2020年3月号(No.494)

新建設立50周年記念特集ー3

理念を形に──生活を支援する施設づくり 

 

社会福祉施設の現況と課題:阪東美智子/メッセージ──多様で、個に視点をあてた住まいの場を地域に:西海洋一/地域住民の「思い」を「かたち」に:浜崎裕子/障害者の生活を支援する施設づくり:星厚裕/子どもの施設づくり:川本真澄/メッセージ──「住み慣れた地域でその人らしく」を“かたち”にするパートナー:井上ひろみ/高齢者住宅の変遷から見える福祉の変化:木村よしひろ/地域の人々と共につくる「高齢者施設」づくり:蔵田力/保育と設計:佐藤未来/メッセージ──一人ひとりの幸せにつながる図書館づくり・まちづくり:巽照子

 

 

社会福祉施設の現況と課題                        阪東 美智子

新建へのメッセージ──多様で、個に視点をあてた住まいの場を地域に    西海 洋一

地域住民の「思い」を「かたち」に──高齢者施設づくりからまちづくりへ  浜崎 裕子

障害者の生活を支援する施設づくり                    星  厚裕

子どもの施設づくり──子どもの興味・好きを受け止める環境づくり     川本 真澄

新建へのメッセージ

 ──「住み慣れた地域でその人らしく」を“かたち”にするパートナー     井上 ひろみ

高齢者住宅の変遷から見える福祉の変化

 ──主体性を持って地域・マチと繋がる                   木村 よしひろ

地域の人々と共につくる「高齢者施設」づくり

 ──地域の高齢者の暮らしと人権を守るために              蔵田  力

保育と設計──この10年を振り返りながら                 佐藤 未来

新建へのメッセージ

 ──一人ひとりの幸せにつながる図書館づくり・まちづくり        巽  照子

 

◆新建のひろば

・第32回大会期 第1回常任幹事会報告

・京都支部──「南禅寺・岡崎の景観と住環境を考える」現地見学と学習会

・新建災害復興支援会議ほか支援活動の記録(2020年1月1日~ 1月31日)

 

◆資料 新建記念出版、『建築とまちづくり』誌に掲載された生活を支援する施設づくり

 

◆追悼 永橋為成氏   丸谷 博男

 

◆中部ブロック 8支部共催事業  新建創立50年の今、伝えるメッセージ

 

◆連載

世界の災害復興 から学ぶ3リスボン地震からの復興       室崎 益輝

新日本再生紀行 24愛知県豊田市萩野自治区         河合 定泉

暮らし方を形にする3まちに開いた明るい子育て        山本 厚生+中島 梢


主張  『「交換価値」に惑わされず「使用価値」を追求しよう』

F.P.空間設計舎/全国常任幹事 大槻博司

 

 表題の言葉はけだし経済学的な表現であるが、ここで経済学のことを書くつもりも資質もなく、また厳密な意味ではなくイメージ的に用いることを容赦いただくとして、私たちがつくっている建築やまちは「使用価値」を生み出しているはずだと考えている。もちろんつくる過程においては「交換価値」の概念を抜きにはできないが、それは手段であり過程である。建築やまちを計画する者、設計する者、施工する者である私たちは、住む人、使う人すなわちエンドユーザーにとっての最大の使用価値を提供することが、その職能における責務であり最終目標である。近年、この「価値」というもののとらえ方が偏っている、すなわち「交換価値」ばかりに目を奪われていると感じることが多い。
 「にぎわい創出」という言葉が氾濫している。あらゆる分野で濫用され流行語と化しているが、特にまちづくりの分野で著しい。閑散としているよりはにぎやかな方がいいし、楽しそうな響きを感じるが、たくさん人を集めてたくさんおカネを使わせようというのがその本質である。
 外国人観光客の急増で観光地は大にぎわいであるが、文化や歴史、景観を資源とした落ち着いた日本の観光地は、インバウンドブームがなくても観光地として成り立っている。そこに大挙して外国人が押し寄せてきて、地元観光業の売上げ増加は喜ばしいが、たくさんの弊害、環境悪化を訴える声が日に日に大きくなっている。さらにインバウンド目当てに儲けを企む者たちが外から続々と集まってきて、その地の環境、景観、文化やそれらを維持している秩序の混乱〜端的に言うとまちこわし〜が広がっている。
 突然出現した新型肺炎の影響で外国人観光客が急減し、元に戻って落ち着いただけならよいが、過剰に進出してきた事業者が、ブームとは無関係の元々の需要、すなわち内需ともいえる観光客などを取り込んでしまい、地域全体としては疲弊に向かうのではないだろうか。「にぎわい創出」というのは、所詮は儚い一時的な交換価値の上昇であり、ブームに依拠する政策の脆弱性が露見した。
 結果的にインバウンド目当てのホテルラッシュだけの観光立国は「儲かる」という意味で地域の交換価値を上昇させるかもしれないが、乱立したホテルが「環境」という使用価値を低下させ、それはすなわち地域住民にとっての使用価値〜言いかえれば「豊かさ」が低下したことになる。環境の悪化は交換価値の低下につながり、今の状況を放置した場合、悪循環に陥っていくのではないだろうか。
 大都市部の超高層マンションに目を向けてみると、眺望の良い高層階は、交換価値は高いが居住空間としての使用価値はどうだろうか。地震がなくても強風で揺れる、子どもの発達に悪影響がある、洗濯物をバルコニーに干せない等々、眺望以外の実生活の場面ではあまりいい話は聞かないし、中高層マンションに比べて維持管理コストは格段に高くつく。昨年の水害では設備機能が停止し、地上100mの部屋での孤立を余儀なくされ、この瞬間の使用価値はほぼゼロだと言っても過言ではないだろう。超高層建築の林立は、災害が多いことも含んだ日本の風土に馴染むとは言えず、また持続可能性という観点からも疑問の多い、使用価値を省みない建築と言わざるを得ない。「超高層マンションは資産価値が高い」という言説があるが、少なくとも住宅に必要なものは住環境としての使用価値であり、高低にかかわらず「資産価値」ととらえること自体が虚妄に等しい。
 「選択と集中」「民活・民営化」などの高度成長の幻影を追い求める政策、「にぎわい」「ステイタス」などの儚い価値の強要は、持続的に国民の使用価値〜豊かさの向上を目指したものとはいえない。私たちは、国民としてこのようなかりそめの豊かさに惑わされないだけではなく、建築まちづくりの専門家として、使用価値を生み出すための仕事、人々の豊かさを追求する仕事を実践していかなければならない。そして実践を通じて広く国民に真の豊かさの獲得を標榜し、啓発していきたい。

 


京都支部 ─ 「南禅寺・岡崎の景観と住環境を考える」

現地見学と学習会

  日時:2020年1月18日(土)  

  場所:京都市南禅寺近郊

  参加:8名

 

 去る1月18日、新建京都支部主催の「『南禅寺・岡崎の景観と住環境を考える』ー 現地見学と学習会 ー」に参加しました。

案内は「南禅寺・岡崎の景観と住環境を守る会」「岡崎公園と疏水を考える会」の小岸久美子さんです。新建からは吉田剛事務局長をはじめ8人のメンバーが参加しました。

 京都会館(「ロームシアター京都」に改名)入り口付近に集合し、小岸さんの説明をお聞きしながら、次はこれも増改築が済んで開館間近の京都市美術館(これも「京都市・京セラ美術館」に改名)に移動し、ここからさらに無鄰菴の回遊式庭園に入り、吉田さん作成のシミュレーション図を参考にして西側の近くに建設中のホテルが庭の景観にどのような影響を与えるかをみなで確認しました。

 最後は、琵琶湖疏水の水路の南側の道路に面したホテルのよく使う会議室で、小岸さんの呼びかけで集まって下さった地域の景観と住環境を守る活動に取り組んでこられたみなさんのお話を聞きました。

 参加された方々は以下の通りです。「南禅寺・岡崎の景観と住環境を守る会」の共同代表・東村さん、斎藤さん、仙石さん、「岡崎公園と疏水を考える会」の関谷さん、「朝カフェ」の安本さん、「世界文化遺産仁和寺の環境を考える会」の共同代表・桐田さんでした。

 みなさんが話して下さった内容は、いずれも大変印象に残るものでした。京都市の開発姿勢の問題は、世界遺産などの歴史的景観や小学校など、いわば市民・住民の公的な資産を民間の開発利益優先で、つまりパブリックな価値をプライベートな開発利益に変えることが当然のように市民に押し付けることにあるという指摘でした。仁和寺前のホテル計画が京都市の「上質宿泊施設誘致制度」にもとづくが、「上質」の考え方の異常さについても意見が述べられました。

 地域住民の歴史的な共有財産である小学校の利用がたとえ統合によって失われることがあったとしても、どうして住民のために活用できるように京都市はしようとしないのか。また、無鄰菴直近におけるホテル建設が庭園をはじめ地域の景観と住環境を破壊するとして住民が反対の行動をとっているのに、市は建設許可の姿勢を変えようとしない。学習会ではその背後には京都市の「住民を追いやる」姿勢があり、大切なのは「住民自治」ではないかと述べられ、私たちは上述のことも含めて「その通り」という印象を持った次第です。

 今後も、18日に集まっていただいたみなさんとの学習会のような交流の機会を持つよう新建京都支部からも積極的に働きかけ、今後の京都のビジョンを検討し合えるようになればと期待するものです。

(京都支部・片方信也)