2019年2月号(No.482)

エネルギー転換と地域の挑戦

 

福島第一原発の事故によって広範な人々の生活がいまだに破壊されている。原発依存からの決別は喫緊の社会的課題である。一方、西日本豪雨水害など頻発する豪雨災害は温暖化の影響と考えられており、化石燃料の使用も削減しなければならない。本特集では、世界のエネルギー政策、ドイツでの原発入ロゴの地域再生、市民による地域発電のさまざまな取り組み、などから持続可能なエネルギーの具体的なあり方を探る。

・日本のエネルギー政策の立ち遅れと自然エネルギーの可能性           大友 詔雄
・原発に地域の未来を託せない―ドイツ・ルブミン村に学ぶ廃炉後の地域再生    乾 康代
・ブラックアウトを経験した北海道で考える 自然エネルギーの方向性       山形 定
・水と食料とエネルギーの自給と地域の自立―会津電力の設立と地域資本      佐藤 彌右衛門
・南信州からエネルギー地産地消を全国へ─日本初の分散型太陽光市民出資      谷口 彰
・福井発・市民が作る発電所と節電所                       由田 昭治

 

◆連載

《災害復興の姿 1》差し込み型高台移転       塩崎 賢明

《普通の景観考15》森見登美彦の京都・左京区    中林 浩

《新日本再生紀行15》岩手県紫波郡紫波町その1   小笠原 浩次

 

◆追悼 大石治孝氏   鈴木 武/本多 ゆかり

 

主張『沖縄が切り裂かれていく』

建築工房すまい・る・スペース/新建全国常任幹事  今村彰宏

 

 昨年12月14日、沖縄県名護市辺野古のエメラルドグリーンの海に土砂が投入され、1カ月半が経過しました。海が少しづつ赤茶色に濁っていく様子がテレビでも報道されています。
 辺野古埋め立てに賛成か反対かを問う沖縄県民投票が2月24日に実施される予定です。
 1月14日の『朝日新聞』に那覇市の大学3年生(20歳)の女性が大きな記事となっていました。タイトルは「移設の是非、父や友人ともすれ違う現実、20歳の葛藤」でした。私はこの記事から大きな衝撃を受けました。記事の一部を紹介します。
「昨年の春休み友人に誘われ、米軍普天間飛行場に隣接する普天間第二小学校監視員を務めた。米軍機が近づくたび、児童たちにハンドマイクで(避難して)と呼びかける。2017年末に米軍ヘリの窓が校庭に落ちた事故を受けて、沖縄防衛局の委託業者が配置したアルバイトだった。顔を真上に向け、離陸直後の米軍機を目で追う、轟音を立て、低空を飛ぶ機体の底は、見たこともないほど大きく感じた。近くに住む人は、どれほどの恐怖感を抱いて生活しているんだろう。基地の現実を知らなかった自分に気付いた。この普天間を返還する代わりに、辺野古へ移設しなければならない―。疑問が湧いた。誰かが基地と隣り合わせの生活を強いられる。それは移設しても変わらないのではないか、と」。彼女の言葉のとおりなのです。
 辺野古の新基地予定地の近くは、住宅団地や市営住宅があり、保育園・幼稚園・小学校・中学校・沖縄高専や児童養護施設などがあります。危険だけではありません。米軍海兵隊による事件や事故も想定されます。さらに彼女は、「昨年9月の知事選。家庭内には(安倍政権が支援する候補に投票するのが当たり前)という雰囲気があった。建設業を営む父は、公共工事にも携わる。政府と県の対立が続けば沖縄関連予算が減り、仕事にも悪影響が出ると心配していた。父の言葉は理解できた。強くは言い返せなかった。父と顔を合わせても、うまく言葉を交わせなくなった。辺野古の海が陸地に変えられても、納得できることはないと思う。それをよそ目に政府は工事を進める。どうして言いようのない葛藤を抱えたまま、私たち沖縄の人間は生きていかなきゃいけないのだろう」。
 家庭や地域で大きな葛藤があったなかで、昨年9月の知事選で新基地反対を前面に戦った玉城デニー候補を沖縄県民は選んだのです。2月24日に実施される県民投票は、昨年の沖縄県議会で可決・成立したものです。実施には市・町・村での投票事務費の予算化が必要です。沖縄県の41市町村の内、5市が県民投票への不参加を表明しています。沖縄県議会では全市町村の参加のために、「賛成」・「反対」の2択から、「賛成」・「反対」・「どちらでもない」の3択にすることを5つの市に提案しています。このままでは、市町村が違うだけで「投票できる県民」と「投票できない県民」が生じます。すべての県民が県民投票できることを望まずにはいられません。
 サンゴの生物学が専門の大学の准教授は、サンゴ礁の移植は試みとして実施しているが、移植後の長期生存率は1割〜3割と指摘されています。安倍首相は「あそこのサンゴは移しているから問題ない」と言っていますが、サンゴの多くは死ぬという大きな問題があります。
 土砂の埋め立ての1月末までの土量は、全体の0・3%にすぎません。専門家は、この程度の土量なら原状回復は不可能ではないと強調されています。
 「米軍基地」という、とんでもないもののために沖縄県民は切り裂かれているのです。そして、サンゴ礁の美しいエメラルドグリーンの海がこわされようとしています。
 埋め立てに反対する運動は、米国ホワイトハウスのウェブサイト上で電子署名が20万人以上集まっています。今こそ基地のない所にいる私たちが沖縄県民を支援することが求められていると思います。パソコンやスマホを使用している方は、「沖縄ドローンプロジェクトの辺野古の画像」をご覧ください。

 


 北海道支部 ― 北海道胆振東部地震の災害概要とその後

  日時:2018年9月6日(木)  

  場所:胆振地方中東部を震源

 

 平成30年9月6日3時07分、胆振地方中東部を震源とする深さ37㎞、マグニチュード6・7の内陸型地震が発生した。震源地近くの厚真町では震度7を記録、広範囲な斜面崩壊、住宅倒壊、液状化被害となった。

同じく震源地近くのむかわ町、安平町では住宅倒壊、液状化などの被害があった。震源から離れた、北広島市大曲、札幌市全区において震度5弱から震度6弱となり、大曲、清田区、東区での液

状化被害が顕著だった。北海道全体としては、被害状況はH31年1月16日17時現在、人的被害は死亡者42名、重傷31名、中軽症731名。住家被害は全壊462棟、半壊1570棟、一部損壊1万2600棟であった。

 地震とほぼ同時に北海道電力苫東厚真火力発電所が送電停止となり、北海道全域のブラックアウトが発生した。全体の送電が復旧されるまでに約2日間かかり、北海道の電力供給の脆弱さが露呈される結果となった。

 被害状況の調査と原因考察は9月末から12月上旬に行われ、現在、インターネット上で入手可能な報告書は「ジャパンホームシールド平成30年北海道胆振東部地震被災地調査報告」「平成30年北海道胆振東部地震による札幌市清田区美しが丘・清田における地盤被害(関西学院大学防災・減災・復興学研究所 若松加寿江 興亜開発㈱ 尾上篤生」などがある。液状化の原因としては、上記以外の新聞報道もあわせて報告すると、札幌市美しが丘・清田地区、北広島市大曲地区では宅地造成時に谷を埋める大規模な切土、盛土(火山灰)、札幌市東区の道路陥没では地下鉄東豊線工事でオープンカット工法による埋め戻し土(火山灰)が原因とされている。

 北海道における液状化被害は過去の地震時にもあったが、今回ほどの規模では発生していなかったため、建築設計技術者としては、私を含めて多くの技術者が対応策など初めての経験となった。地震後、北海道建築士事務所協会本部、札幌支部、空知支部会員により、協会主催の札幌市清田区での住宅被害相談会や行政主催のむかわ町、安平町での住宅被害相談支援にあたった。相談にあたり、相談員の予備知識としては、「震災建築物の被災度区分判定規準及び復旧技術指針の被災度区分判定と改修工法例」「応急危険度判定」「罹災証明のための被害認定」を参考とした。

 私は、相談員として「美しが丘・里塚・清田地区」の住民相談にあたったが、テレビや新聞で報道された液状化で大きく傾き、応急危険度判定で「危険」とされた家、罹災証明の被害認定で「全壊」とされた家の方々は、行政の相談窓口に行かれており、多くは、応急危険度判定で「要注意」「調査済」や、罹災証明の被害認定で「半壊」、「半壊に至らない(一部損壊)」と判定された方々だった。

 事務所協会の相談窓口に来られた住民の方々は、ご自宅の損傷部分の写真などを持ってこられて、基礎のひび割れ、内部石こうボードのひび割れについて

技術者として、ひび割れの発生原因や今後持続して住まい続けるため、「なんともないように見えても地震後のダメージは少なからずあるので、そのダメージがどの程度かの調査や判断が重要」と話した。大きな被害を受けた住宅は、美しが丘・清田地区で広範囲に広がっているのではなく、町内会の一角、道路の片側など非常に部分的なエリアで発生している。1月現在もそういった家はそのままの状態となって現地にある(写真)。大きな被害のあったエリアに隣接していたところで比較的住宅の傾きが少なかったところや傾きが左右で20㎝程度もあり、生活に大変と思われる家も家の前は除雪され、不自由ながらも生活をされている家もあり、迅速な復旧が望まれる。

(北海道支部・中島正晴)


京都支部 ― 新建叢書第2弾『すまい・まちづくりの

        明日を拓く ― 京都の実践』出版記念会

  日時:2018年12月1日(土)  

  場所:職員会館かもがわ

 

 窓から眺める紅葉が美しい晩秋、12月1日(土)。「職員会館かもがわ」を会場に『すまい・まちづくりの明日を拓く 京のまちづくり ― 京都の実践』出版記念会が開催されました。

 

出版記念会は2部構成で、出席者数は第1部44名、第2部33名でした。

 発行までの行程をたどると、2017年の夏に本の構成案がまとまり、各執筆者のみなさまへの原稿依頼を経て、2018年の年始に原稿締切り。私は冬休みの宿題に追われる学生のように原稿を書いていました。その後、校正を重ねて9月に発行、晴れて出版記念会の日を迎えられたことは感慨深いものでした。

 第1部では、まちづくりの実践記録に登場されたご本人が生の声を聞かせて下さいました。本書のなかで紹介された共同建替えや地域密着型施設の事業主として登場された方々です。まるで物語の主人公が本から飛び出してこられたかのように、事業に至るまでの経緯や後日談など本文には載っていない悲喜こもごものお話も伺うことができた貴重な時間でした。また、読者代表として、大阪支部の大槻博司さん、建まち編集委員長の鎌田一夫さん、広原盛明先生がご登壇。素晴らしい読み手のみなさまが的確に本の内容を分析し、評価して下さるのをうかがったことで、私のなかでぼんやりしていた本の輪郭が明らかになってきたように思います。

 第2部の懇親会でも素敵な企画がありました。本書の中で「おうちでコンサート」をご紹介くださった平家さんが、川本さんとお二人でチェロの演奏をご披露。出版記念にふさわしい文化的な雰囲気のなかで、参加されたみなさまからのお話をうかがうことができ、実りある交流の一日になりました。

 広原先生によると、「この本は、すまい・まちづくりに必要な鳥の目、虫の目の二つの視点からの貴重な記録。京都におけるまちづくりの実践のメルクマールだ」とご評価いただきました(メルクマール:到達点という意味でお話されたと理解しました)。

 まだ、お手元にない方はぜひご購入の上ご一読ください。私は今年の冬休みの楽しみとして、ゆっくり再読したいと思います。

(京都支部・富永斉美)


 神奈川支部 ― 実践報告会

  日時:2018年12月9日(日)  

  場所:山本厚生さん・ヒカルさんのお宅

 

 2018年12月9日に新建神奈川支部実践報告会を山本厚生さん・ヒカルさんのお宅で行いました。参加者は神奈川支部会員10名、奈良支部から1名、近所の建築士の方1名、野口さんの息子さんの総勢13名でした。

 小田急線渋沢駅からバスに乗ると、周りは畑が広がる田園風景に包まれ、進行方向正面に山本さん宅が見えてきました。真ん前のバス停で降りると、山本さん夫妻が温かく迎えてくれました。早速、厚生さんの案内で、じっくりお宅拝見をしました。新建材、金物を一切使わない杉材のお宅は、ご夫妻の人柄と生きざまがそのまま形になったような素朴で真直ぐなものでした。

 ペレットストーブが温かく、実践報告会が和やかに始まりました。永井は、自邸の杉無垢材バルコニー手摺が腐り、改修した体験談と地域活動の取り組みを報告しました。門谷さんは足助町から美濃市、白川郷、高山市と建築探訪した伝統建築を写真で紹介しました。門谷さんの伝統木造建築好きは筋金入りです。山本厚生さんは「里山盆地の終の住み家で、私の実践」と題し、生き方暮らし方と住まいの特徴を話され、一同は神妙に聞き入りました。とても深い話なので、厚生さんには改めて講

義してもらいたいです。

 酒井さんは、現代的なものは使いたくないという建て主の希望を叶えるべく、基本プランの変遷を具体的に報告しました。住宅の外との関係を苦心されていました。

 伊藤さんは建設組合で労働安全対策部長という立場で、アスベスト裁判での闘いを説明しました。事業主である一人親方の職人も補償を受けられるように頑張っています。

 島貫さんは妹さんとのモスクワとサンクトペテルスブルグへの旅行を、写真で紹介しました。建築と絵画より料理とお酒の写真が多かったかな。

 椎木さんは、象地域設計が設計した保育園のデッキを関係者みんなで塗装した経験を報告しました。椎木さんは地域のキーパーソンですね。

 遠路はるばる奈良から駆けつけた奈良支部の渡邊さんは、自宅兼事務所として長屋を改修リフォームした経験と長屋生活の紹介、もう一つは仕事で、重要文化財のお寺を解体調査した報告で大変興味深いものでした。渡邊さんも生きざまが住まいに表れていますね。

 報告会の後は、ヒカルさんの手作り芋の煮物とみなが持ち寄った一品がテーブルに並び、楽しい交流会となりました。

 最後に集合写真を撮りましたが、あまりの暗さにフラッシュが届かない。大西さんと渡邊さんを残して、最終バスに乗り込み、ほろ酔い気分で帰りました。厚生さん、ヒカルさん、楽しい時間と神奈川支部に来ていただいたことに感謝します。

(神奈川支部・永井幸)


 北海道支部 ― 新建2018仕事を語る会

  日時:2018年12月12日(水)  

  場所:札幌エルプラザ研修室

  参加:12名

 

 2018年12月12日札幌エルプラザ研修室で毎年恒例の「新建2018仕事を語る会」を開催しました.。2008年以降支部の忘年会を兼ねて行っています。参加者は会員12名でした。

 最初の報告は、川瀬かおり会員より「今年行った住宅リォーム」の紹介です。内装改修と合わせ、床、外壁など老朽化している部位の施工を詳細に検討し、構造補強を行った事例です。白田智樹会員は今年設計工事監理を行った新築住宅で、地盤が悪いため採用したコロンブス工法と言われる基礎工事と、新築住宅では必ず行っている地中熱利用による換気システムや、排熱を利用した融雪システムついて紹介。石原隆行会員は、昨年北海道を直撃した台風による倒木被害について、倒木による危険

度判定システムを独自にまとめ対応した事例について紹介。

 後半では今後の支部企画一つとして、寒冷積雪地にふさわしい新築時における「住宅配置計画」を検討する研究会の提案がありました。中島正晴会員は、昨年の胆振東部地震後、建築士事務所協会会員として関わった建築相談活動について紹介しました。木造住宅の被災度区分判定の考え方、補修・補強の要否判定方法、特に液状化被害もあったことから、新築時における液状化判定の可能性を探る地盤調査の方法について触れています。私からは、昨年9月、米国ボストンで開催された北米パッシブハウス会議の際に、MIT、ハーバード大学で見学したアアルト、コルビジュエの建築、ボストンから1時間あまりに建つF・Lライトが設計したジマーマン邸について紹介しました。

 終了後、全員が参加して忘年会を行いました。各人の報告時間が短かったこともあり、2019年の支部活動では、それぞれの報告を支部企画のテーマとして、会員外のみなさんにも広く案内し開催する提案もありました。

(北海道支部・大橋周二)


 福岡支部 ― 伝統的構法の設計法(標準設計法案)講習会

  日時:2018年11月7,28日 12月12日  

  場所:アミカス 視聴覚室

 

 会員限定で、表題の講習会が昨年の11月7日・28日・12月12日の3回、(株)川﨑構造設計の川﨑薫さんの講義が行われました。出席者は第1回目が16名・第2回目が16名・第3回目が14名、会員限定にしては数多くの出席者で、伝統的構法への関心の高さが感じられました。

 伝統的構法の設計法(標準設計法案)とは、今の木造の基準は金物の使用を前提としていて、金物を使用しない伝統構法の建物を設計する場合、大変難しい構造計算が必要となります。また、その計算ができる技術者の数は非常に少ないのが現状です。そこで、2004年に限界耐力計算法による「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」が学芸出版社から出版されました。ただし、これは基準書ではないとのことで、申請を認めない確認機関があったり、適判送りとなるため建築センターに回され

ることもあります(福岡県も同様)。そのため、最近では伝統構法の建物が建たない状況です(福岡県での申請は1件もない)。

 そこで、「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会(委員長:鈴木祥之先生)」にて3年間をかけて、実大実験も踏まえた上で、適判に行くことなく伝統建物の構造設計ができる設計案が昨年3月20日で完成し、現在国交省と交渉中です(2014年の川﨑さんの文章より抜粋)。

 講習会1回目は、標準設計法案がどういう構成になっているか、どういう考え方にもとづいているかを、まずは各項目・対象建物・架構・層間変形角・標準設計法の適用範囲・設計法の内容・標準設計法は柱脚の仕様で3種に分かれる・柱脚の滑りについて・石場建て柱脚の移動を考慮した設計・設計法の大枠・使用材料・耐震性能評価・構造要素のせん断耐力の提示:Qu要素・全面壁のせん断耐力・小壁のせん断耐力(1)(2)・ほぞ(1)(2)(3)・層のせん断耐力・他の水平耐力の低減(1)(2)・建築物の作用せん断力(必要せん断力)の算定:Q(1)などについて概略の説明です。

2回目・3回目は、各項目の解説と表やグラフ(事前に構造計算をすませて表やグラフにしてある)を使っての演習など、途中に質問などを交えながら、各回の2時間があっという間で、毎回少し時間オーバー。それでも、概要解説の冊子130ページの内63ページしか進まず。それで、追加の講習会をあと2回行う予定です。2回で終わるかな?

 残念ながら、この設計法案がいますぐに、確認申請に出せるものではありません。しかし、千数百年のいにしえから、数十年毎にどこかで起きる巨大地震や、毎年のように襲い来る台風に磨かれた、日本の木構造の技術を未来につないで行くために必要な設計法だと考えます。

 伝統的構法の建物を建てるということは、それに携わる職人さんや、その職人さんの使う道具を作る技術や、それを維持する技術、また、建物の資材である木材・竹・土・瓦等々の生産技術およびそれらの流通システムが必要です。だから、伝統的構法の建物を建てるということは、膨大な技術、システムの伝承にもなるはずです。どんな構造の住宅であれ、住む人が望むのであれば、自由に建てられるようになるとよいのですが……。2012年12月に日田市で開催された「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」主催の平成24年度(2012年)全国6カ所キャラバンツアー講演会「知恵と工夫の設計 - 伝統構法に学ぶ」の時のお話では、来年の3月には国交省に提出するので、近いうちに使えることになりそうだ、という雰囲気だったのですが、どうも国交省で「店晒し」になっている、そんな感じです。もし、この設計法が、基準法になるか、告示にでもなれば、今の壁量計算よりは少し?面倒ですが、誰でもが普通に伝統構法の建物を選択できるようになり、住宅の構造設計の選択肢が広がるのですが……。

(福岡支部・伊藤捷治)