2016年2月号(No.449)

特集:都市活動と環境

 

私たち新建は、その憲章で「国土を荒廃から守り、環境破壊を許さず」と謳い、前の大会では「建築行為がもたらす負の影響に最大限配慮する」ことを課題に掲げた。しかし、日本の環境、世界の環境は想像以上に破壊されている。本特集では、自然と大地の上で生きる人間が、地形、気象、海洋などの分野で自然環境との折り合いをいかに復活させるかの道筋を探る。さらに、その世界的合意であるCOP21のパリ協定を評価する。

・規制緩和・特区制度による地域づくりの危険             中林 浩

・被災地における「特区」の問題点-復興特区・水産特区        小川 靜治

・「特区」による開発は奈良公園の歴史と文化になにをもたらすのか   乾 安一郎

・マンション「民泊」の困惑                     大槻 博司

 

■  新建のひろば

・第30回大会期第1回常任幹事会の報告
・東京支部有志企画──日本国憲法の勉強会開催
・京都支部──『実践報告会』の報告
・奈良支部──奈良公園にバスターミナル等開発計画──現地視察と意見交換会の報告
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2016年1月1日~1月31日)

■吉田桂二先生を追悼して               山本 厚生

■  連載

《ハンサム・ウーマン・アーキテクト8》
嫁にやった私の娘「東京スカイツリー®」服部道江さん  中島 明子
《創宇社建築会の時代13》変貌する都市の空間と生活  佐藤 美弥
《20世紀の建築空間遺産7》サヴォワ邸        小林 良雄


 主張 『自治体は被災者の命と暮しを守り、生業再建に全力を』

新建みやぎ支部/新建全国常幹 岩渕 善弘

 

三・一一大震災から五年、国費二五兆円を投じた集中復興期間が終了する。どこまで復興したのか、今なお被災者一八万人が仮設住宅などでの生活を余儀なくされている。
政府は今後に残した課題の対応や被災者の心のケアなどを予算化し、被災者一人ひとりに寄り添ったきめ細かな施策が必要と述べている。
しかし、被災地・被災者には多くの課題、問題点が残されたままである。

第一は、今でも住まいを失った四七万人のうち、四十%一八万人(岩手約五万人、宮城約五万人、福島約八万人)の仮設住宅や民間借上げ住宅などでの暮しの長期化の問題である。この間、被災者は高齢化と孤立に追い込まれながらも、なんとか命と心のケアで癒し、東北人特有の「辛抱強さ」で震災復興を待っている。全国からの災害支援ボランティアが励ましであり、それはのべ百万人にも達したが、現在は五万人まで落ち込んできている。引き続き被災者の心のケアなどへのボランティア支援をお願いしたい。
被災者は家族や親戚、仕事場・コミュニテー、先祖伝来の土地・財産など多くを失い、借金・負債なども残されるなど、「ゼロ」からではなく「マイナス」からのスタートである。復興の長期化は、阪神・淡路と同様、「復興からの自立過程におけるさまざまなケア」が問題となってくる。
津波被災で働き場所を失った被災者にとっては、医療費減免は大きな命綱であり、制度継続の要望は減免対象者の四割にものぼる。宮城県の資料では、対象者は二万七二二四人、国保加入で住民税非課税、大規模半壊以上で主な働き手を失った世帯となっている。
この継続要望がある中、これにまったく逆の対応をした政令市首長の驚くべき発言があった。「国の支援がないので、市は被災者の医療費等助成は打切る」と平然と発表した。
自治法第一条二項には、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として」とある。
基礎自治体がもっとも率先して取り組むべき「市民の命と暮しを守る政治」に、自治体が逆に率先してこの被災者支援策の打切りを表明する冷たい姿勢はどこから生まれてきたのか。特に、独り暮しや高齢者にはショックが大きく、時代錯誤の発言と写ったのである。自治体の役割、市民に寄り添った工夫がなぜできないのか、理解に苦しむ。このことは、仮設から自立復興への過程を一層遠ざけるもので、「諦めや態度保留」など、再建希望の意向を変える要因を生みだした。復興計画に混乱を招きかねない問題である。
一方、自治体すべてが同様の措置を採ったわけではない。石巻市や多賀城市、東松島市は医療費助成継続を表明している。これは、被災者自立への励みであり、命を守るメッセージとなっている。
第二は、災害時まちづくりに関る法制度・復興マネジメントである。
復興費二五兆円が省庁縦割りの形となり、「目に見える復興」のスローガンが基盤整備中心のハード・建設事業に人・金・物が集中した。
その結果、被災者に寄り添うべき、「避難~仮設~自立再建」へのロードマップ・復興マネジメント・まちづくり・住民意向と合意」が手薄・後手となったと指摘される。
災害公営住宅建設は一万七千戸(四七%)、高台移転等は九千区画(三十%)を供給したにすぎない。さらに、ここにきて被災者の再建意向が変化し、事業縮小と見直しが起き、意向に添った計画でも、具体化で既存制度の網や複雑な補助法制・技術的条件などでつまづき、多くの時間を費やしている。
行政職員や支援職員、建設コンサルなどCM技術者の役割は、災害法制等をいち早く理解し活用をはかっているものの、個別条件を踏まえた復興計画では時間を要している。
復興のスピードを競う余り、「被災者に寄り添った復興制度や技術支援のあり方」がほとんど議論されないままである。建築まちづくり技術者のさらなる取り組みが望まれる。
日弁連の一月三一日シンポで「行政・人による二次災害」と、被災者に寄り添った災害復興法制の提案があったことを最後に紹介する。