2015年9月号(No.444)

特集:子どもの居場処を護る

 

6人に1人の子どもが貧困状態にあるといわれる。さらに、子どもの貧困は経済状態だけではない。子ども自身が抱える心や体の障害、不安定な家庭、無縁化した地域社会から子どもを護り、居場処をつくるにはどうすればいいのか。そこで求められる建築行為と建築空間は何か。現場での課題と新た取り組みを特集する。

 

・さまざまな課題をもつ子どもと家族の現在             大谷 由紀子
・子どもの「居場所」としての一時保護所を考える          茂木 健司
・《座談会》一時保護所にみる子どもの居場所の実際       茂木 健司+和田 一郎+鈴木 勲+阪東 美智子
・社会的養護のもとにある子どもの「居場所・活き場所」       早川 悟司
・「母子」の安心を護る居場所を構築するために           宮本 節子
・公的住宅政策の貧困と子どもの居住不安定の連鎖を断ち切るために  林 治
・子どもたちの発達を支える「福祉型児童発達支援センター」     佐々木 宣子
・病児病後児と保育をつなげる保育室                井﨑 和夫+柴田 千穂子


  ■  新建のひろば

・学び語りあおう「建築とまちづくり」in沖縄
・仕事を語る会2015 in館山
・第1回 仕事を語る会
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2015年7月1日~7月31日)

 ■  連載

《ハンサム・ウーマン・アーキテクト2》女性建築家のパイオニア            中島 明子
《設計者からみた子どもたちの豊かな空間づくり19》子どもと一緒に工事を楽しもう   大塚 謙太郎
《創宇社建築会の時代8》「帝都復興」と創宇社建築会の飛躍              佐藤 美弥
《20世紀の建築空間遺産1》ウィーンの郵便貯金局                  小林 良雄


主張 『被災者それぞれに、ふさわしい住宅を』

住まいの研究所/新建全国常任幹事 鎌田一夫

 東日本大震災から4年半の今日、防潮堤の建設、防災集団移転や区画整理の基盤整備の進捗が報じられていますが、被災者の生活や住宅の再建は大変厳しい状況にあるのが現実です。宮城県では5千7百世帯が、いまだに住宅再建が決まっていません。
 被災からの経緯を追いながら、住宅再建にかかる問題を考えていきます。
 地震や津波で住宅が損壊した後に、自宅避難や自宅仮住まいで何とか再建した人も少なくありません。「機転の効く孫が水や食べ物を見つけてきてくれたので、何とかやってこれた」と石巻で自宅避難した老婦人は語ります。自宅に居られたのは幸運だったように思えますが、支援の対象と看做されず、当然の援助が受けられなかった実態が明らかになり、新たな課題となっています。

 

 自宅での再建が難しい人は、仮設住宅に住んで再建をはかりました。ピーク時には岩手県1万8千戸、宮城県4万9千戸の仮設住宅が供給されています。4年後の今年春の仮設住宅集計では、岩手県9千戸、宮城県2万4千戸となっており、仮設居住者のほぼ半数が住宅の再建(取得)ができたということになります。
 とはいえ、この間の住宅再建が被災者にとって納得できるものだったか、しっかり評価する必要があります。たとえば、都市部の災害公営住宅では、高額の家賃や収入による入居制限が被災者に不安を与えています。従来の公営住宅とは違った政策スキームで災害住宅を考えるべきという意見を多く聞きます。
 次に、いまだに仮設居住を余儀なくされている残りの半数の状況です。この中には復興事業の宅地整備や復興公営住宅の入居を待つ人がおり、復興事業の遅れが原因です。また、土地はあっても再建資金が用意できない人もいます。すべてを失った津波被災者にとって、生活支援法での住宅再建加算2百万円はあまりにも少額です。
 そして、何といっても深刻なのは前述の住宅再建の目処が立たない人たちです。多くは、病気や障害で自立が困難な人、高齢者、未就労者など社会的弱者であり、問題が災害でさらに増幅されているのです。また、住民税未納や罹災証明不足などで、災害公営住宅入居資格なしとされる人たちも行き場を失っています。
 今度の震災では主力となった借り上げ仮設住宅(みなし仮設)も、矛盾を抱えたままです。建設仮設住宅と違い継続居住の希望が強いが、市場家賃は払えないという状況です。家賃負担なしを悪用した利用(モラルハザード)も指摘されています。
 借り上げ仮設は今後も都市部の災害では重要な役割を果たします。住宅再建までの仮住まい層と賃貸住宅居住層を分けて、後者には住宅手当(補助)を用意して通常賃貸契約を促すといった施策が必要です。
 被害が甚大だった石巻市では再建未定者も多く、実態調査を行うとともに個々の被災者に沿った施策が検討されていますが、関係者は国のバックアップなしには難しいと言います。日本は巨大な生産力、経済力を持った国で、現に復興関連予算は総額32兆円にもおよびます。にもかかわらず、社会的な弱者を救済できないでいる現実を国は直視すべきです。硬直した一律の施策に固執する限り被災者を救えません。
 生活や住宅の再建の目処が立たないということでは、福島の原発事故被災地はより過酷な状況です。国は2017年3月に、避難指示の解除と賠償の打ち切りを行おうとしています。これは被災者に帰還か転出かの二者択一を迫る乱暴な施策です。
 2017年は仮設住宅の提供期限でもあります。津波被災地にとっても原発事故被災地にとっても、被災者それぞれにふさわしい住宅の再建のために、これからの1年半の取り組みが大変重要になってきました。