進み、カラー写真の美しさや印刷、郵送費の節約などのメリットが強調されました。多くの支部で会員の高齢化と減少を課題として挙げています。仕事の面では木材価格高騰と調達困難により支障が出ていることなどが報告されました。
各委員会報告
建まち編集委員会からは2021年の特集計画が報告されました。活動活性化委員会は新建紹介のリーフレット作成や新建相談室の設置など検討中です。政策委員会はマンフォードの勉強会の企画です。災害復興支援会議からは東日本大震災10年、熊本地震5年を機にアピールすることが報告されました。Web委員会からは、『建まち』をホームページに掲載するためマンパワーの補充が必要であること、新建叢書出版委員会からは3号目の企画の中断、新規企画はないと報告されました。
50周年記念事業特別委員会
50周年記念事業は、8月に新建活動の現在の到達点として研究集会エンディングイベントを、11月に新建50年の活動総括を全国大会記念講演として行うことを予定していること、さらに形式は未定ですが「新建の新たなあり方」を表現する企画を検討していることが報告されました。
『建築とまちづくり』誌50周年年間特集
2020年の年間特集について、各回のテーマと読者からの反響、創刊500号を迎えたことなど50周年記念に相応しい『建まち』としての事業であったことが報告されました。
全会員アンケート集計報告
単純集計データ資料をもとに結果の概要が説明され、あわせて10月に白書としてまとめる予定が報告されました。
第32回全国研究集会
現在も進行しているオンライン分科会の開催状況として、5月の予定も含めて11分科会あわせて48回開催されていること、まとめにむけてテーマや参加人数を含む詳細な実施状況を集計中であることが報告されました。この分科会で築いたネットワークを研究会活動として継続し、新たな人材などの発掘につなげていくことが大切であるという意見がありました。
まとめのイベントとして11分科会からの報告およびこの分科会の成果を踏まえて新しい建築活動のイメージや建築職能の確立などについて、パネルディスカッションの形式で議論する企画のイメージが説明され、日程は8月29日(日)が提案されました。
デジタル報告集については、これまでの紙の報告集と基本的には変わりませんが、データで多くの資料等をカラー掲載することが可能なDVDに収録することとし、発表者には報告原稿を依頼することとしました。
第33回全国大会
開催方法は状況によって変化しますが、開催地は大阪とし、現地とオンラインのハイブリッドも視野に入れながら会場を選定する予定です。記念講演「新建50年を振り返る」について以下のような意見、提案がありました。
・東京支部で実施した近代建築運動100年史を踏まえて、大きな社会の流れの中での新建をとらえる。
・過去を振り返るよりこれからを考えるイメージとして、例えば斎藤幸平氏・内山節氏・藻谷浩介氏の講演案。
・「新建は何と闘ってきたのか」ということをこれからの視点のベースとして明らかにすることと、今後のあり方の大きな方向性を語る2本立てにする案。
・建築とまちづくりはなに をなすべきかという哲学から、建築とまちづくりが直面している課題を考える。
・木材価格の高騰、調達困難、「ウッドショック」といわれる状況で町場は大変だ、輸入に頼ってきたツケが回ってきている現状を問う。
大会議案については構成と要点が報告され、9月の幹事会で提案、検討することとしました。
規約改定案
次回大会での提案にむけて、改定案概要の説明があり、いくつかの意見がありました。意見を踏まえて規約改定委員会で検討し、次回幹事会で提案することとしました。
組織財政
31回大会期に比べて今期の会員、読者数の減少率が大きいことと、それにともなう減収が報告されました。財政的には全国の会議がオンラインになったため、会議費の支出がないことで支出超過にはなっていない。会員拡大について、コロナ禍で対面できないことも入会を誘いにくい要因としてありますが、全国から入会の訴えを送るなど組織的な取り組みが必要です。『建まち』を図書館に置いてもらうなどの意見もだされました。
新建賞は今回も実施する予定で募集のスケジュールなどの募集要項を建まち5月、6月号に掲載します。審査委員については常任幹事会で検討、選任することになりました。
全国幹事等の役員選考について、支部推薦含む選考スケジュールなどの報告がありました。
次回全国幹事会を9月12日(日)としました。 全国事務局長・大槻博司