避難指示解除後の福島県浪江町の現地報告書

はじめに

 

 このレポートは、新建築家技術者集団・災害復興支援会議(旧称:東日本大震災復興支援会議)が 2017 年 9 月 25・26 日に行った福島被災地(浪江町)の視察報告です。

(建築とまちづくり誌:2017年12 月号参照)

 新建の復興支援会議は東日本大震災直後に設立され、専門家による支援活動の活性化を目的とし、全国の 新建会員や建築家技術者と被災地を結ぶ活動をしています。その活動の一環として、支援団や視察団を組織 して東北の多くの被災地を訪れてきました。福島に関しては、2012 年の「建まちセミナー/仙台」では、浪 江町を主対象として<原発事故で何が起きているか>をディスカッションし、深刻な事態を共有しました。 さらに、2015 年には「建まちセミナー/福島」を開催。一般には入れない原発事故被曝地の現実を、多くの 会員が目の当たりにするという貴重な現地視察を行いました。

 

 このように新建は被災地福島に注目し、何が支援できるかを考えてきました。そのなかで、今年 3 月の準 備区域の全面避難指示解除は注目すべき動向です。予想された通り、ほとんどの人が戻れない、戻らないと いう状況での避難指示解除は何をもたらしているのか。何はともあれ、現地で直接見聞しようというのがこ の視察の「出発点」です。

 災害とは、地震や津波、洪水といった天変地異を原因とし、人間社会の被害を結果とするものです。2011 年に東日本を襲った天変地異は千年に一度といわれる巨大なものでした。それでも、条件や対応によって被 害に差が出てきます。その差に学び、被害を抑えようというのが防災や減災です。一方、天変地異の程度に 比べ被害が余りに大きいと、人的な原因による人災に近くなります。災害の中に存在する人災を峻別するの は難しいところもありますが、原因と責任を明確にすることは被害の抑制につながります。

 今回の原発事故は明らかに人災です。地震や津波で原子炉そのものが破壊された訳ではありません。外部 電源や予備電源が作動せず、電源に依らない注水に失敗し、炉の温度制御が出来なくなったからです。想定 外だったのは地震や津波ではなく、核分裂のコントロールだったのです。スリーマイル、チェルノブイリ、 福島――引き金が人為ミスでも天変地異でも、制御不能に陥る未熟な技術なのです。

 

 東北各地の被災者の方々は、何でこんな目に合うのだという気持ちを押し殺して再生に向かっています。 そこには、少しオーバーですが、天変地異をもたらす大自然と向き合う小さな人間の大きな意志を感じます。 しかし、原発事故被災者の方は人災なるが故に、何でこんな事にという悔しさを抑え切れないでしょう。加 えて、廃炉処理での事故や高線量地に隣接しているため、追加被曝の危険が付きまといます。

 被災者が、住み慣れた土地でそれまでに築いた基盤を基に生活と生業を再建したいと願うのは当たり前の ことですが、原発事故被災地では元の地に戻るということ自体が困難なのです。住民の考え方も様々で、行 政に対する評価・反応にも差異が生じます。原発事故の処理(原因解明、責任と賠償、原発政策の転換)を ないがしろにしたまま早期帰還を促す国の方針に振り回され、現地では深刻な問題に直面していると言われ ています。短期間の視察ですが、その問題をどこまで掘り下げ得るかがこの視察の「目標点」です。

 

 今回見聞してきたことを参加者が分担してこのレポートをつくりました。多くの人達と福島の厳しい状況 を共有するのが目的ですが、この視察でお世話になった方々、丁寧に対応して頂いた住民や役場に方々への 感謝とお礼の印でもあります。とりわけ、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任教授の間野博 さんには対象地の選定や行程、ヒアリング相手の調整まで全て手配して頂きました。心より感謝申し上げま す。また、先年の「建まちセミナー」では、福島大名誉教授の鈴木浩さんにご尽力頂きました。

 支援会議の活動にご協力下さった方々に、改めてお礼申し上げます。

新建災害復興支援会議 鎌田一夫 


報告書の一部抜粋

資料編


■ 詳しくは下記をダウンロードください

ダウンロード
01-表紙:Ⅰ-1,2 浅井:三浦.pdf
PDFファイル 1.5 MB
ダウンロード
03-Ⅲ-1~3 新井:鎌田:乾.pdf
PDFファイル 1.7 MB
ダウンロード
02-Ⅱ-1~5 浅井:佐藤:渡辺:鎌田.pdf
PDFファイル 2.4 MB
ダウンロード
04-おわりに:資料.pdf
PDFファイル 1.3 MB