建築とまちづくり2023年2月号(NO.527)

<目次>

特集
全国に拡大するまちこわし、環境破壊
――市民主体のまちづくりをめざして

大橋 周二
札幌市内で進む冬季オリンピック・パラリンピック誘致と大規模開発

坂庭 国晴
熱海土石流災害から一年半の現在状況
――被災者の住まい、たたかい、支援と復興

河内 正道
採石場への巨大盛土は安全なのか
――相模原市藤野トンネル区間のリニア残土

矢後 保次
コラム:市長が変わってカジノがストップ。まちづくりも市民参加に変わった

瀬尾 真司
京都でわき起こるまちづくりの課題を見える化

新建大阪支部
枚方市駅周辺再整備
――「壊して造る」が目的の開発ではなく市民が主体のまちづくりを

新谷 肇一
登録有形文化財大牟田市庁舎本館の保存と活用を求めて

安達 智則
コラム:サトコ・ニューウェーブは、杉並のまちを変える

連載
「居住福祉」の諸相〈2〉
ワールド・ハビタット賞
岡本 祥浩

タイの住まいづくり・まちづくり(17)
タイの祭り
石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈13〉
瀧川神社
静岡県三島市
中里 想

主張
衣食住から衣食住交へ
桜井 郁子

新建のひろば
研究会だより――第2回「環境と建築研究会」予告

<主張>   衣食住から衣食住交へ

                                                    桜井郁子    企業組合Fuu空間計画/全国常任幹事

 住宅の設計や改修相談を受けるということは、生活の三要素、衣食住の中でも特に、住の側面からの住み手への支援と考えていました。最近なぜか、住まいの確保が困難な事例を見たり話しを聞いたりすることが増えました。「住まいは人権」のイスタンブール宣言は四半世紀以上も前のことなのに、日本では法的整備が不充分だというだけでなく、他人のことを気にかけるほど、余裕がなくなっているというのが正直なところではないでしょうか。
 住まい確保の困難さを意識するきっかけは、2016年に京都府が始めた「次世代下宿『京都ソリデール』事業」でした。高齢者が住んでいる家の空き部屋に低廉な負担で学生が同居・交流する事業ですが、当初は居住の貧困とか人権とかそんなことはほとんど頭になく、高齢者の生きがいにつながりそう、くらいの軽い気持ちでした。組合員として参加している京都高齢者生活協同組合くらしコープに働きかけて、京都府から業務を受託してもらい、住宅を持つ高齢者と住まいを求める学生をつなぐという枠組みで活動してきました。
 そうしたなかで、これまであまり接点がなかった学生の、困難な様子を知ることになりました。一人暮らしをするよりも交通費の方が安いので、東京ほどの長時間通勤をしない関西においてさえ、2〜3時間かけて自宅から通学するというのも珍しいことではありませんでした。寮に入れるのはごく限られた人数であった上に、コロナ禍によってさらに二人部屋のうちの一人が入寮できなくなったりしました。賃貸物件は二年間の契約が多く、留学から帰ってきても、あと半年だけの学生生活を送れる場がないという事例もありました。
 本誌2022年11月号に掲載された準学生寮「山形クラス」では、住宅セーフティーネット制度の中で、学生の居住を支援しています。住宅セーフティーネットの仕組みでは一般的に、居住支援法人の指定を受けて、高齢者、障害者、低所得者、刑余者などから相談を受けることになります。居住支援法人もある意味、住宅取得が困難な人にとっての伴走者であり、先入観にとらわれがちな世間一般とをつなぐ役割が求められます。本誌の連載で取り上げられているタイのバーンマンコン事業を実際に案内してもらった際も、金銭的な援助だけでなく人的援助や仲間の存在が重要だと納得しました。
 京都ソリデールで高齢者と学生をつないでいくことを続けていると、ようやく見えてきたことがあります。学生から「通学に便利、交通費がかからなくなった」「図書館の閉館時間までいられる」「やってみたかったボランティア活動に心置きなく参加できる」と感想が寄せられますが、これは一般的な一人暮らしと変わりません。それよりも「自分の専攻を仕事としていた高齢者さんからも学べて、他の学生より2倍も3倍も充実した」「自分のボランティア活動に共感してくれて一緒に活動できた」「こんな楽しい生活をしてしまったら、もう一人暮らしには戻れない」と、他者との関わりに真価があるようです。
 人間は社会的動物であり、一人では生きていけません。住まいが衣食住という重要な要素のひとつであり、そこに関わる建築技術者を意識するなら、住まいをつくりあげるにあたっては、さまざまな人との交わりをもっと意識すべきだと強く思うようになりました。衣食住だけではなく、これからは衣食住交を心に留めていこうと思います。

<特集> 全国に拡大するまちこわし、環境破壊
                                         ―市民主体のまちづくりをめざして

    今号は建築とまちづくりの分野で、ここ数年編集委員会で気になりながらも取り上げられなかったテーマを取り上げたいと考えました。
 まずは、地方都市で進む大規模再開発の問題です。
 首都圏での桁外れの大規模再開発は依然数多く進められていますが、冬季オリンピック誘致を進める札幌、2025年に万博を控える大阪、特区制度を使った福岡など、地方中核都市で大規模再開発が拡大しています。都市の姿が次々と変化し、再開発後の地域のあり方が問われます。本当に大規模再開発が地域経済や人々の暮らしに必要なのでしょうか。
 オリンピック誘致によって都市景観が大きく変わっていく様子を札幌から、京都市各地でわき起こるまちづくりの問題を見える化(地図化)した京都支部の報告、市有地を開発業者に売り払おうとする大阪枚方市駅前の再々開発計画に抗って市民と取り組みを始めた大阪支部の報告、の3つの取り組みを紹介します。
 次に、これまで本誌ではリニア新幹線や外環道陥没、土砂災害などを取り上げてきました。最近全国の幹線開発に関わる問題は新建に寄せられる相談件数が多く、各地で悩まれている住民が多いことを感じています。
 なかでも2021年の熱海の違法盛り土による土砂災害は、大きな問題を提起しました。違法盛り土の危険性と見逃されている箇所数の多さは住民の生命に直結するものです。今リニア新幹線工事による掘削残土と盛り土の問題はあらためて問題になっています。
 熱海の土砂災害直後から現地と盛り土問題をリポートしてきた地元在住・坂庭氏のその後の報告、リニア新幹線掘削残土の盛り土問題に取り組む神奈川県相模原からの報告、の2つの取り組みを紹介します。
 三点目に、建築物保存の取り組みは多様に行われてきました。運動の成果で元のままの場所で保存が決まった事例もあればそうでない事例もあります。今回は福岡県大牟田市役所を現在のまま保存し、市役所として使い続けることをめざした取り組みを紹介します。
 大牟田市役所の保存運動は長く、現市長に交代した際に一つの転換点があったそうです。こうした運動が進められていた地域では、首長選挙によって方針が変化することがあります。
 保存運動ではありませんが、横浜市長選挙でカジノを含む総合型リゾートに立候補するか否かが争点になりました。反対する現市長が当選し横浜は、総合型リゾートを整備しない道に舵を切りました。駅前再開発や高齢者・幼児施設の削減が一方的に進められていた杉並区では、昨年の区長選挙でその流れが変わろうとしています。これから変わっていこうとする横浜と杉並の2つの事例を紹介します。
 まちこわしと環境破壊が東京だけでなく全国に急速に拡大しています。人々の暮らしを壊し、民主主義的ルールを破る再開発に大義はありませんが、首長が変わればまちづくりが変わると安直に信じるのは考えものです。ここはスタートラインに過ぎません。暮らしとまちづくりを市民が主体的に考え、検討する仕組みを地道に育てていくことが、建築とまちづくりに関わる私たちの役割ではないでしょうか。
                                                                  担当編集委員/桜井郁子、高田桂子

<ひろば>  研究会だより―第2回「環境と建築研究会」予告

     環境と建築研究会の第2回を行います。問題提起者は伴年晶氏(1級建築士事務所・あじあ~き)、テーマは「自転車かプリウスか」。
     日程は2月24日19:00~21:00
オンラインで行うのでURLは「配信」でお知らせします。

***
 21世紀に入って、経済縮減を意識して建築活動を重ねてきた新建のメンバーに問う。
 23年になっても反対に動き回る政治経済の牽引車たちに期待できない情況だ。次代を担い生存しなくてはならない若者が彼らに反旗を翻している。プリウスのように経済効率でエネルギー消費システムを維持してはならない。一人ひとり生活のパラダイムに挑戦。
    自転車でOKの①需給移動に変え、②自転車で風を切る生命体の歓びが相乗するヒトの建築活動を取り戻すことができるのは、新建だけなのだ。
どうする、新建……!!!
                                                                                            (大阪支部・伴年晶)

   

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