2015年12月号(No.447)

特集:農山村集落の魅力富山という解き方

 

いま、農山村に注目が集まっている。限界や消滅が語られる一方で、地域の資源にねざした新たな生業や若者の田園回帰に期待がかかる。国もこうした動向を踏まえた政策を打ち出し、自治体も急ごしらえの対策で対応しようとしている。しかし、多くの農山村集落では以前から集落の維持と再生に地道に取り組んできた。災害復興に関わる大学、合併せずに自立の道、積極的な地域マネージメントなど、関西での取り組みから農山村の本当の魅力を探る。

・奈良県野迫川村、復旧から復興・創生へ
──奈良女子大学の関わりを中心に                       中山 徹
・小さくても光り輝く「自立のむらづくり」めざして             奥谷 和夫
・イベント開催から地域マネージメントへ
「今の暮らしを維持・継承する地域経営」──篠山市「集落丸山」の取り組み    横山 宜致
・吾唯足知 われただたるをしる「幸せな暮らしを求めて」          太田 和宙


■  新建のひろば

・竹村文庫例会「ベネチアで張紙─創宇社展覧会(第14回ベネチア・ビエンナーレの取り組み)」
・2015年住宅研究・交流集会「高齢者、障がい者の住宅問題―改善と解決」
・杜の家づくりネットワーク企画「亜熱帯の森・駒頭山林・再起製材所見学会」
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2015年9月1日~2015年10月31日)

■  連載

《ハンサム・ウーマン・アーキテクト5》宮古の風に抱かれて──伊志嶺敏子さん  中島 明子
《創宇社建築会の時代10》「帝都復興」における創宇社建築会の位置        佐藤 美弥
《20世紀の建築空間遺産4》バウハウス校舎                   小林 良雄
《書棚から》デンマークのヒュッゲな生活空間─住まい・高齢者住宅・デザイン・都市計画─


 主張 『建築技術への信頼回復に何が必要か』

建築工房すまい・る・スペース/新建全国常任幹事 今村彰宏

横浜市の分譲マンションにおける基礎杭の施行データの流用事件は、またも建築技術への信頼を揺るがすこととなりました。旭化成建材の国土省への報告によると、横浜市の分譲マンションの現場代理人が関わって施行データの流用があった現場数は9県で43件、全国の過去10年間の杭工事で施工データの流用などを確認する現場数は全国で3040件となっています。

 

分譲マンションの住民は不安のなかで暮らしています。医療・福祉施設や学校など、ほかの建物も不安ななかにいます。さらに旭化成以外、コンクリートパネル会社でもデータ偽装があり、さらに拡がる様相です。
姉歯事件から始まり、樹脂サッシの耐火偽装事件、東洋ゴムの免震偽装事件など、いずれも国民から建築技術への信頼を失わせる事件となっています。
こうした事件がなぜ起きるのか、どうしたら防ぐことができるのか。新建憲章の2は、「地域に根ざした建築とまちづくりを、住む人使う人と協同してすすめよう」、4は「人びとに支持される建築とまちづくりの活動をすすめ、専門性を確立しよう」とあります。
また、第30回全国大会大会議案の「はじめに」で、「私たちは、人々の豊かな生活環境を求める切実な要求に基づいて、日々、自己研鑽を積みながら、ねばり強く住む人使う人と協同して建築活動やまちづくりに取り組んできました」とあります。いまこそ憲章の具体的な実践が、建築家・技術者に求められています。
近年、身近なところでも建築トラブルが増加しています。富山では、住宅を中心に建築民事裁判が増加しています。建築主と施工者・建築主と設計施工者が中心で、施工上のトラブルです。
全国の分譲マンションでも、基礎杭の施行データの流用以外でも、欠陥建築的な施工トラブルがあいかわらず後を絶ちません。外壁の施工上のミスなどです。憲章と第30回大会議案の一部を引用しましたが、新建会員の多くはこれを具体化して、仕事に生かしています。
かつて「良い建築」の定義を4笑主義と言いました。建築主(住む人・使う人)が喜ぶ建築、設計者が喜ぶ建築、施工者が喜ぶ建築、地域に住む人に歓迎される建築、この4者が喜ぶ建築が良い建築です。そのためには特に、建築技術者のみなさんに建築主の顔が見えることが重要であり、設計者の役割の一つに建築主と施工者(職人さん)をつなぐ役割があります。
戸建の住まいづくりであれば、職人さんに住み手の顔が見え、住み手の望んでいる住まいがわかります。使う人・住む人の顔が、施工者・建築技術者・職人さんに見えるとことでは、トラブルなどの問題や事件は起きません。
分譲マンションであっても、想定される住み手のことや建築目的について、しっかりと施工者・建築技術者・職人さんたちに説明し、理解してもらってから施工していれば、基礎杭のデータの流用・偽装などは起きなかったのではないでしょうか。
あらためて私たちが日々実践している「住む人・使う人のために、協同してすすめる建築とまちづくり活動」を持続、継続し、さらにまわりにいる建築関係者に拡げていくことがますます重要になってきました。