<目次>
特集
建築まちづくり教育を社会とのかかわりのなかで
――多様な教育プログラムの実践を通じて考える
伴 年晶
建築設計事務所運営と建築教育
磯田 節子
建築設計演習を中心とする「教室を飛び出し社会を教室とする学び」
――Aalborg大学のプロジェクト型PBLを参考として
谷口 尚弘
建築まちづくりの現場
北海道科学大学建築学科の教育内容と学生たちの取り組み
松野尾 仁美
木造建築物を学ぶための実践的教育プログラム
――実務家教員としての取り組み
関谷 真一
木造建築の手仕事を学ぶ
竹山 清明
建築系大学における住宅設計教育
葛西 リサ
新たな住宅ニーズをどのように発見して市場に包摂する仕組みをつくるか
連載
原子力災害避難計画を考える〈4〉
原発大国ウクライナと武力攻撃
池田 豊
日本酒蔵紀行〈21〉
黒石市中町
赤澤 輝彦
タイの住まいづくり・まちづくり(8)
NHAの住宅供給
石原 一彦
私のまちの隠れた名建築〈4〉
安治川隧道
大阪市・西九条
山口 達也
主張
戦争と原発と植民地支配
乾 康代
新建のひろば
福岡支部――「仕事を語る会」参加報告
第33回大会期 第4回常任幹事会報告
新建全国ホームページが4月1日より新しくなります
<主張> 戦争と原発と植民地支配
乾 康代 新建代表幹事、元茨城大学教授
ロシアがウクライナ侵略戦争を始めた。多数の市民と兵士が犠牲になり、国境を超えて避難した市民は350万人を超えた。ロシアによるこの戦争がどんな意味をもつのかを確認し、原発の都市計画研究をしてきた立場から日本の原発問題を考えたい。
木畑洋一氏(国際関係史)は、ロシアによる侵略戦争を人類史の完全な逆行だと指摘している。第二次世界大戦後、他国に支配されていた地域が相次いで独立し、脱植民地化がすすんだ。1990年前後のソ連圏東欧の独立はその最後の段階という意味をもっていた。今回のロシアによる戦争は、独立国ウクライナを再び自国の支配下に置こうとする帝国主義的行為であり、脱植民地化を逆行させる行為である。時代錯誤の愚行であると、木畑氏は指摘している。
しかし、この戦争については、時代の流れの逆行という性格に加え、原発攻撃を手段にしていることに注目しなければいけない。ロシア軍は、ウクライナ攻撃をはじめるや、チョルノービリ原発を制圧し、つづいて3基が稼働中だったザポロジエ原発、小型研究用原子炉がある物理技術研究所を砲撃した。ウクライナでは、発電電力量の50%以上を原発で供給しているため、原発を止めたくても止めることができない。攻撃に耐えられず、止めることもできない原発が標的にされたのである。
これに関して、河合弘之弁護士は、原発は「自国のみに向けられた核兵器」と述べている。これは原発の本質を突いた言葉である。原発は決して「原子力の平和利用」ではないのである。河合氏のこの言葉をロシアの蛮行に当てはめれば、ウクライナの原発はいま、ウクライナに向けた「核兵器」として、侵略者ロシアによってその使用が威嚇されている。
原発は「核兵器」である。しかも、相手国の原発依存度が高いほど「核兵器」としての使用や威嚇の価値は高まる。しかし、原発「核兵器」を使用すれば巨大な破滅を免れない。これが原発の本質である。
振り返って日本の原発をめぐる事情をみてみたい。電源構成における原発比率を現在数%を2030年には20〜22%に高めるという国の計画にもとづいて、長らく停止していた原発が次々と再稼働されようとしている。しかし、これがいかに危険な選択か、私たちは十分に理解した。
ところが、原発立地地域の自治体や住民はこの理解に追いつけない。なぜか。原発都市計画研究の成果の一部を紹介しながら、その背景に迫りたい。
茨城県東海村は、敗戦から11年目の1956年、日本原子力研究所の設置が決まり、1959年には日本初の商業原発・東海原発の設置が許可された村である。小さな村だが、大きな原発都市である。なにしろここには10を越す核施設が村内各所に点在している。このような原発都市建設が可能になったのは、戦前の官僚や旧財閥系企業が集中して村に投資し植民地主義開発をすすめたからである。ユートピア建設思想でカムフラージュし、権力的開発をすすめる一方、住民には新住民(エリート)と地元住民(土着)を分断する策を実施した。この手法の一部は福島県大熊町と双葉町の開発(福島第一原発)にも継承された。原発の運転が開始されると、交付金などによる経済支配とコミュニティ対策で、植民地支配はカムフラージュされ維持された。
東海村の異常さは格別である。村の住宅地は現在、11の核施設でサンドイッチ状態にされているが、村民の圧倒的多数はそれを当たり前のことと思っている。サンドイッチ状態は、村の都市計画が日本原子力産業会議による開発計画に従属させられた結果であり、村民の鷹揚な核受容は巧妙な植民地支配の成果である。
かつて、いくつもの帝国が世界を分割した帝国主義になぞらえれば、電力会社9社らが日本列島を分割し、競争しつつ原発植民地を維持している。私にはそんな日本列島の原発版図が見える。ロシアの侵略戦争への非難の声をあげつつ、日本の原発植民地の自立をどう描くか、議論を大きく広げていきたい。
<特集> 建築まちづくり教育を社会とのかかわりのなかで
――多様な教育プログラムの実践を通じて考える
大量生産を支えるために大量の技術者を養成することが教育の役割だった時代ははるか以前に終焉し、現在は一握りのエリートと、その他大勢の物言わぬ技術者養成という産業界の要請に応える教育政策が進められています。また、国は研究費を削減し、営利企業活動に役立つ研究を奨励し、いわゆる防衛に役立つ研究に手厚く、基礎的研究を切り捨てる研究政策をすすめています。さらに国際競争力向上を目的に研究環境充実を支援するためとして大学をファンド化し、支援を受ける大学には「年3%」の事業成長を要求するなどという制度が検討されています。
このような政策は特区や超高層ビル、P-PFIなど、環境破壊につながる技術やシステムづくりには寄与しても、人々の幸福につながる研究の進展、向上は期待できないように思われます。
建築まちづくりの仕事は人々の暮らしを豊かにするための空間をつくることです。そのためには一人一人に寄り添い、住み手、使い手の要望を正しくつかみ、技術を総合して形にしていく必要があります。それとともに人々の暮らしの豊かさは社会のありようと切り離して、建築やまちの空間づくりだけで実現できるものではありません。
スクラップアンドビルドによる莫大なエネルギー消費、人々の暮らしの豊かさにつながるとは思えない大規模な開発、まちや暮らしの破壊が広がる現代社会において、専門性を生かして建築まちづくりを担っていこうとする若者(学生)はなにをどのように学んでいくべきでしょうか。国民から乖離した教育研究政策の中で、教員、研究者の立場からは、どのような考え方、視点を示唆し、社会に送り出すべきでしょうか。
一握りのエリート養成、研究の産業化政策の一方で、学生と教員だけではなく住民の参加を得ての地域計画づくりや、模型ではなく実寸の木造建物の設計施工など、一般的な調査研究や実習の域に留まらず直接的に社会に働きかける教育プログラムの工夫がなされています。また、空き家増加と居住の貧困というねじれた住宅問題を、現状の不動産システムの中で収益性や持続可能性のある事業を展開できるかを不動産業者とともに検討するなど、いわゆるインターンやオープンデスクでは体験できない実践的な取り組みもみられます。
本特集では、このような社会との関わりを意識した教育プログラムの工夫や実践的な取り組みを紹介し、現代の建築とまちづくりをめぐる社会状況のなかで人々から求められる専門家を育成するためにどのような教育が期待されるのか、教育現場での多様な取り組みや学生たちの姿などを通じて、求められる教育のあり方を探ります。
担当編集委員/大槻博司
<ひろば> 福岡支部――「仕事を語る会」参加報告
12月6日、福岡支部での久しぶりの支部活動として「仕事を語る会」が開かれました。
今回は福岡支部会員の巻口さんと瀬口さんの2本立てでした。コロナが少し落ち着いているということで、リアル(福岡市の男女共同参画推進センターアミカスの研修室での現地参加)とオンライン(会員へのZoom配信)とのハイブリッド形式でおこなわれました。あわせて約15名の参加があり、久々の支部活動で顔を合わせた会員どうし、会話の弾む場面が多く見られました。
■巻口義人「私の仕事~現在とこれまで、+すこしだけこれから~」
まずは、日鉄エンジニアリング株式会社の巻口さんから、入社以来のご経歴から普段中心にされている見積業務についてお話しいただきました。
一言で「見積」といっても、それを行う時期や目的によって、やり方や精度に違いがあり、状況によって使い分けられているそうです。最近は提案型競争入札でコスト面から設計内容に関わったり、設計や営業の打合せに同行してコスト面のサポートを行うこともあるそうで、プロジェクトの早期からコミュニケーションを取りながら、コスト面でサポートする仕事が愉しいとのお話でした。
新建の支部活動のなかでも、企画の立案段階から、実施段階まで、多くの関係者をまとめながら実行していく手腕と細やかさはすばらしいと思っていましたが、このような仕事でのご経験も生かされているのだなと納得しました。そして、新建に入られてから「地域に根ざした建築とまちづくり」という観点で将来の夢を持つようになられたとのお話も印象的でした。現在すでに、地域でいろいろな活動をおこなわれているようですが、今後の巻口さんの活動もとても楽しみです。
■瀬口淳「建築ガラスのトレンドと個別認定防火について」
後半は、株式会社森ガラス店の瀬口淳さんから、ラグビーフットボール協会会長でもある森社長のお話や、環境負荷低減ガラスのお話、九州を中心とした多くの建物でのガラス工事の実績などをご紹介いただきました。あらためて、ほぼすべての建物で使われる「ガラス」という建材の多様な使われ方を認識させていただき、また、使いこなすための技術の奥深さを感じました。また、瀬口さんからのサービスとして、取引先のAGCグラスプロダクツ(株)さんより、「個別防火についてのご紹介」として法改正などにより扱いが難しくなっている防火設備の個別認定に関わる情報をご紹介いただきました。また、最近の環境負荷抑制対策として採用が増えているLow―Eガラスの色の違いに関するお話など、建築設計実務にとても役立つお話をしていただきました。
山男でもある瀬口さんは、巻口さんとともに、これまで山登りなどの新建福岡支部のレクレーション企画を実施してくれており、その準備の綿密さと細やかな気配りにより、参加された会員から大変好評でした。近々また企画を検討されているとのことで、とても楽しみです。
ふだんの新建での姿とはまた一味違ったお二人の仕事のお話を聞かせていただき、その専門性の高さや真摯な姿勢を感じるに至り、頼りになる男たちに惚れなおした夜でした。
福岡支部・古川学
<ひろば> 第33回大会期 第4回常任幹事会報告
今期の常任幹事会はすでに昨年12月19日、今年1月9日、22日とすべてオンラインで開催されており、主に第33回大会決定の整理と『建まち』誌掲載原稿の作成、確認と今期の活動全般の具体化について議論してきました。そして第4回常任幹事会が3月5日、6日にオンラインで開催され、一定の方向性が示されましたので、前3回分を含む集約として以下に報告します。
情勢経過報告等
緊急にロシアによるウクライナ侵略抗議を常幹MLで確認して声明を出しました(会員ML、ホームページおよび『建まち』3月号にそれぞれ緊急に掲載)。神宮外苑の樹木伐採など大規模開発が都市再開発だけではなく公園や植物園など貴重な緑地、オープンスペースがターゲットになっている状況が報告されました。
ホームページの刷新の進捗、全国幹事アンケート集計のほか、事務局会議(2月7日)の報告がありました。
全国幹事アンケート結果と役割分担
幹事の役割分担の希望や抱負を尋ねるアンケート結果が報告され、新任の幹事が積極的に希望を答えていることや、経験の長い幹事からも前向きな回答があったことが報告されました。役割分担について、希望に沿って各委員会に所属して活躍してもらうこと、全国幹事会の時だけではなく日常的に委員会活動を進めることとし、各委員会の予定などは以下のとおりです。
1.『建まち』編集委員会~オンラインになってから東西にこだわらず月2回開催している。2022年特集計画について意見を募る。
2.支部・ブロック活動推進委員会(呼称変更:旧活動活性化委員会)~新建紹介のリーフレットづくりの準備
3.政策委員会~マンフォード「都市の文化」が好評のうちに終了し、4月幹事会から再開
4.Web委員会~大会以降、4月開始を目標にホームページの刷新に精力的に取り組んでいる(別稿参照)。
5.叢書出版委員会~以前から計画していた保育施設をテーマにした本を、『建まち』6月号特集予定「多様化する子どもの施設」を機に再始動する。
2022年年間活動計画の検討
1.建まちセミナーは、一堂に会する夏のセミナーという形態で開催できる状況を待たず、支部やブロックあるいは地域で可能な時期にランダムに開催することとし、以下のような予定あるいは提案が検討されました。開催方法は状況によってオンライン、ハイブリッドなどを含めて検討します。
・北海道、東北―北海製罐小樽第3倉庫(5~6月)
・関東―茨城(原発、鹿島のまちづくり等)を中心に検討していく(7~8月)
・北陸(新潟、富山、石川、福井)―石川で検討中
・中部(東海3県)+長野―岩村のまちづくり(秋頃)
・関西―滋賀で検討する(秋頃)
・九州・沖縄―気候風土適応住宅(『建まち』10月号予定の九州特集との連携も検討)
2.全国研究集会についても前回の経験から一堂に会しての開催にこだわらないこと、前回が昨年夏まで続いていたことから、2022年中の開催に限らず、日常的な研究部会活動を推進し、時期を見て一定の蓄積を発表するようなことを考えます。
マンション問題は従前から継続しており、子どもの施設は前述の『建まち』特集や叢書出版の取り組みから実質的に展開されていくと思われます。省エネ・環境問題は先の全国大会でも提案されたように議論の場を連続企画のような形を検討することとします。
他団体等との連携
幹事アンケートで担当を希望している幹事もおられ、常幹の担当者とともに、可能な連携を模索しながら取り組みを進めます。
組織・財政
会員数の漸減が続いており、さまざまな機会をとらえて入会、『建まち』購読を勧めることが望まれます。財政的にも限界が近づいており、当面は一定程度オンライン会議を継続して会議費を削減するなどの工夫によってバランスを取りながら、広告収入などの増収にも取り組みます。
4月の幹事会で幹事名簿(連絡先を含む)の確認、役職などの再確認および常任幹事の補充を検討します。 (全国事務局・大槻博司)
新建全国ホームページが4月1日より新しくなります
昨年より準備を進めていました、全国ホームページがリニューアルされ、4月1日より新ページに移行します。第33回全国大会後、Web委員会で協議を行い、大阪支部山口さんの提案と協力で、ワードプレスを使用し更新方法も改善されます。
この全国ホームページの移行にともない、各支部のホームページの状況についてアンケート調査を行いました。ここ数年全国的にも支部担当者がいない、更新できないため支部ページは閉鎖したなどの回答がありました。
コロナ禍のもとで活動がZoom企画が中心となり、メーリングリストでの情報交換も増えています。Web委員会では全国のページ更新にともない、多くの支部が支部専用のページを持つことを提案してきました。アンケートでは、すでに8支部が新しく支部ページの作成を希望しています。東京支部は2月20日に新ページに移行し、支部企画や会員の活動が生き生きと報告されています。
新ページ移行まで、現状の支部ページを活用することも大切です。ロシアのウクライナ侵略について新建は声明を発表しています。こうした新建の見解を知らせることや、日常的な支部企画や活動を多くの方に知っていただく上でも、ホームページの効果は大きいと思います。今後のホームページの維持管理、更新などについては以下の内容を考えています。
① 新たにホームページを開設する支部、すでに活用している支部には、1人以上web委員会に参加していただく。
② 今のところ支部ホームページが設置できない支部は、やりたいこと、なんらかのテーマがある場合には、Web委員会に参加いただき掲載内容などを一緒に検討をお願いする。
③ 常任幹事会と全国の各委員会活動を定期的に反映させるため、各委員会に担当者を配置していただく。
④ホームページへの情報発信のし方については、支部での活動は支部ページに掲載する。支部がない場合、支部扱いでないものについては、Web委員会に原稿を送っていただく。
⑤掲載方法は、直接記載、登録フォームの活用、会員掲示板の活用となります。
なお、これまでの活動が蓄積されている、旧ホームページのデータ移行作業については、今後の検討事項とし、当面は『建まち』誌を含め旧ページにリンクできるようにします。
(Web 委員会・大橋周二)