第31回新建全国大会「おおさかおもてなし企画」報告

新建築家技術者集団 第31回 全国大会 in大阪

  日時:2017年11月24日(金)~26日(日)

  場所:エル・おおさか(大阪府立労働センター)

     前夜祭「落語家と行く-なにわ探検クルーズ」

     見学会 4コース

 

従来の全国大会のなかで催される現地主催企画は、記念講演会と見学会が定番で、日程は土日が大会、月曜日に見学会という設定でした。今回大阪で開催するにあたっては定番にこだわることなく、開催地として独自に検討しました。

まず、日程設定について、月曜日に見学会というのはどれだけの人が参加できるのか、月曜日は勤め人でなくても休みにくいのではないか、メールは溜まっているし、前週に「月曜日に連絡します」とか言って先延ばししているからです。そういう人は多いのではないか、悠々自適の人しか参加できない企画はよろしくないのではないか、そんな発想から「全国大会プレ企画」という設定になりました。これはすなわち金曜日を休むことになりますが、月曜よりはまだまし、たまたま前日が祝日で週明けの準備をするのに都合がよい、という忙しい人たちのための組み立てであると考えました。

次に大阪で開催するということは、箕面の山奥とか千早赤阪村くらいまで都心から離れない限り、風光明媚な自然を紹介するという選択肢はほぼありません。となると自然ではなく、大阪の歴史と文化をたっぷりと堪能してもらおうという視点でおもてなし企画を敢行しました。

 

なにわ探検クルーズ

第一弾は水の都大阪です。48人乗り貸し切りで、44人が参加しました。

美しい自然の川ではなく、都会の真ん中にある湊町から道頓堀、木津川、堂島川、東横堀と主に人口の堀川を、いくつもの橋をくぐりながらぐるっとめぐって大阪を探検してもらう、さらに落語家の観光案内付きのクルージングです。私たち大阪人でもどの川がどこでどうつながっているか、どこに水門があるかなどはちゃんとわかっていません。中之島辺りは公会堂や府立図書館などいろいろと見どころがあって少し自慢できますが、阪神高速の下の東横堀川などは昼間でも薄暗く、見えるのはビルの背中ばかり、水は悲しい色でとても見せられたものではないと思っていましたが、そんなところに水門が現れて水位調整のための船の上下が美しくない風景を忘れさせてくれます。ちょうど暗くなってきたころで、赤い灯青い灯の道頓堀を通過、グリコやカニ道楽など有名な巨大看板を眺め、沿岸の人々に手を振られながら湊町に戻ってきました。

 

味園で夕食会

クルージング下船後、宴会開始まで少し時間があったので、ミナミの街をぶらぶらと、2度の火災で焼失し、「連担建築物設計制度」を適用して復興した月の法善寺横丁を散歩しながら会場である味園に向かいました。

味園ビルは1956年に、キャバレー、スナック、ダンスホール、宴会場、サウナを擁する総合レジャービルとしてオープンし、当初は、「世界最大のダンスホール、5国の娘と飲める1000坪の巨大キャバレー『ユニバース』」のうたい文句、安価な宴会メニュー、高度経済成長のなかで連日大繁盛だったそうです。残念ながら私はまだ子供でしたが、夜空に浮かぶ大きな電飾看板が映って「みその~」と連呼するテレビCMはよく覚えています。デビュー前の和田アキ子がダンスホールの専属歌手だったという『ユニバース』は、キャバレーとしては2011年に営業終了しましたが、今は貸しホールとなって若者に人気のバンドがライブを行う人気スポットとなっています。インターネットで検索すると「ディープスポット」とか「魔窟」「昭和レトロ」などの誉め言葉が並んでいます。この濃厚な大阪の夕食会には33人が参加し、翌日からの全国大会に向けて、英気を養いました。

 

見学会-1「大阪 歴史の散歩道を歩く」

大阪南の玄関口天王寺駅をスタートして、まず天王寺公園に入り、最近整備されて人気の「てんしば」を通過して茶臼山(標高26m)登山、真田の六文銭の幟を確認してすぐに下山しました。次に斜向かいにある聖徳太子の四天王寺に南大門から入って南北軸の伽藍配置を確認し、亀ノ池を横目に東大門から出て地下鉄で天満橋まで移動、大阪城内の大阪砲兵工廠化学分析所に来ました。 

武器弾薬製造の工場群だった大阪城天守閣東側の大阪砲兵工廠は、京橋大空襲と呼ばれる終戦前日の空襲の標的になりました。化学分析所とともに焼け残ったレンガ造の本館は、保存を求める市民や専門家の声、文化庁による文化財指定のための調査指示を無視して1981年に解体されてしまいました。当時新建大阪支部は突然始まった解体工事の翌日に大阪市当局に抗議に訪れています。化学分析所は長年閉鎖されたまま放置されており、何か活用の道を考えたいものです。

 

当初のコース設定は、天王寺七坂めぐり、真田の抜け穴入口がある三光神社や、京橋大空襲碑も廻るという壮大な予定でしたが、実行委員会の検討段階での「無謀、時間的に無理」との指摘通りに、それらは資料だけになってしまいました。しかし、それなりに大阪の歴史は感じていただけたと思います。途中離脱の常任幹事さんを含めて10名の参加でした。(大槻博司)

 

見学会-2「船場の近代建築を巡る」

 東横堀川の西側に集積する近代建築群だけでなく、大阪が誇る「都住創」のコーポラティブ住宅群を東側にプロットした案内図を設計者HEXAの安原氏がまとめ、当日の案内もお願いした。20人近くの参加者が中央公会堂①に集まり南下しながら、氏の解説を受け多様な意匠を堪能しました。

 オラ・フィールド⑳で解散。参加者は大会場へ。まちまちに東側を北上して、フォークアーキテクチュアと近代建築を対比することができ、大阪の近代建築をより厚く見ていただけたと思います。建まち読者の皆さん、大阪にお越しの際、この地図を手に散策されることをお勧めします。特に、街中にコーポラティブ住宅が隣接(bc)対面(hi)する風景はここでしか見られません。(伴年晶)

 

見学会-3「富田林寺内町を知る」

今回のコースの中で唯一大阪市外の見学会で、午後には大会会場に帰る必要があるため、時間が短い中での案内となりました。富田林寺内町は大阪で唯一重要伝統的建造物群保存地区(以下重伝建地区)に指定されており美しいまちなみが残っているところです。集合場所の近鉄富田林駅から重伝建地区内までは歩いて5分程度で到着します。まずは重伝建地区のエリア外にある登録有形文化財「旧田中家住宅」を見学し、その後、日本の道百選にも選ばれている「城之門筋」を通り、江戸・大正・明治の町家の外観を見学しながら、国の重要文化財(以下重文)に指定されている「興正寺別院」の、京都伏見城から移築したとされる門などを見学しました。途中現在新築された住宅や改修事例の建物、コーポラティブ住宅などを見て最後に重文に指定されている旧杉山家住宅を見学しました。かなり駆け足での見学だったことと、今回の参加者が残念ながら3名でしたので、今度はぜひ一度ゆっくりと案内できる機会があればと思います。(横関正人)

 

見学会-4「大阪型近代長屋を訪ねる」

参加者15名が地下鉄御堂筋線昭和町駅に集合し、まずは寺西家主屋と寺西長屋を見学しました。場所は大阪市の中央を貫いている地下鉄御堂筋線の昭和町駅の出口から1分という交通至便の立地にあります。家主である寺西さんは元大阪府庁の職員で新建大阪支部の会員でもあります。事前に見学のお願いをしていなかったのですが、快く主屋内の見学をさせていただき、寺西さん自ら説明していただきました。寺西家の長屋と町家がある地区は、大正12年に設立した阪南土地区画整理組合が行った阪南土地区画整理の区域内にあります。昭和6年に換地処分が完了し、その翌年の昭和7年に建てられた長屋は、水道だけでなく都市ガスが供給され、各戸にガス風呂が設置されており、その時代の先端の住宅地に建てられました。しかし、現在では、この地域は、密集住宅市街地に指定されており、建て替えを推進すべき地域に該当しています。長屋は、築70年を過ぎ老朽化し、寺西さんも相続のことを考え、一旦は賃貸マンションに建替えるしかないと思っていましたが、マンション建設の計画を進めていた平成15年4月、京都大学の西澤先生が取り壊そうしていた長屋を視察され「なかなか良い長屋で登録文化財になるのでは?」といわれ、心が動きました。壊すのはいつでもできることだと思い登録文化財に申請すると、その年の12月に長屋としては全国初の登録有形文化財として登録されました。その後、建設当初の姿に戻すために、屋根の葺き替え工事や外壁の改装、物干し台の設置等を行いました。店舗に貸そうと思っていましたので、柱や土台で腐っているところは、修理しそれ以外は、テナント工事として改装工事を行ってもらい、現在4つの店舗が入っています。

 次に御堂筋線で梅田まで北上し、講演会で小池先生にお話いただく、豊崎長屋を見学しました。詳細は別稿にて紹介します。(栗山立己)

 

全国大会記念講演会

講演会は大阪市立大学准教授の小池志保子先生に『生きている長屋』と題して大阪に根付く長屋文化についてお話いただきました。武家の町・江戸、公家の町・京都と並んで、町人の町と称される大阪は江戸時代には全人口の84%が借家暮らしであり、そのほとんどが長屋に暮らしていたと伝えられています。現在も市内には戦火を免れた多くの長屋が存続していますが、いずれも老朽化や税制等が引き金となって取り壊しが進み、その姿を高層マンションへと変えつつあります。そうした長屋を住まいとして改修・保存する試みとして、大阪市立大学の竹原先生と小池先生が中心となって取り組んだのが、大阪の繁華街・梅田から徒歩20分程の「豊崎長屋」です。2007年に相談を受け、翌年に敷地内の長屋のひとつである「銀舎長屋」を改修して以降、空室が出るごとに徐々に改修を進めました。その後に続く「須栄広長屋」、「嶋屋喜兵衛商店」の取り組みなど一連のプロジェクトは〝大阪市大モデルの構築〟と位置づけられ、同様の問題を抱える市内の長屋を再生するプロトタイプを模索することとなりました。

小池先生は「大阪市内には7万戸の長屋が残っていて、それは市の住宅の5%を占めます。なかには明治時代に建てられたものもあり、単に壊すよりはその価値を残したいですし、充分に波及すれば、大阪市内の景観が変わる可能性がある」と言います。「このプロジェクトを貫く重要な骨子は2つ。あくまでも住まいとして再生することと、大学研究室が設計するという社会性を尊重することです。」「店舗にすると、利益を上げるために構造に無理のある改修をしたり、古い物が失われたりする心配があります。耐震計画を含めて、もう少し丁寧に〝住まい〟として治してみようというのがそもそものスタートでした。」「大学が関わることで利益優先にせず、こうした住宅のストックができることが重要でした。また、市立の大学が地域と密接に連携する場づくりのきっかけともなり、豊崎長屋は大学の都市研究プラザとなりました。大家さん宅では実習や講演会をさせていただいています。」住まい方を含めた長屋文化の保存を目指しているため、内部の間取りは極力そのまま保存する、あるいは復元することが試みられました。先生たちの助言を受けつつも、プランやディテールの決定はすべて学生が主体となっています。「新築だとゼロから考えるのでアイディア勝負みたいなところがあるのですが、改修は既存の建物をどう活かしていくかが重視されるので、学生と考えるのに向いています。すごく丁寧に計画を練っていますし、50㎡という長屋の広さは考えやすいのかもしれません。」改修のメリットは、見慣れた風景を維持しながら新たな住民を迎えられる点にもあります。現在は、研究室の学生やOGがこの長屋に暮らし、大家さんや近隣住民の方々とも良い関係を築き始めているそうです。小池先生は「私たち外部の人が受ける印象よりも地域の方が消極的なことは、いろいろな場所でたくさんあることだと思います。豊崎長屋の大家さんも、あの長屋を誇りというよりはお荷物に思っていたようで、いろいろな方から「いいですね。価値がある建物ですね」と言われるようになって、最近ようやく「そういうもんかな」と思うようになったそうです。この長屋も、改修を通じて価値を外部から認められて、暮らしている人たちの意識が明るく変わるきっかけになればいいなと思います。」そしてそれは、小池先生が学生たちに望む姿勢でもありました。小池先生は「私たち生活科学部が扱うのは小さなものです。建築を考えるときにも、住宅1棟と小規模です。しかしたとえ小さくても、街の雰囲気や周辺が変わってゆくきっかけになることができます。単に建主だけが喜ぶものではなく、地域に対する建ち方を考えて実現する方が、結果として建主の幸せやまちの幸せにつながると思っていて、それは研究室のテーマでもあります。」

〝大阪市大モデル〟は市の行政や同じ思想を持つ団体と連鎖しながら、徐々に普及し始めています。その輪がさらに大きく広がれば、大阪市内の景観は随分と変わるでしょう。建築が、過去と未来、人と人の心をつなぐとすれば、こんなに待ち遠しい光景はありません。

 

落語会

もうひとつの記念企画である落語会は桂福丸師匠の『書割盗人』の一席でした。福丸師匠は灘中・灘高を経て京都大学法学部を卒業後、2007年に四代目桂福団治に入門という、落語家としては異色の高学歴ですが、現在、上方落語の若手の旗手として活躍されています。今回の高座後の12月には2017年文化庁芸術祭新人賞を受賞されました。演目の『書割盗人』は、ナンセンスな状況の中で、それぞれにとぼけた洒落っ気を見せ合うふたりの男の噺です。

男は引越しをしたが、前の長屋でたまった家賃を工面するために家財道具の一切を古道具屋に売ってしまいます。男は壁、床、天井一面に白い紙を貼り、近所に住む画家に、豪華な家具や日用品、そして眠る猫を細密に描いてもらい、さらに男は「用心のため、武芸の心得があるように見せたい」と希望し、長押に掛けた1本の槍を描いてもらいます。男が留守にしている間、泥棒が男の部屋を物色にやって来ます。眠る猫(の絵)を見て「番犬がいない証拠だ」と早合点した泥棒は、夜ふけを待って男の部屋に忍び込みます。泥棒はたくさんの豪華な家財道具(の絵)を見て驚喜し、タンスの引き出しを開けようとするが、絵なので開くわけがない。ここで男が泥棒に気づきますが、面白がって寝たふりをしつづけ、ひそかに泥棒の様子を観察します。驚きながらも男の事情を悟り、同情しつつあきれた泥棒は「このまま帰ったのでは面白くない。この男が、ものがある『つもり』で生きているなら、こっちも盗んだ『つもり』になって帰ろう。一反風呂敷を広げた、つもり。風呂敷の中にタンスの中身をぶちまけた、つもり。金庫を開けた、つもり。1億円ばかり盗んだ、つもり。風呂敷の両端を縛り、背負って立ち上がろうとして立ち上がらない、つもり」とつぶやきつつ、孤独なパントマイムを始めます。泥棒の粋に感じ入った男が「1億も盗まれては、黙ってはいられない」と、ここで起き上がり、「袴の股立ちを取った(=すそを引き上げた)、つもり。たすき十字に綾なした、つもり。長押の槍に手をかけて、石突きをトンと突き、りゅうとしごいて泥棒のわき腹めがけてブツーッ! と突き立てた、つもり!」そこで泥棒が、「ううむ、無念。血がだくだくと出た、つもり」という落ちで終わりました。福丸師匠の熱の入った身振り手振りの噺に会場は大爆笑。参加者は上方落語の真髄に触れ、大いに盛り上がりました。


リーフレッ

11月24日(金) ●前夜祭「落語家と行く-なにわ探検クルーズ」 

         ●夕食会 宴会天国「味園」

 

 

11月25日(土) ●見学会 4コース

①  歴史の散歩道を歩く

  四天王寺→天王寺七坂→玉造(三光神社)→京橋界隈(大阪大空襲慰霊碑など)→大阪城

②  船場の近代建築を巡る

  中央公会堂→北浜レトロビル→青山ビル→新井ビル→伏見ビル→芝川ビル→生駒ビル 他

③  富田林寺内町を知る

  近鉄富田林駅→じないまち交流館→旧杉山家住宅→寺内町センター→旧田中家住宅 他

④  大阪型近代長屋を訪ねる

  阿倍野(寺西家主屋、寺西長屋、桃ヶ池長屋、阿倍野長屋他)

 

11月25日(土) ●大会1日目 エル・おおさか

 

①  全体会 13:00~14:20  5F視聴覚室

②  分散会 14:30~15:25  5F視聴覚室・6F604会議室・6F研修室1

③  講演会 15:30~16:15  5F視聴覚室

小池志保子さん(大阪市立大学准教授)『生きている長屋』  

 プロフィール

 大阪市立大学大学院生活科学研究科准教授、博士(工学)、一級建築士


 2000年京都工芸繊維大学博士前期課程修了後、中村勇大アトリエ勤務

 2002年ウズラボ共同設立

 2006年より大阪長屋の再生に関わり、豊崎長屋でグッドデザイン賞受賞

④  落 語 16:25~17:00  5F視聴覚室

桂福丸師匠 『演目は当日のお楽しみ』 

 プロフィール

 1994年私立灘中学校卒業

 2001年京都大学法学部卒

 2007年四代目桂福団治に入門

 

11月26日(日) ●大会2日目 エル・おおさか

①  分散会     9:00~10:20  5F視聴覚室・6F604会議室・6F研修室1  

②  全体会   10:30~12:30  5F視聴覚室       

③  昼 食   12:30~13:50  (全国常任幹事会 5F視聴覚室)       

④  全体会   13:50~14:50  5F視聴覚室

⑤  全国幹事会 15:00~16:00  5F視聴覚室         

⑥  全体会   16:00~16:30  5F視聴覚室