2002年1〜12月号(建まちバックナンバー)

発行月 通算  特集
12月号 No.305 設計料を払うのは誰か――職能と報酬の社会形態
11月号 No.304 「木の国日本」その6 木に関わる職人事情
10月号 No.303 「都市再生」を斬る―2003年からの深刻
9月号 No.302 木の国日本その5 木材利用――伝統の継承と新技術の展開
8月号 No.301 秋田に聞こえる明日の日本
 7月号  No.300  木の国日本その4 木の国・木の文化
6月号 No.299 地方中核都市広島の行方
5月号 No.298 木の国日本その3  木の構造・その可能性
4月号 No.297 まちづくりと社会の科学
3月号 No.296 木の国日本その2 木造住宅の流通システム再構築について考える
2月号 No.295 いま住宅は──家族像が変わっている
1月号 No.294 木の国日本その1 山を生かし続ける

2002年月12月号(No.305)
■特集■
設計料を払うのは誰か――職能と報酬の社会形態

 建築家は生活の糧を設計料という形で施主(建て主)から受け取っている。理念的な「フリーアーキテクト」はまずは施主のために、そして社会的にも資する空間をつくりあげようと実践する。施主の側からすれば、自己資産となる建築物への投資として設計料を支払う。
ところで、人間と同じく建築が社会的なものでしかあり得ないとするならば、あらゆる建築は社会の一構成要素となり、社会的な位置づけの下に置かれる。いかなるビルディングタイプであろうとも、建築は単独で自律的に機能するのではなく、社会との有機的な応答の中で存在する。まちなみや景観が独り建築単体(やそのオーナー)のものではなく、社会の共有財産であるという妥当な観点からすれば、それは容易に理解できる。あるいは、各種の人間の日常生活に必要な施設・空間は、「人々の日常の生活=社会的な営為」のためのものとして存在する。つまるところ建築は、すべからく社会資本なのである。
 だとすれば、その施主(建築主体)の属性がどうあろうと、その建物が公共建築であれ民間建築であれ、建築を社会的な存在として社会的に担保するものと考えてもおかしくはない。
しかし現在、そうした建築の社会性は、設計契約という行為には反映されていないように見える。設計料は純粋に施主が支払うものとされ、社会的な担保はほとんどない(建築工事費や住宅取得費については、充分とは言わないまでも住宅金融公庫はじめいくつかの政策的保証がある)。
 建築の社会性を認定したとするなら、その生産上の必要経費である設計料についての社会的保証をどう考えるべきなのか。社会資本である建築に対し、民間建築であるからと設計料まで民間の甲斐性にまかせてしまってよいのか。設計入札が横行する中、設計料という形で現れてくる建築職能は社会にどう評定されているのか。こうした問題を考えてみたい。
(特集担当編集委員/林工)

良好な建築を創造・維持していくために広範な職能論議を 大宇根弘司+永橋爲成
+丸谷博男
建築職能の社会性と建築鑑定料 小林岩雄
まちを改善するコモンの仕事とその報酬 萩原正道+三浦史郎
設計料は職能への理解を求める活動から 高本明生+大力好英
密集市街地の再生と建築家 黒崎羊二
■連載
《忙中閑》 寒風緋桜 永井 和子
《NPOを訪ねる9》とやまいいすまいネット  
《新伝統木造セミナー7》軸力系軸組の架構計画その2 増田 一眞
《主張》住宅改善は地域づくり  加瀬澤文芳
《家具とインテリアの近代16》アールデコ展と梶田恵 中村 圭介
《風景を見つめる手9》街2 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建73》チャイルドハウスめぐみ 貝磯博子
面白かった本・気になる本
『あぶらむ物語――人生のよき旅人たちの話』大郷博著(きんのくわがた社)
『マンション管理士が教えるだまされない鉄則100』千代崎一夫著(講談社)

2002年月11月号(No.304)
■年間特集■

「木の国日本」その6 木に関わる職人事情

 建築に利用する材木を生産するとき、生産過程における各ステージにはさまざまな職人がいる。森林の段階では木こり(杣)、製材所では森林から切り出されてきた原木を目利きし製材する職人、市場を経て工務店、大工さんという流れのなかで、木にまつわる職人の技が発揮される。また、集成材やログハウスなどの出現により、製材技術の設備や職人の技が多様化される昨今でもある。
 このような材木の生産過程のなか、職人の技術がどのように変化しつつあるのか、職人事情がどのようになってきているのか、さらに木材供給やや木にまつわる職人の変化によって、左官や建具・瓦等の職人の技術や職能がどのように変化してきているのか。そうした情況をレポートする。
(担当編集委員/進士善啓)

生業が農村風景を作る 小林直人
日本一の吉野林業は産直で生き残れるか 南次郎
山と製材所 根垣頼信
大工技術の継承は本物の家づくりから 中峰一好
住み手に伝わる自然の木の力 中川克己+田村宏明
手を使っていい仕事をする、それが職人 村尾清彦+田村宏明
木製建具はなくなることはない 木田幸伸
左官は臨機応変、毎日が面白み 西川善次
人々の好みに添う瓦 光本大助
■連載
《忙中閑》 やぶつばき 永井 和子
《NPOを訪ねる8》せたがや街並み保存再生の会  
《新伝統木造セミナー6》軸力系軸組の架構計画 増田 一眞
《主張》 全国各支部で建築諸団体との積極的な交流を 大橋周二
《家具とインテリアの近代15》形而工房と豊口克平 中村 圭介
《風景を見つめる手8》街 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建72》村山造酢本社工場  川下晃正+細見健司

2002年月10月号(No.303)
■特集■
「都市再生」を斬る―2003年からの深刻

 小泉政府の「都市再生」は、都市再生特別措置法の制定と都市再開発法の改正を終え、急速に具体化している。規制緩和を軸に都市を短期的な経済対策の道具に利用しようとするこれらの政策は、過去の膨張経済政策の失敗から何も学んでいない。緩和された再生特別地区での開発は促進されようが、現在の都市が抱える問題の解決にはつながらないばかりか、悪影響を与えるであろう。
 再生特区の開発が不動産の流動化を促進し、地価を上昇させて不良債権の解消に利するという戦略も現実性はない。結局は特別地区の開発に関わった一部の大企業がうるおうだけの政策に過ぎない。
 すでに、「都市再生」を先取りする形で東京都心のビッグプロジェクトが進行中であり、それらが完成する二〇〇三年には大量のオフィス床が供給され、新たな集中が懸念されると同時に、中小オフィスの空き家発生の問題が指摘されている。また、「都市再生」は、再生特区の指定を受けた大都市だけの問題ではなく、安心して住み続けられるまちづくりや、住民や自治体主体の既成市街地の活性化などの努力をも破壊しかねない。
 本特集では、小泉内閣、石原都政の都市政策の本質を分析すると共に、都市型社会を迎えた今日、市民主体の本来の都市計画やまちづくりをどのように進めるかを考える。
(担当編集委員/鎌田一夫、客員編集委員/三浦史郎)

二一世紀の都市農村空間整備の課題と計画の役割
――いま都市農村で問題になっていることと小泉内閣の「都市再生」
石田 頼房
構造改革の一環としての「都市再生」政策は破綻する 今井 拓
東京都“高層2000”への疑問 野口 哲夫
トールビルディングと都市 三沢 浩
住民の立場で都市づくりを考える
――「都市再生」関連法制定と石原都政の下で
大屋 鍾吾
都市再生はコミュニティの再生・強化から 若山 徹
密集市街地の再生
――実りつつある地道な取り組みをさらに拡げよう
三浦 史郎
桃咲いて百年先の我思う
――固有の文化を引き継ぐ中国人に学ぶこと
新井 英明
■連載
《忙中閑》 モクマモウ 永井 和子
《NPOを訪ねる7》NPO法人建築ネットワークセンター  
《新伝統木造セミナー5》曲げ系架構形態 増田 一眞
《主張》 地域経済の再生と地域生産システムの再構築をめざして 久守 一敏
《家具とインテリアの近代14》家具デザイナーの草分け・森谷延雄 中村 圭介
《風景を見つめる手7》集い2 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建71》金剛沢の家 佐々木 文彦
面白かった本・気になる本
『憲法への招待』(渋谷秀樹編著、岩波書店[岩波新書])
『日本庭園鑑賞便覧――全国庭園ガイドブック』(京都林泉協会編著、学芸出版社)

2002年月9月号(No.302)
■特集■木の国日本その5  
      木材利用――伝統の継承と新技術の展開

 身近に手に入りかつ優れた物性を持つ木は、土や石とならんで古くから家づくりの重要な素材であった。とりわけ日本では木の占める比重は大きく、民家から寺社、宮殿まで様々な建築に使われ、高度な建築文化を形成してきた。戦後、アルミ、プラスチック、複合建材などが登場したが、新素材は木の代替物という意識を人々は持ちつづけていた。近年、木への関心・ニーズが高まっているのは、本物の素材への回帰といえるだろう。
 木の優れた利点を活かし、欠陥を補うために様々な利用技術が生み出され、伝承されてきた。こうした伝統技術を再評価し、今日の社会に適応するよう改良が試みられる一方で、木材の可能性を拡大する新技術の開発も進められている。木材利用技術はひとつの系を成しており、地球環境を考えれば、最も重要な技術系といえるだろう。  
 連続特集の第5回は木材利用のための技術系の広がりと深まりをレビューする。
(特集担当編集委員/鎌田一夫)

木という素材の基本的な性質 小松 幸平
エンジニアードウッドの可能性 川井 秀一
伝統木造で防火構造・準耐火構造を実現する 長谷見 雄二
木材塗装再考
――なぜ塗るのか、何を塗るのか
神谷 博
漆に魅せられて 坂本 朝夫
匠の技の継承
――木材成形・加工の現状
桐本 泰一
燻煙乾燥による品質向上へのチャレンジ 大場 隆博
葉枯らし木材供給体制づくりの試み 矢房 孝広
製材段階における各種処理の現状
――乾燥・防腐・防蟻
大河原 章吉
■連載
《忙中閑》 ぶっそうげの花 永井 和子
《NPOを訪ねる6》NPO法人しおんの家  
《新伝統木造セミナー4》軸組の基本型 増田 一眞
《主張》 目標や信念を持って仕事をしよう 甫立 浩一
《家具とインテリアの近代13》台所からキッチンへ 中村 圭介
《風景を見つめる手6》集い 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建70》富士見台の家 畠山 重弘
面白かった本・気になる本
『木材なんでも小事典』(木質科学研究所編、講談社[ブルーバックス])
『戦争映画館』(瀬戸川宗太著、社会思想社[現代教養文庫])

 

2002年月8月号(No.301)
■特集■
秋田に聞こえる明日の日本 

 今、日本社会はバブルの後遺症のために政治も経済も混乱し、希望を見失ったままの状態で苦しんでいる。
 東北地方も同じように、日本全体の経済状況に飲み込まれている。日本の台所を支えてきた地域、日本の木材生産の重要な生産拠点としての東北・秋田に、明日への展望を探ってみたい。
 大都市を中心とした経済は、バブルを夢見るしかなく、政局の動きも、新たなる公共投資と規制緩和を望むだけである。これでは日本の明日を展望することはできない。今こそ大切なことは、地に足の着いた経済と展望、そして価値観である。展望は、地域の中にこそあるものと確信している。価値観とは文化であるともいえる。
 地方であるからこそ見えることの方が、真実に近い。地方の日常と伝統の中にこそ、循環する経済と価値観が存在するに違いない。だから地方に注目するのである。
 海や山、そして平地が生み出してくれる地財、風土が培ってくれた人材、そして歴史と経済が教えてくれた知財。それらを改めて自覚し、気づきあうことに20世紀を越えるエネルギーを身につけることができるはずである。
 日本の経済の再構築は、国民の日常的な生活需要を原点に循環し持続するものでなくてはならない。
 今、バブルを知らない若者たちの胸の中に希望の目が感じられる。
 秋田市立御所野学院中学校で行われている「2年郷土総合学習」に注目してみた。「郷土秋田を探ろう」をテーマに、前期の学習の総まとめとして個人中間研究レポーを冊子としてまとめられている。
 「国際化社会と秋田」「高齢化社会と福祉」「環境と人間」「伝統文化と未来都市」「情報化社会と人間」「スポーツ」など、生徒が主体的に課題を設定し、施設訪問や体験学習など、地域や社会との関わりを通して、学習した成果を中間研究レポートとしてまとめられたものである。このレポートは課題設定までに1カ月、調査・情報収集に1カ月、そして分析とレポート作成に1カ月の時間をかけて完成させられた。その主なテーマを列記してみる。
 
「王国秋田の再建を考える~秋田の誇る能代工業の秘密を追求せよ!~――能代工業訪問調査」「白神山地はなぜ世界遺産になったのか?白神山地の歴史を探る」「秋田と東京の環境~おいしい水~」「秋田と東京の環境~自然と公害~」「秋田と東京の環境~ゴミ~」「秋田の観光について~竿灯を通して~」「秋田に観光客を呼ぼう」「なぜ現代の子供は犯罪を犯すのか」「子育ての現状を考える――乳児院訪問と調査」「悩める中学生」「大曲の花火」「伝統の祭り~竿灯とアメッコ市~」「自衛隊――防衛」「自衛隊――男鹿の自衛隊レーダー基地について」「都会と田舎の交通」「秋田のおもちゃ屋」「秋田の夏」「雪国秋田の雪のいろいろ――雪や雪の文化について」「都会からきた大型デパートと秋田のつながり」「秋田と東京のコンビニを比べて」「郷土料理~きりたんぽ~」「食文化――秋田の名産物~食べ物ガイドマップを作ろう~」「なまはげは生き残れるか~起源・現在・未来の存在とは~」「昔からある習慣(年中行事)について」「伝統とサービス業の発展を民芸品から探る」「地域の文化を考える(方言や名字を調べる)」「秋田と高齢化社会」「老人ホームの調査と訪問」「中学生から見た福祉」「秋田の福祉活動と私たちの役割」「秋田の福祉~バリアフリー東京と秋田を比べて~」「秋田の歴史~商業(貿易)について考える~」「戊辰戦争と秋田」「赤レンガと川尻の町~秋田刑務所と町の歴史~」「秋田県の医療」「秋田の年代別ファションについて」「秋田と東京のコンピュータの普及について」「秋田の方言」
 
 この中学生たちの時代感覚には新鮮さがある。食べること、着ること、住まうこと。それらの原点に近いところに明日の東北の価値があるはずである。バブルは必要ない。毎日の慎ましい愛情溢れる生活という循環にこそ、明日への希望を発見できるはずである。
(特集担当編集委員/丸谷博男・土岐志のぶ)

秋田杉の地産地消を目指す秋田木高研での試み
――伝統的木造住宅構法の再構築
鈴木 有
地球にやさしく人にやさしい素材再発見 秋林 鉄美
ケイ藻土の家 佐藤 和博
ケイ藻土を使用した建物を設計して 菅原 宏之
農の営みは人間生活の土台 佐藤 長右衛門
農家における土間の役割 鈴木 勇
秋田杉を生かした能代のまちづくり 佐藤 友一
二ツ井のまちづくり・すまいづくり 田中 勝昭
女性の感性でうるおいのあるすまいづくり 谷川原 郁子
秋田杉を使ったすまいづくりのために 太田 元章
これからの建築と木の使い方 工藤 基次
住まいの語り部 倉部 武文
秋田の建築様式 板橋 守
木造建築における伝統的な技法について35 木谷 正一
■連載
《忙中閑》 でいごの樹 永井 和子
《NPOを訪ねる5》地域福祉サポートちた  
《新伝統木造セミナー3》木造架構形態の多様性 増田 一眞
《主張》 欠陥住宅の根絶と品確法後の行方 星 厚裕
《家具とインテリアの近代12》和室内蔵の古河邸 中村 圭介
《風景を見つめる手5》演ずる人々2 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建69》荒幡富士の家 吉野 信義
面白かった本・気になる本
『団地再生――甦る欧米の集合住宅』(松村秀一著、彰国社)
『美しい都市をつくる権利』(五十嵐敬喜著、学芸出版社)

2002年月7月号(No.300)
■特集■
木の国日本その4  木の国・木の文化 

木を使い生活を豊かにする知恵はいつから始まったのだろうか。
 それは、木の実を食べるだけではなく、薪にできることを発見し、暖を取り始めた時であろうか。あるいは、石や貝や動物の骨を使って道具をつくり、それによって木を加工し始めた時であろうか。木の皮をむき、それを屋根や壁にしたり、細かく加工して袋をつくったり篭を編んだり、さらには布に織ったりし始めた時であろうか。
 日本人は、平安時代にカナを生み出し、大和言葉を表現できるようにした。極彩色の仏像を生地のままでつくった。同じように宮殿や仏閣までも生地のままでつくった。
 日本人は、素材そのものの中に命と芸術を見出している。
 木そのものを心の中で抽象化し神格化することもできた。「かたち」は消滅しても「いのち」は永遠であった。「いのち」とは自然と人間との交わり合いそのもののことであった。
 木が育ち自然をつかさどっている日本。その一連の生態の中に人間もいる。
 その風土の中で人は生まれ、育ち、死んでいく。
 日本人の精神は、この日本の風土の中でかたちづくられてきた。
 21世紀に至って、改めて木の国日本の文化を論じてみたい。
(本誌編集委員長・特集担当/丸谷博男)

日本建築ノスタルジア 榮久庵 憲司
木の国に培われてきた生活文化 吉田 桂二
生きている樹木と郷土景観 進士 五十八
こどもの成育環境としての木連遊具 仙田 満
子どもたちに木の文化を返したい 寺内 定夫
「マンション」と「戸建て住宅」が日本文化を語る 丸谷 博男
木の建築文化論 広瀬 鎌二
■連載
《忙中閑》 福木の樹 永井 和子
《NPOを訪ねる4》関西分譲共同住宅管理組合協議会 レポーター:大槻博司
《新伝統木造セミナー2》木造架構計画の方法 増田 一眞
《主張》 暮らしをおびやかす建設市場の拡大策 萩原 正道
《家具とインテリアの近代11》MAVO 中村 圭介
《風景を見つめる手4》演ずる人々 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建68》地元の木を使う家づくり 保倉 利光
『建築とまちづくり』300号記念
『建築とまちづくり』300号をむかえて
新建築家技術者集団
代表幹事 本多 昭一
『建築とまちづくり』199~300号 特集+執筆者一覧 『建築とまちづくり』
編集委員会

2002年月6月号(No.299)
■特集■
地方中核都市広島の行方 

 中国地方の中核都市広島。アジア大会の会場にもなった「西風新都」、基町高層住宅の火災、芸予地震など、広島の話題は全国的にも知られるところとなった。路面電車・LRTの広島市での運行、呉市でのレンガを活かしたまちづくりなど、改めて都市のあり方を考えさせられる地域でもある。この広島に焦点をあててみたい。
(特集担当編集委員/進士善啓 編集協力/石井英雄)

広島の近・現代建築は何をもたらしたか 石丸 紀興
呉市とレンガを活かす街づくり 在永 末徳
広島はいま路面電車からLRTへ 山根 政則
火災と高齢化とまちづくり――広島市営高層住宅・基町団地の歩み 皆川 佐多子
こども病院建設を求める運動の取り組み 冨樫 恵
芸予地震と斜面地住宅 間野 博
■連載
《忙中閑》 楠の樹 永井 和子
《NPOを訪ねる3》まちづくり政策フォーラム レポーター:平本重徳
《新伝統木造セミナー1》 伝統と在来の原理対比 増田 一眞
《主張》 自らのチャレンジ活動のみが職能を確立する 簑原 信樹
《家具とインテリアの近代10》樫葉会と木材工芸学会の活動 中村 圭介
《風景を見つめる手3》水面3 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建67》I邸 自然素材にこだわって 柿野 健一
面白かった本・気になる本
『欠陥住宅』(建築ネットワークセンター著、合同出版)
『動く家――ポータブル・ビルディングの歴史』(ロバート・クロネンバーグ著、牧紀男訳、鹿島出版会)
建築基準法等の改正に反対する声明
有事法制に反対する声明
都市再生関連法の施行にあたっての見解
新建築家技術者集団
全国常任幹事会

2002年月5月号(No.298)
■特集■
木の国日本その3  木の構造・その可能性

 木構造は今、大きな転換期に立っている。建築基準法、品質確保法などの法が改正、新設され、「在来工法」をより厳密な規制にのせたことは、在来工法の一般的な質の確保には役立つだろうが、その構造・構法の考え方はきわめて画一的になってしまった。高度な構造計算が可能になり、木構造でどんな形状でも可能になったが、モデル化できない伝統構法や自然材は需要の機構からはずされていく。
 もちろん、こうした転換要因は社会的歴史的にみられる大きな変動に伴って現れてきた。都市化による敷地の細分や生活スタイルの大衆的消費などは、商品化住宅に代表されるように「住宅」というものの画一化を促し、木造住宅の構造構法の地域性や独自性を捨象してきた。木造の公共建築が都市から消えたのも、都市の高密化による防災上の問題だけでなく、公共建築の都市内での役割の変化が伴っていたのかもしれない。
しかし、木造建築はもっとずっと多様性に富んだものではないだろうか。
 地域との関わり、伝統技法との関係、集成材の大空間架構の可能性、つくるのは誰かといった問題に真摯に取り組んでいけば、木造建築はまだまだ多様な展開が可能ではないだろうか。
 「木」の特集第3回の今回は、山から切り出され、材木として流通してきた「木」が人の手で建築となる段階で、どのような構造・構法の多様性があるのかを考えながら、身近にある木造建築の可能性を広げていきたい。
(特集担当編集委員/大崎元)

現代木構法の諸問題 増田 一眞
民家再生構法(伝統工法)の現状と法的問題 細野 良三
木造モダニズムの挑戦――前川國男の自邸 松隈 洋
在来構法と免震をつなぐ 摺木 勉
F.L.ライトの自由学園――木材のテニュイティ構成 南迫 哲也
木の構造と表現 五十嵐 純一
A.レーモンドの木造住宅 三沢 浩
木材のその切り欠きは大丈夫?――断面欠損による耐力低下を探る 川崎 薫
木造住宅はこれからどう生きるか 清瀬 永
■連載
《忙中閑》 くわでいーさーの樹 永井 和子
《NPOを訪ねる2》西山夘三記念住まい・まちづくり文庫 レポーター:竹山清明
《主張》 憲法記念日に思う 水野 久枝
《家具とインテリアの近代9》分離派の結成と背景 中村 圭介
《風景を見つめる手2》水面2 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建66》玉川学園の家 田中 敏溥

2002年月4月号(No.297)
■特集■
まちづくりと社会の科学 

 20世紀は「まち」がつくられた世紀であった。産業革命による生産力の飛躍的な向上は人口の急増を生み、既存都市への労働力の集約は都市をまたたく間に膨張させた。そしてそれは既存都市の膨張ではまかないきれず、新たなまち=「住宅都市」を誕生させることになった。
 そこで主導的な役割をはたしたのは「計画家」であった。19世紀に実際にコミューンを経営しはじめたのは空想的社会主義者だが、本格的に都市が必要とされることになる20世紀初頭までには建築家や都市プランナーなど「計画家」がその主役に躍り出る。今でも彼らは最も重要なポジションにいる。
 しかし20世紀の後半、その計画家がつくりあげてきたまちで不協和音が鳴り始めた。それも時を経るつれ大きくなる。それらを敏感に察知し鋭く指摘したのは、まちをつくった計画家ではなく、それをスタディしていた学者、とりわけ「社会学者」であった。まちに対する彼らの指摘は諸種の矛盾を暴き出し、近代化がその危険性を内在させていた都市の病理を衆人の目に晒した。
 しかし、なにゆえか計画家と社会学者が協同することはほとんどなかった。計画家は現実との応答力に乏しいまままちづくりの現場で苦闘し、社会学者は現前化したことについてだけ分析し批判する。そうした両者の不仲の時代が続くのであれば、良質なまちはいったいいかようにしてできるのだろうか。
 不協和音を押さえるために必要なことのひとつに、既存都市がさまざまに持つ「蓄積された社会機能」を有効に展開していくことがあるだろう。そしてそれは「蓄積された社会機能」を分析してきた社会学と、それを取り入れてまちをつくる計画学の婚姻においてこそ成就しよう。
 社会学の分析対象を確認し、その到達点を踏まえたうえで、社会学、計画学双方の立場から今日のまちづくりを論じ、両者の課題の共有、協働の途を探りたい。
(特集担当編集委員 林 工)

まちづくりの現場で社会学に何ができるか 片桐 新自
地縁コミュニティとテーマ・コミュニティ 早田  宰
成熟した市民社会にふさわしい「まちづくり」のあり方について 天野  徹
まちづくりの担い手に求められるメディアリテラシー 朝倉 暁生
防犯まちづくりとコミュニティ 山本 俊哉
都市の中のむら――地域自治会と郷友会 宮城 能彦
「原っぱ」が消えた日――まちの変貌とライフスタイルの変化 鈴木  貢
■連載
《忙中閑》 ユウナの木 永井 和子
《NPOを訪ねる1》建築技術支援協会 レポーター:桜井 郁子
《主張》 「その日暮らし」がいい 丸谷 博男
《家具とインテリアの近代8》和家具の近代化  中村 圭介
《風景を見つめる手1》水面 永橋 爲成
《ワーク&ワーク新建65》民家風現代建築  簑原 信樹
《ひろば》 02年建築とまちづくりセミナーin飛騨古川についての近況報告/増田一眞「新伝統木構法セミナー」ガイダンス/新年度新建富山支部事業計画

2002年3月号(No.296)
■特集■
木の国日本その2   
木造住宅の流通システム再構築について考える
 

 山からの声を聞くために、1月号では山を取材した。今回は、里と山を繋ぐ経済に着目する。
 木の成長に適した気候をもつ日本の山林には、戦後植林されたものを中心に利用の期が熟した木材が大量に存在している。にもかかわらず、その木材が建材として流通することは非常に少なく、多くを輸入材に頼っている。結果、発展途上国の多い熱帯雨林やシベリアなど世界各地で原生林が失われ、取り返しのつかない環境破壊を招いてしまっている。
 残念ながら日本は世界最大の木材輸入国である。マレーシアやロシアからは丸太が、インドネシアからは合板が、オーストラリア・アメリカ・チリからは木材チップが大量に輸入されている。何故日本の森林が生かされないのだろうか。日本の国土の66%を占める森林資源は、何故市場に登場しないのだろうか。1960年に木材輸入が自由化して以後、当時86.7%あった自給率は1999年には19.2%までに激減してしまった。
 外材の多くは、森林再生のシステムを持つことなく、破壊的な皆伐によって低コストの木材を日本の市場に投げ込んできた。流通にかかるコストが高く、木造住宅の生産システムに国産材がうまくのらなかった主要な要因はここにある。商社の手の中で、外材を伐り尽くすと同時に日本の森を「放置する」ことによって、まさに日本人が日本の森林を破壊してきたのである。また、安易に新建材に傾いてきた住み手や建築技術者の責任もないとは言えない。
 この流れを変えるには、木材の生産者と住み手を結びつけるしくみが必要であり、それを担う施工者、設計者との結びつきも同様に重要となっている。そして最近、こうした人々の結びつきを創り出すことを要にして、身近な国産材をつかった住まいづくりや、在来工法を改善した建築活動の取り組みが、全国各地で躍動し始めている。
 この特集では、これらの具体的取り組みを通じて、日本の木造住宅の流通の問題がどこにあったのかを改めて明確にし、木の持つ本来の良さを生かした住まいづくりのために、日本の木材、近山の木の流通を促していく方向を展望する。
(特集担当編集委員 小伊藤亜希子)

国産材の流通を再生するために 東樋 口護
山と住まいを繋ぐネットワークの中で考える 住み手と設計者の結びつきの運動 村松 晴信
NPO「やみぞの森」のこと 吉田 清明
明日につなぐ木のぬくもり――設計事務所との協同とモルダー加工による林業の再生 笠谷 正司
流通システムは品確法でどう変わるか 星  厚裕
住宅生産のプレファブかと流通システム 本多 昭一
地域ビルダーによるまちなか一戸建て住宅の取り組み 栗山 立己
■連載
《忙中閑》 書の会 丸谷 博男
《建築運動史35》(最終回)21世紀に向かって 新建綱領の改定、「憲章」の決定     本多 昭一
《主張》学生たちに話しかけよう  山本 厚生
《家具とインテリアの近代8》貸しビルの始まり  中村 圭介
《イタリアの都市と空間8》(最終回)都市を飾る   松岡 宏吉
《ワーク&ワーク新建64》青い鳥工房  内山  進
《面白かった本・気になる本》
海道清信『コンパクトシティ 持続可能な社会の都市像を求めて』(学芸出版社)
多木浩二『天皇の肖像』(岩波書店)
杉山恵一監修『みんなでつくるビオトープ』(合同出版)
《ひろば》 第2回全国幹事会報告 02年3月9日~10日/住宅金融公庫廃止に強く反対する(声明)/東京問題研究会再開 もうすぐ一年/古民家解体報告会を開催/住宅設計からのメッセージ 建築家 丸谷博男」展

2002年2月号(No.295)
■特集■
いま住宅は──家族像が変わっている 

戦後の日本が目指した核家族の住まいと家族像。時代の変遷による現実は、決して「平和」で「慎ましい」家族の存在を認めることはなかった。単身で都会に暮らすキャリアマンは、自己実現あるいは自己の生活の孤独と共感の往き来の中に人生を見つめている。子を産まない世代が自己実現との葛藤を歩んでいる。三人に一人という離婚率は、母子家庭を生み、孤独な男をつくりだしている。そして新たな結婚と新たな家族。単純にいかない人間関係をさらにいっそう複雑なものにしている。
老後という言葉は、一人一人の人生にはない言葉かもしれない。老いて後、そこに在るのは死との対面ではないのか。老いのただ中にこそ自己実現があってもよいはずである。
最近はグループホームがあったり、コーポラティブがあったり、新しい形の家族が生まれている。これは核家族のもたらした孤独の克服への試行錯誤の道ととらえることもできる。

多様である家族像。その「本当の姿」を、住宅設計に携わる設計者から取材してみようと思う。事実がもっと赤裸々に、現代を語ってくれるに違いない。
(特集担当編集委員 丸谷博男)

家族が変わる 丸谷 博男
感性の時代――二〇代の女性が自分の家を建てる 新庄 有紀
心機一転、新しい環境を 小宮  礼子
一念発起、料理屋の主人に 土師彩子
父と娘のわだかまりを解きながら 山本 厚生
改造から発展して共同建て替えへ 象地域設計
単身姉弟三人の住まう家 象地域設計
コレクティヴハウスのようなルールで暮らす三世帯住宅 象地域設計
親子三世帯家族、お互いの気遣う心が豊かなくらしを育む 金田 正夫
■連載
《忙中閑》 家族の時間 丸谷 博男
《建築運動史34》大災害と建築運動 阪神淡路大震災(続)  本多 昭一
《主張》小泉内閣の「構造改革」この10ヵ月
大不況の長いトンネルは暗くなるばかり、今こそ国民の力で明かりを 
今村 彰宏
《家具とインテリアの近代7》床材と履物  中村 圭介
《イタリアの都市と空間7》都市のインターフェース  松岡 宏吉
《ワーク&ワーク新建63》自宅サロンにて地域文化交流のオペラ公演   大澤 美香
《面白かった本・気になる本》
井上裕著『まちづくりの経済学』(学芸出版社)
杉山恵一監修『みんなでつくるビオトープ』(合同出版)
《ひろば》 第1回全国常任幹事会報告 02年1月12日~13日/大会議案1の訂正/福岡支部講演会報告/新潟支部講演会報告/住まいづくりフォーラムで住宅見学会を開催/ヨーロッパ建築ツアー

2002年1月号(No.294)
■特集■
木の国日本その1 山を生かし続ける

 このままでは、日本の山も木も里も、みんな死んでしまう――。
果たして、ここまで来てしまった現代社会に、山の再生への道は残されているのだろうか。
もしそれがダメだといわれても、たとえその道が八方塞がりであっても、われわれはその道を探さなければならない。それがわれわれの使命である。
心ある山人がどのように山を愛そうと、あるいは心ある里人がどのように山を愛そうと、バラバラの、そして単独の思いだけでは、膨大な面積の山の荒廃を止めることはできない。
育てるためには、使う経済がなければならない。生き生きとさせるためには、山と人々の生活が結ばれなければならない――。

通巻300号を迎える今年は、ひと月おきに年間特集「木の国日本」をテーマとする。
  1月号 「山を生かし続ける」
  3月号 「木の流通を再生する」
  5月号 「木造建築の構造・工法」
  7月号 「木の国・木の文化」(通巻300号)
  9月号 「木材利用の伝統と新しい技術」
  11月号 「木と職人事情」
1月号は第一段として、山里の林業に踏み込む。

この10~20年、産地直送や林業そのものへのこだわりなど、全国各地でさまざまな取り組みが見られてきた。そこには一定の成果を見ることもできたと思う。
しかし、ごく一般的な里山には、すでに山を知る人々が存在しなくなってしまっている。すっかり山が動かなくなり、荒れ放題となっている。
このような状態に対して、改めて一般市民が危機感を抱き始めてきた。消費者の目が山に向き始め、海里の漁民たちまでが山に登り始めた。
今、山は新たな可能性を持ち始めている。そのわずかな動きをしっかりと捉えるため、この誌面を使って取り組んでみようと思う。
(特集担当編集委員 丸谷博男・林工)

インタビュー◆森林維持・木材再生産と設計者の役割 長谷川 敬
持続(再生産)可能な立木価格の再構築をめざして 和田 善行
小さな山村・エコビレッジ諸塚の挑戦 矢房 孝広
森林(やま)と都市(まち)を結ぶ木の家づくり 吉野  勲
間伐材利用と職人技術、森林の維持へ 関原  剛
森林の見学会のことなど 羽生 卓史
山のどんじりの集落に元気が見えた──山熊田の主婦の山おこし 丸谷 博男
■連載
《忙中閑》山が呼んでいる  丸谷 博男
《建築運動史33》阪神淡路大震災 本多 昭一
《主張》新建第23回大会期の初頭に立って  片方 信也
《家具とインテリアの近代6》日本のアールヌーボ   中村 圭介
《イタリアの都市と空間6》都市のパターン  松岡 宏吉
《ワーク&ワーク新建62》AKARI Project あかりをテーマにまちづくり  都井 一裕
《ひろば》 第23回全国大会レポート/財政について/「憲章」案の論議と採決/大会開催地の長野支部から/特別決議