建築とまちづくり2022年1月号(NO.515)

<目次>

<主張> 新型コロナウイルス感染時代の一歩

 昨年12月までに新型コロナウイルスに感染した人は、日本国内で約173万人で、1万8千人が亡くなられた。世界に目を向ければ、感染者約2・7億人、死者は538万人である。そして、オミクロン株の感染拡大の報とともに新年を迎えた。
 私たちは新型コロナ感染が拡大してからの2年間、新型コロナウイルスとともに生きてきた。感染を防ぐために移動できず集まれない。人間の本源的活動である人との交流が抑制され、在宅勤務が推奨され、大学生は学ぶ意義を失い、人とのかかわりの中でこそ人となる子どもへの影響は計り知れない。
 こうしたなかで、Zoomの登場は、それが強制的労働手段にならない人々にとっては朗報となった。私たちは新たなコミュニケーション・ツールを得て、これまでにない活動を展開している。
 このコロナ禍の只中に、新建は50周年を迎えた。さまざまな工夫をこらした取り組みがなされ、従来にない会員の参加をみたことは、50周年記念事業に相応しい画期となり、さらに歩を進めている。
 ZoomによりPCやスマホの前に座れば、どの支部の会員とも、海外の人とも、いやいや同じ東京にいても会えない会員とも、「会う」ことができる。液晶パネルを通した対面では、自由な話ができないし、その場の雰囲気が伝わらない、やはり対面がよいと言っていた人も、あまりの簡便さに慣れ、対面で話し合うことが面倒に感じるようになった。
 録画も簡単、グループ討論もでき、会議の「効率」はグンと上がった。呑み会も実証済み。しかし……新しいITツールに乗らない人はどうしているだろう、セキュリティ問題に加え、人と人とが直接会って話し合うことによる人間関係の深まり、感動や喜びや悲しみの感情を知らずに失っているならば、寂しい未来だ。注意したい。
 ところで、新型コロナ禍で私を打ちのめしたのは、非正規雇用の人々(女性が多くを占める)を中心に、住宅を失う危機にある人々が増えたことである。それは2006年住生活基本法を契機に、新自由主義に舵を切った時から予想できた〝住宅危機〞である。コロナ禍がそれを後押しし、問題を顕在化させ激化させた。
 住宅に困窮する人々に対し、行政ができないところで、多くのNPOやさまざまな団体、そしてボランティアの人々が支援のために奮闘している。
 国の制度では、コロナ禍により失業や収入減で家賃が払えなくなった人に対し、家賃の一定額を原則3カ月、最大12カ月(2020年度中に申請した人)支給する住居確保給付金は、20年4月から21年3月まで累計で、申請件数が約15万3千件、支給件数は13万5千件に上った。問題は、この制度が一時的であることだ。非正規雇用の人々や仕事を失った人々が容易に仕事を見つけられないままに期限がきてしまう。なぜ普遍的な家賃補助制度を導入しないのか理解に苦しむ。実現させる私たちのパワーが足りないのだ。
 他方「住宅セーフティネット」施策が展開しているが、ほとんど破綻している。東京都のある区では、入居を拒まないセーフティネット住宅の初期費用が16万円(家賃同額)以上であった。これでどうして困窮している人が入居できるだろう。女性で高齢で低所得、精神疾患をもつシングルマザーといった複合的困難を抱える人が入居できる民間賃貸住宅は絶望的のままなのだ。
 そもそも「セーフティネット」という仕組みが間違っている。安定した住宅からこぼれ落ちることを前提に、幸運な人だけを救うやり方では、住まいに困窮する人々は減ることはないし、劣悪な住宅は残り続ける。「落ちないための居住保障」をしっかり構築すること。それはコロナ禍でもコロナ禍が去ってからも必要である。
 新年にあたって、「住宅」という器が、どれほど人間の生存と生活と地域居住に重要かをあらためて考えたい。人間が人間らしく生きる上で、衣食と同じく、そして職に先んじて絶対に必要なのが住宅である。一度「セーフティネット」という呪縛から離れてみようではないか!2022年は貧困と貧困居住対策が問われる年になるだろう。

中島明子・和洋女子大学名誉教授/全国代表幹事

<特集>  世界遺産とまちづくりの様々な状況

   2021年のユネスコの世界遺産委員会は、コロナ禍で延期された2020年の議案も討議し、いろいろと考えさせられる内容がありました。
 日本では「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が5番目の世界自然遺産になり、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が20番目の世界文化遺産となりました。
 今回の決定でなにより目立っていたのは、「海商都市リヴァプール」が抹消されたことです。そして、コロナ禍がやってくる前、世界は2016年ころからオーバーツーリズムの嵐でしたが、そのなかで、とくに問題の大きかった「ベネチアとその潟」が危機にさらされる世界遺産リストに入れるべきではないかという議論があり、これについては2023年に結論を出すことになりました。
 また、世界遺産「明治日本の産業革命遺産」のひとつ、軍艦島にかかわって、朝鮮人強制労働にかかわる展示内容に不備があるという決議がなされたのも見逃せない点です。
 国内に目を向けると、「古都京都の文化財」ではあいかわらず世界遺産のバッファゾーン(緩衝地帯)で問題が多発しています。「平泉」では震災復興の願いのなかで登録され、難問も抱えつつ資産の拡張に向かって動いています。「原爆ドーム」についは、核兵器禁止条約が2021年に発効したにもかかわらず、日本が加盟していないなか、あらためてその意義が重要になっています。「琉球のグスク」でも観光公害や戦争遺跡のあり方が問われています。世界最大の墳墓としてなじみの仁徳天皇陵(大山古墳)は「百舌鳥・古市古墳群」として2019年に登録されています。
 特集のタイトルにあるように、世界遺産の「卓越した普遍的価値」も多様です。人びとが、さまざまな形の生活を大地に刻んできた結果です。また、とりあげた論考にあるように、起こっている周辺の状況も多様です。ただ、なにが人類にとって、住民にとって重要なのかを考えさせる対象となっていることでは共通しています。世界遺産には面的な資産も多く、また資産の周辺にバッファゾーンを設定していますから、まちづくりのあり方が問われます。
 ここでは文化遺産に絞りました。自然遺産の方は取り扱いませんが、その内容も奥深いものがあり、地元のさまざまな自然保護活動があるのはいうまでもありません。

担当編集委員/中林浩・桜井郁子

<ひろば> 千葉支部総会記念講演報告―
  「福島原発災害10年を経てー住まいの確保の課題を中心にー」

 12月4日に千葉支部総会が開かれ、総会に先立ち、鈴木浩福島大学名誉教授に10年を経た福島原発災害の現状と課題について話していただきました。今回はZoomによるWeb記念講演として開催し、他支部からの参加された3名を加え、13名の参加がありました。講演の概要は以下の通りです。
1.災害直後の対応・・・経験と教訓
● 仮設住宅は1万6千戸が必要だった。プレファブ建築協会が1万戸、地元が6千戸を建設した。福島県は、プレ協とは「災害時における応急仮設住宅の建設に関する協定」を結んでいたが、3県でそれぞれ1万戸が限度ということで地元事業者の木造仮設につながった。都道府県で同様の協定を結ぶ動きが広がっている。
● 建設型仮設住宅が間に合わなかったために、民間賃貸住宅の空き家ストックが大量に活用された。災害救助法の「現物支給」の原則により、県が家主と賃貸契約を結び、被災者に提供するということになったが、被災者が緊急対応で入居した賃貸住宅を、後で「みなし仮設」として認定されることが多くなった。この中でさまざまな問題も発生した。大規模災害が発生すると、仮設住宅の確保は重要で、特に大都市部では民間賃貸住宅ストックの活用、質の確保が大きな課題である。
● 復興公営住宅(福島県では原発災害被災者に供給する災害公営住宅を復興公営住宅と呼称)は、避難先が広域なため県による供給が大半を占めたが、積極的に建設した市町村もある。建設費補助7/8、耐用年数の1/6が経過すれば払い下げが可能になることも考慮されたと思われる。避難指示解除後、一定期間を過ぎると被災者支援公営住宅という枠が取り払われ、自治体は公営住宅の維持管理が大きな負担になる。今後どうなるか。
● 広域的・長期的避難を強いられている被災者は、避難先で新規建設や中古住宅を購入するケースが多かった。自宅を取得した被災者の多くは住民票を移していない。

2.原発災害の現状と課題
● 避難者支援、ふるさとの復興、事故収束に向けた課題。
①避難先と避難元で「宙ぶらりん」となっている長期的・広域的避難者の不安がある
②ふるさとの復興に向けての被災地の地域経済・地域社会再生の課題(帰還しても生活条件は不十分で不安 、地方自治体・地域社会存続の危機など)や、政府から「帰還困難区域」における「除染なしの避難指示解除」への政策の転換が示されたことによる各自治体の新たな困難など
③福島第一原発の事故収束と第一、第二の廃炉に向けて、使用済み核燃料処理や放射能汚染水の処理は、まだ解決の見通しがない大きな課題である
● 中間貯蔵施設搬出後の土地利用と地域再生の課題。
①現在の課題と将来への橋渡し
・地域を離れた人々の地域に対する思いや課題にどう応えるか
・どんな「生活の質」、「地域コミュニティの質」、「環境の質」を実現するか
②それらの橋渡しを誰が担っていくか

3.生活再建とふるさと再生のためのゴール“SRGs(Sustainable Recovery Goals for Fukushima”を目指して
●生活の質、コミュニティの質、環境の質を整理して考えていくことが大切であり、それぞれの質を確保するための持続可能性、しなやかな回復力、危機管理、地域力の構築が求められる。
① 生活の質:住まい、健康/福祉、教育 就業/所得、休暇など
② コミュニティの質:コミュニティの維持運営と施設、伝統・遺産・文化、約束ごとと役割、 情報や意思決定への参加機会など
③ 環境の質:土地、森、河川の監視と管理、再生可能エネルギー、インフラストラクチュア、 持続可能な開発の目標(国連・アジェンダ2030)など

 被災後10年が経過した福島原発被災地域の現状や課題がよくわかりました。近い将来首都圏で発生が予想されている大地震に対し、住宅の確保の課題や我々建築技術者の役割についてなど、多くを考えさせられました。
 最後に、今年2021年12月に出版される自著『福島原発災害10年を経て』(出版:自治体研究社)が紹介されました。
                                  千葉支部・加瀬沢文芳

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