
居住形態の拡散と今日の家族
家族の構成がどんどん変化している。単身世帯が増え、高齢者率は世界一の高水準である。貧困や雇用の不安定から自立できずに親と同居する若者も多い。同時に、家族の役割も変化している。家族のつながりでは暮らしを支えられず、新たな共生を探る人々がいる。従来の枠を離れて拡散するさまざまな居住形態のレビューから、家族のあり方や家族と地域との関係を探り、それぞれにふさわしい空間の構想に資したい。
<居住の困難を超えて>
・独居老人、高齢者の住まい
──まち中で在宅居住を続ける可能性は 吉田 広子
・ホームレス支援における住まいと施設 大崎 元
<共生する住まい>
・グループリビングの暮らし 井上 文
・持続するコーポラティブハウスと家族
“あるじゅ”での大家と店子の関係を越えた共生ものがたり 江国 智洋
・コレクティブハウジングのさらなる進化型 宮前 眞理子
<さまざまな居場所>
・四世代が住まう我が家の暮らし方 西 一生
・こども食堂は、みんなの居場所、肩の荷を少し降ろせる場所でありたい 近藤 博子
<インタビュー>
・今日の家族をどう見るか
──解く鍵は地域の中に 森 まゆみ
■新建のひろば
・東京災対連など主催「関東大震災メモリアルシンポジウム」の報告
・西日本ブロック全国幹事会の報告
・埼玉・群馬支部合同──川越見学会の報告
・住まい連他三団体共催──「住宅建設・供給の実態と住宅市場政策を考える」研究・交流集会の報告
・京都支部──「湖北を知る旅」の報告
・東日本ブロック全国幹事会の報告
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2016年9月21日~10月20日)
■連載
《建築と街の環境をめぐる四方山話3》
住宅地で検証したパッシブ暑熱対策 成田 健一
《創宇社建築会の時代20》官吏減俸反対運動と創宇社同人 佐藤 美弥
《新日本再生紀行3》奈良県 十津川村 大字谷瀬(上) 三宅 毅
《Work&Work2》なな彩コーポ 伴 年晶
《20世紀の建築空間遺産15》シーランチ・コンドミニアム 小林 良雄
主張『混迷する時代、多様な主体と連携する建築家技術者に』
住まい・まちづくりデザインワークス/全国常任幹事 岡田昭人
新建30回大会では「建築まちづくり運動が取り組む課題」が提起・決定されました。これを進めるための建築まちづくりの実践を、これからの建築家技術者という視点から考えてみます。
混迷している現在、私たちはどのようにして市民の要望に応えて専門家としての役割を担えるのしょうか。与えられた条件の中で最大限がんばる技術者から、市民と課題やビジョンを共有し、実現に向けたプロセスを計画していくための技術、言葉や想いを空間化し実現するための技術、完成してからさらに継続、連鎖させていくための技術が求められています。もちろん個人や事業所だけでできることではなく、地域の多様な主体となる組織や専門家との連携によって実現できるものです。
近年の建築家技術者の業務が多様化し、空き家のリノベーションなど建てることから活用することへ、環境やエネルギーの課題を専門的技術と知識で解いていくこと、建築設計と不動産業、あるいは店舗経営を一体的に業としていくこと、企画立案から建築設計、完成後の管理運営計画、単体の建築がまちに展開していくプロセスをデザインするなどプロジェクトを総合的に担っていく仕事など、新しい動きが次々と見られます。東京建築士会は2015年から「これからの建築士賞」を設け、建築士の新たな活動を支援しようとしています。これらの動きは、職能として新しい分野を切り開いていくのか、建築やまちづくりが専門家の手から、広く市民が関わることになっていくのかは、いまだ過渡期でどのように変化していくのかはわかりません。
技術者個人の努力、地域の取り組みだけでは想いを実現することは困難なことがあります。その原因が国や自治体の政策や制度に寄ることもありそうです。施策はそれぞれの分野でバラバラに出されますが、暮らしの改善を計画する時には、それらを統合して考えないといけません。日常の業務ではどうしても目前の課題解決に猛進して、政策の内容やそのねらいにまで思いが到らないことがあります。私自身、胸に手を当て、本当に社会とのつながりの中で考えているのだろうかと自問します。経験主義や小手先の技術・手法で乗り切ろうとしていないか、と。社会で起きているさまざまな活動や政策や制度にもっと敏感にならないといけないと思います。研究集会や会議の場だけではなく、仲間と学習し議論する機会をつくり、獲得した知識や情報から、提案し実践していくこと。またそれらを集約し理論化、政策化していくことで、専門家集団としての役割も果たせます。
私たちはこれまで市民や弁護士などの専門家と協働して日照問題や歴史的環境を守る活動やコーポラティブハウス、共同建替え事業など、支え合って暮らす住まいづくりを先駆的に行うなど、「協働と連携のまちづくり」の経験を積み重ねてきました。地域の将来ビジョンを共有し、その空間像を具体的に提示することや難しい課題や要望を整理し、住まいのかたちにしていくことなどは、私たちの得意とするところです。創造的な専門家の役割・職能が新たな地域の価値を生み出すことにつながる仕事は、この困難な時代にあっても意味があることです。
私は、現実をリアルに認識し、これから続く長い下り坂を、寛容と包摂の地域社会をつくっていくことに希望をもって、もがきながらも取り組み続ける覚悟をしています。手さぐりの建築まちづくりの模索はまだこれからも続くでしょう。実践を重ね、オルタナティブを奔流へと転換する努力は怠らないようにしていきます。