2020年7/8月号(No.498)

新建設立50周年記念特集ー7

住まいと居住──豊かな生活空間の基準

 

住民主体の住まいづくり、まちづくり:山本厚生/居住──誰もが人間らしく〝住む〞ことをデザインする:中島明子/これからの住まいについて:横田都志子/今一度 住まいづくりの主人公は誰なのか:小野誠一/続・「質」「素」に暮らす家:白田智樹/多様な「住まい」における可能性と展望:関真弓/自己実現の住まいを相互依存から考える:大崎元/地域の代謝をうながす住まいとまちの挑戦:野田明宏/コラム─空間関係を“疎”に、人間関係を“密”に!:伴年晶/コラム─機械や工業材料に頼らない住まい:金田正夫/昭和初期の長屋で職住一体の実践:伴現太/住み継がれていく集合住宅:江國智洋/住み継がれる住まい:渡邊有佳子/コラム─標準設計、規格型設計、注文設計、それぞれの住宅設計:小畑晴治/今日の住宅事情再見聞:鎌田一夫

 

 住民主体の住まいづくり、まちづくり          山本 厚生

居住──誰もが人間らしく〝住む〟ことをデザインする   中島 明子

これからの住まいについて               横田 都誌子

今一度 住まいづくりの主人公は誰なのか        小野 誠一

続・「質」「素」に暮らす家              白田 智樹

多様な「住まい」における可能性と展望         関  真弓

自己実現の住まいを相互依存から考える         大崎  元

地域の代謝をうながす住まいとまちの挑戦        野田 明宏

昭和初期の長屋で職住一体の実践            伴  現太

住み継がれていく集合住宅               江國 智洋

住み継がれる住まい                  渡邊 有佳子

今日の住宅事情再見聞                 鎌田 一夫

 

コラム─ 空間関係を“疎”に、人間関係を“密”に!                伴  年晶

コラム─ 機械や工業材料に頼らない住まい                        金田 正夫

コラム─標準設計、規格型設計、注文設計、それぞれの住宅設計  小畑 晴治

 

 

◆新建のひろば

・第32回大会期第2回全国幹事会報告

・京都支部──「京都支部実践報告会」

・第32回大会期第5回全国常任幹事会報告

・新建災害復興支援会議からのお知らせ 豪雨災害被災地復興支援活動募金にご協力ください

◆連載

《世界の災害復興から学ぶ〈 7 〉》 関東大震災からの復興    室崎 益輝

《日本酒蔵紀行 2 》  赤穂市坂越               赤澤 輝彦

《暮らし方を形にする-7》 住み手主体を貫く設計の流儀     山本厚生+中島 梢

 


主張  『〝小さな林業"を支える国産材産業の仕組みを作ろう』

建築家/新建全国代表幹事 藤本昌也

 

 昨年(2019年)から今年にかけて、建築家の私にとっては気になる2つのニュースがあった。 ひとつは、昨年3月の林野庁発表のニュース。その概要は、「民間建築物等における木材利用の促進を全国的に図るため、そのプラットフォーム

の役割を果たす懇談会(通称『ウッド・チェンジ・ネットワーク』)を立ち上げる。会員は木材利用に積極的に取り組もうとする建築主、建設業等の民間企業、団体、行政組織等によって構成する。運営のための事務局は林野庁木材利用課に置く」というもの。 2010年に施行された「公共建築物等における木材利用の促進に関する法律」の民間版とも言える施策である。発表直後の会員数は21、その3/4を占める民間の企業、団体は、すべて日本を代表する大手の企業、団体である。

 ふたつ目は、今年3月に大日本山林会(公益社団法人)から出版された『「脱・国産材産地」時代の木材産業』という本のニュース。本書の趣旨を私なりに要約すると次のようになる。我が国の国産材生産構造は、戦後以来20世紀を終えるまで、長きにわたって地域資源を背景に形成された〝産地〞に〝こだわる〞地域固有の生産構造であった。このこだわりが結果として、高度成長期を背景に技術革新を果たした我が国の他の成長産業に比べ、大きく遅れを取ることになり、低迷を続けることになった。しかし、21世紀に入り、いざなぎ景気の後押しもあり、また民間企業へ補助金を投入する思い切った国の産業施策もあって、我が国の国産材産業も、ようやく先進的な木材加工技術と最新の情報処理技術導入に積極的に投資するなど、革新的動きを見せることになる。必然的に、原木の集荷範囲もかつての「産地」の範囲をはるかに越え広域化し、それとともに木材供給においても、これまでの「地域」や「産地」が担うのではなく、大規模化した製材事業者をはじめとする木材企業が主体的に担う構造に変化した。この国産材産業の現在の時代状況を本書は、「脱・国産材産地」時代と呼び、その動きを日本の代表的地域を選び、詳細に検証している。その検証結果は、全体的に見れば、グローバル化した国際市場に立ち向かう我が国産材業界の成功物語として肯定的に評価した論調となっている。無論、本書はこの時代状況を「新たな国産材産業構造形成の序曲」と指摘しているように、先を睨んだ構成となっている。

 以上、2つのニュースで、私がもっとも気になったのは、まさにこの先の話を国としてどう睨み、どのような施策を考えているかであった。 「脱・国産材産地」時代の物語と対になり、共存するもうひとつの物語が、今こそ必要なのではないかと考え、冒頭の表題となったのである。端的に言えば、2つのニュースから共通に読み取れることは、生産性第一、成長産業第一を掲げる〝大きな〞林業、〝大きな〞木材産業論である。 確かに、グローバル経済のなかで激しい国際的競争を勝ち抜くには、当然の議論と言える。しかし、一様に括られた議論だけでは、これからの我が国の森林・林業が抱える矛盾を解決できないことも確かなこと。当然、森林・林業の問題は、経済論だけではなく、環境論の視点も合わせて議論すべきだし、川上産業だけではなく、川下産業も一体で捉えた新たな国産材産業の仕組みづくりの議論をより具体的にすべきであろう。

 そして今こそ、私たち建築人は、「課題は、矛盾を抱える〝小さな林業〞にある。」と考え、この国産材産業の仕組みづくりの議論に積極的に参加してほしい。

 私の考える仕組みの基本要件は2つ。「原木素材のフェアトレードの実現」と「建築主の産業参加」と考えている。

 これ以上の議論は次の機会に譲ることになるが、最後に、すでにこの要件を前提に、この仕組みづくりに挑戦、見事な実績を挙げている事例(森林パートナーズ株式会社)があることを報告しておきたい。

 会員の方々の熱いクロストークを期待します。

 


 第32回大会期 第2回全国幹事会報告

 

 2020年6月14日(日)10:00〜15:00に、Zoomを利用して全国幹事会を開催し、幹事、幹事会顧問、代表幹事あわせて34名が参加した。新型コロナウイルスの蔓延により、準備をすすめてきた新建設立50周年の各事業が予定通りに実施できない事態となるなか、開催時期や方法の変更を含めて可能な形で実施していくことを検討し、新しいスタイルの構築を含めて取り組みを進めていこうとさまざまな意見交換がなされた。

各支部・ブロック活動の報告支部活動状況アンケートは25支部中24支部から提出され、それをまとめたものを資料として事前に配布した。このなかで、「会員を講師にオンラインで勉強会を開催し、その過程で会員が増えた」「会員の8割が登録している支部のメーリングリストを活用し、オンラインでの実践報告会を予定している」「50周年に絡めて古い会員から話を聞く会を15名+オンラインで開催した」「4月と5月にオンラインでブロック会議を実施した」というような、新しい形の活動報告があった。

 

<新建設立50周年事業について>

①今年11月に東京で予定していた記念企画について、これまでの取り組み経過報告と、これを来年に延期することが提案され了承された。開催時期は次期全国大会に合わせることを想定しているが、開催地については今秋までに決定することと、企画内容などについては50周年事業特別委員会で検討していくことが報告された。

②各支部、ブロックの50周年事業についても当初予定の延期や中止の状況が報告されたが、そのうち東京支部の連続企画は当初予定を延期した上で、オンラインで開催されている。

③全会員アンケートは検討委員会の精力的な討議によりまとめられ、『建まち』誌6月号掲載とインターネット上で回答できる仕組みがつくられ、7月31日締め切りで全会員からの回答を期待している。

④『建築とまちづくり』誌の50 周年年間特集は、編集委員会の多大な努力により6月号まで順調に発行され、これまでにない反応や感想が届いていることが報告された。

 

<第32回研究集会について>

11月に50周年記念企画と同時開催を予定していたが、従来の研究集会の形式での開催ではなく、以下のようなインターネットなどを活用した形の提案があり、了承された。

・従来の分科会での報告者や参加者を中心に、新建の日常活動として研究グループを継続し、あるいは新たな分科会を立ち上げる。

・従来の分科会での全国幹事が中心となって「運営委員会」を設置して、どの分科会がいつ開催されるかの情報を番組表のような形で配信することとし、試みに研究成果の交流を11月頃に集中して日程を設定する。あわせて100人規模の一斉配信や動画配信など技術的な検討も必要。

・議論の内容は、研究報告集として2021年7月31日をめどにまとめ、8月中に成果を報告、交流する場を設ける。まとめ方として、文書によるまとめだけではなく、映像や写真集、動画などの配信など情報共有化なども検討する。

 

<組織・財政報告>

 昨年の第32回大会の決算報告および大会で承認された貸借対照表の再確認、説明と補正予算の提案および現在の組織、財政状況が報告された。

・予算については総額の変動はないが、『建まち』誌の年間特集による増加や会議費(旅費)の減少など、項目ごとの予算額の変動が大きいため、補正予算を編成したもので、提案のとおり承認された。

・現在の財政状況として、2/3期間経過で収入が、予算の60%程度でやや遅れている状況に対して支出は現状の2/3相当となっているため、現時点では収支マイナスであること、広告収入獲得が進んでいないことが報告された。

・会員数は昨年の大会以降、16名の入会があったが、自然減を含めて22名の減少となり、純増には至っていない。

 

<専門委員会の報告>

 各委員会構成は一部変更等を含めて事前に一覧を配布し、当日参加の幹事は短時間ながら分散会を開催して責任者などの確認が行われた。先行してWeb委員会が開催されており、ホームページ、メーリングリスト、『建まち』誌との連携など多くの課題についての検討状況が報告された。

 

<今後の予定>

 次回の全国幹事会は来年の全国大会開催地と記念企画、オンライン研究集会などを主な議題として、9月〜10月に予定する。

 

(全国事務局長・大槻博司)

 


 京都支部-京都支部実践報告会-

 

 

  毎年1度の実践報告会、新型コロナウイルス感染症の広がる今年は、6月27日に初めてオンラインで開催しました。オンラインだからこそ参加できた会員もいて、今後につながりそうです。以下5人の実に多彩な実践報告を簡単に紹介します。

 

 

 

 

隣地の安全を顧みない大型ホテルの建設に待った

 一番手は幸陶一さん(土木設計、測量士)。国の名勝京都岡崎の無鄰菴隣地で進む大型ホテル建設にともない、隣地の安全性無視の工事が進む実態を鋭く告発する報告。

ホテル建設地と隣地の断面(図1)を見れば、ホテルの敷地を実質的に支えているのは、ホテルの敷地境界線から1m程度外側に築造された擁壁だとわかる。この既存擁壁は琵琶湖疏水が造られた際の掘削土置き場の土留めとして築造されたもので、現在の基準には合わない。本来なら、ホテル側敷地内に安全な擁壁を築造し、あわせて、隣地既存擁壁の安全維持を図るのが事業者の責務であり、行政は住民の安全を確保する立場から指導を行う必要があった、というのが幸さんの報告の趣旨です。既存擁壁に近接して家屋が立っている現状では、ホテル完成後にこの既存擁壁を修復することが不可能となってしまいます。「敷地の外のことはわれ関せず」では済まされない。

森の中の保育園の設計

2番目は丹原あかねさん(建築士)。公園の中の保育園の改築です。この保育園は50年前に京都市によって公園の中に建設されました。相談を受けた5年前、すでに建物は老朽化、耐震診断の結果は「耐震改修が必要」でしたが、都市公園法で「公園内での建て替えは不可」、一方「他の土地を探そうにも近隣での土地が見つからない」という状況が続いていました。そんななか、2017年に都市公園法が改訂され、公園の中での保育園の建替えが可能になったのです。 設計で大事にしたのは、公園の緑や東山への眺望を生かすことや公園の園路に沿う細長い建物と園路を歩く人との関係づくり。一言で表せば「緑の中の保育園づくり」です(写真1)。

公園に関わるさまざまな人々や団体との調整の苦労も語られました。

 

環境・景観・まちづくり

3番目は秋山健司さん(弁護士、昨年入会)。秋山さんは、「環境・景観・まちづくり」に関わるご自身の認識を、司法試験受験時代(過去)、現在、未来に分けて報告。

 司法試験受験時代……そもそも受験科目に「環境法」はなく、憲法25条の関連で環境権の話が合った程度だった。弁護士として活動する現在……6年以上にわたり船岡山事件に関わり、環境権と連続性を有する景観権の議論を真正面から行なった。そのなかで、国立マンション事件や、鞆の浦事件とも相まって、「景観利益」を民法709条の「法的利益」として保証する方向へ前進させてきた。そして未来……「環境権」を「えさ」に、改憲勢力は9条改憲を狙っていると指摘。「環境権」は新建や自由法曹団の不断の努力によってこそ勝ち取られてきたし、これからも不断の努力が必要だと。

 

立派なお屋敷と庭が残される理由、残されない理由

4番目は川本真澄さん(建築士)。高齢のご夫妻が長年住み続けてきた立派なお屋敷を、相続問題で息子さんや親せきに迷惑をかけないよう「コーポ」にできないか、というのが相談のきっかけ。でもお屋敷は残った。必要な改修をし、ご夫妻は住み続けることになった。理由は、ご夫妻の「住まいへの愛着」。その思いを息子さんや親せきの方たちも共有し、なんとかご夫妻の想いを叶えたいと存続を決意された。改修後は「京都を彩る建物」にも登録。相続対策が絶対視される風潮のなか、ご家族のさわやかな、でも考えてみると当たり前の「決意」を感じました。

 

歴史的建造物の調査報告

5番目は桜井郁子さん(建築士)。歴史的建造物等支援対象となる建造物の調査、より詳しくは重要景観建造物16件(最大1000万円を上限に工事費の3分の2が補助金として支援される)の調査報告業務です。実測調査、図面作製、文献調査、記録写真を報告書にまとめる細やかで、根気の必要な作業です(図2)。桜井さんは住宅の件数が減っていることへの危惧、一つ一つの建物の歴史を知ることが正確な調査に不可欠なことなど、業務を終えた感想を語りました。こうした細やかな作業が歴史的建造物を後世に伝えていく基礎になっているのだとあらためて感じました。

 

 

(京都支部・吉田剛)


新建災害復興支援会議からのお知らせ

豪雨災害被災地復興支援活動募金にご協力ください

 

 豪雨で被害に遭われた方々へ謹んでお見舞い申し上げます。

 九州や岐阜、長野など西日本と東日本の広い範囲で大きな被害が出ている今回の一連の豪雨について、気象庁は「令和2年7月豪雨」と名付けました。7月3日からの大雨により、熊本県南部、川辺川・球磨川流域の人吉市や球磨村を中心に70人以上の方が亡くなられ、甚大な被害が生じました。九州南部に続いて九州の北部でも多くの地域で大雨特別警報が発令されるなど、広い範囲で河川の氾濫による浸水被害や土砂災害が発生し、被害の全容はまだわかっていません。局地的な大雨が降り続いている状況で、さらなる被害の拡大が予想されます。

 新型コロナウイルス感染拡大防止にともない、福岡県は5月に「避難所運営マニュアル作成指針」を作成し、臨時避難所の開設、空き教室の活用、避難所のレイアウトの検討などがされ、2017年の九州北部豪雨で被災した朝倉市は「災害時の避難所における1人あたりの収容面積を従来の1・65平方メートルから7・7平方メートルと4・7倍にする」という具体的な対応がされています。コロナ禍での災害に対する備え、支援が早急に求められています。私たちは被災した自治体任せにするのではなく、国が体制や制度を強化し資金も投入することを要求する行動を今まで以上に強めていきたいと思っています。

 視察や支援活動は、これまでと同じスタイルではできないこともありますが、被災地や近県の会員や支部と連絡を取りながら進めます。多発する災害に対して防災・復旧・復興において、建築とまちづくりの分野で私たちの専門性が求められており、こうした支援活動を強化していく上で、引き続き活動募金を呼び掛けます。

 支援募金の使途は、会員・読者で被災された方へのお見舞いと復興支援への助成および支援活動資金です。カンパは支部単位、個人いずれでも構いません。趣旨ご理解いただきまして、一層の御協力をお願いいたします。

 

なお、口座振込み手数料は免除を受けられませんので、各自ご負担いただくか、差し引いてお振込御願いします。

 

新建の支援募金口座

みずほ銀行新宿新都心支店

普通 3914020

名義 新建築家技術者集団