建築とまちづくり2024年12月号(NO.547)

目次

<目次>

特集
持続可能な日本の林業のあり方を模索する

蔵治 光一郎
何が日本の林業を持続困難な産業にしたのか

泉谷 繁樹
理想と現実のはざまで
――吉野林業と吉野材

佐藤 久一郎
南三陸の地から森を考える

インタビュー:
地域ネットワークのハブ的役割を担う製材所として
――伊那市・有賀製材所に聞く

小柳雄平
コラム:森と建築と街なみ

飴村 雄輔+大原 紀子
木材流通の問題点を考える
――木をどうやって出すか

連載
失われた町、受け継がれる舎<いえ>(5)
「自治の城」を護る
中尾 嘉孝

私のまちの隠れた名建築〈最終回〉
旧第五十九銀行本店本館(青森銀行記念館)
青森県弘前市
大谷 政彦

主張
あらためて自治について考える
川本 真澄

新建のひろば
東京支部――新入会員歓迎会報告
京都支部――「地域の暮らしと伝統文化を対話で守る」
第17回地方自治研究全国集会in愛知

<主張> あらためて自治について考える

川本真澄 もえぎ設計/全国常任幹事

先日、京都支部で「文化創造を基底としたまちづくり実践から学ぶ」と題した学習会がありました。講師は支部会員の河合博司さん(酪農学園大学名誉教授・北海道地域・自治体問題研究所顧問)当初、河合さんの豊富な知識と人柄に学びたい思いで「河合塾」と名付けましたが、僕は上から教える気はないと「自治を共に語る会」という名前になりました。しかも5~6人でこじんまり語り合いたいとのことでしたが、それはさすがに勿体なすぎるので全国メールにも呼びかけてリアル参加8人、ズーム参加8人が集まりました。
 話は、人口4600人の町、北海道訓子府町の町長を2023年に退任された菊池一春氏の講演録をテキストにしながら、「小さいからできる自治」についてです。
 その前段として、自治・地域づくりを巡る今日的焦点についての解説がありました。国は分権改革の名の下で新たな中央集権体制への再編を本格化させていること、自治体の『公』的役割の「解体」が進行している状況があること、2024年には地方自治法が一部改正され地方政治に政府の指示権が及ぶことが法制化され、地方自治の制度的解体につながるということです。
 一方で、その対抗軸の貴重な実践として訓子府町の理論と実践、東京都杉並区の自治と地域づくりなどがあり、そこから自治とはなにかを学び語り合いたいというのが学習会のねらいです。
 菊池町長が誕生したのは2007年、小泉政権下2002年からの「平成の大合併」が吹き荒れていた頃、北海道でも212の町村を60に減らす計画が持ち出されていたそうですが、訓子府町は住民が合併を選択しなかった町の一つです。ちなみに、河合さんと菊池さんはその前年2006年に与一で行われた「小さくても輝く自治体フォーラム」で出会い、町長誕生後もまちづくりアドバイザーとして関わってこられたそうです。
 菊池氏は、もともと町の教育委員会に勤務して社会教育に出会い、農業青年の結婚問題や学童保育、図書館づくり運動や町民が想像する文化活動などに関わり、その後も街並み推進室や保健福祉行政などを経て、町民の暮らしの実態に向き合い続け、町長として4期16年、住民本位の自治を実践されました。
 その実践を見ると、たとえば「訓子府町まちづくり町民参加条例」が10年がかりで作られています。そこには、自治の主体は住民自身であり、参加型でまちづくりを進めていくことが明記されています。一人でもなにかを提案したり要望することができ、町長など(町長、教育委員会その他の執行機関)がこの条例に沿ったものと判断すれば公表されます。一方で、町民は地域の活性化や課題解決につながる町民活動に積極的に参加するよう努めることが謳われています。
 訓子府町立認定子ども園「わくわく園」(200人定員)が2016年につくられていますが、幼稚園と保育園の制度を問題視し、児童憲章の中の「子どもたちは最良の環境の中で育てられる権利がある」とあるのに基づき、幼稚園と保育園を廃止して子ども園をつくったとあります。プロポーザルで町民50人からなる審査員によって設計者が選定されたそうですが、デンマークの森の幼稚園をイメージされたとても豊かな空間です。木造で、梁などには町有林の唐松が使われています。
 また75歳以上は300円で町の中どこへでも乗っていいタクシー制度もあるそうです。財政問題を学習し、酪農や農業など産業政策もさまざま取り組まれています。町のキャッチフレーズは職員の中から選ばれた『「ちょっといいね!」がたくさんあるまち くんねっぷ』。
 訓子府町の理論と実践は、まさに憲法25条にある生存権を実現し、住民の幸せをつくることに徹する自治体の姿です。
 この学習会を経て、あらためて行政と共に創っていく自治の魅力に想いを馳せています。行政が住民の暮らしを見つめ、悩みや困りごとや夢と徹底的に向き合い、共に語り合い議論を繰り返し、学びあいながら自分たちの自治を成熟させていくというプロセスがあることを思い起こしながら、各地で取り組まれている運動の一つ一つがその糸口につながっていると気付きます。

<特集> 持続可能な日本の林業のあり方を模索する

 毎年のように記録更新をしている気温の上昇、地球温暖化を原因とする集中豪雨や大型化する台風による河川の氾濫、土砂災害の頻発化をどう食い止めたらよいのでしょうか。人間社会のCO2排出を削減していくことと、緑を増やしCO2を吸収してもらうより他に解決策はないといえるでしょう。世界の平均気温はうなぎのぼりで上昇していますが、CO2濃度はよく見ると毎年ギザギザ上下しながら上昇しています。これは北半球に緑が多いために、北半球の夏期における光合成がより多くのCO2を吸収してくれているからと言われています。日本の国土の68%を占める森林を持続可能な形で整備維持していくことで、異常気象を軽減していくことが期待されています。
 『建まち』誌2023年12月号では、「日本の森を守る―地域生産力の現状と展望」をテーマに、新建会員を中心とした各地でのさまざまな取り組みを紹介しました。地元の森とつながり、地域での建築活動に取り組んでいる様子を伝えることができました。
 本号では「日本の林業の持続可能性」をテーマとして、川上(林業)と川中(流通)から見た課題と展望を取り上げます。現場からの報告とともに、日本林業のありようを研究者の視点からも報告してもらいます。
 戦後、経済優先で走ってきた日本ですが、私たちの暮らしと森林がどうつながっているかを学び、大切な森をどう次世代に引き継いでいくべきかを一人一人が考え、社会全体でもっと話し合う必要を感じます。特に私たち建築関係者が、木材流通の歪なあり方に問題意識を持ち、持続可能な林業のために取り組んでいくことを期待します。
担当編集/永井幸

<ひろば>  東京支部―新入会員歓迎会報告

 9月27日18時30分から21時30分まで、住まい・まちづくりデザインワークスで歓迎会を開催しました。
 新入会員の皆さんは、武市さん、寺脇さん、笹原さんで、残念ながら同様に新入会員の済藤さんは、仕事で参加できませんでした。近年コロナ禍の3年ぐらいは、集まることもできず、引き続きオンライン会議も増えていて、飲み会も減っていました。また、新入会員がまとまって入会していただけるという状況がなかったので、ほんとうに楽しい、話が尽きない時間になりました。
 乾杯は代表幹事の千代崎さん、閉会のあいさつは岡田さん、他参加された方は石原さん、小林良雄さん、杉山さん、木村さん、高田さん、柳澤さん、山下でした。
 1分間自己紹介では話が伸びて途中に何度も「1分!」とコールがありましたが……あともう一言と話が続きました。でも、改めてお互いを知る「そうなんだ」という認識することも多かったです。
 入会された3人の方のお話は、フレッシュで、世代の違いもまた、ウキウキする内容で、支部の活性化にもつながると感じました。武市さんにはホワイエ8月号に書いていただきましたが、引き続き書いていたたくお願いをしました。
 寺脇さん、笹原さん、済藤さんには、引き続き会員のページへ自己紹介をお願いしました。みなさんこれからもどうぞよろしくお願いいたします。(山下千佳)

<ひろば>  京都支部―「地域の暮らしと伝統文化を対話で守る」

 10月12日、支部企画「地域の暮らしと伝統文化を対話で守る」を祇園甲部歌舞練場で開催しました。案内人は、祇園町南側地区協議会幹事の太田磯一さんと、学校法人八坂女紅場学園職員の内村聡子さんです。景観を守るため戦前からさまざまな規制が行われてきた京都市では、地域の暮らしと伝統文化を守ろうとする市民と、規制いっぱいに大きな建物を建てて利益を上げたい事業者との間で、たびたび景観論争が起きています。そこで、1995年に「祇園町南側地区協議会」を設立し、地区内に新たに出店する事業者と、店舗の業種・業態・建物の外観などについて対話を重ねてきた同協議会に「対話」を学ぶこととしました。参加者は18名で会員だけでなく景観まちづくりを学ぶ大学生や公務員も参加しました。
 内村さんは、実は元公務員で景観審査を担当されていました。報告では、条例で定められた「様式を継承する」とはどういうことだろうかという悩み、事業者の姿勢(「行政の許可はもらっている」と地域の声を聴こうとしなかったり、地域や行政の言葉を都合よく解釈したり)など、景観を審査することの難しさも打ち明けられました。条例で定めた様式・基準に沿って審査する行政と実際の地域の町並みの齟齬が祇園町南側の地域住民の不満になっていた事例もあり、これを解消するために、2022年から「地域景観づくり協議会制度」という京都市独自の制度を活用し、地域と行政が連携して事業者と対話することとされました。
 太田さんは、「祇園町南側は京都五花街のひとつではあるが、同時に住民の暮らすまちでもある。京町家の様式だけを守るのではなく、住みよいまちをつくることが大切である」と語ります。木造住宅が多く火災に弱い祇園町南側では、町並みと暮らしを守るため、私設消火栓を設置し、毎年、防災訓練を実施するなど「住民自らがやれることは自らやる」という意識が住民に浸透していると力説いただきました。こうした住民の意識は町並み景観として表層に表れています。
 お二人の報告の後、対話を経て立地した建物を実際に見学し、対話の成果や苦労話を伺いました。
 事業者との対話では意見が対立することもありますが、強く交渉に臨めるのは地域の後ろ盾があってこそです。その背景には、住民同士がお互いを意識する、自分たちのまちは自分たちで守るといった地域の結束力と共有された価値観がありました。ここには、私たちが日々取り組むまちづくり活動にも生かせそうな大事なヒントがあるように感じました。(京都支部・村上真史)

<ひろば>  第17回地方自治研究全国集会in愛知

 第17回地方自治研究全国集会in愛知は10月5日から6日に、愛知県名古屋市熱田区にあります名古屋国際会議場にて開催されました。主催は、日本自治体労働組合(略称:自治労連)です。構成団体の新建は、実行委員会として継続的に会議に参加をしていました。全国からの参加者がいまして、私が参加をしました第4分科会にも北海道から、長崎までの参加者を確認しています。
 初日は、午後から全体会を開催しました。最初に歓迎文化行事として、「高校生フェスティバル実行委員会」による群舞でした。音楽に合わせて、各高校の制服で、集団での踊りを披露されました。その後に、主催者挨拶(南山大学:榊原秀訓氏)、記念講演「わたしたちのいのちとくらしと日本国憲法」(弁護士:伊藤真氏)、基調フォーラムとして、「いのちとくらし・人権を守るために、公共の役割を考える」(京都橘大学:岡田知弘氏、岩手自治労連:新沼優氏、原発問題住民運動全国連絡センター:栁町秀一氏、自由法曹団幹事長:山口真美氏、国土交通労組航空部門:佐藤比呂喜氏、新日本婦人の会:達道昭美氏)。一番気になりました話は、今年の1月2日に起りました羽田空港での日本航空の民間機と海上保安庁の航空機が衝突した事故です。6人の方が亡くなりましたが、現在の管制塔には、人員が足りておらず、福井の空港は伊丹で、静岡の空港は千歳で、とオンラインでの遠隔での確認とのことでした。今後もこのような人がいないことによる人的な確認ミスでの事故やなくなる方がいないことを望んでいます。
 2日目は、朝から分科会と現地での講座を開催しました。私は、第4分科会に参加をしました。助言者として、NPO地域まちづくり工房の傘木宏夫氏「持続可能な社会へのインフラと住民参加」を問題提起していただきました。水道局の方の話で、ダム建設自体がすべて、赤字だということです。今も経営が成り立たないので、広域水道網を建設していますが、工事をすればするほど赤字が増えていること。考えればわかることですが、近くから水道を引く小規模な方が費用は安いです。遠く長くなるほどに、高低差によるポンプアップなどの費用もかさみ、利用者の水道料金に上乗せされているとのことです。
 新建愛知から、発言をお願いしましたのは、朝日新聞社の斎藤健一郎さんです。東日本大震災を仙台で体験して、現地での取材を通して、原子力発電の危険な影響を知り、反原発のために自分が電気を使わなくて、エコな生活を続けておられます。現在は、東京と山梨の2拠点生活をして、築40年の古家を購入して、土地・建物費用入れて約3000万円かけて、断熱改修をして、住まわれています。太陽光パネル(電気をつくる)や太陽熱温水器(お湯をつくる)、薪ボイラー(お風呂を沸かす)、サッシは、3重サッシ等々。電気も契約をしない「オフグリッド生活」で、目指せ「カーボンニュートラル」生活とのことです。著書に「本気で5アンペア」「5アンペア生活やってみた」があります。愛知支部でも、ベランダなどにおけるサイズのソーラーパネルと蓄電池を作成するワークショップを行いました。
 皆さんも、「もし地震などの災害が起きてしまったら」を想定して、非常時に使うものの準備や備蓄、組み立て式仮設トイレなどを含めて、自分の家族や周りの方と一緒に見直してみて下さい。(愛知支部・甫立浩一)


よかったらシェアしてください
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次