2018年11月号(No.479)

エコ住宅はこれから何を目指すのか

 

地球の温暖化をもたらす二酸化炭素の削減目標がパリ協定で定められた。この目標からみれば不十分ではあるが、2020年には住宅の断熱と省エネルギーに関する基準が義務化される。しかし、現場で基準をクリアできているのか、大量の既存ストックはどうするのか、この基準自体に問題はないか、多くの課題を抱えたままである。一方で、良好な室内環境と省エネルギーの両立を目指した建築家技術者の取り組みは先を見据えて進化している。エコロジカル住宅を取り巻く状況と実践をレビューし、ともにこれからを考えたい。

 

 

・〈対談〉エコロジカルな住宅設計のあり方──技術、政策、社会状況の変化をふまえて    丸谷 博男×高本 直司

・省エネで快適なすまいづくり                            江藤 眞理子

・温暖地でつくる日本の家                              大石 智

・全体の調和がとれたエコハウス                           辻 充孝

・エコ住宅の新たな地平                               西沢 鉄雄

  

◆新建のひろば

西日本ブロック会議報告

関東ブロック会議報告

中部ブロック主催──「建築とまちづくりセミナーin稲荷山(長野)」参加の感想

・復興支援会議ほか支援活動の記録(2018年9月1日~ 9月30日)

 

◆連載

《英国住宅物語20》持続可能なコミュニティへの取り組み イギリス政府のデザイン政策  佐藤 健正

《普通の景観考12》人気上昇中の北千住                        中林 浩

《新日本再生紀行13》奈良県生駒市                          岩城 由里子

《書棚から》原発都市 歪められた都市開発の未来

 

主張『豊かなこととは』

ぶなのスタジオ/全国常任幹事  大西智子

 

 先日、ラジオを聞いていて流れてきた言葉にハッとさせられました。「大地は先祖からの授かりものではなく、子どもたちからの預かりものである」。ネイティブ・アメリカンに古くから伝わる教えだそうです。アメリカ大陸の先住民と言えば、アマゾンの先住民の言葉として「私は、今とずっと後のことだけを考えている。だから、明日の約束はできないが、百年後の約束ならできる」と国分拓氏著「ノモレ」のなかに書かれているということを紹介した朝日新聞の「折々のことば」の記事も印象的でした。
 いずれの言葉も、自らの生きている時代よりももっと遠い先の事を思いやっての発想であり、自分の足元だけを見て生きていては決して出てこない言葉だと感じました。そして、あまたの書物を読んだとしても、私の生きている周辺からは決してこのような発想が出てこないような気がして、それは、とても貧しい事のような気がしたのです。
アメリカ先住民は文字を持たなかったとのこと。次の世代に自ら発する言葉で伝えていく、ということは、「大地は子どもたちからの預かりもの」という言葉に実感もともなってのことなのではないか、と想像します。 その言葉に従えば、そこに生えている木を1本伐るにも、本当に伐ってしまって良いのか考えるのではないでしょうか。便利であること、利潤を生むことがもっとも優先されるべきだ、という発想で物事が進んでいく今の世の中、木がない方が土地を有効利用できるなら、さっさと伐ってしまおう、と考えることに対し疑問をさしはさむことは、事業に横やりを入れられる、という感覚になりがちですが、次の世代に最良の大地を残さねば、という思いがすべての人の念頭にあったとしたら、木の茂る森を100年後に残すべきなのではないか、という葛藤が生まれるのではないでしょうか。
 そのような視点で世の中を見渡してみると、改めてさまざまな疑問が沸いてきます。原発の稼働している大地は子どもたちに受け渡していくべきものなのでしょうか?事故の可能性について、関わる人すべてが本気で検討しているのでしょうか?次世代への負担はないと言い切れません。
 二つの日本アルプスを貫いてつくる中央新幹線、通称リニア新幹線も自然への影響はないと言っていますが、本当に100年後、200年後の人々に今の状態と変わらない日本アルプスを見てもらえるのでしょうか。それらの疑問に、数字上の根拠を並べてまで押し通すものだったのでしょうか?南アルプスと一体となって静かに存在していた大鹿村の環境はリニア新幹線の計画によってすでに壊されてしまったけれど、それが後々の世代に残すべきものだったのでしょうか。原発もリニア新幹線も膨大なメンテナンスの継続が次世代に引き継がれていきますが、それが最良の選択なのでしょうか。カジノや東京オリンピックは経済活動にプラスになるけれど、次世代への遺産として、ぜひとも必要なものとはとても思えません。
 カジノといえば、ネイティブ・アメリカンの部族の一つが、カジノ経営によって資産を得ており、国はそれを推奨しても州や地方自治体は難色を示しているという皮肉な現実があるようです。カジノ経営は貧困から脱するための手段とのことなので、先住民と先住民以外という線引きがもたらしてきた結果なのでしょう。今のネイティブ・アメ
リカンが冒頭の教えを心に日々を生きることは困難なのでしょうし、日本に生きる我々とて、余裕のない日々を過ごしているのだから、それどころではない、というのが現実なのでしょうけれど、でも、ちょっと立ち止まって、後の世代に何を残していけば良いのか、考えてみることは、実は計算だけでは見えてこない豊かさをもたらすことにもつながっていくのではないか、と思うのです。


西日本ブロック会議の報告

  日時:2018年9月16日(日) 17日(月) 

  場所:大阪市内

  参加:20名

 

 9月16日(日)と17日(祝)の両日、大阪で西日本ブロック会議が開催されました。

会議のプレ企画として16日午後1時から、「今、大阪はどうなっているのか?」のテーマで大阪支部会員の案内で大阪の光と影を探る見学会を行いました。

 まず、大阪駅北ビル11階屋上から北コンテナヤード跡地再開発の状況を見ました。35年ほど前に新建大阪支部で、緑の丘の下に建物を埋める「ギャザーズ構想」を提案した場所です。現在、東側約半分にヨドバシカメラとグランフロントと呼ばれる商業施設・オフィス・ホテルのビル群が建設され、高層ホテルも建築中です。西側では地下に関西空港と梅田を結ぶ鉄道新線の工事も進められていますが、ある程度の面積で緑地も考えられています。

 

 次に中之島に移動して、大阪市役所・府立中央図書館・中央公会堂を見学しました。50年ほど前、新建大阪支部が創設された頃、新建大阪支部会員を中心とした運動で府立中央図書館・中央公会堂が残りました。今、公会堂の東側の市公園局の場所に建築家の安藤忠雄氏が自費でこども図書館を建てて、市に寄付しようとしています。ただ、その手続きの過程と建物に問題があるとして反対の声が上がっており、支部会員の有志も関わっています。

 

 最後に近代建築が数多く残っている、船場界隈を見学しました。中之島と本町通りの間、御堂筋の東側の船場界隈は明治・大正期、大阪の商業・経済の中心地として、銀行や商業ビルなど、数多くの近代建築が建てられました。そのほとんどが解体され新たにビルや高層マンションに建替えられたが、まだいくつかの建物が大切に保存・活用されています。船場に残る近代建築のオーナーが中心となり、大阪の文化遺産である近代建築を残そうと「船場近代建築ネットワーク」をつくり、さまざまなイベントも催しています。

 

 午後3時から本町の会議室を借り、ブロック会議が始まりました。まず、垂水全国代表幹事が開会のあいさつをされ、次に全出席者が自己紹介と近況報告、仕事と新建、そして生活について語っていきました。なにがきっかけで新建に入ったか、なぜ、新建会員としてがんばれているかが良くわかりました。

 

 次に各支部が地域の情勢も含めて、支部活動の報告をしました。兵庫支部は会員減少(13名)と黒田さんの死去で事務局機能が失われ、会費請求も全国あつかいになっている。全国や他支部からの情報は全国幹事会メールもしくは垂水さんから、一部の会員に送っている。福岡支部は支部企画(例会や勉強会)が頻繁に開催され、財政も潤っている。幹事会も月1回必ず行われている。来年の建まちセミナーに向けての会議も活発にかつ楽しく行われているなどの報告がありました。

 

 次に各支部の問題をみんなで考えようということで、支部活動活性化について意見交換をしました。支部活動の悩みを参加者全員で(ブロックで)考える。支部の企画や企画案について、他団体との共同の進め方。地域での運動について。兵庫支部・滋賀支部をブロックとしてどう応援していくか。近隣支部が企画し、兵庫支部・滋賀支部で開催するなどが話し合われました。

 

 午後7時からの懇親会では、大阪支部の伴さんが取り組んでいる奈良・吉野での平屋の住宅づくりの紹介(ローコスト、自力建設、実用新案特許申請)があり、大いに盛り上がりました。

 

 9月17日は午前9時半から会場を大阪支部の伴さんの事務所に移して、ブロック会議の続きを行いました。西日本豪雨被害報告(岡山支部・赤澤さん)、大阪地震・台風被害報告(大阪支部・大槻さん)、新建全国の状況・常任幹事会報告(久永議長)、50周年委員会・新建叢書第2弾刊行(久永議長)、建まちセミナー2019in福岡の準備状況報告(福岡支部・鹿瀬島さん)などの報告があり、活発な議論が行われました。

 

 昼食をはさんで午後からは、建まち編集委員会から12月号「普通の建築」原稿募集、ワーク&ワークについてと来年のテーマについて(インバウンドの功罪、頻繫化する災害にどう対処するか)報告がありました。

 

 その後、前日の続きで各支部から支部活動の報告がありました。岡山支部は事務局長が建築の仕事を辞めた。企画で活性化したい。奈良支部は奈良公園内の超高級ホテル建築問題。幹事会も月1回必ず行われている(建まち誌の読み合せ)。企画も年3〜4回開催している。幹事で役割分担(企画・財政・連絡)をはっきりさせている。ただ、川本さんが支部活動から離れて、けん引役がいない。京都支部は国の成長戦略による歪み、岡崎公園活性化ビジョン、京都会館に続いて京都市美術館のネーミングライツ売却、世界遺産「下賀茂神社」バッファゾーンにマンション計画、民泊・ホテル建築ラッシュ(外国・東京資本)。新建叢書の刊行。月1回の企画・幹事会・支部ニュースが定例化している。企画会議・編集会議も定例化している。会員100名復活目標。大支部は大阪府北部地震・台風21号による甚大な被害。インバウンドの急激な増加と外国・東京資本による投資で不動産が高騰。行政はIR(カジノ)と万博誘致に躍起になっている(過去の湾岸開発のツケの精算)。支部企画・幹事会・支部ニュースは少しづつがんばっている。『建まち』西編集会議は京都の桜井さん以外は5人が大阪支部。久しぶりの新会員・新読者会員。「中之島を守る会」再び、などの報告がありました。

 

 最後に、支部活動活性化について意見交換があり、兵庫・滋賀・岡山支部応援のための担当者を決め、合同企画を早急に考えることが決まりました。片方全国代表幹事がまとめの意見を述べられ、午後4時に終了しました。参加者は福岡・岡山・兵庫・大阪・京都・奈良の6支部から20名でした。

(大阪支部・栗山立己)


関東ブロック会議の報告

  日時:2018年9月23日(日)  

  場所:都市住宅とまちづくり研究会

  参加:24名

 

 2018年9月23日(日)に、東京支部会員のNPO都市住宅とまちづくり研究会の会議室において、第2回関東ブロック会議が開催された。

 参加者は関東近県の6支部(東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、静岡)と茨城から1人参加で計24名、全国幹事は13名(内常任幹事8名)。

この会議を迎えるにあたり、準備段階でメーリングリストを設け、会議内容について検討・意見交換をし、当日スケジュールや議題とその討議内容について合意形成をはかった。


 スケジュールはAM10:00開会、参加者紹介、議題Ⅰは全国的課題(〜11:00)、議題Ⅱ:前半は各支部報告(〜12:15)、昼食(〜13:15)、後半は各支部報告に関する質疑と意見交換(〜15:15)休憩15分、議題Ⅲ自由意見交換(〜17:00)、交流会は17:30〜20:00であった。


 開会挨拶で中島代表幹事から、今年の「暑さ」は災害なのか、毎年来るのか。私たちは、「災害と言われるものも、もとは自然の営みで、それが災害になるのは人災なのだ」と教わってきた。災害がこれほど起こるのは、防災・減災が不十分だということなのだと思う。本日は新建2回目の「関東ブロック会議」です、防災・減災に新建の役割は大きいはずです。それぞれの会員の持つ「持ち味」をうまく発揮して議論をお願いします。「新建にいてよかった」と確信できるような会議になるといいと願っています、と会議への思いをいただいた。


 議題Ⅰの全国的課題では、研究集会の取組状況報告と参加呼掛け、新建セミナーin東京の内容報告と参加呼掛け、全国事務局から全国の状況を文書報告、復興支援会議の新井事務局長から真備町の視察の詳細報告と、市町村合併により被災地の特定

地域の細かい情報が伝わらないなどの弊害があったこと。最後に「どうやっても対策のしようのない最大の人災は、人類の手に負えない原発の存在。これだけはなんとしてもこの世から消し去りたい。今を生きるすべての者の責任として次の世代に、負の遺産を残さないこと」と締めくくられた。


 議題Ⅱ前半では、事前に各支部の報告とアンケートとして、基本的状況(会員数、実働人数、会議開催数)、支部活動、他団体との交流、取り組みたいこと、支部活動の評価と問題点、ブロック会議への期待、その他意見をメーリングリストにて事前共有、一部当日補足資料も追加され6支部から報告された。


 議題Ⅱ後半では、最初に茨木の会員の乾さんから、東海第二原発の再稼働問題が、直下型地震が迫る首都圏で最大の問題だと思っている、再稼働してはならないとの思いから本を書いた(「原発都市││歪められた都市開発の未来」幻冬舎ルネッサンス新書)。間もなく出版されますのでお読みください、との報告もあった。実践報告会は東京支部も実施。千葉支部では「仕事を語る会」を館山の古民家で毎年開催、学生も参加するので賑わっている、開催場所の雰囲気が良い。その他のテーマでは、支部企画を他支部へお知らせする発信をして欲しい、退職後の年配会員への対応、支部ニュース、学生への呼掛け、滞納会費のあつかい、建まち誌の読書会、会員への伝達など、各支部から細かい報告と意見交換がなされた。


 議題Ⅲの自由意見交換では、学生への働きかけも大事で、新建は大学とつながることも柱とすること、研究集会や建まちセミナーなどの大学での周知。仕事の面では、自分の地域での「仕事の開拓」が大事、地方では若者の流出が多く後継ぎがいない。


 文書参加で、「若い人の行動パターンが変わった今日、新建は今までのままでいいのですか、これじゃまるで『仲良しクラブ』ではないか。新建はもっと社会に大きくアピールすることを大切にすべきだ」との意見についての討論。新建の魅力は、建築に関わる人間として、仕事をどう進めるべきかを教えてくれる「指針」としての魅力です。『建まち』誌も読みごたえがある。MLの使い方やルールについての意見では、ルールを明確にすべき、文書にして発信していない、管理がなされていない、オフィシャルな報告なのか個人的な意見なのか区別し執行部からの正式の報告や指示はMLと別の形で出してはどうか?など、他にも多くの意見交換がなされ今後の課題として示された。


 閉会挨拶は神奈川支部の大西さんから、「2回目の開催で、前回より有意義な『関東ブロック会議』になりました。新建のやってきたことを次の世代につなげていきましょう。『これまでこうやってきたからこのままでいい』ではなく、自分と違う意見の人とも仲間であり続けていきましょう」と呼び掛けて閉会。


 交流会は、手分けして買い出しの後、24名の参加で賑々しくまた楽しく過ごした。千葉支部から仕事の帰りに参加してくれた会員もあり、予定時間いっぱいまで交流し散会となった。

(埼玉支部・星厚裕)


中部ブロック主催 ー「建築とまちづくりセミナーin稲荷山」

  日時:2018年9月8日(土) 9月9日(日)  

  場所:稲荷山温泉杏泉閣

  参加:30名

 2018年9月8日(土)〜9日(日)長野県千曲市稲荷山にある稲荷山温泉杏泉閣にて、中部ブロック主催の「建築とまちづくりセミナーin稲荷山」が開催され、それに参加しました。

愛知支部からは3名、全体で34名の参加がありました。


 第1講座は石川支部の杉山真講師による「設計者の直営分離発注とCM」で、個人的に興味がある題材でした。杉山さんの直営分離発注は、イメージ通りの建物を実現させるための一つの手法とのことでした。発注を分離することによって、各専門業者の資格をオープンにして建築費の透明化をはかる。建築会社(現場監督)が間にいないので、職人に直接指示ができ、設計図の意図が伝わりやすいとのことです。設計者の立場として参考になりました。


 第2講座は岐阜支部の加藤寿泰講師による「モノづくりからはじまるコトづくり││自分らしさのライフスタイルを見つけるには」と言うタイトルの通り、加藤さんのものづくりに対するこだわりのお話です。オリジナル商品の開発や、可能な限り本物志向の材料を使い、月日がたっても劣化ではない「味」の出るアンティークな感じを目指しているなど、小規模な施工店でもここまでできる、という熱い思いが十分伝わってくる内容でした。


 第3講座は長野支部の外山俊講師による「すがかわ民話の里づくり」で、民話という題材を通して地域を活性化し盛り上げていこうとする活動です。小さなアクションから大きな流れに持って行くのは大変で、信念を持って取り組まないとここまで

できないのではないかと思いました。色々な場面で求められる「活性化」成功談·失敗談とも、参考にできることは多々ありました。


 第4講座は東京支部の小林良雄講師による「20世紀の建築空間遺産·その1」です。海外の建築物を実際見た感想やエピソードは、写真に臨場感が加わってとても良かったです。シリーズで連続講座になるとのことなので、ぜひ次回も参加したいと思います。

(愛知支部・中森重雄)


中部ブロックセミナー『松代大本営』見学会報告


 各講座については愛知支部の中森さんが報告してくださっているので、私は『松代大本営』の見学会について報告します。


 「『松代大本営』ってなんだ?」と思いながら、まるで炭鉱の坑道の様な穴倉へ入って行く(中森さんの報告の写真)。この地下壕の奥になにか珍しい建物でも在るのだろうか?」期待が高まる。暗っぽい照明は在るものの、天井は低く、足元はデコボコで、所々水溜りでぬかっていて歩きにくい。洞窟探検隊のように歩き続けること3040分。地下壕はまだまだ続いているけれど、どこまで行っても建物らしき物は見えてこない。


 二十数年前、予備知識もなく私が初めてここを見学した時のことを思い起こしてみました。でも今回の新建セミナーの見学会は違いました。今回のセミナーを中心になって進めてくださった長野支部の市川義雄さんの小·中学校の同級生だったという、NPO法人松代大本営平和祈念館の西条さんの説明をいただきながらの見学会だったからです。


 『前のアジア·太平洋戦争の末期、敗色濃厚な戦況のなか、国民の苦しみ、犠牲に目も向けず、本土決戦に備えよと、ひたすら天皇(制)とそのシンボル『三種の神器』を守り、大本営(戦争を指揮する日本軍の最高司令部)、その他の政府機関などを移設·避難するために、強制連行を含む6500人以上の朝鮮人労働者を中心に、その人々の命をも奪う酷使を続けて建設した、総延長10数㎞におよぶ地下壕の戦争遺跡です。


 お話のなかで強く印象に残ったことは、『大本営』を見学に来られた沖縄戦ひめゆり部隊で生き残られたみなさんが、「私たちが死にものぐるいで戦っている時、ここではこんなものをつくっていたのですね」と話されていたと言うことです。『大本営』を移設するための地下壕を完成させるまで、沖縄の住民の命を盾に時間稼ぎをしていたことに対する憤りです。


 ところで、今回説明をしていただいた西条さんのおられる『松代大本営平和祈念館』はどこにあるのだろうか?私も事情はよく知らないのですが、新建も深くかかわり、前代表幹事の三沢浩先生が基本設計までなされたとお聞きしている『祈念館』の建設が、大変残念なことに実現できないまま現在に至っているようです。それでも、平和な未

来のために『松代大本営』を保存·研究し続けている活動と、これを支えている多くの人々がいることを思うと、それこそが私たちが目指している建築とまちづくりの核心を成すもののように思えます。きっと近い将来、その想いが建物の形としても実現できると思います。

(長野支部・大場美広)