
新建設立50周年記念特集ー4
災害に向き合う建築家技術者
災害に立ち向かう全国的な運動:千代崎一夫/リアルまちづくり協議会による災害復興再考:間野博/「創造的復興」がもたらしたもの:塩崎賢明/津波被災地のまちの再建:遠州尋美/復興から生まれた新たな地域運営:新井信幸/公的事業による宅地の復旧、安全性の確保:岩渕善弘/福島でいま起こっていること:乾康代/コラム──あおい地区の暮らし:杉山昇・三浦史郎/熊本地震が突き付けたもの:片井克美/多発する豪雨と小さくならない災害:乾康代/常総市(鬼怒川)洪水被害の実態と被災者のたたかい:新井隆夫/マンション被災特有の課題と専門家のかかわり方:梶浦恒男/被災者の住まいの確保・再建をめぐって:阿部重憲/大地震:坂巻幸雄/新建会員の活動を活性化した新建災害復興支援会議:山下千佳
災害に立ち向かう全国的な運動 千代崎 一夫
<阪神淡路大震災>
リアルまちづくり協議会による災害復興再考 間野 博
「創造的復興」がもたらしたもの 塩崎 賢明
<東日本大震災>
津波被災地のまちの再建 遠州 尋美
復興から生まれた新たな地域運営 新井 信幸
公的事業による宅地の復旧、安全性の確保 岩渕 善弘
福島でいま起こっていること 乾 康代
コラム──あおい地区の暮らし 杉山 昇 + 三浦 史郎
<頻発する災害と抱える課題>
熊本地震が突き付けたもの 片井 克美
多発する豪雨と小さくならない災害 乾 康代
常総市(鬼怒川)洪水被害の実態と被災者のたたかい 新井 隆夫
マンション被災特有の課題と専門家のかかわり方 梶浦 恒男
被災者の住まいの確保・再建をめぐって 阿部 重憲
<支援活動の組織化>
大地震 坂巻 幸雄
新建会員の活動を活性化した新建災害復興支援会議 山下 千佳
◆連載
《世界の災害復興 から学ぶ4》 ロマ・プリータ地震からの復興 室崎 益輝
《新日本再生紀行 25》大阪府堺市 栗山 立己
《暮らし方を形にする4》要るものだけを選んで暮らす 山本 厚生+中島 梢
主張 『設計事務所をどう選ぶのか』
もえぎ設計/全国常任会議(副議長) 川本真澄
数ある設計事務所のなかから、我々はなにによって選ばれたり選ばれなかったりしているのでしょうか。つい先日、ある設計コンペに参加しました。過去に設計を依頼されたことのある社会福祉法人から久しぶりに声が掛かり、今回は設計コンペで設計者を選びたいとのことでした。やりがいのある生活施設の設計ですからもちろん仕事は欲しいし、断ると二度と声が掛からないかもしれません。チャンスと受け止めるのか、無償のコンペに費やされる労力に事務所みんなで向き合えるのか、所内で相談の上参加することにしました。
法人から丁寧な資料と、自分たちの思いをまとめた概要が送られてきて、設計案(平面、立面)と設計監理料見積書と工事費概算書が求められました。事前のヒアリングもあり、4社の参加であることがわかりました。察しのつく新建仲間の事務所もあり、勝手に心でエールを送っていました。敷地条件や要望内容からあんまりバリエーションがあるとは思えませんでしたが、かなり時間を費やして考えました。最終盤は4人ぐらい寄ってたかってプレゼンに耐えるものを練っていきました。
初めは建主と打ち合わせも重ねないで、現場の意見も聞かないで、良いものができるはずがないではないかと思っていたのに、だんだん「いけるんじゃないか」という気になって思考と時間のブレーキが効かなくなります。ここまできたら実現したいという思いも強くなっていきます。
プレゼンテーションの時の選考委員の方々の反応はよく、設計段階で細かいところの打ち合わせを重ねていけば実現できそうなイメージも持てました。ただ若い職員からなに一つ質問や意見が聞けなかったのが気になってはいました。
数日後、選考されなかった趣旨の連絡を電話でいただいたのですが、その内容に耳を疑いました。選ばれたのが設計施工会社だったからです。しかも、設計内容で判断した上でのことだけれど、建物の30 年保証提案が大変魅力的だったと説明されたのです。若い職員に負担をかけたくないからとも。30
年間無償で建物を維持管理してもらえると理解されているようでした。明らかに設計内容だけではない要素が判断に持ち込まれており、コンペ要件を逸脱していると思いました。設計案や設計料、工事費概算については公表されません。
自治体が随意契約を良しとしない傾向にあることもあり、設計コンペはこれからも増えるだろうと思いますが、設計コンペの要件をもっとクリアにすることが望まれます。
主催者側がなにを選ぶのかという選定基準を正しく持つために、専門家のアドバイスも必要ではないかと思います。
まったく無償でアイデアを求められることにも疑問を感じます。設計案を作ることは設計者の職能そのものであり、本来有償であるべきですがまだまだ理解されていません。
設計監理料の見積書を求められることについても、事前に国交省告示98 号により業務報酬基準が定められていることを理解してもらうべきだと思います。
そして、そもそも設計コンペによる設計者選定と、設計案の選択は正しいのでしょうか。普段の設計では、第1案通りに設計案が決まったことなどありません。まったく違うプランになることもあります。そもそも大前提が覆ることもあります。そうした柔軟性や可能性を縛ってしまう側面があると思うのです。また、デザイン性や意外性と、使い勝手や日常性は相反するものではありません。住む人、使う人が主体になるならば、用意されたいくつかの案を選択するのではなく、設計者と一緒になって考えるプロセスこそが大切だと思うのです。
こうした視点に立って設計者と建主が巡り会える方法とはどんな方法なのでしょうか。
新建32 回大会議案、Ⅳ今日の建築まちづくりの課題と新建の立場、6の⑥設計者選定制度と設計報酬には、「コンペやプロポーザルを超える設計者選定方式を探り、提起する。」とあります。この紙面のような愚痴にも似た体験をテーブルに載せながら、あるべき設計者選定につい議論ができればと思います。
講師の市川真奈美さんは、建築士事務所「薫風(くんぷう)」、豊田市の千年持続学校の講師やヘリテージマネージャーです。知人の愛知県足助町大工河合氏の紹介で、「野間(愛知県知多郡美浜町野間)」の地域づくりに関わっているお話をしてくださいました。
市川さんは、ヘリテージマネージャー養成講座で野間郵便局旧局舎に関わったのが「野間」との出会いだそうです。建物を調査し、登録有形文化財の登録に携わり、そして改修を手がけることになりました。外壁のペンキ塗りは、地域の人とのワークショップで行うなど、「この野間郵便局旧局舎の建物を地域で守っていけるようになったらいいな」という気持ちで取り組んでいたそうです。こうして関わっていると、次第に地域に溶け込んでゆくことができるようになり、野間郵便局旧局舎の建物所有者をはじめ、地元で古民家を改修して活用している人、古民家に惹かれて移住してきた人、古民家をセルフビルドで改修する人などと活動をともにするようになり、次第に「野間」に魅了されて、豊田市から「野間」に楽しく通えたそうです。
たとえば地域の若者が中心となって2015年から毎年行われている「野間古民家ウォーク」では、野間地域の色々な人がリノベーションした古民家を歩いて巡るイベントです。各会場で、小物を売ったり、造形教室を開いたり、ライブをしたり、キッチンカーを用意したりして地域の人たちも一緒になって盛り上がっているよと、実に楽しそうにお話してくださいました。野間郵便局旧局舎も「野間古民家ウォーク」の会場のひとつとして、ライブ会場などとして使用されます。
「野間」でのこうした活動は、特に行政に頼ることなく地域の仲間と一緒になって行っているそうです。でも、みんなにあまり「力(りき)み」がないことがいいのではないかと思うし、自分はやれることしかしていないし、押しつけない・されない関係がいいのではないかと話されていました。
市川さんの楽しそうな話に誘われて、そんな「野間」の町を歩きたくなりました。
(愛知支部・壬生伸次)