建築とまちづくり2026年3月号(NO.561)

目次

<目次>

特集
今、町並み保存を考える

増井正哉 中林 浩
対談:町並み保存から見えてくる地域のあり方

桜井郁子
コラム:文化財とくらし

横関正人+横関万貴子
まちなみ保存とデザイン
――富田林寺内町の事例から

田原勝則
今井町の町並み保存と町家の活用

吉田敬子
産業遺産のこぎり屋根から見えたまちづくり

大槻博司
コラム:京街道の枚方(ひらかた)宿
――56番目の宿場町

連載
失われた町、受け継がれる舎<いえ>(19)
旧神戸生糸検査所、存続の危機に
中尾 嘉孝

社会派 聖地巡礼(14)
サッカーの町に消えた世界遺産
中林 浩

主張
住まいの物語
川本 真澄

研究会だより
仕事と生活を通して見えてきた?気になる?子どもの環境について!VANS 木村よしひろ
目黒 悦子

新建のひろば
神奈川支部――実践報告会&忘年会

<主張>  住まいの物語

川本真澄  もえぎ設計/全国常任幹事

 芥川賞を受賞した鳥山まことさんの「時の家」を読みました。作者は私の母校京都府立大学生命環境学部環境デザイン学科(私の頃は家政学部住居学科)出身で、建設会社に勤務しながらこの小説を書いたそうです。
 小説は売物件の看板が掲げられた空き家に一人の青年が忍び込み、ディテールのスケッチを始めるところから始まります。
 その家は、藪さんという設計者が自邸として晩年に建てたもので、青年はその近所に生まれ育ち子どもの頃この家に遊びに来ては薮さんにスケッチの楽しさを教えられてきたのです。
 薮さんは手書きのスケッチを何枚も重ねて、自分の経験値と感性と家族への特別な思いをもとに大工や左官などこれまでずっと一緒に仕事をしてきた職人たちと阿吽の呼吸でこの家をつくっていきました。そしてこれが設計者としての最後の仕事となる家づくりでした。少し前の設計者像・住まいづくり像が描かれていると感じました。
 物語では、薮さんの死後、この家を住み継いだ2組の家族のそれぞれの人生が描かれます。穏やかな住宅地に建つ4間角平家北入りの家、南に開かれたリビング・ダイニングがあり縁側に続いて庭があります。暮らしを包む建築エレメントは何一つ変わらず引き継がれていきますが、住む人によってそこで営まれる生活の仕方も、広い狭いの感覚も、刻まれる記憶も異なります。
 空き家になったこの家は築50年くらいではないかと推定されますが、もはや次なる住人は現れず、除却更地売却のストーリーしか残されていません。それを知った青年はこの家を満足のいくまでスケッチブックに移し取り、やがて基礎だけを残して取り壊されるところまで描かれてこの小説は終わります。
 この家には薮さんという設計者と職人さん達のものづくりへの強い情熱が込められていました。と同時に一つの独立した生き物のように、長い年月や季節の中で、日差しや風雨の影響を受けながら存在してきたとも言えます。作者は小説の中で屋根や壁といった建築の構成要素を克明に描き、かつ文学的に表現しています。細部へのこだわりを持った思慮深い設計者の視点も垣間見えます。
 ここからは私の憶測に過ぎませんが、作者はまだ30代前半でおそらく日常の仕事の中では、我々の多くが感じているのと同じようなストレスを抱えておられるのではないでしょうか。細かくて時に理不尽と感じるような法令に悩まされたり、厳しいスケジュールや予算管理に追われたり、理想と現実の狭間で揺れ動いたり。だからこそ建築が持つ本来の力や魅力やその役割について思考を巡らせ、建築の細部に焦点を当てながらそれらを語るこの小説が生まれてきたのではないか、などと勝手に想像をしています。
 実は前々から、自分の住むコーポラティブハウスを舞台にして「コーポな人々」という現代長屋小説を描きたいと夢想していたのですが、当然ながらそんな文才はなく今日まで絵空事に終わっています。最近この小説を読んで、改めて建築には物語があるということを思い起こし、技術者目線の描き方で空間を表現しながら語る方法があるということにあらためて気付かされました。
 住まいづくりの実践は、新建の中にたくさんあります。それらの中からおすすめの題材を選びつつ、ちょっと角度を変えて物語として綴っていく手法はないだろうかと思うのです。戸建て住宅だけでなく、集まって住む住まいにまつわる話、お店や学校、公園などまちとの関係の話も描きたい、住み継がれながら幾多の変遷をたどってきたような時間軸も重要です。
 芥川賞は無理としても、新建叢書番外編「住まいをめぐる物語短編集」を書くなんてできないものでしょうか。

<特集> 今、町並み保存を考える

 ユネスコ世界遺産をめざす動きが活発だ。一昨年も佐渡の金山が登録決定された。
 ひるがえって日本の制度での町並み保存は一時期に比べて近年は盛り上がりに欠けている。国が選定する重要伝統的建造物群保存地区や、自治体が選定する伝統的建造物群保存地区は増えているものの担い手は減少している。住民の合意が進まず、見直しを迫られているところもある。指定された保存地区でも存続に課題を抱えているところが多そうだ。
 オーバーツーリズムにより観光客が溢れ対応できず生活環境までも破壊される、重伝建地区を目指す担い手が減少あるいは高齢化、継承しにくく利活用されず空き家になる、再開発に呑み込まれ固定資産税などの重い負担、修繕などの工事費の高騰など、今の日本の現状が集約されているのではないだろうか。
 そうした状況のなかで、今回は町並みを保存していく現在の実践を示したい。
 これまでは江戸時代までに作られた歴史的景観や建造物が町並み保存の大きな対象であったが、昭和100年を超え、大正や昭和初期からの歴史的建造物群も残したい景観として入ってくるだろう。今回はそうした新しい動きも紹介したい。   担当編集委員/横関正人、中林浩、桜井郁子

<ひろば> 神奈川支部―実践報告会&忘年会

 年の暮れ12月28日(日)横浜の県民サポートセンター会議室にて、毎年恒例の実践報告会を行いました。摺木さん、増田さん、山本厚生さん、酒井さん、菊池さん、大西さん、永井さん、小野の8名の参加(忘年会には伊藤さんが参加)。実践報告会は、会員の仕事や状況、人となりなど知る大切な企画の一つと考えております。
 摺木さんからは、構造設計の立場から、制振部材を使っての木造耐震の設計例の報告をいただきました。高齢住まいの方から、大きな地震が来た際、実際に避難所へはいけない。熊本地震の時のように大きな地震が複数回起きたとしても中破以内に歪みを抑えられ、在宅避難が可能なように出来ないかとの要望を受け、いろいろな制振金物を検討され、ウーテックという金物を検討し実践された報告でした。確かに、現在の木造耐震補強は、こうした視点は抜けていると感じ、大変勉強になりました。
 酒井さんからは、現在建設中の住宅で、デシックスという全熱交換型換気システムを導入している旨の報告がありました。室内の加湿・除湿を自動でコントロールし、室内環境を適切な状況でキープしてくれるという仕組みとの事で、2階建て住宅にこれを1台+エアコン1台で住宅全体の温湿度を安定させる計画との事でした。完成が楽しみです。
 山本厚生さんからは、神奈川県秦野へ越してからの近況報告として、地元まちづくり協議会への積極的な関りや、まちのコミュニティのためのみんなのベンチプロジェクトの実現などを通して、素敵な人たちとの出会いがあるといった報告をいただきました。また、ひとたち折り紙や平和について等の講演依頼もあり、そこでの人との出会いもある。ぜひ新建への参加も呼び掛けたいし、皆さんも拡げていってほしいと話されました。
 大西さんからは、夏の建まちセミナーin仙台参加の報告と、耐震の相談を受けた建物が、80㎜角柱で構成されている木造在来(築50年越え)の某メーカー住宅との事で、診断等についてどのように対処すべきかといった悩み相談報告があり、様々なアドバイスが飛び交いました。
 永井さんからは、夏に建設組合からの派遣団の一員として広島で行われた原水爆禁止世界大会に初めて参加し、大変刺激的かつ有意義な大会であったと報告がありました。加えて木造耐震改修例の報告がありました。
 小野からは、一年間どんな仕事をどれくらいしてきたかを月表にまとめ、一年間を振り返り報告とさせていただきました。現在改修計画を進めている昭和28年築のご近所にある平屋住宅の写真などを見ていただきました。
 会議室退去時間となった後は、近くのイタリアンへ場所を移していつもの忘年会です。ここから参加の伊藤さんより、大阪万博会場建設に関わった話などしてもらいました。今年は参加者がやや少なく、会員の集まりが固定化かつ高齢化しつつあり、普段なかなかお会いできない会員への参加を何とか促していきたいところです。
(神奈川支部・小野誠一)

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