建築とまちづくり2024年6月号(NO.542)

目次

<目次>

特集
「縮退」社会での建築とまちづくり
――暮らしを支える交通

松久 寛
成長の限界と縮小社会

宇都宮 浄人
ソーシャルキャピタルを育む交通まちづくり

松永 千晶
市域人口の変化を考慮したコミュニティバスのサービスレベルの把握と評価
――福岡県糸島市・大野城市を対象として

上田 とめ子
公共交通で住民の足を守ることは福祉である

西 一生
中山間地域の自治とNPOバス(交通空白地有償運送)の取り組み
――富山県氷見市

桜井 郁子
バス路線廃止にアイディアあふれる住民の取り組み
――滋賀県大津市比叡平

髙田 桂子
移動支援を高めて 公共交通でまちづくり
――群馬県前橋市

連載
「居住福祉」の諸相〈17〉
岡本 祥浩
居住福祉の実現を目指して

私のまちの隠れた名建築〈28〉
臨江閣
群馬県前橋市
貝磯 博子

主張
「空き家問題」への一考
中安 博司

研究会だより
環境と建築研究会第5回6回7回報告
「環境と省資源」「住まいの環境づくり」
永井 幸
小田原かなごてファーム見学会
高田 桂子

第13回子ども環境研究会
コロナ禍における小学生の遊び状況の変化
~福井市調査の結果から~
目黒 悦子

新建のひろば
新建東京支部――秩父宮ラグビー場と神宮球場の現在地での再生提案発表会
34大会期第2回全国幹事会報告
神奈川支部――「みんなのベンチ」をまちじゅうに!

<主張>  「空き家問題」への一考


中安博司 建築工房N設計/全国常任幹事

 総務省の「住宅・土地統計調査」によると、総住宅数に占める空き家の比率は1998年ごろに10%台に達し、近年中に15%台に。ある研究によると条件により2038年には総住宅数の約30%が空き家になると予測されています。2024年現在900万戸の空き家があり、活用の目処が立たない長期放置の空き家は約350万戸もあります。
 国土交通省は15年の「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空き家法)施行以降、様々な対策を講じてきました。16~25年が事業期間の「空き家対策総合支援事業」では、市町村による空き家の所有者特定や除却費を支援。16年の税制改正では、相続した空き家を耐震改修した後に譲渡する場合などに、譲渡所得から3000万円を控除する特例措置を導入。23年12月末まで延長した。空き家法施行から22年3月末までの約7年間で、修繕・除却された空き家は全国で約14万件。対策の効果は認められるものの、空き家率は改善しませんでした。
 国交省は対策を加速させるため、社会資本整備審議会住宅宅地分科会に「空き家対策小委員会」を設置し、(1)発生抑制、(2)活用促進、(3)管理適正化、(4)除却の促進という4つの論点で検討を進めています。倒壊などの危険がある「特定空き家」になる前に、所有者などを支援する方策などを議論する予定で、23年1月に提言をまとめましたが、これまで指摘された内容が多く有効な手立ては見当たりません。
 これまで国は経済的波及効果が見込めるとのことで新築住宅への多様な助成制度を行ってきました。たとえば、ローン減税は住宅ローン減税の期間が10年から13年に延長し最大で455万円減税になります。また、ZEH補助金は条件を満たしたZEH住宅には、国からの補助金(2024年は100万円)の申請をすることができます。地域型住宅グリーン化事業補助金は国から認められた工務店・ハウスメーカーだと最大150万円の補助金が受け取れます。自治体向けの補助金はすべての自治体ではありませんが、東京都北区などではバリアフリーなど要点を満たすと50万円の補助金があり、住宅の新築を促しています。他にも省エネや子育て世代への補助事業が多くあります。
 リフォームに関してもさまざまな助成制度が行われるようになりました。長期優良住宅化リフォーム推進事業補助金や省エネ化を推進するための住宅エコリフォーム推進事業補助金など多様なメニューがあります。住宅以外の建物についても20%以上の省エネ効果が見込まれる既存建築物の省エネ改修工事への補助金もあります。が、空き家を減らすには至っていません。
 今のところ空き家を少なくするには新築をできるだけ減らし、既存建物を再利用することが一番の近道ではないでしょうか。新築に関しては上記の助成制度について縮小し、再活用するリフォームを拡大する方向を進めて、できるだけ空き家を減らす施策に力を入れてほしいです。
 我々自身も新築を依頼された時、依頼者のさまざまな条件で難しいこともありますが、一旦立ち止まり依頼者と話し合いを行い既存利用の方向性がないのか検討しても良いのではと考えます。

<特集> 「縮退」社会での建築とまちづくり――暮らしを支える交通

人口が減少し、しかも大都市への人口集中と急激な高齢化が進み、多くの地域で鉄道路線が廃止され、バスの運行本数も減少・廃止となり、住民の移動手段が失われています。それは過疎の地域でも都市部でも同様の状況です。移動手段がなくなるだけではなく、生活道路や橋、歩道橋などの補修・保全は進まず、自然災害の際には現状が指摘されるものの、改善されていないのが日本の現状です。
 一方、新東名高速道や大深度での外環道などの高規格幹線道路の建設、リニア新幹線や新幹線延伸などの建設が推し進められています。こうした建設には巨額の税金が注ぎ込まれていますが、生活に密着した交通整備は後回しになっています。
 そうしたなかで地域の「足」を確保したいと、各地で公共や住民によるコミュニティバスやデマンドタクシーなどの取り組みが多様に行われています。
 今号では、交通整備はまちづくりの基盤であるという視点から、地域の人々の生活を支える交通をどのように整備していくべきなのかを検討し、各地での実践例と課題を紹介したいと考えます。
 また、交通基盤整備の難しさが自治体の「財政難」という理由により語られていますが、自治体や国の予算のあり方自体に問題があるのではないか、という財政的な視点からの検討が必要と考えます。
 人は、移動し交流しコミュニティを形成するという、基本的人権を持っているといわれています。それゆえ基本的人権を保障する国や自治体、公共の役割は大きいのです。「縮退」社会に向かうからこそ、地域コミュニティを醸成する公共交通の充実を望みたいと思います。
 今号は「縮退」社会での建築とまちづくりを考えるシリーズの2回目です。交通問題とは別に縮小社会研究会の松久寛氏に寄稿いただきました。
 縮退社会ということばが持つイメージはさまざまです。この間新建会員からもネガティブなことばであると意見もいただきました。人口減少社会など似た表現にも置き換えられますが、編集委員会が問いかけたいのは、右肩上がり、しかも儲け優先で拡大していく都市や壊れていく地域で良いのかという視点です。これを縮退社会で表したいと考えました。人口は少ないが、その地域で住み続けられるしくみが今後作れないだろうかという問いかけです。しかし、ことばのイメージは各人各様です。今号から「縮退」社会と記載することにしました。
特集担当/桜井郁子、西一生、古川学

<ひろば>  東京支部―秩父宮ラグビー場と神宮球場の現在地での再生提案発表会

明治神宮外苑では、秩父宮ラグビー場や神宮球場などについて、老朽化と安定的な収益を図ることを理由に建替えおよび高層ビルを建設する再開発計画が強行され、3月から一部工事が始まっています。
 新建東京支部東京問題研究会神宮外苑問題検討チームでは、神宮外苑再開発問題の渦中にある2つの施設について、現地での再生が可能であることの提案をまとめ、4月10日、東京労働会館7階ラパスホールにて発表会を開催しました。会場参加は50名(スタッフ含む会員11名、新建会員外39名)、オンライン参加141名(会員21名、会員外120名)、計191名の参加者でした。杉山昇事務局長による開会挨拶につづき、「秩父宮ラグビー場について」の説明を柳澤泰博氏、「神宮球場について」を小林良雄氏から、会場からの発言・質疑応答を行い、最後にまとめと行動提起を千代崎一夫氏から行いました。
 都市工学専門の岩見良太郎氏から、「都市は一気に作り上げることはできない。時間をかけてベストな建築・計画とすべき。なぜ伊藤忠ビルが公園まちづくり区域に入っているのか?事業者側は『賑わいづくり』を掲げて再開発に傾注している。破壊的な都市計画(施策)『公園まちづくり制度』の問題がある。今回の新建の提案で、現地改修が可能であることが明確になった」のコメントをいただきました。他に会場からの主な意見では、「野球場のリニューアルには、甲子園のように付加価値を付けた方がよい。事業者の『ラグビー場』計画は多目的ホールで、はなからラグビー場として作る気はないと感じる。事業者はグローバルな企業であり、単なる金のためのテナント事業とは思えない、なにか別の思惑があるのではないかと感じる」「署名やチラシを作ってラグビー・野球ファンに訴えている。コンコースから歩車分離では、横浜球場、宮城球場で参考になる事例がある。限られた面積を活用するには運用でカバーできる提案も可能。老朽化の主張は世間への説得力があり、それに対して建物の使い勝手もあるので、耐震性だけでは説明できないのではないか。JSCのテニスコート廃止の提案には、反対の議論が出るのではないかと思う」など、積極的な提案もいただきました。
 終了後のアンケートは、会場18件、インターネットフォーム60件と多くの意見が寄せられました。いくつか紹介します。「老朽化という言葉は免罪符のようで誰もがうやむやに納得してしまう。詳しく調べるべきだと思った。誰のための施設なのか?お金を生み出すことを最優先にしている現行案の酷さを私のようなスポーツをよく知らない者でも今回の詳しい説明で理解できた」「神宮球場はトラディショナルなデザインの球場として、引き継いでいきたい価値ある球場建築の一つです。外部からの内部へのアプローチ(動線)、球場内部のコンコース、アーケードなど、活かす方法を専門家にもっと提案していただきたいです」「建物や施設はつくっておしまいではない。人々が長い年月を経て都市景観を醸成していく。あらためてそう強く思った。その歴史や記憶を一掃し真新しくすることだけが解決案ではないことを再生案は示してくれている。神宮外苑を守るため、そして今後もでてくるだろう東京の再開発事業にとっても意味のあるものなのでもっと広めていきたい」(東京支部・石原重治・川田綾子)

<ひろば> 神奈川支部―「みんなのベンチ」をまちじゅうに!

 山本ヒカルさん、厚生さんの提案で、4月29日に秦野市での市民によるまちづくり活動を視察しました。神奈川支部会員から山本夫妻、小野夫妻、大西、林、酒井、増田、島貫、菊池、永井、神奈川県連の曽我さん夫妻とお子さん2名、はだの革新懇の奥田さんと総勢16名の見学会となりました。最初に、「里山キッチン」にて豪華なお弁当を堪能しながら自己紹介をしました。山本厚生さんと奥田さんから、今回企画の趣旨説明がありました。急坂が多い秦野市では、高齢者も多く、坂の上り下りがきついです。そこで、坂の途中にベンチを設置して、休んでいただくとともに、集いの場にもしようというものです。市民が発案し、自らの手で制作、設置、管理まで行うのがすごいと思いました。現地では管理をされている地域の方にも詳しく説明をしていただきました。「みんなのベンチ」は市内に4か所設置されていました。秦野市はエリアが大変広く4か所を見学するのは大変でしたが、すばらしい思い出になりました。
 夕方、ベンチの見学を終了し、それぞれ分乗した車は厚生さん宅に集合しました。これまでも厚生さん宅に来られた方もいましたが、初めての参加者は厚生さん宅の伝統工法の木造住宅を見学し、あらためて感心していました。
 早速懇親会という予定で一品持ち寄りのはずでしたが、一部のメンバーはそのつもりでもなんの用意もしてこなかったことから、ワインを厚生さんからいただき、まず乾杯。その後、大西さん、酒井さんにアルコールとつまみの買い出しをお願いし、その他の仲間は自由な懇談をはじめました。特に、厚生さんの「ひと裁ち折り」は曽我さんのお子さん二人にも大好評で、私たちも大いに楽しませていただきました。この日、説明していただいた奥田さんは厚生さんと同郷の島根県隠岐とのこと。奥田さんは秦野革新懇の事務局長で隔月に行なわれる県革新懇一般市事務局長会議で増田茅ヶ崎革新懇事務局長と知り合いになったとのことでした。厚生さん宅には午後7時過ぎまでお邪魔し、後片付けもせず、厚生さん、ヒカルさんには大変ご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

山本ヒカルさん、厚生さんのプロジェクト資料より
 大根地区の坂道の途中に、道行く人がひと休みする「みんなのベンチ」第一号ができました。地元住民からの要望を市の社会福祉協議会が受けとめて、地元自治会や民生委員や高齢支援センターや東海大学の先生と学生などに働きかけ「みんなのベンチプロジェクト」として取り組んだ成果です。
 私たちは同じ「プロジェクト」を大田区でやって来ていたので、ここでも打ち合わせから参加して、住民や学生が自分たちだけで完成できるベンチづくりの工法、大きさと形、材料や道具、置き場所のレンガ敷などを提案し、リードすることができました。
 その結果、嬉しいことが二つありました。ひとつは、地元の人が「お互いに一層親しくなれたし、できたベンチにも強い愛着が持てた」と誇らしげに話していることです。もうひとつは「秦野じゅうにベンチづくりを広めよう」という気運が強まったことです。これも「住み良いまちづくり」につながるぞと楽しみです。
(神奈川支部・増田成司・永井幸)

<ひろば> 34大会期第2回全国幹事会報告

  去る4月20日(土)10時~16時にオンラインにて第2回全国幹事会が開催され、全国幹事44名中36名、幹事会顧問1名、監査1名の計38名が参加しました。

各地の状況、各支部の活動
 はじめに、大会期ごとに実施している支部活動状況アンケートの概要報告(23/25支部回収)と各支部から活動状況が報告されました。石川、富山、新潟から能登半島地震の被害状況、関連の活動報告がありました。東京支部からは神宮外苑再開発に対してラグビー場、神宮球場を改修して使い続けることが可能であるという提案を4月10日に発表した内容の報告がありました。東京新聞に報道されて反響も大きく、市民運動と連携する専門家の役割として特筆すべき内容でした。
 その他各支部から、省エネ基準の問題、建築コスト高騰の問題や会員の高齢化、減少傾向などの報告がありました。その中でも全国大会以降4名の純増で推移している福岡支部の報告や、若い世代の入会があった東京支部の報告は、明るい話題でした。

セミナー、研究集会
 夏の建築とまちづくりセミナーは、八月末から九月初めの日程で栃木県の那須まちづくり広場にて開催する方向で調整中であることが報告されました。運営に関わっている群馬支部の幹事が現地から会議に参加しており、会場の雰囲気が伝えられました。
 秋の全国研究集会は、今年はオンラインではなく参集しようという方向で、11月末から12月初めの日程で候補地として奈良県が挙げられましたが、これから検討という段階です。

各委員会報告
 大会期ごとに実施している全国幹事アンケートをもとに各委員会の所属名簿が報告され、各委員会らの報告がありました。
 『建築とまちづくり』編集委員会からは、今年の既発行分と今後の特集企画が報告され、年間テーマとして「縮退社会における建築とまちづくり」に取り組むことが提案されました。
 支部・ブロック活動推進委員会からは、各ブロック各支部の活動支援、新建を知ってもらう周知活動、ベテラン会員の活躍の場づくり、活動活性化のきっかけづくりなどが提案されました。
 政策委員会からは、「縮退社会にどのように向き合っていくのか」をテーマに、建まち編集委員会と連携して連続懇談会開催の計画が提案されました。
 Web委員会からは、ホームページ、メーリングリストの整備状況が報告され、委員会としての役割分担、Web編集局の提案がありました。
 災害復興支援会議からは、1月1日に発生した能登半島地震に対応するため、1月8日から、事務局会議、メンバー会議を開催し、3月6日7日の先遣隊視察報告がありました。
 午後からは、午前の報告を受けて各委員会に分散してそれぞれの活動と予定、役割分担等について議論し、各委員長から報告がありました。

研究会報告
 子ども環境研究会は、2022年から2カ月に1回のペースで継続しており、直近の第9回から12回までの概要が報告されました。各回8~12名程度の参加で会員外の参加者も毎回1~2名含まれ、今後の広がりが期待されます。また、研究会活動をまとめて本にする提案も出ています。
 環境と建築研究会は、これまで取り上げたテーマとして、建築から地球環境まで幅広く取り上げてきたことが報告され、秋の研究集会分科会ではどのようにテーマを設定するかという課題について言及されました。

 第3回全国幹事会を9月14日(土)にオンラインで開催することが報告され、予定通りに閉会しました。
                              (全国事務局・大槻博司)

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