2016年5月号(No.452)

特集:地域に根ざして活きる設計事務所・工務店

 

日本の大量住宅建設を担ってきた町なかの工務店や設計事務所は、縮小社会を迎えて新築着工戸数が減少し、経営が厳しい状況にある上に、後継者の不在や建設技術のさらなる低下も危惧されている。国の施策も工務店の淘汰を早めるもので、下支えにはならない。一方で、持続する地域社会づくりに建築技術は不可欠で、空き家ストックの活用などでは単なる建築行為を超えた役割を果たしている。厳しい状況のなかで、どっこい活きている町場の建築力を探る。

 

・岐路に立つ町場の工務店、設計事務所そして家づくり  酒井 行夫

・年間十数棟成約する設計事務所と工務店の協同     柳澤 泰博
・三代百年続く“小さな工務店”の土着な地域主義とは    井堀 仁智
・続けることの難しさと喜び 次世代に伝える使命感   伏見 康司
・設計協同フォーラムの

 

「多摩・産直すまいづくりの会」への取組と実践     髙本明生・佳代・直司

 

■  新建のひろば

・第30回大会期第2回全国幹事会の報告
・東京──木造平屋のグループホーム見学会
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2016年3月1日~3月31日)

 

■  連載

《ハンサム・ウーマン・アーキテクト10》「人と人との適当な距離感」でスラムの再生にかかわる岡部明子さん  

                                                                                                                                     中島 明子
《創宇社建築会の時代15》転換点としての1929年            佐藤 美弥
《20世紀の建築空間遺産9》ユニテ・ダビタシオン             小林 良雄
《設計者からみた子どもたちの豊かな空間づくり22》
  保育所づくりを取り巻く状況2016                     高田 桂子

 


 

主張 『熊本地震/建築技術者の知恵と力を発揮しよう』

川本建築設計事務所/新建全国事務局長 川本 雅樹

 

4月14日夜、熊本地方で震度7(マグニチュード6・5)の地震が発生しました。16日未明には、震度6強(後に震度7に訂正、マグニチュード7・3)の本震が起こり、その後も阿蘇地方、大分県などで震度5弱~6強の地震が相次でいます。被害も22日現在で死者59人(災害関連死を含む)、行方不明2人、負傷者1207人、避難者8万1006人、住宅全壊・半壊2937棟、断水4万3100戸となっています。また、大規模な土砂崩れが発生し、幹線道路が寸断され新幹線や高速道路も不通となりました。

 

お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災され不自由な避難生活を余儀なくされている方々に心からのお見舞いを申し上げます。

 

過去に例のない地震

 

今回の熊本地震は、一つの断層で発生した地震が別の断層の地震を誘発するというもので、気象庁は「内陸でこれほど広域にわたる活発な活動は過去に例がない」と発表しました。具体的には、最初の地震の震源地は被害の大きかった益城町に近い日奈久(ひなぐ)断層帯の北端に位置し、本震の震源地はこの日奈久断層帯と布田川断層が接するあたりとなっています。本震のあとに布田川断層の北東側延長線上にある阿蘇地方や大分県中部などに震源が移動し、19日夕方には、日奈久断層帯の南西側延長線上にある八代市を震源とする震度5強の地震が発生しました。これらの震源地は日本列島を縦断する中央構造線断層帯にあり、今後どれだけ震動域が広がるか予想がつかないというのが、今回の地震の特徴です。

 

「川内原発は停止せよ」

 

現在、全国で唯一運転を続けている九州電力川内原発は、この日奈久断層帯の南西部の先に立地しています。誰が考えても川内原発が危ないのです。にもかかわらず、丸川珠代原子力防災担当相は「今のところ安全上の問題はないと原子力規制委員会から聞いている。川内原発を停止させる必要はない」と発言。気象庁でさえ、これまでのタイプにない地震と言っているのに、明確な安全の根拠も示さないまま稼働し続けるのは、常軌を逸しているとしか思えません。

 

新建は4月16日、緊急に全国常任幹事会名で九州電力と経済産業省に「川内原発の運転中止」をメールで申し入れました。今日では多くの国民が川内原発の運転停止を求めて意見表明や抗議行動を行っています。二度と豊かな大地と自然を放射能で汚染させてはなりません。原発の「安全神話」は福島の事故で破綻したはずです。ましてや、さらなる大地震の危険が相当程度現実のものとなっている状況での原発稼働継続は、あり得ない愚行と言わねばなりません。

 

建築技術者・職能団体としてできることは何でもしよう

 

発生から1週間たった今、自宅倒壊の恐れと避難所に入りきれないという理由で、多くの被災者が車中に寝泊まりしています。その結果、エコノミークラス症候群で亡くなる人も含めて、災害関連死は10人を越えました。今も大きな余震が続くために、仮設住宅の建設もすぐに着手できない状況にあり、緊急に雨露をしのぐテントの大量確保が必要です。

 

また、避難所でのプライバシーを守るための間仕切り設置や、入浴・トイレなどの保健衛生面で改善が必要です。さらに、災害公営住宅の確保や仮設住宅の早期建設、住宅再建の促進など、被災者に寄り添って専門家の知恵と力を発揮していくことが、私たち建築家技術者に求められています。

 

 

新建としても早急に「何ができるのか」「何が必要なのか」を討議し、全力で支援していきたいと思います。日本には2000以上の活断層があり、今回のような大地震が日本全国どこでも起こりえます。今日の苦難は決して熊本県や大分県だけのものではありません。みずからの課題として、力を合わせて苦難を乗り越えていきましょう