<目次>
受け継がれる舎〈16〉
物納された船主の館「旧乾邸」の保存提案へ
中尾 嘉孝 ……02
主張
どんな社会をめざすのか 永井 幸 …… 04
特集
次世代に遺す③――つないでいく建築とまちづくり運動 …… 06
山本厚生
新建の役割を次世代に
――自由で誠実な未来をつくろう …… 06
大槻博司
激動の新建設立前夜
――西村ファイルから …… 08
《座談会》新建若手会員座談会 …… 12
中林 浩
コラム:ターナーの思想からの架橋
――岡部「訳者改題」を読む …… 18
西川直子
わが道をゆく建築ジャーナル …… 20
荒牧澄多
40年を越えて
――川越蔵の会の場合 …… 24
書棚から
受け継ぎたい 歴史的町並み・珠玉の建物 …… 28
連載・読みもの
社会派 聖地巡礼(11)
紀ノ川の流れのように 中林 浩 …… 33
新建のひろば…… 29
京都支部――住経験:個人の体験から住まいを考える
神奈川県建設労連主催・新建神奈川支部共催――「平和と建築を学ぶ」講演会
としまち研 設立25周年記念イベント・第360回一木会
表紙写真
新建55年の取り組みから
扉写真
建築とまちづくりセミナー in 仙台
<主張> どんな社会をめざすのか
永井幸 永井空間設計/全国常任幹事
終わりの見えない世界各地での戦争、地球温暖化による気候災害、経済的格差の拡大と人種やイデオロギーの違いによる分断など、今の世の中はどんどん悪い方向に向かっていると感じています。私たちの暮らす世界は、今後どうなっていくのでしょうか。孫や、その子どもたちが幸せに暮
らしていける世の中を作っていく責任が私達にはあります。現状を思うとなかなか明るい未来を想像できませんが、希望を見出さなくてはなりません。すさまじく進化する科学技術を信じて夢物語を思い描くことには抵抗を感じています。今必要なことは、市民一人一人が理想的な社会を具体的に思い描き、それを語りあうことで共感を広げていき、一歩一歩、理想的な社会に近づけていくことだと思います。どんな社会にしたいのかを私も考えてみました。
第一は、この世から戦争がなくなること。各国は軍隊・兵器を持たず、もちろん原水爆は1発も存在しません。原水爆の原料を作らないように、原子力発電もなくします。国家間の問題はすべて外交で解決します。軍隊の代わりに国連災害救助隊を強化し、災害が起きたら世界のどこへでも飛んでいき、復興にも協力します。
第二に地球環境の修復です。人類は数ある生物の1つであることを肝に銘じます。電力はすべて再生可能エネルギーで賄い、カーボンニュートラルにします。石炭は禁止、石油も可能な限り利用を減らします。地熱発電や小規模水力発電など地域にあった電力を地産地消します。身の回りの日常品もプラスチック利用が制限されます。化学繊維に代わり天然繊維の衣服を着れば、長く大切に着るようになります。建材も石油製品は使わず、自然素材を利用し、解体後は再利用します。木材は国産の無垢材をみんなが使えば適正価格となり、林業は循環型の森林管理を行います。森が適切に整備され、土砂崩れや洪水も減少します。環境破壊につながる都市再開発は極力行いません。日本は大量生産大量消費という形で世界の資源を浪費し、CO2を大量に放出し、プラスチックゴミを輸出している現状を正します。
第三に一次産業の復活です。やがて石油が不足すれば、食料の輸入はできなくなります。食材の自給率を高めるために、日本の農業を取り戻します。野菜など自家消費分くらいは家庭菜園で生産したいものです。食品ロス、化学肥料、農薬を減らし、学校給食には有機野菜を無償提供します。
漁業、林業も同じことが言えます。
第四に保育園から大学まで、保育費、教育費さらに医療費も無償とします。安心して子どもを産み育てられ、だれもが健康で幸せな生活を享受できる社会です。現にこれを実現している国があるのですから。
最近特に不安を感じているのは、科学技術への過大な期待と依存です。例えばAIにしても、空飛ぶ車(ドローン)にしても、無批判に技術開発を進め利用するならば、国民の知らないうちに兵器開発に利用され、平和はどんどん遠ざかります。その最たるものが原子爆弾です。またリニア新幹線の予算も着工時想定の倍の1兆円とも言われています。2025年度の防衛関連費が9兆9000億円に対し、教育関連予算はわずか5兆6560億円だそうです(2022年度のGDP比はOECD加盟国中ワースト3位)。税金の使い方がおかしくないですか?周りの人に、おかしいことはおかしいと言える勇気を持ちたいと思います。皆さんにとって、理想の社会はどのような姿でしょうか。
<特集> 次世代に遺す③ーつないでいく建築とまちづくり運動
「世代(generation)」という言葉は分野や文脈によってかなり異なる使われ方があります。技術革新・製品分野の「世代」は別として、人間に使う場合は一般に約30年をさしますが、これは親・子・孫の周期です。生まれ時期にかかわる、5年・10年刻みくらいで話題になりがちな世代というのがあります。
「団塊の世代」、これは1946から1950年生まれで、現在70歳代後半です。「ロスト・ジェネレーション」とは日本でバブル経済崩壊で就職氷河期に大学を卒業した世代です。不況期の労働市場でキャリア形成が阻害されがちだったことからそういいます。1980年前後に生まれた現在40歳代で、団塊ジュニアでもあります。Z世代はもの心ついたころからIT機器に親しんでいる現在20歳代の人たちです。
これらは本人の意向とは無関係に同じ時期に青年期を迎え、同じような社会経験を共有するため、実感のある用語となっています。
2026年はいよいよ21世紀も第二・四半期に入ります。私たち新建築家技術者集団は高度成長期の末期の政治的高揚のなかでうまれました。第二次大戦中に少年期・青年期を過ごした世代が結成しました。彼らは高度経済成長も推進し1970年ころの革新自治体のあいつぐ誕生のころのリーダーとしても活躍しました。そのあと戦争をまったく知らない団塊の世代が学園紛争を経験し、活動を受け継いでいきました。そして彼らも80歳を迎えようとしています。
それでも新建の場合はさいわい仕事でのつながりのなかで結びつき合い、崇高な理念のもと50年以上運動がつづいています。この手の団体では若い人が比較的多く参入してきているといっていいでしょう。
ここで取りあげている町並み保存もすっかり定着し、いまでは町の誇りになり、外国人観光客の人気の場所を作り上げ定着した感があります。時代に合わせて数々の工夫がなされてきましたが、また発展した方針が必要でしょう。この特集ではいくつかの視点から「運動をひきつぐ」とはどういうことかを考えます。 担当編集委員中林浩
<ひろば> 京都支部 ー住経験:個人の体験から住まいを考える
10月9日木曜日、ハートピア京都にて京都大学大学院工学研究科准教授・柳沢究先生をお招きして「住経験から見えてくる世界」について、お話をうかがいました。参加者は新建会員13人、一般5人、学生1人の合計19人です。
「住経験インタビュー」とは、これまでに住んできた家と暮らしの経験について両親・祖父母などヘインタビューし、間取り図を再現するものです。500人以上の学生が取り組み、2000を超える住まいの様子がまとめられてきました。これまで自分がどのような住まいで、どのように暮らしてきたかという「住経験」を個人の体験としてとらえ、それをもとに居住空間を計画・評価する試みであり、大学のゼミなどで実施し、研究発表会も開催されています。
はじめに柳沢先生の住経験をうかがいました。これまでに、どのような間取りでどのように 暮らしてきたか、住まいとそこでの生活にまつわる経験、間取り図の再現など。個人の過去の体験や価値観は、今の居住環境に対するリテラシーや評価に深く影響を与えます。
住経験は食の嗜好と経験に似ているとのこと、なるほど、食べたことのないものは知らないしあえて食べようとするかどうか、良いイメージ悪いイメージは人それぞれで違います。住まいについても同じことが言えます。食は味わうことができますが、住まいの感じ方や考え方、思いを共有するために表現する取り組みとも言えますね。
住まいの価値観、慣習・規範・流行にまどわされないために、住経験を見つめ振り返るということに学生たちが取り組みます。建築を学ぶ学生が家族へインタビューすることの最大の武器は、「空間把握と作図ができてかつプライバシーに踏み込むことができる」です。多様な間取りや暮らし方があることを知り、世代や地域によって、住まいに対する価値観が異なることを学ぶことができます。ライフステージの影響、時代的影響の理解などがすすみ、今後の建築設計を業としていくうえでもとても大切なことです。
これは、学生ではないわたしたちも同じで他者の住経験を知ることで自身の住経験を客観的に捉え直す機会になります。住まいづくりの設計手法として自身と施主、施主家族と対話の大切さが浮かび上がります。これまでの住まいの思い出について語り合うこと。記憶の可視化として過去に住んだ家の間取り図を描き起こしたり、写真を見返したり。エピソードの記録「楽しかったこと」「不便だったこと」などの具体的な思い出語り。これらのプロセスが設計へ生かすことができます。
以前、京都支部でも「住まいの変遷」というリレー企画がありました。みなさんの来し方がとても興味深く、それが建築設計のあり方にも投影されていておもしろく読んでいました。個人的には学生時代に住居学 科で同じような授業があったことを思い出し、京都市景観・まちづくりセンター(まちセン)では京町家カルテ作成にかかわり、100軒以上の町家所有者 の方、それぞれの暮らしをヒアリングできたのはとてつもなくすばらしい経験ができたなと振り返ることができました。 (京都支部・小出純子)
<ひろば> 神奈川県建設労連主催・新建神奈川支部共催 ー「平和と建築を学ぶ」講演会
10月17日に神奈川県建設労働組合連合会(以下建設労連)の主催、新建築家技術者集団(以下新建)の共催で山本厚生さんをお招きして「平和と建築を学ぶ」学習会を開催しました。会場は建設プラザかながわで、参 加者は会場48名、オンライン12アカウントとなりました。
近年世界でおこっている戦争・紛争や、7月に行われた参議院選挙での排外主義政党の台頭などの情勢のもと、あらため平和の問題について学習しようと企画しました。
冒頭山本さんは、何故平和がこうも続かないのか、20世紀の事実を確認したいとし、第二次世界大戦の経験から世界中の市民が平和を求めたにもかかわらず、その後も世界各地で起こっている戦争は時の支配者が権力を維持するために引き起こすと解説されました。
そのなかで『ラーゲリより愛を込めて』のモデルとなったご両親のおはなしでは、何故父親が帰ってこられなかったのか、 そこにも国体護持のための支配者の欺瞞があったと説明。そういった支配の構図は今もかわら戦争だけではなく、福祉、環境などあらゆる面を破壊しようとしている。これを止めるには世の中の仕組みを変えましょうと呼びかけました。そのためには、組合や地域住民あらゆるところで市民が協力していく必要性と、特に若い人たちに呼びかけることが重要だと強調し、最後にこれからも共同をひろげ支配のない未来を開きましょうと話を締めくくられました。
参加者からは「自分がどう生きるか考えさせられる話だった」「要求実現のためには、まずは自分の身近な仲間から。少しずつでも微力かもしれないが運動を続けることが大事だと思った。人任せにせず自分から行動を起こさなければ」「次の機会があれば山本さんの地域住民とのまちづくり、建築活動の部分をもと聞いてみたいと思いました」など感想がだされました。
建設労連とは人間の生活で最も大切な「衣食住」のうちの「住」の生産に携わる建設職人を中心に作っている組合です。神奈川県の建設産業で働く者の労働組合で、神奈川では3番目に大きな産業別労働組合です。県内各地域に組織された建設組合の連合体です。建設労連は、企業の枠を超えたところで、本人の自発性に基づく加盟を原則にしています。会社や事業所ごとにつくられている組合ではなく、個人個人が自分の意志で地域の組合に加入するのが大きな特徴です。
建設労連が運営する住まいるコープ(ユーコープと提携した住宅斡旋事業)では新建会員の建築士さんにも協力いただいています。(神奈川県建設労働組合連合会・森崎良)


<ひろば> としまち研設立25周年記念イベント・第360回一木会
都心の過疎化を憂い、コーポラティブハウスや共同建て替えで都心居住に取り組んできたNPO法人都市住宅とまちづく研究会(以下、としまち研)の設立25周年記念イベントが11月6日、ちよだプラットフォームスクウェアで行われました。同時に毎月開催してきた一木会が360回を迎えた記念日でもありました。
昨年理事長を交代した杉山昇さん、現理事長の関真弓さんをはじめとしまち研会員複数人が東京支部会員であり、一木会には支部会員が講師として登壇してきました。としまち研会員は事務所がある地元の神田の住人や設計者、不動産関係者等です。記念イベントは第一部オープニングと第二部記念講演でした。私は第二部の講演と懇親会に参加しましたので、紹介します。
講演は、としまち研理事で旭化成ホームズの大木祐悟さんと、新建代表幹事で和洋女子大学名誉教授の中島明子さんでした。その後クロストークと進みました。
大木祐悟さんは「集合住宅におけるコミュニティを考える」がテーマでした。仕事で自ら関わってきた同潤会江戸川アパートメントや四谷コーポラスでは区分所有者のつながりが強かった、宮益坂ビルディングでは昭和28年の分譲後、生協を作り管理規約を作っていたと紹介。最近の各種調査からはマンショ永住意識がやや減少傾向、高齢化が進み、購入動機も利便性重視でコミュニティを動機に選ぶ人は少数であり、コミュニティが薄くなっていることを指摘。しかし、コミュニティが確立されたマンションは防災力も強いと、熊本地震直後に復興検討を始めたマンションと東日本大震災時都内マンションを紹介。他に民間賃貸住宅でありながら世帯間交流ができるコモンを敷地内に作り出し、子育てを楽しくできるヘーベルハウスのしくみづくり等を紹介しました。
中島明子さんは「都市に住むカタチ、支えるカタチ」がテーマの講演でした。としまち研がつくってきたものを「都市に住むこと」「住み慣れた地域に住み続ける住まいづくり」「住み手が主人公の住まい・まちづくりの実践」「人と暮らし」「災害復興とまちづくり(宮城県東松島市・あおい地区まちづくり、2017年新建大賞)」と紹介。日本が直面する課題は少子化、人口減少、高齢化、単身世帯増加と指摘。歴史をたどると人は都市に住み、集まって住むカタチを形成。しかし、孤独死など社会課題が深刻になっており、住まいづくり・まちづくりを支えるカタチとして、共同の住まいづくり、住み手と近隣コミュニティをマネジメントが必要になっている。特に都市から消えつつある「コミュニティとコモンの空間」「自然(緑・水・生き物)」の復権が重要であることを訴えました。クロストークでも今こそ都市に緑が必要であることを強調されたことが印象的でした。(東京支部・高田桂子)
