<目次>
特集
高齢期を地域で支える
阪東 美智子
高齢期を支えるためには
――「住む力」を支える地域生活空間
浜崎 裕子
「地域で最期まで暮らし続けたい」高齢者の思いに応える地域ケアの実践
――宅老所と主体的住民団体(NPO)のコラボレーションを通して
川本 真澄
地域に暮らすということ高齢期を地域で支えるということ
――ことらいふ東寺の取り組みから
出口 むつみ
地域包括支援センターの活動
岡本 祥浩
団地再生で高齢者・障害者の共生住宅
新たな「分散型サ高住」――ミドゥム大曽根
酒井 行夫
グループリビングCOCOせせらぎ
連載
「居住福祉」の諸相〈13〉
地域に広がる介護と交流と居場所づくり
岡本 祥浩
構造の楽しみ〈10〉
使えるものは使おう
松島 洋介
私のまちの隠れた名建築〈24〉
曽根崎変電所
大阪市北区
大槻 博司
主張
畳のある生活を見直そう
桜井 郁子
研究会だより
環境と建築研究会第4回報告
「COP27ドキュメンタリー 気候危機が叫ぶ」を観る
髙田 桂子
第34回全国大会 議案審議の概要
大会議案からの修正事項
新建のひろば
千葉支部――総会記念講演「創宇社建築会の時代」
東京支部――2023実践報告会
神奈川支部――実践報告会&忘年会
<主張> 畳のある生活を見直そう
桜井郁子 企業組合Fuu空間計画/全国常任幹事
インターネットが今ほどに発達する前、イタリアで日本文化がもてはやされたことがありました。実際の使われ方などを知らずに、あるいは無頓着に、イメージだけが消費されていました。距離的にも遠く、本物を見たことはない人がほとんどという時代でした。そのためかイタリアンブランドの広告で、靴を履いたモデルさんが畳の上に立ったものがありました。目にした瞬間は「畳をなんだと思っているのだろう!」と悲しく思ったものの、次の瞬間「もし畳を理解した上でもなお、畳の上を土足で歩くことをよしとする意図だとしたら?」と広告の影響力を考えるとゾッとしました。
つい最近、耳にしたホテル計画では、京町家の表座敷にガラスを敷き、その上を土足で歩いてもらうのだということでした。結果的にはその案は採用されなかったようですが、それにしても畳を美術工芸品かなにかと勘違いしているのでしょうか。守ってただそこに存在するだけの扱いに困惑させられます。外国資本のホテルならそういう計画をしてもしかたなかったのか、日本のホテルがそんな計画をしたからいけないのかと聞かれれば、もちろんどちらも違います。畳を単に陳列することに意味があるのでしょうか。ガラスを敷くなら畳が傷まなくてよいという考えもありそうですが、それも違います。発掘されたモザイクの床を保護しつつ、当時の住まいを再現してみせる土足の世界とは訳が違うはずです。
古い町家の調査では、本当に床が抜けているようなところで、畳の上を土足で歩かなければならない時でも、畳に申し訳ない気持ちがします。そうしてハタと思い出すのは、畳のあるお宅の見学で、スリッパを履いたまま畳に上がろうとする人が、一定数いるということです。そもそも畳が生活の中になく、扱い方が分からないせいなのでしょうか。マンションで畳のない家が標準となり畳の需要が減ったとか、机や椅子を置きたいので畳よりもフローリングの方がよいとか、バリアフリーのために畳からフローリングに改修するとか、畳は使われなくなっていくのでしょうか。
しかしこれだけ生活が洋風化されても、いまだに靴を脱ぐ生活習慣を守る私たちは、今一度、畳を見直してみるべきではないでしょうか。高齢者の施設計画で、「なじみのある空間」という謳い文句で畳が語られることがありますが、さすがに今後は変わっていくかも知れません。今現在の高齢者は畳のある生活を送ってきたとしても、これから高齢者になる世代には畳のない生活が一般的かも知れず、これまで使われてきた素材だからというだけで使い続けるのは考えものです。なじみの空間というだけではなく、転倒の際に衝撃を和らげてくれる素材という利点もあるはずです。いざって移動するなら、適度なひっかかりと程よい柔らかさがある畳は最適です。畳の上でごろりと寝そべってのんびりする、そんなことができる床材は他にありません。
い草の生産地では優良品種の作付けを始めるなど、輸入品との価格競争ではなく、高品質の畳表を生産する努力をされています。畳の生産では、気軽に使える置き畳も見直されているといいます。畳が本来持っている弾力性、保温性、調湿性といった機能だけでなく、畳表を交換することで使い続けられる持続性も畳ならではだと思います。建築に携わる私たちには、こうした畳の長所を活かし、適切に使う提案をしていくことが求められると思います。畳のある生活を見直してみませんか。
<特集> 高齢期を地域で支える
高齢期になった時、多くの人は健康で、家族や親しい人たちとともに心豊かに、安定した生活を望んでいるでしょう。できれば現役時代と同様アクティブに行動したいと願う人もいます。
しかし、日本では望むような高齢期を迎えるのは難しいのが現状のようです。
厚生労働省が2025年を目処に進めようとしている地域包括ケアシステム。
「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進する」ものと位置づけられています。来年が目標年ですが、私たちは実感できません。
在宅で暮らす高齢者が多い現状のなか、自分の意思に沿った生活を組み立て、馴染みのある地域で最期まで生き生きと暮らしていくにはどうしたらいいのでしょうか。
社会では生きづらさを感じる人が多くなり、どの世代にも孤独な生活思考の人が増え、家族・職場・地域でのつながりの薄さや生きづらさが社会問題にもなっています。そのなかにあっても地域でのつながりを強める取り組みが行われています。
本特集では、高齢期を健康で、心豊かに過ごすために、地域で支えるしくみをどう作り上げていったらよいかを取り上げ、地域のつながりを再編していく取り組みを紹介したいと思います。
特別編集委員/浜崎裕子
担当編集委員/髙田桂子
<ひろば> 千葉支部――総会記念講演「創宇社建築会の時代」
12月9日に、千葉支部の総会および記念講演が千葉市幕張にあるアトリエ結で開催されました。記念講演では、会場10人、Web3人が参加され、名古屋市大の佐藤美弥さんに、「関東大震災後の建築運動と創宇社建築会『創宇社建築会の時代――戦前期都市文化のゆくえ』によせて」をテーマに話していただきました。主な内容を、当日資料から一部を引用して報告します。
幕張と創宇社建築会
創宇社同人の竹村新太郎さんは、35歳の時から千葉市幕張町に住んでおられました。新建千葉支部の竹村塾は竹村さんのご自宅で開催され、現在、竹村文庫の資料もここに保管されています。
「関東大震災100年」と創宇社建築会
創宇社建築会は、1923年秋に逓信省の中間技術者5人(製図工、現場監督)によって結成され、11月に第1回の展覧会を開催しました。創宇社同人の中心だった岡村蚊象(後の山口文象)は、結成の理由を以下のように述べています。「帝都復興の機運急なる今、吾々は芸術味豊かな美しい東京市を建設すべく立たなければならないではありませんか。それが建築家としての『つとめ』だと思います」。
関東大震災と震災後の社会意識
関東大震災では、死者・行方不明者が約10万人にもなりました。震災直後には、以下のような諸問題が生じました(新聞報道による)。
「火災保険、帝都復興、朝鮮人・中国人の殺害、労働運動家・社会主義者の殺害」
また、震災をきっかけに、「このさい社会を改良するといった風潮↓簡素化、科学化」が目指されました。
関東大震災後の建築運動としての創宇社建築会――
『創宇社建築会の時代』より
佐藤さんは、今年の3月に、『創宇社建築会の時代――戦前期都市文化のゆくえ』を刊行されました。この著作を基に、創宇社建築会の萌芽、創宇社建築会の結成および展開、戦後における「建築運動」と創宇社同人たち、などが話されました。
むすびにかえて
・創宇社建築会の歴史的意味
①建築運動としての評価
→モダニズムを実現しようとした建築運動の一段階
②歴史学の視点から
→戦前期都市社会における民衆による文化創造
・今後の課題
①戦時・戦後の動向の解明
②同時代の分野横断的な動きの把握
③現在の「建築運動」への示唆 会場では、壁一面に創宇社建築会の展覧会ポスターや資料のパネル、竹村さんが若いころに描いた自画像などが飾られ、創宇社の活動やその時代のことに思いを馳せました。総会終了後に、懇親会を開催しました。参加者の近況などを報告し合い、久しぶりの対面での会話が盛り上がりました。
(千葉支部・鈴木進)
<ひろば> 東京支部――2023実践報告会
12月9日(土)10時~17 時、東京支部実践報告会を開催しました。報告をされた7名の方の内容をまとめました。
■築46年の実家を、DIY を併用しリノベーション(五十嵐一博さん)
自分が生まれ育った実家を、パートナーや3人の娘さん含めた5人の住まいとして設計した自身の取り組みについて、報告いただきました。費用を抑えたいという思いから、バルコニーの防水工事などは自身でおこなったり、あまった羽柄材を有効活用し家具を製作したりすることで、施工者の視点から工事を見つめる機会を通じ、効率よくかつコスト面に関してもより良いすすめかたを模索されていました。
■事務所30年の歩みとこれからの地域サポート(千代崎一夫さん)
マンション管理士として、現在の活動に至るまでの自身の生い立ちを報告されました。「業務なのか、社会活動なのか区別が曖昧だが、広い曖昧なカテゴリーが自身の守備範囲」という発言に、私たち専門家の職能確立と、地域に還元していくためのヒントが隠されているように感じました。
■神宮外苑再開発問題の支部の取り組み(柳澤泰博さん)
新建東京支部を中心に活動してきた、神宮外苑再開発問題への取り組みの概要を報告いただきました。この再開発事業では、球場側の意見は、バリアフリー化が困難なことやバックヤードの不足などの理由から、再開発し建て替え以外ないというものでした。この件に対する私たち新建の主張は、「見解と提案」にまとめられており、そこには「使い続けることの重要性」が提案されています。
■主体性を育てること――専門家の役割のひとつとして(澤田大樹さん)
象地域設計が設立時から時代背景とともにどのようなメンバーがどのような考え方で設計やまちづくりを進めてきたかをご紹介いただきました。地域の人たちに役立つ技術者になりたい、住まい手、使い手の立場に立つ専門家としての職能を確立したいという象地域設計の理念に触れ、私も設計者としての立場や考え方を再認識させられました。
■多様な主体の連携による居場所づくりの実例(岡田昭人さん)
愛知県にある築50年近い団地再生についてご紹介いただきました。住まいだけではなく空き店舗の活用、サービス付き高齢者住宅の設置、コミュニティ形成の場所、包括ケアシステムの構築など多岐におよぶ活用を提案し、実現に向けて動いていきます。NPO法人や病院、自治会、行政などさまざまな人たちのつながり、関わりにより、子どもから高齢者、障がいをもつ人たちの居場所が誕生し、地域のにぎわいの場として大変有意義な空間となっていました。
■高齢者と若年性認知症の入居者が暮らすグループホーム(村上久美子さん)
埼玉県の認知症(高齢者と若年性)に対応する2つのグループホームについて、設計者としての関わりをご紹介いただきました。行政の補助金を活用するために厳しいスケジュールに対応しつつ土地探しや建物の配置検討を並行して行うなど、設計者が事業者に寄り添いながら実現に向けて取り組まれました。
■神田コーポラティブハウスよもやま話(杉山昇さん)
都市住宅とまちづくり研究会(以下、としまち研)の取り組みの主軸である「地域コミュニティ再生型コーポラティブハウス」についてご紹介いただきました。としまち研では住み続けたい、商売を続けたいという地権者の希望を反映した共同建て替えを、人と人、地域とのつながりをつくるコーポラティブ方式による住まいづくりの実現を目指しています。
最後は、乾杯!!
お互いの仕事を知り、語り、学びました。少人数でしたが、オンライン参加もあり、笑顔あふれる実践報告会になりました。交流会ももちろん盛り上がり、話がつきませんでした。(東京支部・澤田大樹・五十嵐一博)
<ひろば> 神奈川支部――実践報告会&忘年会
昨年12月24 日に横浜のとある洒落たレトロマンション貸会議室にて、神奈川支部の実践報告会を行いました。参加者は神奈川支部会員10名、1月入会する建築士の仲間1名、東京支部会員1名の計12名でした。13:30から17:30までの4時間で6名から報告を聞きました。以下、概略です。
■80才代の父親と50才代の娘が暮らす23坪の家です。多摩産材を使ったグリーン化事業で太陽光パネル搭載のZEH住宅です。全熱交換換気扇とエアコンを設置した2階の納戸をチャンバーとして使い、家全体の夏冬冷暖房を行うシステムです。構造見学会を予定しています(酒井さん)。
■鉄骨3階建て建築のセメントミルク工法による杭基礎の設計についてです。ボーリングデータから地質性状を読み取り、杭長3.3m~5.5mで液状化対策をするなど専門的な報告です(菊地さん)。
■横浜市三ツ沢公園にある既存サッカー競技場の改修計画がとん挫し、その競技場とは別に、巨大競技場を新設する計画が進められています。緑豊かな自然環境を破壊する計画の白紙撤回を求める地域住民のグループを専門的な立場でのサポート要請を受けて、現地見学会など支援しています(小野さん)。
■神奈川県各地の空き家巡りの話から始まり、真鶴町の景色の良い高台に建つ空き家を購入し、おにぎり屋さんにするまでのお話です。現在、小野さん設計によるリフォーム工事中(川田さん)。
■木造平屋の車庫(1台分)の建物を残しての住宅新築を希望。一種低層地域の増築扱いですが、車庫の検査済証がないために、「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」による申請をしたけれど、検査機関は受け付けてくれない。結局、車庫は解体して新築として申請を行った事案(伊藤さん)。
■自宅のナラと隣家のヤマザクラをなんとか残したいという話。もう一つは18年関わってきている「まちづくり協議会」の活動紹介と、区の予算削減による組織運営改革の課題を報告しました(永井)。
それぞれ活発な質疑応答があり、4時間はあっという間に過ぎました。場所をレストランに変え、楽しい忘年会を行いました。神奈川支部に入会を決意した友人の自己紹介から始まり、それぞれの近況、政治、社会課題にまで、話は尽きませんでした。やっぱり飲み会は本音を言い合うことができていいですね。 (神奈川支部・永井幸)