2016年4月号(No.451)

特集:大震災から5年──見え始めた住宅再建と抱える課題

 

大震災から5年。住宅の再建は途半ばという状況だが、それでも姿が見えてきたのと同時に深刻な課題も明らかになってきた。総額で30兆円を超える復興予算があるのに、こんなことも出来ないのかと嘆かざるを得ない状況に高齢者や弱者が置かれている。社会の仕組みが住宅再建を阻んでいるとさえ言える。一方で、住宅の再建は公的な資金を投入すれば済むことではない。通常時にも通じる地道なまちづくりの営みが、住まいと暮らしの復興を実のあるものにしている。複眼的に住宅再建の現状を捉えて、次なる災害に備えたい。

 

・東日本大震災 再建と復興の現状をどう見るか                  塩崎 賢明

・ひろがる格差と貧困の中、住まいの再建の行先は

──宮城県・仙台市の仮設住宅入居者の転居問題を中心に             阿部 重憲

・住まい難民をつくるな──石巻・住まい連の取り組み              佐立 昭

・陸前高田市における二つの住宅再建プロセスと市民の動き                         藤賀 雅人

・気仙沼内湾地区復興のまちづくり──これまでの五年とこれからの五年   阿部 俊彦

・被災者主体を貫いた防災集団移転の復興住宅とまちづくり

──東松島市あおい地区                         三浦 史郎

・石巻市中心市街地 身の丈共同建替えによる自主再建             野田 明宏

 

 

■  新建のひろば

・愛知支部──木造で作る保育園らしくない保育園「まんぼう保育園」見学会
・東京──「第42回住みよい板橋をつくる区民と勤労者のつどい」
・東京──住生活基本計画・パプコメ緊急集会
・新「そらどまの家」出版記念講演会
・福岡支部──新建学校2016in福岡「外断熱講座~福岡で外断熱!?」
・「マンションデモクラシーで100年住みつづける」出版記念集会
・新建復興支援会議企画──緊急報告会「住まい難民」を絶対つくるな
・静岡支部・京都旅行──聴竹居見学と京都支部との交流の報告
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2016年2月1日~2月29日)

■  連載

《ハンサム・ウーマン・アーキテクト9》女性建築家が全体の半数を超える国  中島 明子
《創宇社建築会の時代14》作品と言葉の変化、その兆候           佐藤 美弥
《書棚から》『建築から都市を、都市から建築を考える』
《20世紀の建築空間遺産8》ジョンソン・ワックス本社ビル         小林 良雄
《設計者からみた子どもたちの豊かな空間づくり20》
保育室の外れこそ、保育園に必要な場所                   さとう みき


 主張 『戸建て住宅における「既存ストック活用」に向けて』

(株)ゆま空間設計/新建全国常任幹事 加瀬澤文芳

 

最近の新聞報道に「広がれ中古住宅診断」と題した記事が掲載された。中古住宅を安心して買えるように、住宅の傷み具合を専門家が調べる「住宅診断」を広めるための法改正案を、国土交通省が国会に提出したという内容だ。具体的には宅地建物取引業法(宅建業法)において、仲介業者は売買契約を結ぶ前に、買い手に住宅診断を受けるかどうかを確認するよう義務づける。そのうえで「重要事項説明書」に診断をしたかどうかを明記し、結果の概要を説明する。要は中古住宅の不動産取引の場面での手続きを義務化するということなのだ。

この間、国交省から「インスペクション・ガイドライン」や「中古戸建住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」などが出され、中古木造戸建て住宅を、従来の築年数を基礎とする方法から、建物自体が持つ品質・性能で評価する方向へ変換していく動きが示された。その行き着いた先が今回の法改正だとすると若干腰砕けの感が否めないが、いよいよ日本も欧米並みに戸建て住宅供給の構造が新築中心から「既存ストック活用」へと大きく変わりつつあるということだ。その流れの中で、設計者が「住宅診断士」を志向するよう促していると解釈することもできる。

翻って自身の日常を省みると、住宅の仕事はリフォーム、増改築中心へとシフトしつつある。温暖な千葉県には築100年前後の古い民家がまだ相当数残っていて、民家改修の仕事も一定継続している。また住宅設計を志すきっかけとなったバリアフリーリフォームについても、相変わらず継続しており、「住いと福祉の会」も盛況である。「既存ストックの活用」は自身の原点であったことに思い至る。

リフォーム専門の施工者から、耐震診断を含めた「建物診断」を依頼されることもある。設計監理者としての仕事以外は受けないことが建前だったが、見事に宗旨替えしてしまった。新築が少なくなったなどと嘆いている暇はない。設計者がやるべき課題はいくらでもある。「住宅診断士」でも「耐震診断士」でも技術と知識を身に着けて、社会の要請に応えられるようしなければならない。

最近初めて現場をともにした工務店は、自社の大工を多能工化していた。みずから棟梁である社長は、大工技術が一番難しいことを誇りにしていて、大工ができないことはないという信念のもとに、多様な職種をこなしていた。とび土工、大工工事、塗装系の内装工事、防水工事、家具工事、床暖房工事、外構、植栽まで。屋根工事やタイル工事は職人の親方一人付け、手元をこなしていた。肝心の大工技術も水準が高く、建て主を感激させた。パワービルダーやハウスメーカーに席巻されるなかで、自社で職人を抱えながら、自立した町場の工務店として生き抜いていくために、遮二無二突き進んでいた。その姿勢には頭が下がる思いがした。

設計者には、施工者とは立場が違うので同じ土俵に立てないという認識があるのではないか。しかし今、自立した設計者として生きていくためには、信頼のできる自立した施工者の力がどうしても必要である。「既存ストックの活用」というテーマは特に、技術を保持し、誠実に向き合うことのできる施工者抜きには考えられない。また施工者にとっても、連携できる設計者の存在が必要である。さらなる信頼関係を構築するためにも第30回研究集会の場で議論を深めたい。多くの会員が参加することを期待する。