建築とまちづくり2021年12月号(NO.514)

建築とまちづくり誌

<目次>

<主張> 当事者の声を掘り下げて多様性の時代に応える

 新建全国大会が11月21日に行われ33大会期が始まった。
 32大会期は新建設立50周年のさまざまな企画や新建全国研究交流集会により、全国の会員の実践や意見を聞く機会がいつになく多い二年間だった。オンラインということもあり、近くにいてもなかなか話せない人、遠い地域の人たちともいつもより多く話せたのではないかと思う。その中でいくつかの気づきがあり、私にとってこの二年間は実りあるものだった。同じ思いの会員は多くいるはずだ。
 そのなかであらためて自分の仕事を振り返ることができたように思う。
 民間の福祉施設建設に関わって30年になる。人権を守る建物づくりは、福祉施設づくりには共通の課題だが、障害者福祉分野については、この30年間に人権に対する考え方とそれにともなう建物の形態に大きな進歩と変化があったととらえている。
 私が印象深く感じている障害者の暮らしの場が3つある。
 以前勤めていた設計事務所が関わった「平和の家」、とも企画設計で関わった「樹林の家」、全国研究集会の分科会で報告された風土計画で関わられた「はたけのいえ」(福岡)である。「はたけのいえ」は後にNHKで紹介されたので番組を見せてもらった。
 1991年完成の「平和の家」は居間を囲む6人で1グループ。6グループの小舎で構成された障害者入所施設である。1981年の国際障害者年を契機にノーマライゼーションの理念が広まるなかでも、個室を含む部屋割りや小舎制など先進的な入所施設であった。しかし、40名規模の入所施設を建設するには、日中の働く場も含めて4000㎡以上の敷地が必要であり、住民の建設反対にあうことも多く、東京では人里離れた場所になってしまうことが多かった。「平和の家」も例外ではなく八王子市内の山間地であった。
 「樹林の家」は東京都府中市にある障害者のグループホームで2016年に完成した。居間を囲む5人の個室で1グループ。2グループで10 人の暮らしの場である。運営する法人は早い時期から共同作業所に医療的ケアが必要な重度障害者を受け入れており、「樹林の家」も重度障害者に対応するグループホームとして開設した。立地は第一種低層住居専用地域で、隣接して新旧の住宅地が広がっている。誰の目からも見えない場所ではなく、「隣の住人」として暮らしの場が作られていく状況が25年間の変化だ。
 そして2019年開設の「はたけのいえ」。学ばせてもらったのは、積極的に地域に開いたしくみづくりだ。既存住宅を改修し、20歳代4人の重度障害者の暮らしの場である。グループホーム制度を使わず、シェアハウスとし、訪問看護や訪問介護、通所などの生活支援を受けている。誰でも寄っていける、家族が食事を作り合うなど、自由な空気が感じられる場であった。「〇〇も世帯主になれたよね。本当によかった」という親御さんの言葉が私には強く響いた。世帯主は時代遅れの言葉だと思っているが、この時ばかりは我が子が自立できる喜びを表す言葉と聞こえた。
 こうした地域のなかで小さくても、自由に暮らせる場が数多くできて欲しい。それが本当の意味での暮らしの場ではないだろうか。障害を持つ人の生活や仕事が身近に見えることで、周囲の人たちとの理解し合える関係も進んでいくだろう。
 しかし、現状ではこうした場を作るには課題も多い。生活支援はサポート時間に限界があり、夜間のケアは家族に頼らざるを得ないという。
 グループホームやシェアハウスが障害を持つ人の暮らしの場の最終形ではない。どのような暮らしをしたいのか、という当事者と家族の希望を掘り下げていく作業を、私たちは常に続けていくことが必要ではないだろうか。これはどの分野でも同じだろう。

高田桂子・企業組合とも企画設計/全国常任幹事

<特集> 特集:規制緩和と大規模再開発の乱立を糺す

 2000年以降、いわゆる新自由主義的政策が次々と施行されて来ましたが、都市のあり様に関わる施策も、基本姿勢である「選択と集中」の度合いを強めています。立地適正化計画は公共施設総合管理計画と一体となって、各地で住民の要求との乖離を起こしています。東京では高度成長期に建設(再開発)されたビルが建替えられ、巨大化する事例が続出しています。加えて、環境を破壊して建設されるリニア新幹線によって、名古屋、大阪を飲み込んだスーパーメガリージョンが形成され国土利用の構造をさらに歪めようとしています。
 こうした過密・過剰な都市化政策は、コロナ禍で見えてきた今後のあるべき世界像や人々の価値観、行動様式の変化とは相いれないものです。都市政策や都市開発投資と市民・住民との間にあった矛盾・対立がより鮮明になってきました。特に、前川国男さん設計の東京海上ビルの解体や、旧東芝本社ビル再開発後の巨大なツインビルを槙文彦さんが設計すると報じられて、建築界にも見過ごすことのできないと危機感が広がっています。
 新建では、大規模開発に巻き込まれた住民の支援、本誌などで背景にある都市政策や規制緩和策の批判・分析などを行ってきましたが、そうした活動は行政や資本を動かすには程遠く、まずは身近なまちづくりを着実に進めようという傾向が強かったといえます。
 しかし、前述の様に状況はかなり深刻の度を深めており、一方で環境問題や持続社会への市民意識は高まっています。下記に挙げたような都市の歪んだ危険な状況について共通の認識が生まれれば、専門家と一般市民が共に異議を唱え、あるべき都市像を求める運動の可能性はあります。
*過剰建設による資源エネルギーの浪費・環境破壊
*災害に脆弱で、まちの構造が見えない非人間的都市空間の拡大
*大量の床供給が引き起こす、既存の中小ビルや商店の空家化とまちの劣化の進行
*特区指定などによる都市計画決定過程の非民主性
*開発(不動産)投資の金融化・証券化が招く経済危機の恐れ
 
 新建東京支部ではこうした問題意識から10月9日・16日に連続講座「規制緩和と乱立する大規模開発を問う」を行いました(11月号に報告)。本特集はそこでの講演を基に、大阪の状況を加えて構成しました。都市(国土)を大資本の開発投資の対象から、民主的にコントロールしうる環境として取り戻すことは、東京や大阪などの大都市に限らない、現代の課題といえます。                                              

特集担当編集委員/松木康高・鎌田一夫

<ひろば>  東京支部―2021実践報告会~岩崎駿介さんの講演

   10月27日(水)に第3回実践報告会が開かれました。47名が参加しました。岩崎駿介さんの講演は、東海村の村長選挙に立候補した乾康代さんの応援をしてくださったことがきっかけで、「新建の皆さんに『コロナで揺れる今、建築家に何が出来るか』という話しをしたい」という連絡を受け、会員の実践報告という枠を超えて、特別企画として実現しました。副題として「われわれは、日本に生きているのではなく『地球』に生きているのだ」が付け加えられました。
   私が初めてお名前を聞いたときは「横浜市のデザインチーム」の一員でした。その後、「国連職員、筑波大教員、社会民主党参議院候補者、セルフビルドでつくっているご自宅がJIA環境建築の最優秀賞を受賞した、東海村村長選で原発反対候補者を応援している」ことを知り、司会者として紹介しました。
   講演はプロローグで新建の憲章が示され、この中で主として論じたい問題を①社会とのつながり②国内外との交流③専門性の確立④地域主義⑤伝統の尊重⑥自由と平和と、6つに分けて上げられました。全体では「第一章 われわれの生活は、どう支えられているのか? 現代の資本主義経済システム」「第二章 忍び寄る不安 追いつめられる都市と住宅」「第三章 どうして、そうなったのか・・・『価値の体系』の歴史を探る」「第四章 それでは、どうしたらよいのか・・・? 未来への可能性を考える」「終章 落日荘のいま・・・!」とあり、それぞれの章の中に心に刻まれる言葉がありました。  
第四章では、「都市と農村、すなわち都市と自然の融合を取り戻す」「これからの都市 7ヶ条」「未来への行動 心を地球化し、身体を地域化しよう!地域コミュニティの再生(コモンズ)・・・地域『自治』と地域『経済自立』の確立」八郷村宣言(試案)「自分で食べるものは、できるだけ自分で作る 5畝のたんぼを耕す」「アジアにおける『国際市民政党』をつくろう 『地域自治』の確立と『国連』の強化」、最後には新建憲章の一部改正案も提案されました。
終章はご夫婦でセルフビルドしているご自宅「落日荘」が紹介されました。落日荘は八郷盆地にあり、標高876mの筑波山の北東に当たります。東京では少し高いところに登ると東は筑波、西は富士が見えます。筑波山の北の加波山との間にある足尾山の緯度は北緯36度16分49秒で、落日荘と同じです。落日荘内のすべての建物を、この緯度と平行に配置してあるそうです。自分の居る場所の緯度と経度を意識するだけで、気分は「地球人」となる気がしました。
新建の大会の前に、お話はうかがったことはとても良かったです。自分とは視点が違うお話で刺激的でした。共通点もたくさん見受けました。ご自宅にぜひ、伺いたいです。

                                                                                                  東京支部・千代崎一夫

寄せられた感想
・多くの示唆と教示をいただきました。特に響いたのは、「身体は地域に、心は地球に」老いて活動するという意識の持ち方に関してでした。              東京支部・高本明生

・まさに、新建50年追求した「住民主体の建築とまちづくり」に通じるものがあると思った。新建でも「社会とのつながり」だけでなく、「世界とのつながり」を意識すべきだという彼の発言は身にしみた。これからの「価値観」は、「物質的価値」をやめて、「精神的な価値」の共有に変えるべきだと思うという彼の発言は、今、新建で広がってきた「未来(像)」に通じると私も思う。感銘を受けたことがいっぱいでまた聞きたい。
是非、新建に入り代表幹事にもなってもらいたい。                               神奈川支部・山本厚生

 

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