建築とまちづくり2023年3月号(NO.528)

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<目次>

特集
マンションの持続可能性を問う
――区分所有集合住宅のこれから

梶浦 恒男
マンションの誕生から現在まで
――その成果と今後に求められるもの

髙田 光雄
「まちの立体化」をめざした集合住宅の権利関係
――「区分所有」の限界と「スケルトン賃貸」という理想

小杉 学
管理組合と管理会社の理想的な関係を探る

横山 幸一郎
区分所有法の見直しは、管理組合にとって有益か?

小金山 光男
コラム:終の住まいはマンション暮らし

大橋 周二
省エネ改修とマンションの長寿命化

杉山 昇
マンション建替えへのコーディネーターとしての取り組み
――居住者の立場に立った、デベロッパーに依存しない建替え事例

千代崎 一夫・山下 千佳
コラム:私たちのビンテージマンション運動論

連載
「居住福祉」の諸相〈3〉
仕事と住まいの不安を同時に支援
岡本 祥浩

タイの住まいづくり・まちづくり(18)
硬直化した日本が学ぶべきタイの柔軟性
石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈14〉
中村彝のアトリエ
茨城県水戸市
乾 康代

主張
2030年のエネルギーと地域づくり
高田 桂子

新建のひろば
京都支部――まちづくりの実践から見えてくるもの その2
研究会だより――第5回子ども環境研究会報告

<主張> 2030年のエネルギーと地域づくり

             高田桂子  企業組合とも企画設計/全国常任幹事

 電気やガス料金が高騰し、それに押されるようにさまざまな物価が上がっています。仕事や生活に大きく影響し、多くの人が苦しんでいます。私たちのエネルギーが海外からの化石燃料にいかに頼っていたかが分かります。農産物とともにエネルギーの自給率を高めるべきと感じる機会になりました。
同時に、世界の気候危機を深刻に受け止め、できるところから取り組んでいきたいと誰もが思っています。2020年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、カーボンバジェット*を「1・5℃目標」の達成のために、2030年までに2010年対比45%削減、2050年にカーボンニュートラルにすることが求められています。目標を確実にするためには2030年目標をどこまで達成するかが決定的と言われており、EUなどの国々はさらに目標を高め化石燃料を減少させています。
国際エネルギー機関(IEA)は2021年に、2050年までの世界の電源構成の推移の見通しを出しました。2020年では化石燃料による火力が61・3%、再生可能エネルギーが28・5%であったものが、2030年には再エネが61・2%と逆転し、2050年には87・6%となります。原子力は2020年10・1%から10・4%、7・7%とほとんど変わらず割合は減少していきます。では日本政府の見通し(野心的目標)はどうでしょうか。2030年に再エネ36〜38%、液化天然ガス20%、原子力20〜22%であり、世界との差が歴然です。
IEAが示すCO2削減の貢献度を見ると太陽光、風力、電気自動車(EV)が60%以上で圧倒的です。日本では福島原発事故後、廃炉作業の見通しは立たず、住民の避難計画も立てられず、ウクライナ侵攻を機に原発は核兵器に匹敵することも明らかになりました(本誌2023年1月号「脱原発と住民自治」)。原発や実証段階の電源に頼るのではなく、すでに商業ベースに乗っている再エネをもっと活かしていくことが2030年目標に近づく確かな道です。
一方、再生可能エネルギーは変動性再エネ電源(VRE)です。不安定である、高い蓄電池のようなバックアップが必要である、再エネが多くなると停電が起こる、と言われます。しかし、再エネ先進国であるデンマークでは「電力システムのなかでVREの発電がほとんどすべての時間帯が多くなる」という段階(IEA6段階の4段階目、日本は2段階目)となり、VREが主流でも安定した電力が提供されることは確かめられつつあります。
変動があるからこそエネルギーの需給を調整させるしくみづくりが欠かせません。日本では再エネの調整を火力で行っていますが、揚水発電やコジェネレーション、熱貯蔵などさまざまな方法が考えられ、これからは柔軟性と多様な電源の組み合わせが重要なキーワードです。東京都の太陽光発電に多くを頼った施策は疑問が残ります。地域資源を活用した分散型発電と熱貯蔵などを支援する道を開いてほしいと思います。
エネルギーの需給を地域で調整するしくみづくりも必要です。日本ではこれからですが、持続可能なエネルギーを担う地域づくりにつながっていくでしょう。例えば、北海道鹿追町での牛の糞尿によるバイマオス発電が注目されています。発電と余剰熱の利用により安全な有機肥料、水素ガス生産、付加価値のある農水産物を生み出し、電力は地域新電力に売電され、住民に供給されています。
こうした地域づくりを進めるには多様な専門家の参加が必要です。私たちは建物の省エネ化に取り組んでいくと同時に、地域資源を地域経済で活用するしくみ、安定的な温熱環境づくりと域内経済を成り立たせていくしくみづくりに目を向けてみませんか。新しい地域づくりに取り組んでいくことが「1・5℃目標」に近づく道です。
最後に、神宮外苑の再開発など、都市部での貴重な樹木を伐採する行為は「1・5℃目標」に逆行する道です。開発を止めさせる取り組みを強めましょう。
*カーボンバジェット: 気候変動を一定程度に緩和するため追加的に排出が許容できるCO2排出量の上限のこと。

<特集> マンションの持続可能性を問う-区分所有集合住宅のこれから

日本に持家型集合住宅(マンション)が誕生して60年以上が経過しました。当初はその管理の方法は統一されていませんでしたが、1962年に区分所有法が制定された後、次第に区分所有者の団体である管理組合が主体となって管理する、すなわち住民自治の共同管理が定着してきました。
2021年末で日本のマンションは約685万戸、うち約6%が空き家と言われていますが、それでも毎年10万戸前後が新規供給されています。国は110万戸を超える築40年超のマンションに対して老朽化の抑制と建替えの促進という2つの視点から、マンション管理適正化法とマンション建替え円滑化法を改定しました。
これは、一定水準以上の管理が実施されているマンションを公的に認定し、適正管理の促進、中古市場の活性化につなげようとする一方で、管理が行き届いていないマンションを解体して土地をデベロッパーに売却しやすくすることによって建替えを促進しようという、維持保全と更新の二面性を持った政策展開といえます。とはいえ、いずれも大規模修繕と建替え、すなわち建設工事の活性化を目指した成長戦略に位置付けられるものです。
一方で、経済界からの提案を受けて区分所有関連法制の見直しが検討されています。論点は管理組合の集会における決議要件のハードルを下げて、改修工事や建替えが容易に決定できるように、というものです。「区分所有者全員から成る管理組合による合意形成」という区分所有法の原則をないがしろにする成長戦略一辺倒といっても過言ではない見直しです。
さらに近年は管理会社などが、理事会不要の「第三者管理」を推進し管理組合に対して営業攻勢を強めています。これは高齢化などを理由に役員を忌避する状況に対応する便利な仕組みに見えますが、区分所有者の主体性が退化し、権利義務を実質的に放棄することにつながるのではないでしょうか。
建物の高経年化と居住者の高齢化の問題は10年以上前から指摘されており、前述の管理の適正化や、耐震化を含む改修、再生に係る施策が打ち出され、当の管理組合を含む関連団体はそれらに沿ってさまざまな取り組みを重ねてきました。しかし、ここにきて「集会決議を簡単に」「第三者を管理者に」という、区分所有者による共同管理の仕組みの根本を揺るがすような動きをどう捉えたらいいのでしょうか。
本特集では、日本の区分所有集合住宅が転機を迎えているのではないかという視点から、区分所有という所有形態そのもの問題や、これからのマンション管理のあり方、区分所有者および管理組合とそれらを支援する専門家の役割、長寿命化の取り組みや全員合意による自主再建の取り組み紹介を含めて、成長戦略ではなく管理組合の視点で、マンションのこれからを考えてみたいと思います。

担当編集委員/大槻博司

<ひろば> 京都支部-まちづくりの実践から見えてくるもの その2

12月16日(金)に行われた河合博司さんによる「まちづくりの実践から見えてくるもの その2」は、もえぎ設計を会場にオンラインも併用して22人の参加がありました。
* * *
現代には進みすぎた私有性があり、私有しているからなんでもできるという側面がある。これが各所でまち壊しの一つの悪い契機となってしまっている。前回、話題の中心とした「地縁法人制度」は、同じ地域に住所を持つことが所属の唯一の条件であり、性別や年令、職業、民族、国籍に関わらず所属でき、共同所有が可能となる住民自治の先進的な取り組みであり、進みすぎた私有の概念を抑制する意味でもこれからのまちづくりに有効と考えている。
今回は公営主義、自治体主義を考えていくが、2022年6月に杉並区長選挙で岸本聡子さんが「コモンズ」の考えを前面に主張し当選された。この「コモン・コモンズ」の考え方の原点は足元の自治である。杉並区は1955〜56年にかけ行われた原水爆禁止運動発祥の地であり、脈々と続いた豊かな住民運動の歴史が今回の区長選挙のバックグラウンドにある。
全国で水道事業の民営化・広域化が議論され、財政難や自己責任論などで民営化がどんどん進んでいるが、岸本さんは「水はコモンズだ!」と仰っている。コモンズというのは、利益を上げることを許してはならない。利益を上げるということは地域のまちづくりではないということを主張されている。
1943年に町内会が行政の末端機関として位置づけられ、戦時体制をバックアップしたのは誤った公共の在り方であるが、これは決して過去の話ではなく、「町内会」「自治会」「自治連合会」などの共同組織が行政により住民合意や住民参加のアリバイとして利用されていることが現代でも行われている。京都の例を挙げると、京都市による小学校跡地へのホテル建設などのまち壊しも、地域の本来の意向は無視しているのに、住民を代表する組織として「まちづくり協議会」などの意見を聞くことで「住民合意の形式」を成立させている。これは足元の共同組織の二面性を表している。
自治体に再公営化をうながし、岸本さんたちが主張しているように再び住民の役に立つ、市民の役に立つ自治体をつくり直していくことを通じて、杉並区の取り組みは、コモンズやコモンが足元から全面的に展開される条件をつくり上げていくのではないかと期待している。
これらの議論において、近代的自治の負の側面を突き詰めるとそれは自己責任論であり、勝ち組をいかに大事にするかということにつながる。それに対し冒頭で話した杉並区長選の取り組みや1960〜70年代の京都府政の取り組みは住民自治と言える。住民自治の最大のポイントは住民参画であり、住民自治は人権尊重の「公共財」で、民営化されつつあるものを再公営化していくという提言につながる。儲けるのではなく、共同体的自治組織や現代的協働を再創出していき、地域の人々の知恵を活かして多くの人とつながり、お互いが幸せになり、希望を持って喜びあえる地域をつくっていくのである。これらの取り組みについて「平成の自由民権運動」と呼んでいるが、私たちはこのような自治体から学ぶべきことは大変多いと感じる。
京都市でも「京都のまちづくり憲章制定運動」などの多くは町内会や学校を単位として、地域ぐるみで、市民が展開してきた経緯がある。公務員の実践学習と専門性発揮の「場」としても住民自治の単位でお互い学び合い公務員の専門性が鍛えられる場としてコモン・コモンズがある。公務員が市民運動とか住民運動に公務として関わることは今の制度上難しいが、公務員もコモンズ運動の中心的な役割を果たしてくれたら大変嬉しく、それには僕らもぜひ協力してみたいと考えている。
京都は今とてもひどい状況にあるが、岸本さんたちの東京の例からも学びながら、現在から未来に向かってコモン・コモン
ズを活かしていく取り組みが求められているということを、あらためて提言しご報告としたい。
* * *
河合さんにはさらに続編を準備していただいているそうです。京都にとどまらないお話に、ぜひ多くの方にも聞いてもらいたいと思いました。
大森直紀/京都支部

<ひろば> 研究会だより-第5回子ども環境研究会報告

1月29日に子ども環境研究会がオンラインで開かれました。前回までは22年6月号建築とまちづくりの記事をベースにした報告を継続してやってきましたが、今回から実践報告をすることになりました。京都建築事務所の富永さんより大阪のすみれ保育園について報告があり、参加者は合計11名でした。

建て替えの経過
大阪市城東区にあるすみれ保育園のある敷地は、同法人が運営する高齢者施設や病院、乳児園、障がい者・児施設、学童が隣接しています。建て替え前の保育園は東側に乳児院が並んで立地していましたが、乳児院が移転後、定員の増加(192名)をともなう建て替えを行うことになりました。既存園舎を使いながらの建て替え工事だったので、工期を2期にわけての工事です。既存園舎を一部解体後にその部分を含めて前半の新築工事、竣工後既存園舎をすべて解体し後半の新築工事でしたので、他施設の移転からを含めると相当な期間がかけられた大規模な工事でした。

園舎を使いながらの工事
1期に既存の玄関を含めた解体工事であったため、仮設の玄関がつくられました。かわいいクロスを使う紹介があり、仮設だけども楽しさも忘れない工夫がされていることにほっこりした気分になりました。トイレも解体されたため、既存の保育室がトイレへ改装され、とても広いトイレができるのを見せてもらい、自分がかかわった建て替えの件で先生に仮設園舎もいい環境であったと言われたことを思い出しました。仮設の園舎だろうとそこでの子どもたちの暮らしは仮ではないので、一時だけど本設と変わらない居心地のよい空間を考えることも大事な仕事だと再認識しました。

設計のプロセスと園舎づくり
築40年になる既存園舎で愛着のあるもの、残すべきものについて話題になりました。その紹介であったひとつは門扉です。思い入れがあって新園舎でも再利用することになりました。もうひとつは和便器です。新園舎でも設置するかが議論になりました。今は公園のトイレなどで見かける限定的な設備になってしまった和便器ですが、今後新園舎で必要かどうか議論が重ねられたようです。その結果、洋便器の設置となったようですが、先生たち自身が話し合った末に決めたことは大事なことですし、設計者が丁寧によりそい関わっているエピソードだと感じました。
規模の大きい園舎ですが、ポップで出窓がアクセントになっている素敵な外観であり、住宅もあるまちなかに即したボリューム感で和らいだ印象がありました。玄関までのアプローチは広いピロティになっていて、天候を気にせず外遊びができる空間になっています。1階に0歳児と1歳児、2階に2歳児と3歳児、遊戯室やランチルーム、3階に4歳児と5歳児、屋上園庭、4階に職員休憩室、多目的室が配置された建物です。限りある敷地のなかで、空間を最大限に使っている構成でした。多層でありながら、交流は保育の工夫で促せる話があり、構成を決めるときにも配慮がされたのだろうと推察されます。4歳と5歳児保育室には間仕切りがなく、5歳児保育室の中のすみっこにおうちの形をしたかわいいDENが作られていました。一人で過ごしたい子どもが使っているそうです。小さなコーナーは子どもが多いからこそ、より生きてくるだろうし、なくてはならないものだなと予想します。
各保育室に付属する収納についても打合せを重ねられたようで、保育室に隣接した収納が使いやすいという話がありました。すぐ近くにあってほしい教材、子どもの完成した作品もあれば途中までの作品、先生たちの手荷物……等々を収めるスペースはたくさん求められることが多々あり、保育室の広さを確保しつつ、どうスペースを生み出すか悩ましいときもあります。
まちなかでは通りからの視線にも気を使います。閉鎖的になっては寂しい限りですが、開けっ広げになりすぎるのも難しいところです。窓の位置などもそうした配慮が感じ取れました。コロナ禍の前の設計だったこともあり、最近の様子は手拭きタオルがなかったり、保護者が保育室に入れなくなってしまい子どもの絵の展示が少なくなったり、と設計の想定ではなかったことが起きているようです。
実践報告は久しぶりでしたが新建の理念を認識することにもなったり、自分の仕事に置き換えたときの振り返りもしあったり、視野が広がります。今年は実践を通じて子どもの施設、環境のためにみんなで学び合い議論したいと思います。
目黒悦子/京都支部

 

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