<目次>
特集
東日本大震災からの復興10年目の実相
東日本大震災からの教訓
──まちづくり復興の事例に学ぶ 室﨑 益輝
津波被災地の復興まちづくりと今後~現地レポート~
《宮城県石巻市》 苅谷 智大
《岩手県大船渡市》 佐藤 隆雄
《宮城県気仙沼市》 阿部 俊彦
《宮城県山元町》 阿部 重憲
《岩手県陸前高田市》 神谷 秀美
《座談会》東日本大震災・復興再建まちづくりからの教訓
塩崎 賢明 苅谷 智大 佐藤 隆雄 阿部 俊彦 阿部 重憲 神谷 秀美
長期避難を強いられる原発避難者 丹波 史紀
故郷を奪われた原発被災者の超長期広域分散避難
──町外コミュニティのネットワークで支える 佐藤 滋
◆新建のひろば
東京支部──2020オンライン連続講座 ドキュメント「アメリカの建築」
◆連載
《建築の保存とは何か 3 》登録文化財としてそのまま復原してもお客は来ない…… 磯田 節子
《日本酒蔵紀行 9 》海南市黒江 渡邊 有佳子
《都市の緑 3 》通りに緑を出す 大原 紀子
「建築とまちづくり」アーカイブス
<主張>全国の仲間と気軽に交流をする居場所を
甫立浩一 (株)宮工務店/全国常任幹事
昨年、新建設立50周年を無事に迎えました。コロナにより、実際集まることができなくて、各支部の企画や全国研究集会もオンラインで行わなければならない状況となりました。使い慣れないものへの抵抗もありましたが、手書き図面がパソコンのCADになったようなもので、慣れてしまえば、使い勝手の良さも知ることとなりました。
オンライン会議では、全国の仲間の元気な顔を見ることができます。初めましての方がいても、新建特有のフラットな関係が心地よく、気軽に意見交流ができることを感じています。1月には、山形にいる藤本昌也さん、左官職人の福田さんら4人での集まり、2月は第5分科会の準備会で集まり、大阪と奈良の3人での仕事の近況報告や意見交換をしました。
京都支部の企画「遠くの会員リレートーク」では、沖縄在住の方のお話を聞けました。他の支部でも、メーリングリストで他県への会員へ参加を呼び掛けて、オンラインでの企画参加が少しずつ広がってきているように感じています。
そんななかで感じていたことが、「全国の会員さんの近況が知りたいな」でした。「コロナ禍の中で元気にされているのかな?仕事はどうなのかな?」という思いでした。SNSでの発信や新建全国のメーリングリストやオンライン会議に参加をされている方は、近況を聞けているのですが、その他の会員さんは、どうなのかなと思っていました。
研究集会の第5分科会で発表をしていただいた、漆喰九一の福田さんは、毎月第3土曜日の午後に「漆喰サロン」というお茶会を開催しています。目的は、「地域の方との交流や会社に興味をもってもらい、おもてなしの心と所作を身につけ、人と人の新たなつながりを生み、その結果、若い職人さんとの出会いと入社、お客さんの細かなニーズやセンスに触れられること」と聞きました。
みなさんの中で、自分の仕事を「全国研究集会の分科会」で発表をするのはちょっとなぁと思う方もいると思います。「仕事を語る会」でも少し荷が重い方もいるかもしれません。もし、顔を見ながら、もっと気軽に意見交流ができる場だとしたらどうでしょうか?
愛知支部の幹事会では、会議の前に必ず「近況報告」をしています。幹事の方の仕事や家族、趣味や興味のあること、孫が生まれた、山登りをした、腰が痛い、介護をしているなど、気軽に話し合い、色々なことを交流しています。その結果、今は良いチームワークが生まれて、新建活動以外でも、色々な相談ができる集まりとなっています。
石川支部からは、「昼食時にオンラインでの中部ブロック会議を開催したい」と提案されました。昼食を食べながら限られた時間というのが、気軽で良いと思いました。オンラインでの会議や飲み会でも2時間を超えてくるとさすがに辛いです。
今年の秋に全国大会があります。常任幹事会では「議案作成」の議論を始めています。議案を作ってから、意見を出してもらうのではなく、意見を出してもらいながら、議案を一緒に作るように変えていこうとの意見もあります。
全国の会員の方たちとの「気軽に交流できる場」を今年は、始めていこうと思います。そのことについては、みなさんからのご意見をいただきたいと思います。ぜひ、新建全国メーリングリストに登録をしていただき、積極的な意見から、ゆる〜い意見まで、気軽に交流ができたらよいと思っています。「新建の外へ打って出る活動」や「PR活動」へのヒントなども、みなさんと意見交流できたら、見つけられると思っています。
<特集>東日本大震災からの復興10年目の実相
『建まち』ではこの間、計8回の特集を組み、その時々の復興の様子や活動状況、さらには復興をめぐる問題、課題についての論考等を紹介してきた。東日本大震災は、被災地が東日本全体に及ぶことや福島第一原発事故という国のあり方の根幹に関わる惨事に直面し、問題が複雑多岐に亘り、個別の復興の取り組みは報じられても、自治体ごとの復興まちづくりの全体像が見えないという指摘がある。
今回の特集は、この点も意識しながら、「津波被災地の復興再建まちづくりと今後」、「超長期避難、故郷離脱を強いられた原発事故被害者」という二つテーマを取上げる。
復興再建まちづくりについては、これまでの災害復興史なども踏まえた東日本大震災の復興まちづくり(防災集団移転促進事業、被災市街地復興土地区画整理事業、津波拠点整備事業他)の教訓を明らかにする。現地レポートと執筆者による座談会の中では、都市基盤・インフラの整備と被災者の住宅再建が対立関係に陥りやすい状況と調整のための奮闘や、住宅再建において自力(的)再建が重要になることなどが、紹介されている。これらは、間近に迫る南海トラフや首都直下地震の復興まちづくりのあり方を考える際の教訓にしていただきたい。
超長期避難については、発災後10年、今もなお苦難の避難生活を強いられている原発事故被害者の心と生活についての実態と、広域避難者を対象とする町外コミュニティのネットワークについての論考を紹介する。
特別編集委員/阿部重憲 担当編集委員/松木康高
<ひろば>東京支部――2020オンライン連続講座
ドキュメント「アメリカの建築」
本講座は、建築家ロバート・スターンが案内役となり、建国時からポストモダンまでのアメリカ建築を概観するドキュメント映像を観て、アメリカ建築の歩みを概観し、ヨーロッパとも、日本とも違うアメリカ建築の実像を勉強してみようという企画です。その講座内容は、各回45分程度のドキュメント映像を観て、プレゼンターが補足説明や意見感想を述べ、その後受講者のみなさんで自由に発言していただく形態で進めました。毎回アメリカの歴史、風土、文化、社会、なども垣間見られる、大変に興味深い内容でした。また、今回は企画部としては初めてのZoomによるネット配信で、新建事務局を操作拠点として運営しました。
第1回9/30 象牙の塔
(担当 五十嵐一博)
大学や研究所など英知の拠点=「象牙の塔」建築をどのように作り上げていったか。街とのつながり、大学に相応しい建築様式とは?などが取り上げられました。
第2回10/14 夢の館
(担当 柳澤泰博)
人々はどのような家に夢を持ったのか?時は経済発展の時代、1900年代大富豪が現れ、「夢の館」として豪邸が作られ、そして資産が尽きたとき正に「夢の館」となる建築。
第3回10/28 郊外・市民の理想郷
(担当 鎌田一夫)
経済発展とともに、郊外住宅が出来、大規模開発住宅群が計画されできていく過程を追っています。日本の公団住宅などにも影響を与えた計画案もあり、現代に通じる再開発事例なども紹介されました。
第4回11/11 リゾート・人工の楽園
(担当 伊藤寛明)
経済が潤沢になると、リゾート、娯楽が大きな経済活動のキーとなり、鉄道、自動車など交通機関の発達により、郊外型テーマパークや、「人工の楽園」として現在のディズニーワールドにもつながる世界を形づくる流れでした。
第5回11/25 人、集まるところ
(担当 澤田大樹)
人が集まるところとして、働く場所、商業施設、議会棟などが取り上げられています。後半の意見交換では、ライトのマリン庁舎の内部回廊から、大阪の船場ビルの内部空間、そしてパリのパッサージュにも話がおよびました。
第6回12/9 摩天楼
(担当 小林良雄)
アメリカの経済活動の発展とともに19世紀後半からシカゴ、ニューヨークを中心に建てられた「摩天楼」の、その歴史的背景と社会的な状況から双方の違いもありました。現代超高層につながる高層ビル群の流れも見て取れました。
第7回12/23 都市と公園
(担当 浅井義泰)
デトロイト、シカゴ、ワシントン、ニューヨークなど都市の性格の違いから、産業仕事活動の場と憩いの場としての公園との関係の違いなどが浮き彫りになり、都市型公園の緑地自然の考え方、手法など興味が尽きませんでした。
毎回30人程度の受講者があり、全国からの会員や非会員の参加者も多く、受講者の方からは好評な感想をいただきました。アメリカの建築を通して、これからの住まい、都市、社会活動、経済などを考えるきっかけになる面白い講座となりました。(東京支部・柳澤泰博)
参加者感想
▼講座案内をいただいた時、すぐ申し込みました。NHKの放送を当時見ましたが、ほとんど理解できないまま印象だけ強く残っており、このような機会を待っていたからです。今回は講師陣から丁寧な解説があり、理解が進みありがとうございました。R・スターン氏の解説は私にはわかりやすく、特に建築と市民の関係性の観点で、「現代建築に問題あり」の立場からの解説は納得できるもので、また皮肉を含んだ翻訳も気に入りました。
今までは教科書の建築物をただただ眺めるだけの見物人でしたが、講座を通して建築の背景、設計思想等を知り、少しばかり見物から鑑賞に近づいたと気を良くしております。また、ボザール、アールデコには入門書が多数ありますが、その他については少なく今回は貴重で、ますます各地を訪問したい気持ちがわいてきました。さらに各所にF・オルムステドが登場し彼の足跡の大きさを感じました。日本には珍しい景観エンジニアリングとでもいうのでしょうか。最後に、「摩天楼」でのアールデコのアメリカンカンパニー銀行(40Wall Streetビル)の説明に設計者の松井康夫の名を出していたのは嬉しかったです。(千葉支部・浅見真一郎)
▼アメリカは歴史のない乾いた国家という印象で、建築物もその国の文化に沿ったものというよりは、新興、開発、資本主義の象徴としての建築という印象で、あまり興味がありませんでした。過去には奴隷制度の上に富の基盤を築き、公民権運動から半世紀以上経った現在も黒人差別が蔓延していることも、好きな国といえない大きな理由でした。
ところが2年前に息子の住むロサンゼルスに行き、息子を通じて人々の生活に触れるなかでアメリカに対する印象が変わりました。周辺地域では古いミッションリバイバル形式の情緒的な建築群も見られ、アメリカの建築の歴史をもっと知りたいと思っていたところ、今回の講座を知り参加させていただいた次第です。ロバート・スターンの番組映像にはほとんど黒人は映っておらず、アメリカの名建築が白人社会の象徴のような印象も受けましたが、それも含めて興味深く視聴しました。なにより、ご担当者の解説と参加者みなさまの議論が大変素晴らしかったです。紹介のあった映画「ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命」や「市民ケーン」「華麗なるギャッツビー」もネットで視聴し、より理解が深まりました。(奈良支部・岩城由里子)
▼昨年9月30日から隔週で全7回開催されたオンライン講座「アメリカの建築」、第1回は参加できませんでしたが、2〜7回に参加しました。第6回「摩天楼」がテーマの回では、1997年にシアーズタワーから撮影した映像と、2015年シカゴ市内の映像を比較し紹介する機会もいただきました。東京支部の企画でありながら、北海道支部3名が参加しました。今回のドキュメントは20年前のものと説明がありました。私が三沢浩先生に同行して初めてアメリカへ行ったのは、1997年、2008年まで10年も続き、私自身はコロナ禍前の2019年まで、アメリカへ何度か行っていますが、その都度ライトの建築や街並みを見学しています。
なんと言っても、今回の企画で一番良かったことは、それぞれの回を担当された方の映像終了後の解説、年表、図面、資料による説明で、貴重な資料になると思います。ここに三沢先生が参加されていれば、どのような議論になっていたか毎回のように参加した札幌の3人で話をしていました。私は視聴後感想をメールでお送りしていましたが、特に印象に残ったのは第2回です。第2回「夢の館」では、バーンズドール邸が紹介されましたが、私が1997年に見学した時、残念なことに工事中で内部は見られませんでした。しかし今回の企画で内部の映像を見ることができました。柳澤さんの解説が明快でした。もっとも印象に残ったのはハウス6です。ピーターアイゼンマンはベルリンのホロコースト慰霊追悼碑で名前は知っていましたが、インタビューで「建築は生活ではない、神との対話」などと表現されていたことには違和感がありました。富の集積がもたらす一つの形として「建築」に集積された時代があったことを記憶にとどめたいと思います。
建築史や有名建築について、経験や年齢の違いを超えて意見交換を行う、なかなかできないことです。若い方は勿論、高齢であっても発言は躊躇します。しかし、新建ではその垣根を超えて、先輩たちは話しを聞いてくれます。こういう会話をいつ、誰と経験するかで建築の見方も変わると思います。私の場合は三沢先生でした。率直に自分の感想やどういうことを聞きたいのか、はっきり言うことでその距離も縮まりました。新建には経験豊富な先輩、若いときから蓄積されている方々がいらっしゃいます。コロナ禍でのZoom企画はその距離を埋めてくれることになると思います。企画を準備された事務局の柳澤さん、澤田さんお疲れさまでした、2021年の企画も楽しみです。大いに刺激ある企画をお願いします。(北海道支部・大橋周二)