建築基準法改正による混乱の解決を求める声明

耐震偽装問題を契機に、建築基準法が改正され、今年6月 20日に施行されました。偽装の再発を防止し、建物の安全性を確保するために、建築確認の厳密化・厳格化と構造計算適合性判定制度の新設等が改正の主な内容です。ころが、施行されたとたん、建築界に大混乱が巻き起こりました。建築確認業務の予想を超える停滞によって、設計者だけでなく建築主、施工者にとっても様々な不都合が生じ、国土交通省もこの混乱の事実を認めざるを得ない事態になっています。

これは、耐震偽装という重大な事件に対し、場当たり的な対応に終始し、上からの権力的な締め付けで事態を収拾することのみに腐心し、偽装を生んだ根本的な問題を放置したことによるものだと考えます。 私たちは今回の改正の問題点を以下のように指摘するとともに、政府・国土交通省に対し、改正による混乱と、それを招いた改正の問題点を速やかに解決されることを求めます。

1. 確認申請図書の過剰な詳細化・厳密化は設計時間を圧迫する

建築基準法第6条に基づく施行規則第1条の3によって、膨大な量の設計図書と確認用の書き込み、同じく膨大な量の使用材料の認定書等が要求されています。そのためいたずらに確認申 請図書作成のための時間と労力が増え、限られた設計期間内で本来の設計にかける時間を圧迫することにつながると考えられます。限られた時間のなかで、最高の建築づくりを目指している大多数の設計者、建築主にとって、詳細・厳密な確認申請書づくりのみが優先される建築行政のあり方は、はなはだ疑問であるといわざるを得ません。

2. 確認審査の厳格化、“ミスがあれば再提出”は一般設計者に負担

法18条の3に基づく「指針」により、確認審査の厳格化がうたわれ、申請書類の軽微な間違い等以外は訂正ができないことになりました。膨大な確認申請書類の間にいっさい不整合や食い違い等がないということは設計の実務者にとっては考えられないことです。不整合や食い違いがあれば、図面修正は許されず、追加説明書が要求されます。量産住宅や建売住宅など同一の設計の反復が多い場合は問題が少ないとしても、一品生産で独創性が追求される一般の建築設計においては負担過重になります。書類上の整合性のみが優先され、設計者は当然それに振り回され、審査する側も大変な労力と負担を強いられることは間違いありません。
改正ごとに複雑さを増してきた建築基準法のもと、日常の設計業務のなかで、法の解釈に戸惑うことは日常茶飯事です。これまで、設計者と審査する側とのやり取りを通して納得できる解釈を見つけてきました。しかし、今回の改正によって、審査する側が一方的に解釈し、設計内容に干渉する事態も懸念されています。

3. 施工段階での部分的変更は建築の常識、再提出強要は非常識

現場で一品生産するという特徴を持つ建築行為には、よりよいものをつくるための、あるいは予期せぬ事態に対応した施工段階での変更はつきものです。しかし、今回の改正で、軽微な変更以外は計画変更確認が厳しく求められることになりました。それによって、変更手続きにまた多くの時間と労力を強いられることになり、その間、工事を中断することになります。建築行為がスムーズに進まず、完成までのスケジュールに支障をきたす事態がひんぱんに起こることが予想されます 。
またこのため、改正の趣旨に反して、変更に関するごまかしや隠蔽を引き起こす要因になるのではないかという懸念の声も出されています。

4. 設計段階と施工段階の業務の違いを無視した認定書添付などは無茶

採用する材料を事前に決めなさいと言わんばかりの認定書の添付 、施工図で検討する納まりに関する書き込みの強要など、現場(施工)段階で検討し、決定すべき内容を確認申請段階で求められることになりました。これらは、設計段階と施工段階での業務内容の違いを理解していないと思われる規定です。これらの規定は直ちに改善すべきです。

5. 構造計算適合性判定制度も準備不足

この制度による第3者チェックについては、実務的にまだよくわからない部分がありますが、構造計算の内容のチェックだけでなく構造設計についても適・不適を判定し一方的に強制されることになるとすれば問題です。構造の考え方を設計意図と丁寧に照合しながら構造的な問題点を洗い出すような審査のあり方が求められます。
また、構造計算書の作成者と判定員の両者が納得できる計算書の作り方を周知させてから施行すべきであったと思われます。構造計算ソフトについても、融通性のないマニュアル化によって構造設計の創造性を阻害しないことが重要です。施行3ヶ月を経てなお大臣認定ソフトが出来ていないのは、準備不足といわざるを得ません。

6. 法律のみで縛るのは行政の「アリバイづくり(=責任逃れ)」に過ぎない

今回の改正は設計者「性悪説」に立ったものだと言われています。犯罪的な偽装事件の再発を防ぐには、法律による縛りだけでは不十分です。前述したように、今回の法改正のような規則で事細かに縛るやり方は、確認申請、審査の手続きを通じた建築行政のアリバイづくり(責任のがれ)であり、むしろ大多数の設計者の創造性や自由を奪いかねません。もしそうなれば、建築やまちの豊かな発展を阻害することにつながります。
設計者は法に縛られずとも、建築主および住む人・使う人の利益を尊重し、生活環境の改善・向上、建築やまちの豊かな発展をめざして努力すべきであり、このことは設計者養成教育および職能団体を通しての継続的研鑚により担保すべきであり、それは十分可能なことです。

さいごに
以上具体的に指摘したことは今起きている膨大な問題の一部に過ぎません。あまりにも問題があるため、確認申請がスムーズに進まず、建築計画に支障を来している国民が多数いるのが現状です。私たち建築設計者・施工者が問題点を指摘するのは、決して 自分たちが「楽をする」するためではありません。現状のままでは建築を必要としている国民が不利益をこうむっています。さらに、建築活動が停滞することは日本経済全体にも悪影響を与えています。これらの点からも政府・国交省の早急な対応が必要と考えます。

なお、この声明を幹事会で採択した後の9月25日に、国交省建築指導課長名で「……法律等の円滑な運用について(技術的助言)」が出された。この助言では、本声明で指摘した問題点が若干修正されたかに見える箇所があるが、基本的な問題は解消されていないと判断し発表することとした。

2007年9月16日
新建築家技術者集団全国幹事会