<目次>
特集
埼玉特集――街道をゆく
西沢恒善
埼玉は多彩である
古里 実
浦和の「建築とまち」の魅力と課題
まちを歩いて評価する活動から見えてきたもの
小林 真
二一世紀映画のまち=深谷シネマ「市民活劇」の四半世紀
朽木 宏
ぎょうだ足袋蔵ネットワークの取り組み
髙橋浩志郎
「顔の見える経済循環」を創出する、ベットタウン型リノベーションまちづくり
――旧日光街道沿いに波及した民間主導行政支援の都市再生ムーブメント
佐藤健一
上尾市仲町愛宕地区のまちづくり雑感
三浦匡史
参加型で進めた『さいたま百景』の選定と書籍づくり
――市民主体のまちづくり活動としての「さいたま百景選定市民委員会」の活動紹介
藤井美登利
埼玉の「絹の道」をめぐる
――建物、ひと、まちづくり
西沢恒善
コラム:育まれ・守られる西川材――飯能
連載
失われた町、受け継がれる舎<いえ>(22)
エピローグ~垂水五色山西洋館のこと(後篇)
中尾 嘉孝
社会派 聖地巡礼(17)
アニメ聖地の宝庫、埼玉
中林 浩
主張
大切に育みたい主体性
佐藤 未来
新建のひろば
東京支部――吉田敬子さんスライド&トーク「のこぎり屋根に魅せられて」
福岡支部――「春は花見じゃ」企画
北海道支部―― アラミド繊維等に関する学習会
第35回大会期 第2回全国幹事会報告
<主張> 大切に育みたい主体性
佐藤未来 象地域設計/全国常任幹事
私たちは日々、新建の理念を実践しようとしています。民主的な進め方をめざし、押し付けでもない、言いなりでもない、対話でつくることにこだわっています。隣やお向かいに座っている人と対話しながら相互に考えを広げ・深め・高めていき、その先にコンセプトや空間が見えてくる時、心躍ります。私たち設計者に相談をよせる依頼者もまた、民主的に物事を進めることを大切にし、保育園のような法人であれば、保育士・栄養士・看護士・園長・理事長・保護者が関わります。自分たちが大切にしたい子ども観を日常的に確認し合うことに長けている集団は、設計打合せでも対話がスムーズだと感じます。多角的に多様に見ることこそ、子ども一人ひとりを捉えることができ主体性を育むことにつながる、という確信をもって民主的に実践を重ねているのでしょう。
民主的に進めるには、主体性があってこそだと思います。私は今、既存建物を活用し病院から有床診療所+在宅に生まれ変わろうという改修設計に携わり、着工間際です。大所帯で関係者が多くスケジュールも厳しい中、みんなでつくりたいという意向は明確でした。Zoomを活用した建設委員会・事務局会議でスタートしたものの、自由でありながら責任ある発言、聴く姿勢、対話が難しく、スケジュール期限内に合意形成、最終決定まで到達する気配がありません。全体・エリア・フロア別・チーム長・運営など、会議メンバーを縦・横・斜めに編成し直し、主体性を発揮しやすいよう工夫しました。一歩引いた態度から、テーブルの真ん中に広げた設計図を椅子から立ち上がってのぞき込み考えを出し合い、前のめりに変わっていく姿がありました。「いつも後ろ向き発言」という見方から「さすが鋭い指摘」だねと対話を重ねるごとに、私たち設計者の捉え方も変わっていくのです。
一方でそもそも、主体性をもって民主的に進めたい、という意向自体が失われていくようで危惧しています。面倒なことも多い、時間が掛かるように感じるけどその方がよくなる、良いものが生まれるという体験をすることが希少になっているかもしれないと思うのです。民意がなかなか届かない社会で大人ですらも疲弊してしまう。そして本当は子どもにこそ、その体験やわくわくを伝えたいと思っています。
娘たちはどうだろうか。先日も子の不登校で悩むママに読んでもらいたいと広木克行さんの本を探し出し、栞の挟まったページを開いたら「それな!未だにできていない」と少なからずショックでした。子どもの話を聴くこと、そして待つことです。たまに早く帰って私が対話したい時と子どもが話してくるタイミングは、当たり前ですがことごとく異なり、主体性を育む「うん、わかったよ」の一言もなかなか言えず、「ま、いっか」の連続です。仕事では常に工夫を重ね、執着しているのですが…。
子どもの主体性を育むことに関連して、いつも思い返す文章があります。自分が本当にいいと判断したことをする、それが主体性という言葉のもっともシンプルな定義だと岩川直樹さんは言います。それまで教師の指示に従っていた小学三年生の一人の子どもが、クラス全員が図書室に移動しても教室から動こうとしない。その子の置かれている家庭の状況を知った後、動かない態度と判断がその子なりの主体性だったと気づく。子どもがおとなにとっていい子になることを主体的になることと勘違いしてしまう。問題はおとなの見方にある、と。
仕事と娘たちと社会とを交差させ混じり合わせながら、主体性をもって民主的に進めると良いものが生まれる…。このことを大事にこれからもこだわっていきたいと思います。
<特集> 埼玉特集――街道をゆく
今回の地域特集は埼玉県を取り上げます。
一口に埼玉と言っても多様であり、ほぼ0メートルの県東部の川口市や戸田市に対して、県西部の秩父山地では三宝山2483mと標高差があり、西部の山地を源にした荒川や利根川などの河川があります。こうした地域のなかで歴史が重なり、文化が育まれてきたと言っていいでしょう。
近代以降の歴史を見ると、中山道や日光街道などの街道を中心に人と物の往来で産業が発展し、現代では市街化密集地域、その後に中心市街地空洞化という流れを辿っているところも少なくありません。一方、県都であるさいたま市(旧浦和・大宮市)は東京中心部と直結する強みから都市化が進んでいます。
このように県全体では「日本の縮図のような」と形容されるのと同様に感じますが、街道筋、川筋から埼玉を見ると、独特の地形に多様な建築文化やまちづくりの取り組みがおこなわれているのに気づきます。
埼玉の成り立ちや街道筋と川筋の詳細は、埼玉支部・西沢恒善さんの「埼玉は多彩である」をまずお読みください。今回は主に街道筋で取り組まれている旧市街地の文化を活かしたまちづくりや、都市化を進めている浦和周辺のまちづくり、1990年前後に新建メンバーを中心に取り組まれた上尾市・愛宕の密集市街地での住民主体のまちづくりのその後、埼玉県産材である西川材などを特集します。当時の上尾特集は「住み続けられる『まち』を――上尾の共同建替え」(1990年7月号)に掲載されていますので、参考にお読みください。
多彩な埼玉を舞台に、本年10月3・4日に新建の建築とまちづくりセミナーがおこなわれます。街道筋の町々で取り組まれているまちづくり、それに携わる人たちの思いを本特集で知り、建まちセミナーで直接感じてもらいたいと思います。 担当編集委員/桜井郁子、高田桂子
<ひろば> 東京支部―吉田敬子さんスライド&トーク「のこぎり屋根に魅せられて」
2月28日午後、新建築家技術者集団東京支部の総会が開催された後、写真家の吉田敬子さんによる講演がありました。テーマは「のこぎり屋根に魅せられて」です。「のこぎり屋根」とは、ギザギザに連続した三角屋根のこと。織物工場等として全国にみられましたが、建替えられて無くなってしまったものが多いとのことです。でも、今でも生き残っているもの、アートスペースなどとして再生されているものもあり、例えば、埼玉県入間市の文化創造アトリエ・アミーゴなどが好事例として紹介されました。吉田さんは、全国に残るのこぎり屋根を一棟ずつ訪ね、取材し、その数は三千棟以上。それを写真集「鋸屋根紀行」として上梓されました。これにより2025年の「日本建築学会文化賞」を受賞されました。本日はスライドをたくさん見せていただきながら、鋸屋根の魅力についてたっぷりとお話しをうかがいました。吉田さんとのこぎり屋根との出会いは、とある新聞に掲載されていた小さな写真だったそうです。吉田さんは早速実物を観に現地に飛び、取材。撮影。それがはじまりだったとのことです。
のこぎり屋根は明治から大正、そして昭和にかけて主に織物工場として建設されました。織機を置いてガチャンガチャンと日本の産業をけん引してきたのです。ギザギザの屋根が連続する外観は特徴的で写真に映えます。建物の規模は、母屋に併設した単独の三角屋根から十連以上の三角屋根が連なりレンズに入らないぐらい巨大なものまで様々。外壁については板張り、漆喰、煉瓦など多様。建物の形状についても様々で、群馬県桐生の例は石垣と板張と漆喰の美しいバランス、富山県高岡の例は下屋が付いたプロポーションが美しく、石川県小松の例は雪国の豪雪で埋まっても大丈夫なように背が高くノッポになっているのだとか。北側の高窓は垂直になっているものが多いようなのですが、すこし斜めになっているのもあり、これも地域により異なっているのでしょうか。面白いことに、のこぎり屋根には増築タイプが多いとのこと。最初は三角屋根を1棟だけ建てて事業をはじめ、事業が拡大するにつれて2つ目、3つ目と繋げて増築していったとのことです。こういうことができるのものこぎり屋根の特徴です。この話を拝聴して、小生は、ル・コルビュジェが上野の西洋美術館を設計したときに、とぐろを巻くように増築できるように考えて設計したというのを思い出しました。持続性があるというのか。成長していくというのか、興味深いことです。でも、増築するには接続部分の雨仕舞が難しそうです。屋根の下に庇を付けたり、雨どいの取り付け方を工夫するなどの苦労が見られます。これものこぎり屋根の面白いところ。用の美といったところでしょうか。
「建物から溢れ出る迫力と造形美」と吉田さんは語ります。そして「内部空間が私を虜にした」とも。のこぎり屋根の内部は天井の高い空間が広がり、明るい光が溢れます。北向きの高窓から差し込む光はノースライト(north light)といい、天候に関わらず安定した明るさで、影が生じないので、ものが良く見えます。周りの空気が発光しているようで画家のアトリエにも採用された方法です。これが織物制作にはよい作業環境となったわけです。そして織機を置くためにはベルトを掛けられるように高い天井が必要だった。三角屋根は理にかなっていたわけです。高い天井、広い空間、そしてノースライトを入れるための大きな横連窓。これを造るには小屋組みが大事です。洋小屋木造のトラスから差し込む光は写真で見ても神々しい。これも用の美でしょうね。会場から、連続窓の横長の開口部を支えるのに、横方向の頬杖は無くても大丈夫なのかとの質問がありました。はっきりとは分からないようなのですが、斜めになっている屋根が構造材となって支えているのでしょう。今まで崩れることなく残っているのですから堅牢な構造なのだろうと思いました。宮城県栗原には今でも豊田式鉄製小幅動力織機で織物を生産しているのこぎり屋根の工場があるとのこと。これは東日本大震災の被害から復興したもので、ベルト式織機でないと地元産織物の風合いが出せないのだそうです。
そもそものこぎり屋根の発祥の地はどこか。それは産業革命の国イギリスとのこと。19世紀半ばから動力織機が普及するとともに、それを使って生産するための施設として建てられたミル(mill)です。イギリスの紡績工場は石造りの高層建築が主で、意外なことにのこぎり屋根はあまりカッコいいとは思われていなくて、ミルの間に隠されるように建っているのだそうです。でも、19世紀前半に建てられた「モスコウ・ミル」は今、歴史資料館とショッピングセンターとして再生保存されているのだそうです。日本ののこぎり屋根も残したい。そもそも、その良さを知らなければ、知られずに放置されてしまいます。今日のトークはとてもよい学びの場になりました。(東京支部・露木尚文)


<ひろば> 福岡支部―「春は花見じゃ」企画
福岡支部の恒例行事、今年も舞鶴公園でした。当日はあいにくの雨模様でしたが、12名も集まりました。3月30日の舞鶴公園は7部咲きでしたが、ライトアップされた桜並木を楽しみました。公園内は工事の仮囲いやイベント会場、花見会場の有料化など、ここでも公共空間が商業化している様子は見て取れます。懇親会場のお店に移動し、久しぶりに集まった仲間と和気あいあい美味しいお酒を楽しみました。AIや資材不足など昨今の話題や今後の企画の話も出るなど大いに盛り上がり、明日への英気を養うことが出来ました。(福岡支部・中島健太郎)

<ひろば> 北海道支部―アラミド繊維等に関する学習会
4月10日(金)、北海道支部ではJ建築システム㈱様にご協力いただき、同社社屋にて「アラミド繊維等に関する学習会」を開催しました(平日日中にて参加者は5名)。同社は木造建築を専門とした構造計算や耐震補強等について、自社開発をして第三者機関の評定を取得した様々な技術や構法に基づく合理的な設計・施工等を提案する企業であり、学習会では既存建物等の構造補強等に用いられるアラミド繊維についての説明の他、同社で開発した耐震開口フレームを用いた耐震化(図1)や耐圧版式グリットポスト基礎工法(図2)の他、構造以外にもサーモカメラを用いた断熱診断(各部位のU値を算定)についての説明・提案がありました。耐震開口フレームは、南面での窓(開口部)の集中配置等で耐力壁を配置出来ず耐震化の弱点となる部位について、柱と梁の軸組(枠組み)にアラミド繊維で角を補強した四角形又は門型の木製フレームをはめ込む事で地震等による水平力を負担させ、開口部のまま耐力壁にするというもの。水平に組めば床の剛性強化も可能であり、新築・既存改修を問わず建築計画において自由度が高まるものと思います。支部会員の間ではアラミド繊維補強による木造の接合金物の代用も含め、各々の技術について第三者機関の評定がある事で確認申請等でも利用しやすいこと、また、施工の品質管理をする施工管理責任者の講習会があることが特に好評でした。耐圧盤式グリットポスト基礎工法は、基礎を布基礎ではなく外周基礎と面的な耐圧版スラブを一体形成し、柱脚を受ける位置に専用の束石ブロック(グリットポスト)を配置(耐圧版に金物とアンカーで固定)する工法。掘削や型枠、設備機器や配管等について施工手間の軽減、基礎空間の通気性及びメンテナンス性の向上、腐朽菌発生やシロアリ等の侵入防止等、多数の利点があります。
独創的な技術的提案や事例紹介に触れると色々と触発されます。私は個人的に土間のある住宅が好きなので、耐圧版スラブの一部を土間として利用し、餅つきやDIY、FF式ペレットストーブを設置して炎等を楽しみたいと考えます。1階床下は家全体の換気循環や土間から使う床面積算定外の収納、設備機器のメンテナンス空間、浴槽排水からの採熱等にも利用できそう。また、外周基礎と耐圧版の下も断熱して耐圧版のコンクリートを蓄熱層として利用し、室温の安定(変動幅の最小化)に役立てたい。基礎の蓄熱層利用については以前、(社)北海道建築技術協会専務理事であった故長谷川寿夫氏から「基礎に直射日光を当てる必要がある」とお聞きしましたが、土間なら日光による採熱が可能です。仮に都市部で1階での採光が難しい場合も吹き抜けの内壁に金属板を用い、上階の窓から金属板を通して耐圧版に熱を伝えてはどうか。熱伝導が早い金属板は室内上下の温度差解消にも役立つかもしれません。近年は家屋の高断熱化のために極端に窓を小さくする事例が散見しますが、冬は日光を取り入れ採熱した方がむしろ省エネで快適だと思います。もちろん庇による夏の直射日光の遮断(日差しコントロール)は必須で、庇があれば窓が光らず屋内から庭や借景も楽しめます(名建築「落水荘」の窓にも庇がありますね)。新しい学びは思考の連鎖を生むようです。
北海道支部では4月24日(金)に地中熱を利用した建築システムの学習会を開催する等、様々な分野での学習会企画を開催していきたいと考えています。 (北海道支部・石原隆行)


<ひろば> 第35回大会期 第2回全国幹事会報告
4月11日(土)10:00~16:30、オンラインによる全国幹事会が、19支部43名の参加で開かれました。
はじめに今年1月に逝去された元代表幹事の本多昭一さんのご冥福を祈って黙祷を捧げたあ第35回大会期第2回全国幹事会報告と、中島代表幹事から本多さんの思い出などをお話しいただきました(本誌5月号掲載)。
乾代表幹事の開会あいさつの中で、アメリカ、イスラエルとイランの戦争にかかわるエネルギー問題や私たちの仕事や生活への影響などの情勢が語られました。あわせて3月に発出した「アメリカとイスラエルによる国際法違反のイラン攻撃に強く抗議する」常任幹事会声明が高田さんから紹介されました。
今期の新幹事の自己紹介のあと、各支部から活動報告、各地域の状況などが報告され、①会員の減少や高齢化の進行の中での活動。②工事費の高騰や法令改定および中東問題による仕事への影響。③公共施設が削減と生活インフラの老朽化による市民生活への影響。④公共性なき再開発等の問題。⑤近代建築の破壊と保存運動。⑥規制緩和と大規模開発による景観や環境の問題(順不同)などが、共通的な特徴でした。その他、比較的活動が活発な支部では、定期的なニュースの発行や仕事を語る会(実践報告会)、講演会や見学会、勉強会などが開催されています。
今大会期の「建築とまちづくりセミナー」と「全国研究集会」については複数の開催地候補の中から調整中であること、「新建学校」について、全国会計からの経費補助の要件緩和の報告と開催促進の訴えがありました。研究会活動は子ども環境研究会の報告のみでした。
午後からは、政策、支部ブロック活動推進、WEBの各委員会と災害復興支援会議の4つの分散会に分かれて委員会活動を中心に議論し、あとの各委員会報告の中で紹介されました。前記4つ以外では、建まち編集委員会から、今年の年間特集テーマ「住まいは人権」と各号の特集テーマ案が紹介され、新建叢書委員会からは「居住福祉」と「子ども環境」についての出版計画が報告されました。
新建賞は、募集対象の外部への拡大、部門分け廃止、審査前のプレゼンテーションなどの方針にもとづき、9月の幹事会から募集開始、秋の研究集会を経て来年4月全国幹事会で結果発表という工程が報告されました。 最後に組織、財政の報告の後、藤本代表幹事から閉会あいさつを兼ねて現在の日本の都市問題と私たち専門家の役割についてのお話があり、次回の全国幹事会は9月12・13 日に東京に集まって開催することが報告されて閉会しました。
(全国事務局長 大槻博司)
