構造設計偽造問題についての見解

1 事件の背景と問題の所在
今回の構造設計偽造事件は、職能人としての倫理を完全に欠落した犯罪行為であり、同時に、発注者・コンサルタント・施工者ぐるみの組織的犯罪の色合いを強めている。最近のマンションなどの建設については、健全な市場性の追求の限度を超えて、工事費は超低価格競争にさらされている。建設工事の極端な減少傾向のなか、ディベロッパーの中には、設計者にも施工者にも無理な価格や条件で仕事を強い、応じなければ「代替者はいくらでもいる」と恫喝するような状況が増加していると指摘されている。
安全性より安上がりを優先することは、多くの分野で見られる社会的風潮となっている。国民の生命・安全・健康を守ることに責任を持ち、その責任を果たすべく日夜努力している建築関係者にとって、これは看過することのできない状況である。
行政は、それに対して社会的規制をする役割を果たすべきであるのに、建築確認の業務を、安易に民間参入できるようにした。大手ゼネコンや住宅メーカーが出資している民間検査機関が、公共性・中立性をどこまで貫けるか、当初から疑問視されていたが、その仕組みの欠陥が明らかになった。
民間検査機関は、競争の中で、確認業務をいかに早く行うかが主要な目的になっている。地方自治体では、建築主事の数は減少しており、チェック能力は低下して、住民と建築主との紛争も激化している。今年6月には「民間業者の建築確認は行政の代行であって、その責任は行政にある」という趣旨の最高裁の判決が下されている。しかし、民間機関の確認業務に自治体が責任を負えるような実態はない。
発注者、施工者、設計者、およびその下請の構造設計者、建築確認機関、建築主事、自治体、国のそれぞれの行為の実態解明とその責任は、早急に余すところなく明らかにされるべきである。

2 被害住民の救済
当面、何より大事なことは、マンション居住者の当面の不安に応える対策と救済策を併行して早急に実行することである。
第一に、建築確認の責任が行政にある以上、政府および自治体は、被害住民の移転用居住先として、緊急に公営住宅や仮設住居などの提供を措置することである。また売り主から住民に購入価格の返還を行わせるために(偽装倒産などを防ぐためにも)、政府は、後日の求償を前提に、とりあえず各金融機関に融資させるか公的資金も配慮すべきである。
第二に、我が家は大丈夫かという住民の不安に応える構造の安全性の点検をすすめることである。住環境に責任をもつ建築とまちづくりの専門家たる私たちは、積極的に住民の相談に応え協力すべきである。なお、事態に便乗して住民の不安をあおり、根拠なしにマンションなどの全面建て替えをはかる動きには、警戒が必要である。

3 再発防止のための方策
この問題を期に、建築行為や職能にかかわるさまざまな問題提起や改革の意見が論じられているが、現時点で以下3項の見解を表明する。

(a) 建築とまちづくりに携わる者の倫理に対する自覚的認識を高め、発注者の圧力に対するため、建築関係諸団体共通の「建築士の倫理綱領」作成の会議を開くことを提案する。
この会議は公開で行われ、十分検討の上成文化された「倫理綱領」を各団体で承認し、その構成員に徹底する。各団体は、違反した構成員にたいして、除名を含む処罰を行い公表する。この「倫理綱領」は建築教育の中でも重視される。

(b) 確認業務・検査体制の抜本的改善を行う。
資格のある建築士の設計内容をさらに確認・検査するのは、万一のミスも見逃さず、財産の保全・建築使用者の安全確保など社会資産としての品質、良好な市街地形成、都市景観形成を含む、総合的な観点からチェックするためである。その目的に沿って、国や自治体の責任あるチェックを強化する仕組みの見直しが必要である。確認申請にあたっては、構造設計者としての職能を位置付け、その名前を明記すべきである。

(c) 住民保護の関連法規の見直し、整備、制定の検討をすすめる。
今回の事件を通して建築生産システムの問題も明らかになった。「品確法」では瑕疵の立証が「消費者」側に課せられているため、マンションという多数の区分所有者による共有物件では取り組みが困難であり、建築主である分譲業者の責任が明確に出来ないことが多い。販売(分譲)目的の商品であるマンションについて、不動産であることを理由に適用されていない「製造物責任法(PL法)」の改正がどうしても必要である。その他施工責任を明確にする、など最終取得者・住民の保護という観点を基本にした法整備が重要である。

2005年12月20日
新建築家技術者集団常任幹事会