建築とまちづくり2025年2月号(NO.549)

目次

<目次>

特集
明日を拓く建築まちづくり活動
――第33回新建全国研究集会in奈良

川本 真澄
第三三回新建全国研究集会概要報告
――充実した六年ぶりのリアル開催

瀬尾 真司
全国研究集会奈良 上野邦一先生講演 報告

伴  年晶
「なべかつ」から学ぶ建築最終章

新建全国研究集会 報告一覧

分科会報告

渡邊 有佳子
面影を大切にする住まいのリフォーム

佐藤 未来
地域にある保育園
――どこまでごちゃまぜ?

大塚 謙太郎
暮らしの幅を拡げるセカンドキッチン

浜崎 裕子
縮小社会の中での持続可能なまちづくり
――近年も人口増加を続けるシニアタウン・美奈宜の杜(朝倉市)

乾  康代
原発事故がもたらす環境影響汚染地域で住まうこと

見学会

連載
失われた町、受け継がれる舎<いえ>(7)
激震のあと
中尾 嘉孝

社会派 聖地巡礼(2)
ハリー・ポッターの食堂
中林 浩

主張
答えを見つけにくい時代に模索と葛藤を続ける
岡田 昭人

新建のひろば
北海道支部――2024仕事を語る会と忘年会を開催
福岡支部新建学校――20世紀の建築空間遺産

大塚謙太郎  キッチン関係 調査・研究報告書
「保育所における園児によるクッキングに関する調査・研究」
https://www.interior.or.jp/assets-before/association/contents/subsidy/data/ks_r01_2.pdf

<主張> 答えを見つけにくい時代に模索と葛藤を続ける

岡田昭人  かたちつくり研究所/全国幹事会副議長

 これまで先人たちが築いてきた民主主義的な制度や、多様性への理解や共生、気候変動への危機感の共有やその対応など、社会的に蓄積してきた私たちの共有資産が崩れてしまうのではないかと思えるほどの昨今の状況に、自身の無力さを感じています。社会発展の一時的な揺り戻しなのだと言い聞かせながら、私たちはこの状況でなにを指針に暮らしていくのか、仕事や活動をしていくのか不安な日々を過ごしている方も少なくないと思います。
 アメリカのトランプ新大統領は就任早々、自国第一主義ともいえる大統領令を濫発し、国内の分断だけではなく国際社会との軋轢を増しているように見えます。他の諸国でも右翼政党が議席の多数を獲得し、アメリカと同様に自国を優先し、気候変動や貧困、難民問題などに対して、人類共有の課題としてきたものと異なる自国優先の施策をとろうとしている国が目に付くようになりました。
 2000年に初版が出されたロバート・D・パットナムによる「孤独なボウリング:米国コミュニティの崩壊と再生」は、アメリカ社会における家族、地域社会、ボランティア活動など、人々が互いに協力し合い、支え合うことで生まれる社会的なつながりを指す「社会関係資本」の衰退を論じた社会学の古典的な著作です。また、宇沢弘文は、自然環境、社会的インフラ、制度資本(教育、医療など)など、社会全体が共有する資源を「社会的共通資本」と呼び、市場経済のみに頼らない、より人間らしい社会の実現を目指し、「社会的共通資本」を重視した経済システムの構築を提唱しました。パットナムと宇沢弘文の、似ているようで異なる視点から両者を統合的に考える機会をつくっていくことは、地域のコミュニティや人のつながりを大事にしようと活動している私たちにとって、現代の困難な状況への答えを見つけ出し、課題を解決していくための方向性を見出していくのに重要なことだと思っています。
 一方で近年「利他」という言葉を聞くことがあります。利他は、自己よりも他者を優先し、積極的に貢献しようとする考え方です。利他的な行動は、社会全体の幸福度を高め、より良い社会を築くために重要なことだとされています。利他行動の動機や背景にはさまざまな要因が複雑に絡み合っているため、それぞれの行動について一概にこれが利他と断定することができないこともありますが、大事な概念だと思います。
 いったん始まった戦争や紛争が、なぜすぐに止められないのか。なぜ分断や対立は深まり、格差は広がる一方なのか、自国第一主義を掲げ、協調や対話に背を向ける指導者にどう対峙すればいいのか。どうして空き家が増えているのに、高層マンションが次々と建てられていくのか、などすぐには答えが見つけられない状況だからこそ、性急に答えを求めるあまり、わかったつもりになって本質を見失う落とし穴に嵌り込まないようにしたいと思います。
 混沌とした状況で、問題の本質を見抜き、解決策を見出そうとすることは重要ですが、限られた時間のなかで、正しいと思われる答えを導き出すことはかなり困難な状況でもあります。わからない不安定な状態で置かれるのは気持ちのいいものではありませんが、あきらめや思考停止、問題から目を背けることはできません。
 言い古され、青臭いと言われても、私たちは理念とミッションによって行動したいと思います。地域との関係を大事にし、市民や共同体とともに、日々の活動を行なっていく。そこではすぐに答えは出なくても、問題の所在を明らかにして体験を通じてわかりやすく解決策を示し、なにが最善なのか自問自答を繰り返す。ディールや脅し、利益を目的に動くのではなく、寛容と包摂に基づく健全なソーシャルキャピタルの構築のための活動を続けたいと思います。

<特集> 明日を拓く建築まちづくり活動――第33回新建全国研究集会in奈良

第33回新建全国研究集会は、2024年11月30日から3日間、奈良市・奈良女子大学で開催されました。
 オンラインで行った第32回は、全国どこからでも参加が可能であり、連続の分科会、会員以外の報告も多くあり工夫を凝らした研究集会でした。
 コロナ禍を経て、犬山の研究集会から6年ぶりになる対面での研究集会は、議論が深まる手応えが感じられたのではないでしょうか。
 それだけでなく、再開発による地域破壊、物価や資材高騰、気候変動の深刻化、ウクライナなどでの地域紛争の激化など、前回の研究集会からをみても世界で、国内で大きな変化が起こっており、未来を見通す困難さが浮き彫りになっています。
 7分科会60編の報告は、建築から教育、住まい続けるための戸建住宅やマンション、子どもや高齢者・障害者を区別しない新しい形態の暮らし方という明日を拓いていく建築とまちづくり活動が報告されました。
 その中からすまい、まちづくり、保育園のあり方、原発と環境の4テーマ、5氏の報告を紹介します。あわせて記念企画と見学会の報告を掲載します。  特集担当/髙田桂子

<ひろば> 北海道支部―2024仕事を語る会と忘年会を開催

 2024年は支部例会として、住宅の完成見学会、外断熱セミナー、勉強会など定期的に行っています。11月15日には、札幌エルプラザにて2年ぶりに「仕事を語る会」を行い10人が参加し、4人が報告し交流しましたので紹介します。
 奈良さんは今回初めての報告で、「建築における3DCGの活用事例」についての紹介で、新築時や改修時に外観や内部をどのように建築主に説明しているか、映像で紹介することの必要性を事例を通して紹介していただきました。旭川市では歴史的建造物の保存再生を行うため、新築時の写真画像から作成し、現状の外観をどう修復していくかとても有効であることを話されていました。
 高橋さんは、勤務先で行った社内研修「住宅の断熱等級・BEI研修」について紹介していただきました。現在の北海道の断熱等級5(Ua=0・40)が世界基準にあることを最初にふれて、断熱の基本である室内に蓄えられた熱の移動(熱損失)をどう抑えるか、断熱材の種類と窓硝子の構造と性能についてを説明し、後半ではUa値とBEIについての関係性にも触れました。
 白田さんは、長年取り組んでいる「構造材内部現わしの工法」をテーマに、2025年4月からの木造4号建築物の法改正にともない、今後の法に適合させることについてどのような対応が必要となるのか、これまでの設計事例と合わせて紹介されました。
 私(大橋)からは、「確認済証、検査済証のない建物の増改築」について、特に確認申請について紹介しました。EXP・Jで構造体が分離されていても既存建物が確認申請、完了検査を受けていない建物へ増築する場合、「既存建物の構造基準を初めとする法適合」が求められたケースです。
 今回は一つ一つの報告がハードな内容で、実務に役立つと好評でした。
 仕事を語る会に続き、12月14日には毎年恒例の忘年会を私の事務所で行っています。12名の参加でした。昨年は久しぶり構造事務所の方の入会がありました。忘年会には、新建入会していない20代の女性も去年に続き参加し、建築士試験に合格した報告もあり盛況でした。(北海道支部・大橋周二)

<ひろば> 福岡支部新建学校―20世紀の建築空間遺産

 東京支部の小林良雄さんが講師を務める新建学校「20世紀の建築空間遺産」の最終回が、昨年12月12日にリアルとオンラインで開催されました。5回におよぶ連続講座全体を通した感想を報告します。
 20世紀建築は前半のモダニズム建築と、それ以降の建築で大きな断絶があるように一般には言われます。筆者もその理解に沿って捉えていましたが、今回の講座のディテールからは、個人的なテーマ設定も発見できました。そのテーマは、時代により変容する建築の機能であり、地域・歴史・環境などへの適応です。紹介された各年代の建築形態は一見多様な変遷に見えます。ただそれらは、人間と建築が時代ごとに取り結ぶ豊かな機能的関係に従って、形態を変化させた結果ともいえます。その意味で、建築の機能が開かれてゆく過程が見えるようでした。まず印象的だったのは、第1回のウィーン郵便貯金局(O・ヴァーグナー)とロビー邸(F・L・ライト)です。これは20世紀初めに新しく時代を作っていく市民層の生活環境に適応する建築の試みに思います。
 郵便貯金局は自然光を二重ガラスで柔らかく取り入れたホールが有名です。しかし特に小林さんが紹介された地下階の写真では、そこから見上げる不透明ガラスの床には一階の活気が伝わるようでした。それは荘厳さを誇る19世紀の石造建築と対比する軽やかな空間でした。一部富裕層に限られていた貯蓄の空間を半開放の上下空間で包み込み、新しく貯蓄を始めた市民層に開かれる場所であることが感じられました。
 またロビー邸での空間分析は白眉でした。この新興企業家の住宅は各室を関係づけるコアプラン、新建材と開口部で緩やかに外部とつながる構造が後に大きい影響を与えたとされます。ただそれ以上に小林さんの分析で印象的だったのは、玄関と内部空間のあり方でした。それは伝統的な邸宅のように大通りの正面に構えられた大扉と広間ではなく、サイドの小さな玄関に回ってから屋内に入ります。その中には格式ばった広間でなく、居間・厨房など各機能を持ちつつ、石造の間仕切りと違い連続性を保った一室の広々とした空間があります。写真と解説からは、その空間が当時いかに機能的かつ開放的・魅力的だったかを感じられました。その連続性は庭にも開かれていて、自然な形で子どもの遊び場が配置され、大人の視線とも緩やかに交差するような精妙な配置をしています。個人がそれぞれの居場所を尊重しながら、個人に閉じた閉鎖的空間でなく、共有の場所を持つコミュニティに居合わせる。建築そのものも外部の環境に接続し調和しながら、そうした共有空間を現す。住む人間と空間の関係性を育む20世紀建築の特徴が、写真を見る以上に小林さんの図と解説によって鮮烈でした。小林さんもたびたびライトに触れられたように、このロビー邸の手法が20世紀建築の一つの軸ともいえます。
 第2回のシュレーダー邸やサヴォワ邸でも、広々とした一室空間を住人の生活の機能と融合させ、外の環境との調和性を高める試みでした。これらは20世紀前半のモダニズム建築と言われますが、後半の講座でも、ライト的モチーフを感じられました。ただしそれはクライアントや建築単体の機能の調和にとどまらず、地域との関係や歴史性まで含みこむ、拡張された機能に開かれたものに思えます。
 たとえば第3回のエコノミスト・ビルでは、ロンドンのシティという歴史的地区への景観的な配慮と、敷地内の経済活動や快適性を高度に結び合わせたプランに感じられました。またユニテ・ダビタシオンでは、一部難点や限界はありながらも、富裕層ではない一般市民の住宅の質とコミュニティ形成のための内部空間を、高層化と周辺緑化の手法のなかで目指したようでした。
 第5回のドイツ国会議事堂では、頂上のガラスドームまで市民が入ることができ、明るく開放的というだけでなく、かつての暗い歴史を相対化するかのように設計されています。一度モダニズム建築が否定したとされる歴史的要素を、市民がその場で体感できる仕掛けとして建築の機能が入り込むように感じました。このように20世紀建築が狭い意味での人間生活の機能を満たすだけでなく、環境・コミュニティ・歴史もその機能として実装を目指す。100年にわたる各建築のなかに、そうした営みを感じられた講座でした。 (福岡支部・笹野正和)

事務所移転のお知らせ

全国事務局移転しました
1月下旬に新建全国事務局と東京支部が移転しました。
同じ新宿区内で住所のみの変更です。
〒162-0801 東京都新宿区山吹町361番地 誠志堂ビル3階
TEL:03-3260-9800 FAX:03-3260-9811 Email:shinken@tokyo.email.ne.jp

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