2018年7/8月号(No.476)

 大規模な都市再開発が抱える危険

 

東京では大規模な再開発の動きが加速している。都市の整備といった名目さえ成り立たない再開発、都市を儲けの場にする再開発の横行で、国家戦略特区はそれを推進する。しかし、大量のストックに過剰なフォローは、不動産市場の崩壊が危ぶまれている。一方で、再開発で住民の暮らしと生業は一変し、人々のつながりも壊れてしまう。住宅やホテルの開発は、東京以外でも地域環境を破壊して強行されている。ミニバブルともいわれる開発の背景と問題、それに抗してまちを守る人々の取り組みを活写した。

 

 

・大規模都市開発と不動産証券化               岩見 良太郎
・民活路線下での東京臨海部開発の展開            市川 隆夫
・コミュニティを支えるまちなかへ、想像力をとりもどそう
  -大都市をクリエイティブ・タウンのモザイクに      福川 裕一
・再開発によるまち壊しの実態とそれに抗する住民の運動    東京支部東京問題研究会
・京都の歪んだ観光政策とバブル開発             中林 浩

 

◆新建のひろば

新建神奈川支部──「春のまちあるき」の報告

奈良支部──「お仕事拝見・伏見建築事務所」の報告

富山支部──住宅講座「住宅トラブルについて」の報告

京都支部──「建築基準法改正を考える」の報告

福岡支部──「設計・現場で頑張る建築士のための木造講習会」の報告

・第31回大会期 第2回全国常任幹事会を開催 2018年6月16・17日

・復興支援会議ほか支援活動の記録(2018年5月1日~ 6月22日)

 

 

◆連載

《英国住宅物語17》団地再生の時代  近代ハウジングの修復と再生(つづき)  佐藤 健正

《普通の景観考9》中崎町のりっぱな表長屋                   中林 浩

《創宇社建築会の時代35》創宇社建築会の時代                 佐藤 美弥

《書棚から》日本の民家

 

◆2018年 建築とまちづくりセミナーin札幌

      

 

主張『「住み続ける」が原点、生活の発展をめざす再開発を』

新建全国常任幹事 黒崎羊二

 

 既成市街地で行われる再開発事業やまちづくり事業は、既存建物、特に住宅の改廃を前提とします。住まいの変動は、住民の生活や生活環境に大きな影響を与えます。しかし「住民の日常生活」は「街の賑わい」などの影となり、注目されません。そこに住む人びと、一人ひとりの安定した生活、その発展のためにこそ「街の賑わい」が求められるのに、「一人ひとりの生活」が問題にされず、「賑わい」が独走する主客転倒がまかり通っています。
 本来都市は人が住んでこそ都市であり、住み続けられることが原点です。したがってまちづくりは、「住民主体」を原則とします。それは人びとの生活の発展や生活環境の保全をめざし、生活の基盤である住宅事情の改善を基本としています。しかしまちづくりの現場は、人びとの生活を支える立場に立つべき企業が主役となり、企業活動の発展を主題とするのが通常です。
 「企業が主役」を肯定する人は、「企業の発展、経済成長が人々の安定生活を保障する」と言います。しかしこれは、3・11で崩壊した「原発安全神話」とともに、破綻したトリクルダウンの論点です。
 日本の経済成長に〝安価なエネルギー〞を必要として、原子力発電を絶対視する立場から「原発安全神話」が生まれました。国民にトリクルダウンを期待させ、それに乗じて「原子力村」が「経済成長」と「原発」をセットにして売り出したのです。この三者のうちどれかがコケると、みなコケる仕組みでした。しかし不可解なことに、みな生きながらえています。「企業主役論」がそれを支えているのでしょうか。
 まちづくり協議の話に戻ります。
 まちづくりが「生活の変化」を中心課題とせず、それは自己責任であるとし、街のため、みんなのためにと、事業への賛同を求めても、住民にはその可否を判断できません。「街が良くなる」としても、自分の生活にどんな変化が起こるのか、説明されず、納得できないのです。判断不能が計画拒否に転化します。
 これが「合意形成はまちづくりの最大の壁」といわれていることの本質です。壁は事業側の姿勢にあることに気づかず、地域にとって必要なまちづくり事業も停滞させます。
 そこに住む一人ひとりの生活の現状から将来を見通し、問題を解決し発展させる計画をみんなの話し合いを経てつくります。その協議のなかで合意の下地が確認され、計画づくりと合意形成は同時に進行します。
 これを生活者目線の全員合意型まちづくりと言い、もっとも早いテンポで、確実な成果が得られます。どんな体制のもとでも、それは行政、企業の成果につながります。しかし行政、まちづくりの専門家の多くは、この実践の経験を持たず、実現の可能性を信じません。
 住民には、生活者の目線によって「まちづくりの民主主義」を身につけることができます。地域生活の課題を掘り起こし、それを共有して対策を協議・計画し、実践します。そのため、地域の日常に発生するさまざまな問題について対話し、それを支える自治会などの組織的参画を必要とします。
 このような活動は住民や専門家が単独でできることではありません。それは行政の仕事です。地域住民の「住み続ける」意向を受け止め、それをめざす住民の事業を支援することは、行政の最低限の責務です。しかしこれまで述べてきたように、行政にこの視点が欠けていることが、現在の都市の混迷・閉塞状況をもたらしているのです。
 これに決着をつけ、住民主体のまちづくりをはかる、市民運動と専門家組織による共同の運動について、大いに論議を交わしたいものです。それは地域社会の再生の展望と、その主体となる市民運動に貢献する新建の役割を明らかにし、同時に個々の建築家技術者が直面する課題に応えるものとなるでしょう。

 

 


[ 神奈川支部]ー「春のまちあるき」の報告

  日時:2018年5月12日(土)  

  場所:東海道沿線など

  参加:6名

 5月12日10時、国府津駅集合参加8名。東海道の裏道を西に、道沿いに明治・大正の土蔵や和風の住宅、出桁の商家が見える。トンネルを抜けると、国府津の総鎮守格菅原神社鳥居、石畳の参道、両側に椋の大樹、社殿は神明造銅板葺、棟に千木、鰹木が5本、祭神は菅原道真。 

とうりゃんせ発祥の天神さん。境内には当初建御名方神を祭神とする諏訪社があり、750年に合祀。古事記では建御名方神は大国主命の子で国譲りに同意しなかった。二宮川勾神社の祭神は大国主命。

 旧道を北上、商店街は車も人通りも少ない。平屋の民家や出桁の商家を見ながら2番目の目的地、宝金剛寺。石畳の参道、両側は常緑樹、正面の木々のなかに山門瓦が渋く光る。山門、舗石、石垣、階段が山や植栽の緑に溶込む姿が美しい。平安初期829年弘法大師空海の十大弟子で四哲の一人、果隣(ごうりん)の創建、7年後空海が入定。四脚門をくぐる、正面に江戸時代建築の庫裏は登録有形文化財、茅葺は瓦葺に改修、座敷の上屋筋には漆喰壁のなかに太い木組。本堂、鐘突堂を見て寺を出る。

 旧道を北上、西側の外輪山越しに頂に雪を残した富士を見る。20分で田島横穴墓群、余綾丘陵の西、南面に口を開く、横穴墓は32基、11基が史跡。丘陵斜面を掘りぬいて造られ、天井部はアーチ状。古墳は地域支配のシンボルであることから、横穴墓群の存在は、6世紀後半に酒匂川西岸において高塚古墳を築造した勢力に対し、酒匂川東岸に新しい勢力が台頭したことを示すもので、大和王権による地方支配の構造変化ということ。

 旧道を西に、入母屋屋根の納屋か、壁は土壁、外壁中間部四周に庇をつけたものが多い。梅林の東の旧道を歩く、沿道には下見板張の古い建物、道沿に清流、道が西に向かうと富士が見える。集落の中を40分、二宮尊徳遺髪塚。西北に20分で城前寺、1193年創建、曾我城の大手門がこのあたりにあった。

 さらに北へ12分で宗我神社。曽我の地名は曽我氏の部民制豪族集団がいた名残との説。宗我神社の祭神は宗我都比古命、比女命、武内宿祢命、とあるが武内宿祢命は孝元天皇の後裔で曽我氏祖1028年大和橿原の曽我都比古神社の神主宗我播磨守保慶が祖先を祀って創建。曾我郷六ケ村総鎮守。道から銅板葺きの鳥居、そこから北に200mほど広い参道を登る。参道の両側は石垣と生垣が施され大きな旧家が立並んでいたのだが、参道の左側半分ほどの地域が開発され、洋風の建物が並ぶ。坂の上に鳥居、右手にご神木の欅、正面奥に社殿の銅板屋根。社殿は入母屋造に千木、鰹木7本、軒は権現造の唐破風。静かな境内に鶯の鳴く声がいつまでも聞こえた。

 参道を戻る。坂の下に曽我の街並。下曽我駅に向かう商店街、車や通行人が少ない。道沿いに古い和風の平屋、向かいに昭和初期の趣の下見板張のお食事処、下曽我駅は二棟を雁行させた土蔵風な造り。14時3分発松田行きは8分で松田、商店街を西から北へ、正面に1825年創業の中沢酒造。倉庫の向こうに土蔵、土蔵の前は屋敷の東南の角、石垣の上に瓦葺漆喰塗下見板張の塀が、道なりにS字カーブを描く。

 女将の案内で酒造りの工程を見る。次に新しい倉庫へ、板倉造の躯体に木造トラスを乗せ土蔵風の外観仕上げ。倉庫として造られたがショールーム的な使い方をしているようだが、暑くて困っている。なにか良い方法はないかと問われた。お酒の説明の後に試飲数杯、最後に今年最後の限定品と言う『しぼりたてのお酒』をおいしくいただく。母屋に向かう東南に置屋根の土蔵、正面奥に入母屋の母屋が松田山を背景に建つ。植木の緑、塀の焦茶、漆喰の白がみごとに調和。母屋の縁側には杉磨丸太の桁、床は幅1尺の欅の無垢板。縁側の上屋筋に骨太な木組みが、漆喰真壁のなかに見える。

 中沢酒造を後にタクシーで開成町の瀬戸屋敷へ。屋敷周りに掘がめぐり、水が流れる。東北方向に切妻瓦葺の藥医門、門を抜けると寄棟茅葺の古民家。桁行11・5間、梁間5・5間、面積63坪。シンプルだが圧倒的な存在感。屋根の下は東から大戸、縁側、巡検士のための玄関、オクが収まる。大戸から入ると土間、手斧仕上げの太い梁組、小屋、茅が下から見える。土間から板の間、畳敷の玄関は床の間付、オクは8畳、2間分の床の間と付書院。土間に面してかまどのあるお勝手、中央に囲炉裏、北側の中庭に水を引いた池がある。カワニナが生息し、季節には蛍が舞う。

 母屋の東北に妻壁の腰をナマコ壁にした土蔵。面積40坪、丸太梁は梁間4間、桁行10間。2層床の半分を取払って吹抜に改修。2階に上る、丸太の牛梁と妻の受梁、小屋組みに圧倒される。外の気温は30度位だが、中は涼しい、倉を出て外から見る。置屋根、漆喰壁、下見板の外観、桁行10間のプロポーションが美しい屋敷を出て周辺を歩く。

 再開された瀬戸酒造の前からタクシーで新松田駅。そこから小田原に出て懇親会で、街歩きを終える。

(神奈川支部・門谷隆康)


[奈良支部]―「お仕事拝見・伏見建築事務所」の報告

  日時:2018年5月13日(日)  

  場所:伏見建築事務所作業場

  参加:16名(会員8名、会員外8名)

 これまでの支部企画は、奈良の歴史を知ろうということで奈良の古道(下ツ道、太子道……)の散策をシリーズ化して実施してきました。今回の企画は、会員の仕事場を拝見しながら、技術的な交流と会員相互の親睦を深めることを目的に計画しました。

事前に若手会員との打合せの際に、「伏見さんが大工を志した話を聞き深く知りたい」「伏見さんの伝統技術に対する真摯な話は、若い職人さんによい機会になる」と話はまとまり、その後、伏見さんの事務所で企画担当と会員の拡大打合せを開き、普段なかなか聞けない若手大工に対する熱い思いに聞き入り、意見交換もできた楽しい事前打合せ会になりました。5月13日、伏見さんの講演会を伏見建築事務所作業場で実施しました。当日は、奈良では珍しい台風並みの大雨でしたが、奈良支部会員7名、兵庫支部か

ら1名、会員外から8名参加の合計14 名でした。

 会場の準備を伏見建築事務所の二十歳を過ぎたばかりの若手大工さん3人に完璧に準備していただき、講演内容にあった雰囲気にレイアウトされ、屋根を打つ雨音も気にせず伏見さんの話に聞き入ることができました。

 伏見建築事務所は、地域に根ざした大工たちが人と人とのつながりを大切に、信頼される家づくりを心がける大工集団です。その技能は、先輩たちから受け継がれた、昔ながらの技量を大切に継承されています。事務所が手掛ける「奈良をつなぐ木の家」(地域型住宅グリーン化事業)は、奈良県吉野地方で「撫育」された杉や桧で手作りされた住宅です。大工職人もたびたび森のなかへ赴き、山守さんのお話を聞き、木材として出材されるまでの施業の経過を聞くなど、その木の特徴をよく理解したうえで、加工することを心がけています。

 伏見さんの実家は工務店で、幼い頃から作業場が遊び場で、職人さんが働くところを見て将来は大工をやると決めていたようです。二十歳頃に家を出て大工の通い弟子に入り、がむしゃらに仕事にまい進されたそうです。三年後には墨付けを覚え、大工仕事の手作業が面白くてたまらない時期を過ごしたとのこと。七年後には実家の工務店に呼び戻され、工務店の経営を任されるが、既製品を使い、楽に収入が得られることに疑問を抱き始めた頃、バブルが崩壊。仕事量が激減するなか、やりがいのない下請け仕事をこなす日々が続く。その頃に弟子が入ってきたが十分な技術を習得していない

ため、墨付けもできない、満足に道具も使いこなせないことに愕然とし、若い職人を育てることの重要性を感じたそうです。

 その後、出発点に立ち返ることを考え、「考えてできる仕事」「自分が満足できる仕事」の喜びを求めて独立することになりました。

 建築事務所を立上げ、常用大工3人と20代初めの3人の職人がおられます。事務所ではマニュアルは一切作らない。職人は「見て習うが基本」で、少しのアドバイスを的確にするよう心がけ、仕事ができるようになると、材料の拾い出しや積算ができるようになる。若い職人には、特に仕事の段取りは自分で考え、先輩職人の手仕事を見て覚ること、将来独立することも考え他業種との交流を大切にし、知識の幅を広げること、また思いやりをもって仕事に臨むことを指導されています。

 

【参加者の感想】

▼若手大工さんからは、仕事を通じて色々な人との出会いもあり、さまざまな仕事に携われることが楽しいとのことでした。14年目の板金屋さんは、微妙なとり合い部分は大工さんとの打合せが大切で、伏見さんには教えられることが沢山あるそうです。

▼18年目の中堅大工さんは、ハウスメーカーの仕事もやらないと経営が厳しい現実がある。大工の基本は伝統工法であり、以前は矢田寺(アジサイで有名な寺)で仕事をさせてもらったことがあるとのこと。

▼実家の工務店で大工の見習い期間で新築3棟の墨付け、現場監督を経験し、現在独立して1年目になる。自分も職人であり、納得のいく仕事をやりたかった。伏見さんとの出会いは自分にとって大きな転機になったそうです。

(奈良支部・乾安一郎)


[富山支部]―住宅講座「住宅トラブルについて」の報告

  日時:2018年5月19日(土)  

  場所:新建富山事務所

  参加:5名

  2018年5月19日、今回は年5、6回開催される弁護士会主催の無料相談会の事例発表を新建富山事務所にて行いました(参加人数5名)。

相談会の構成委員は6名(内新建メンバー1名)、弁護士と住宅トラブルに向き合っている。委員の第一印象はこんな初歩的なことがどうして?と首を傾げる事例が多いそうです。大きく3つの分野に分けて報告がありました。

①「施主と施工業者:主にハウスメーカーの設計施工」

●敷地境界をはみ出して基礎を造る、庇が隣地境界線を越えている│主な原因は現場員がいないこと、下請け業者に任せていることがあげられた。確認申請図書では敷地内に納まっておりその時点では問題はない。施主と業者が折半で隣地を1m買い足すなど、また設計変更をして解決となる。

●細部にわたる打合せがない(仕上げ材の色、形状、品質、造付け家具etc)│工事中現場員は1人で10数件の現場を掛け持ちし、職人が入っているかなどの工程管理のみを把握。施主とは2〜3回程度の顔合せで営業マンが材料・色決めなど打合せを行っている。設計はドラフターマン。また、ほとんどが契約時に色・材料などが決まっていて要望を出すと追加工事となる内容を施主の大多数が理解せず契約する現実。品物を売る姿勢のハウスメーカーと、やってくれるだろうの家づくり初心者の施主間には大きな差異がある。

●別途工事の外構工事でGL設定が曖昧で、基礎のフーチングが見えている│設計基礎形状・土木工事の残土処理などの見積りが不適正、調整することなく下請け業者は見積り通り工事を行っていく。ハウスメーカーは自社基準以外のことは追加工事であり、ハウスメーカーに発注するリスクもある。

②「施主と設計者:専業の設計事務所」

●工事中、設計者による設計変更が施主との協議なしで行われる(プラン変更、仕上げ材、造付け家具等々)│施主は400万円の追加工事請求に驚き判明する。原因は先生気取りの40代建築家。裁判中で4〜5年かかるとのこと。

●設計変更を施主に内緒で業者にお願いする│施工者の作る内訳書にないが図面にあり、設計者のチェック不足も考えられる。

●施主が知らないまま追加工事の請求が発生│大きな石が地面から出没し基礎コンクリートボリュームが増えた。費用負担は半々の和解となった。こういった事例のなかには当然、工事費用の残額(追加工事費用も含む)の支払いがなく引渡ができないが、引っ越しを強行されることが多い。

③「設計者不在:リフォーム業者」

●築40年の住宅リフォームをチラシやホームページをたよりに依頼(工事費400〜1000万円程度)│室内の結露がひどくなり、業者に依頼。外部に面する内側のボードとクロスを剥がしグラスウールを充填しプラスターボードを張りクロス仕上げとしたが、2〜3カ月で再度結露が発生。業者にやりかえを要求したが取合わない。着工前

の説明では結露の原因は断熱材が入っていないからだと営業マンから受け、根本的な原因を調べていないようだ。外壁はモルタル、リシン吹付外壁にはクラックが縦横に走っていたので、外部から水の浸入もあるはずが適度な工事費で受注し、引き上げる魂胆。工事完了後すぐ請求書が届きサッと居なくなるという。

 

 弁護士の見解は今後このような数百万程度の工事費トラブルが増加する。また数千万円の家づくりに対し施主は勉強不足であり無知すぎる、設計・施工とのコミュニケーション不足も考えられる。営業マンは建築の知識を持たないのが現実であり専門職・技術職ではないのは定かである。施主・設計者・施工者の3者が良く終わるためには、みな同じ方向を向けるかである。施主のための家づくりという方向は定かであろう。

(富山支部・伊田直樹)


[京都支部]ー 「建築基準法改正を考える」の報告

  日時:2018年5月22日(火)  

  場所:ひと・まち交流館

  参加:13名

 さる5月22日(火)の夜、河原町五条下ルのひと・まち交流館に大阪支部から伴年昌氏を講師にお迎えして、奈良支部から2名、京都弁護士会まちづくり部会からも1名の参加者を得て、総勢13名による建築基準法をめぐる熱い議論が行われました。

 まず伴氏による基調講演では、氏自身の50年におよぶ建築技術者としての歩みをふり返るなかで、建築基準法のもつ矛盾と運用の不備を指摘し、基準法が今日の時代にふさわしい内容に改正され、運用されるための前提として、建築基本法制定の必要性が語られました。そして基本法の前文において「建築物は人類の蓄積してきた文化と科学の総合化であり、自然・社会環境のなかに人々の生活環境を守る思いが、さまざまな行政関係者、近隣住民、建築技術者、多くの職人の協調・共感・協働を通して、多くの時間をかけて実現するものである」と定義してはとの提案がありました。これは「建築基準法が、建築の発意から現場での完成、そして使い続けられるなかで、多くの関係者の創意工夫をうながすものでなければならない」という氏の思いを表した提案であると思います。まさに《良い建築》を生み出すことを希求し、努力し続けてきた氏の歩みのなかから絞り出された言葉だと思います。

 当然、《良い建築》とはなにかという議論もその場ではなされたのですが、それはさておき、さらに前文においては、官の指導領域を縮小して、建築物の所有者と使用者の判断力にゆだねる領域を拡大することが、個が尊重される民主主義を発展させ、国民の利益を増大することにつながるのだ、ということ謳い上げることも提案されました。また建築を「生活生産目的建築」と「流通目的建築」に二分し、前者の建築行為には単体規定を遡及させないことにより、建築主体者の自由闊達な創意工夫をうながすことにつながるということも前文に明記すべきだと提案され、議論されました。

 私はこれらの提案には大いに賛成ですが、その実現には、社会的産物であり、それゆえ人間生活を規定せざるを得ない建築というものに対する理想と理念を、自立した建築士(建築家)と建築所有者・使用者が共有しているということが大前提となると考えます。したがって国民に対する建築の所有者・使用者として身に着けるべき作法の躾と、建築技術者の教育に時間と努力を注ぎ続けることが重要かつ必要であると考えます。

 基準法改正においては、構造躯体規定の明確化・厳格化と、生活行為の変化に細やかに対応できる単体規定の柔軟性の確保が提案されました。また建蔽率規制の廃止と、容積率ではなく体積としてのボリューム規制と壁面線規定(敷地後退)による美しいまちづくりが提案されました。

 以上のようなユニークな提案をもとに活発な議論がなされ、その熱気は懇親会の場にも持ち越され、久々に楽しく盛り上がった支部企画でした。

(京都支部・宮本和則)


[福岡支部]ー 「設計・現場で頑張る建築士のための木造講習会」の報告

  日時:2018年5月9日(水) 、30日(水)

  場所:アミカス 視聴覚室

  参加:第1回 5/9は38名 (会員17名、会員外21名)

     第2回 5/30は39名 (会員20名、会員外19名) 

 福岡支部は、本年5月から7月にかけて、「設計・現場で頑張る建築士のための木造講習会〜ミスの無い設計・施工のために〜」を全4回シリーズで開催しています。

講師は、昨年、「在来軸組工法住宅の設計手法」(櫂歌書房)を出版された川﨑薫会員です。出版されたばかりのこの本を講習テキストに用い、執筆者自身が内容を詳しく解説するという大変贅沢な企画となっています。5月30日に第2回の講義が終わり、ちょうど折り返し地点というところです。会員以外の参加者も多く、毎回、約40名が参加しております。

 この講習会では、いわゆる4号建築物を中心に、構造設計の基礎から応用までを学ぶことができます。私自身は、まったくの文系人間で、建築については素人ですので、基礎的な内容にすらついていくのがやっとです。しかし、身振り手振りも交えて、軸組への力のかかり方などを具体的に説明いただくうちに、構造というもののイメージを多少なりとも持つことができるようになりました。文章、数式、法令を目で追うだけではこうはいきません。悪い事例の紹介も大変参考になります。参加者のみなさんも気軽に、しかし鋭い質問を投げかけ、なかなかの熱気です。材料の選定一つとっても、きめ細かな配慮と深い知識が必要であると知り、木造の奥深さと難しさを素人ながらに感じました。

 法律上、4号建築物は、仕様規定に適合すれば構造計算が免除されます。しかし、だからといって、構造についての正しい理解がなければ、構造安全性にきちんと配慮したよい住宅をつくることはできないということを、この講義を聞いて実感させられます。4号建築物には、構造審査の免除ないし省略といった手続的な特例もありますが、それはあくまで、構造に精通した専門家たる建築士が責任をもって設計しているということが前提となっているはずです。そんな当たり前がなかなか実現していない世のなかで、こんなに熱心に建築のこと、構造のことを勉強しておられる建築関係者が沢山いらっしゃることに、消費者のひとりとして非常に心強く感じるとともに、大いに刺激を受けています。

 あと2回の講義、そして打ち上げ懇親会もとても楽しみです。

(新建福岡支部・鳥居玲子)