建築とまちづくり2022年7・8月号(NO.521)

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<目次>

特集
建築を永く生かす構造技術者

中島 正晴
木造耐震診断・耐震計画の実際

摺木 勉
既存鉄骨耐震改修での工夫

甫立 浩一
木造耐震補強・施工者の立場         

石上 圭介
コラム:地域係数への違和感         

古川 保
くまもと型伝統構法を用いた木造建築物の設計指針       

中島 健太郎
構造計算の価値がなくなっていくなかで、構造設計者の役割とは
                                                                               
松島 洋介
構造設計者のやりがい生きがい
――西七条保育園 曲がり階段を事例に

各自治体における耐震補強工事助成制度の例

連載
原子力災害避難計画を考える〈7〉30㎞圏・UPZの呪縛
池田 豊

日本酒蔵紀行〈24〉横手市増田        赤澤 輝彦

タイの住まいづくり・まちづくり(11)

パイロット地区②:環境改善と自己実現――バーン・マンコン事業3
石原 一彦

私のまちの隠れた名建築〈7〉
純喫茶エトワル   山口県防府市      西尾 幸一郎

書棚から
『みんなでまもった美術館~宮城県美術館の現地存続運動全記録』

主張
「国土形成計画」の行き着く先―究極の「国土改造」というべきか
片方信也

新建のひろば
京都支部――北山エリア開発学習と西日本ブロック会議の報告
大阪支部――「中之島を緑の島に~未来へのおくりもの」提案
研究会だより――子ども環境研究会発足、継続開催へ

<主張> 「国土形成計画」の行き着く先―
                                                   究極の「国土改造」というべきか

片方信也   日本福祉大学名誉教授/代表幹事

  現在、国土審議会計画部会で、次期国土形成計画(第一次2009年~、第二次2015年~)の検討が進められています。その骨格となるのは、リニア中央新幹線を開業させ、それによって形成される「巨大経済圏『スーパー・メガリージョン』」の下に3大都市圏間の「シナジー(相乗効果)」を劇的に高めること、さらにリニア駅を核に高速交通ネットワークを形成するため高速道路網を整備し、さらには空港へのアクセス性も向上させるというものです。また、東京が大規模災害に被災した場合に備え、リニア沿線にバックアップ体制を構築する、とも企図されています。
 リニア新幹線導入を柱にする国土形成計画が私たち国民一人ひとりになにをもたらしつつあるのか。これについて私は、「悪夢の『国土ビジョン』―リニア新幹線導入で何が見えるか」(本誌2014年12月号)の記事で、結局は「市場原理」による「国土改造」によって自然と人間のつながり、人々の日々の暮らしを支えるコミュニティをさらに解体させるだけであると指摘した上で、「真に求められるのは、大都市内では地場産業の再興、それとつながったローカルで固有な文化の育成、そして多様なヒューマンスケールの共同社会を築き直すことである。地方においても農耕、牧畜、林産、海産などの生産基盤を再生する。そして、都市と地方の共同社会がそれぞれ互いに連携し、衣食住を可能な限り満たし合うことを目指さなければならない」ということでした。
 そう遠くない先に東南海・南海地震が日本列島の太平洋側を襲うことが予測されている時に、9割方までトンネルで、かつ大深度地下まで掘削利用しようとするリニア新幹線を求めているのは一体なんのためでしょうか。結局は「シナジー」を追求してやまないその場限りの利益獲得の大企業本位の開発であることは明らかでしょう。それに、地層を切っていくつもの断層を抜け、地下水脈を枯渇させるだけでなく、土地や水、大気などに生息する無数の微生物、動植物などの生命環境にも重大な影響を与えかねない危険につながる破壊行為というべきではないでしょうか。
 さらに予測できることは、リニア駅(あるいは空港)につながる高速道路網の建設が大々的に進行する、恐るべき公共投資の拡大が登場する危険性です。それが、駅周辺の「市街地改造」に拍車をかけるだろうということです。駅ができる自治体は政府や開発企業からのプレッシャーを受け続け、もしそれを受けるようになるとしたら、自治体による住民へのさまざまな社会保障、住宅政策、生活困難世帯への支援などの公的施策に、圧迫・経費削減というようなとんでもない悪影響をもたらす危険が見えてきます。
 こうした見方があながち的外れではないと思われるのは、国土交通省国土政策企画官の小田桐俊宏氏が、「国土政策的観点で申しますと、リニア中央新幹線の開業に向けて、今、工事が進んでおりますけれども、これが実現しますと、東京と名古屋、最終的には大阪まで含めて、1時間ちょっとで都心が結ばれるという形になりますので、これも一つの大都市としてどうしていくかというところなどは議論になってくる」と述べています(土地総合研究2022年春号)。まさに、「スーパー・メガリージョン」は先に指摘したようにリニア駅と列島の各地を高速道路で結ぶ核的な「超巨大都市」、つまり、資本投資の新たな展開の受け皿を用意するための場として築かれるということを意味していると言えます。
 「2050年カーボンニュートラル」を目指すとする次期国土形成計画につなげられる、国土審議会計画推進部会による「『国土の長期展望』最終取りまとめ」で強調される「地域生活圏」とは一体なんでしょうか。人口減少時代を想定した人口10万人規模の、デジタルとリアルを結合する集団のように描かれていますが、それは、言ってみれば「スーパー・メガリージョン」の裏側の「地獄絵」ともとれるのではないでしょうか。緊急に求められることは、地域住民一人ひとりが人間としての共感能力を守り育て、五感によって培う空間、生活の場である、と言えるからです。つまり、これこそ暮らしの基盤と位置付けられるべきでしょう。

<特集>  建築を永く生かす構造技術者

    地震や台風などの自然災害の多い日本において、人々の生命・健康および財産を守るための建築をかたちづくる建築構造の技術を継承・発展させていくことは、必須かつ永続的な課題と言えます。また、これからの持続可能な社会の実現に向けて、建設生産における改善を考える時、建築構造分野での取り組みも欠かせません。
 豊かなストック型社会実現のために既存建物の耐震化技術は必須ですが、新築設計以上の技術力や経験を要求される場面も多くあります。これまで各地の技術者が、試行錯誤を重ねながら多くの事例に取り組んできました。地域産木材を活用する日本古来の伝統的な木造建築の技術について、その良さが再評価されています。解析技術の進歩や関係者の研究・普及活動により、再び世の中に広がることが期待されます。
 一方で、2005年の構造計算偽装問題などを機に、構造設計分野における法的手続きは厳格化され、その業務も煩雑さが増し、より専門化されていく傾向にあると思われます。また、若い技術者の育成も重要な課題と思われますが、労働環境や報酬など、実務の状況はあまり改善されていないのではないでしょうか。
 今後の建築構造分野の発展のためには、最先端の構造技術の進歩だけではなく、専門に限らないより多くの技術者が建築構造に対する理解を深め、その重要性を共有する必要があると思います。また、多くの人々が直面する戸建て住宅などの小規模な建築物や既存建物改修時における構造設計の基本的な考え方や手法のバリエーションを共有することなども重要な課題と考えます。
 本特集では、建物の耐震化を主とする構造設計の具体的な実例や取り組みを紹介し、それらの仕事での課題やそれを克服した技術やアイディアを共有していただきます。また、日本文化を象徴する木造の伝統構法を活用するための取り組みなどから、人や環境にやさしい建築をつくり、残していくための手法についての学びを得たいと思います。そして、それらの技術を実践する現代の構造技術者を取り巻く環境や、その問題点、新たな取り組みなどの報告から、これからの建築構造分野の展望について考察したいと思います。
                                                                                  担当編集委員/古川学、永井幸

<ひろば> 京都支部―北山エリア開発学習と西日本ブロック会議の報告

    5月21日に西日本ブロック会議を行いました。またそれに先立ち「北山エリア開発 学習・交流会」に参加しました。
 現在、京都市左京区にある京都府立植物園とその周辺を対象として、大規模な開発計画が進められています。開発エリアの中央に位置する京都府立植物園は、多種多様な植物を季節ごとに楽しめる府民の憩いの場であり、またその保存数は日本有数とされています。開発計画では、植物園の中にイベントスペースと野外ステージなどを建設し、さらに植物園の周囲には大規模なアリーナ、シアターコンプレックス、カフェ・レストランなどを作り、この地域ににぎわいをつくり出すことが目的となっています。
 この会では、府民の意見が置き去りにされていること、PFI方式による管理に対する疑問、反対の署名が13万筆集められたことなどが報告されました。特にPFI方式の問題点については弁護士がオンラインで説明されるなど、私個人としても大変有意義な会への参加となりました。
 その後は皆で京都府立植物園を散策しました。あいにく小雨が降る天気でしたが、それがまた木々の緑を鮮やかに見せ、薔薇の季節でもあったため薔薇園にある数百品種あると言われる薔薇の花がお互いに競うように咲いていました。そして、屋外ステージ建設予定地といわれる芝生広場を確認。現在は、皆が思い思いにくつろげる広場となっていますが、ここにステージが建つとイベント時の音などが大きくてくつろげないのでは?また先ほどの薔薇園なども静かに落ち着いてみられないのでは?などといった意見が皆の間で交わされました。にぎわいも大切ですが、静かにすごせる場所も同じように必要だと思います。
 植物園を出た後は、会員の設計事務所にて西日本ブロック会議を行いました。参加者は岡山、大阪、奈良、京都とオンラインで福岡の各支部からでした。大阪はIR問題をはじめ、枚方駅前や天王寺公園などの開発問題、奈良は奈良公園内のホテル問題、福岡は市内の高層ビル計画などの報告がありました。また、関西の建まちセミナーの企画についても話し合われ、いくつかの候補地と企画内容の提案があり、今後さらに内容を詰めていくこととなりました。                                 

京都支部・瀬尾真司

<ひろば> 大阪支部―「中之島を緑の島に~未来へのおくりもの」提案

    大阪支部は、今年の5月3日から5日の3日間、当支部の運動の原点でもある「中之島の近代建築群の保存運動」を契機にして1973年から開催されている「中之島まつり」において、「中之島を緑の島に〜未来へのおくりもの」をテーマにした展示会を開催しました。
 中之島は、この数十年の間に「東洋陶磁美術館」や「地下鉄駅入口」「護岸工事」「レストラン」などの建設により、それまで豊かであった緑が急速に減少してきました。支部では、安藤忠雄氏の「本の森」建設問題をきっかけにして、約3年前から中之島をもう一度見直そうという機運が高まり、中之島まつりにおいて提案する準備を進めてきました。コロナ禍の影響により中断されていたまつりが3年ぶりに実施される運びとなり、今年ようやく展示会を開催することができました。
 展示会では、2色(黄色と青色のプラダン)のパネルに、中央公会堂や府立図書館、取り壊された大阪市役所の写真、中之島再開発計画、中之島を守る会などの写真のほか、中之島に残された緑地でくつろぐ市民の写真、中央公会堂を背景に広がる芝生と人を描いた提案パースなどを掲示しました。
 さらに、中之島の歴史建造物の紹介、保存運動の歴史、緑が減少している航空写真、提案パースなどを織り込み、「中之島を緑の島に」というテーマを簡潔にまとめ収録したビデオを作成して上映しました。「htps://youtu.be/te60V9Nj760」を開いてご覧ください。
 また、会場ではモザイクタイルと鉄平石、木片、竹などを組み合わせた工作ワークショップを開催。これには3日間で約160組を超える家族や子どもたちが参加し、大変にぎやかで楽しい展示会のひとコマになりました。この他、支部のブース横では、カジノ誘致の賛否を問う「大阪府条例制定請求署名」も行われました。
 支部では、新自由主義の名の下で進められている都市公園の営利・私的利用の調査を検討しています。来年のまつりでは、「中之島を緑の島に」の展示とあわせて、市民に提案したいと考えています。
【中之島まつり支援基金お願い】
 今年で49回目を迎えた中之島まつりはコロナ禍による2年の中止のため、深刻な財政難です。支部では、「0・07は1/2を支援する中之島まつり大作戦」と題した募金活動を実施中です。月収の3・5%を目途にご協力下さい。     

大阪支部・中西晃

[振込先]
ゆうちょ銀行【店名】四一八(ヨンイチハチ)
【種目】普通【番号】7731849【名義】中之島まつり実行委員会

三菱UFJ銀行【店名】天神橋支店【種目】普通【番号】3866164
【名義】中之島まつり中間正隆(ナカノシママツリ ナカママサタカ)

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