緊急アピール
被災者主体の復興の道をめざして
̶̶国交省直轄調査による「計画策定⽀援」への懸念̶̶
呼びかけ⼈(50 ⾳順)
阿部重憲(新建築家技術者集団宮城⽀部)
⽷⻑浩司(元⽇本⼤学教授/NPO エコロジーアーキスケープ理事⻑)
遠州尋美(みやぎ震災復興研究センター事務局⻑)(本アピール事務局・問い合わせ先)
岡⽥知弘(京都⼤学名誉教授)
⼩川静治(東⽇本⼤震災復旧・復興⽀援みやぎ県⺠センター事務局⻑) 窪⽥亜⽮(東北⼤学⼤学院教授)
塩崎賢明(神⼾⼤学名誉教授・みやぎ震災復興研究センター顧問/兵庫県震災復興研究センター共同代表)
鈴⽊ 浩(福島⼤学名誉教授/元福島県復興ビジョン検討委員会座⻑)
⽥中純⼀(北陸学院⼤学教授)
⽥中正⼈(追⼿⾨学院⼤学教授)
⾼林秀明(熊本学園⼤学教授)
千代崎⼀夫(全国災対連世話⼈/住まいとまちづくりコープ代表)
出⼝俊⼀(兵庫県震災復興研究センター事務局⻑)
寺⻄俊⼀(⼀橋⼤学名誉教授)
⻑⾕川公⼀(尚絅学院⼤学特任教授・みやぎ震災復興研究センター副代表)
増⽥ 聡(帝京⼤学教授/東北⼤学⼤学院教授)
丸⾕博男 (新建築家技術者集団能登半島地震復興⽀援本部⻑)
村井雅清(被災地 NGO 恊働センター顧問)
能登半島地震で被災されたみなさま、⼼からお⾒舞い申し上げます。⼀⽇も早く、くらしとなりわいの再建がかないますことをお祈り申し上げます。
国⼟交通省(国交省)は、令和6年3⽉ 22 ⽇、能登半島地震復旧・復興⽀援本部第 4 回会合において、能登地域7市町(輪島市、珠洲市、能登町、⽳⽔町、七尾市、志賀町、中能登町)を対象に、予備費による直轄調査を実施する計画策定⽀援スキームを公表しました。このスキームは、未だ⽇々のくらしと⽣命を維持することが最優先の状態にある被災者に分断と対⽴を持ち込み、復興後のくらしやまちのあり⽅を相互討論する機会を奪う危険を孕むものです。
その危険とは、同計画策定⽀援スキームが⽰す復興まちづくりの計画策定プロセスにあります。スキーム図では、[①「復興に向けた⾸⻑メッセージ」➡②「復興ビジョンの策定」➡③「検討委員会発⾜」➡④「住⺠意向調査の実施」➡⑤「復興まちづくり計画策定」➡⑥「事業実施」]というプロセスが想定されています。しかも、国交省が直轄調査により計画策定⽀援をするのは、②「復興ビジョンの策定」部分であり、調査⽬的は、地域特性と被災状況の把握です。調査項⽬には住⺠意向の把握はなく、それにも関わらず、「復興の⻘写真の検討」が含まれています。仮にこのスキーム図の想定通りのプロセスが踏まれるのなら、「復興ビジョン」は単なるスローガンではなく、復興の⻘写真を⾔語化した「復興像」であり、「⾸⻑メッセージ」が反映しているとしても、被災して、そのダメージのもとで⽇々のくらし、⽣命をつないでいる被災者の声は反映されないものになってしまいます。
さらに懸念されるのは、復興ビジョンを絵に描いた餅に終わらせず、実現可能性を持たせようとすると、いきおい、既存の制度・⼿法をビジョン実現⼿段として想定しがちだということです。実際、東⽇本⼤震災における復興構想会議(構想会議)の「提⾔」には、防潮堤、⼆線堤、浸⽔地域からの住宅の移転と嵩上げ市街地の整備や⾼台での住宅地整備のイメージ図が描かれ、その実現⼿段としての防災集団移転促進事業まで図解されていました。制度・⼿法は、適⽤要件、補助⾦、あるいは私権制限を伴うので、適⽤・不適⽤で、便益を受ける⼈、受けない⼈、不利を被る⼈、免れる⼈が⽣まれます。能登半島地震からの復興ビジョンでも同じことが⾏われれば、被災者の対⽴や分断の⽕種となるのではないかと危惧するものです。
この危険は、政府も気づいていないわけではありません。例えば、内閣府(防災)及び内閣官房は、令和6年2⽉ 22 ⽇「復興まちづくりに当たっての参考資料〜令和6年能登半島地震からの被災地再⽣へのみちしるべ〜」を公表し、その中で「復興まちづくりの検討にあたっての基本的考え⽅」(「基本的考え⽅」)として、復興まちづくり「の検討に当たっては、まず市町村において地域住⺠の意向を丁寧に伺うとともに、まちづくり協議会など地域の意⾒を集約・形成していく場をつくり、それを活⽤してしっかりと議論を重ねることが⼤切」だとし、「こうしたプロセスを経て、地域の将来像とその実現⼿法を復興まちづくり計画として取りまとめ」ると、ボトムアップによる計画策定の必要性を述べています。復興の⻘写真に反映させる被災者の意向とは、アンケート調査の集計ではなく、「地域の意⾒を集約・形成していく場」で「議論を重ね」てまとめ上げるのだと釘をさしているものと思います。
被災から3ヶ⽉を経た今の時点でも、能登半島地震の被災者の多くは、1次避難所、2次避難所、建設型応急住宅、賃貸型応急住宅、在宅などの所在場所の別に関わらず、依然として⽇々のくらしと⽣命を維持することが最優先の状態にあり、被災前の近隣住⺠同⼠が相互に意思疎通をはかって、復興後のくらしやなりわい、地域社会のあり⽅について主体的に考え、議論できる環境にはありません。加えて、被災住宅の解体撤去や⽡礫の処理だけでも相当な期間を要することが予測され、避難の⻑期化も避けられそうにもありません。被災者の置かれた状況を考えれば、被災者の当⾯のくらしを保障し、同時に被災者同⼠がコミュニケーションできる条件を整えることに相当な覚悟と資源を費やすことが先決であって、それなしに「基本的考え⽅」を貫くことは不可能だと考えます。
以上の認識にそって、私たちは、復興まちづくり計画の策定⽀援を⾏うことに優先して、「基本的考え⽅」にあるように地域の意⾒を集約・形成していく場をつくることが可能となる条件の確⽴に努めることを求めます。すなわち、(1)罹災判定や災害救助法による応急救助、公費解体、被災者⽣活再建⽀援⾦の申請はもとより、復興事業においても期限を区切ることなく、被災者がくらしとなりわいを取り戻すまで、⽀援を打ち切ることなく継続することを明確にしてください。
(2)在宅避難も含めて、避難が⻑期化したとしても、避難期間中の居住環境、医療、介護、就学条件など⼈間らしい暮らしに必要な⽀援については、「災害救助法による救助の程度、⽅法及び期間並びに実費弁償の基準」を抜本的に改めて、罹災判定や前例にとらわれることなく万全の⽀援を⾏うことを約束して、被災者の安全・安⼼を確保してください。
(3)罹災判定に関わらず、全ての被災者にアウトリーチして被災者の声に⽿を傾け、寄り添いつつ、くらしの維持、再建にかかわる情報を届け、分散した被災者間のコミュニケーションを取り持つ伴⾛型システムを官⺠共同で築き上げ、維持できるように、財政的な裏付けと被災者情報の共有を⾏い、その取り組みを通じて被災者⼀⼈ひとりの意向の把握とその集約を⾏うことができるようにしてください。
(4)「基本的考え⽅」が⽰すように、「被災された⽅々が、再び住み慣れた⼟地に戻って来られるよう、そして⼀⽇も早く元の平穏な⽣活を取り戻せるようにすることが何よりも重要」であるとしても、被災者が「再び住み慣れた⼟地に戻」るか否かは、最終的には被災者⾃⾝が決めることになります。被災者が⾏う選択にかかわらず、全ての被災者が⼈間らしいくらしを取り戻すことができるように万全の⽀援をおこなうことを明確にしてください。
問い合わせ先:アピール事務局 遠州尋美
https://miyagishinsailabo.com/proposal_on_noto_earthquake/
国交省計画策定支援スキーム図,及び内閣府・内閣官房による復興まちづくりの検討に当たっての基本的考え方(令和6年2月22日「復興まちづくりに当たっての参考資料~令和6年能登半島地震からの被災地再生へのみちしるべ~」より抜粋)