2018年1月号(No.470)

「地方創生」から本当の地域再生へ

 

戦後の国土開発や繰り返された市町村合併により、日常生活の共同体的な力は弱まり、行政依存の意識構造がつくり上げられた。成長信仰は競争的環境を生み、個人主義が嵩じて人々の孤立が深まっている。こうした状況を脱して、心情の通う共通の場と人間らしい生活にふさわしい空間を再構築する試みが各地で続いている。本誌連載の「新日本再生紀行」執筆者の座談会を軸として、都市と農村を貫く「地域の包容力」を視点に、コミュニティ再生の課題を追った。

・〈座談会〉連載「新日本再生紀行」を振り返って           片方 信也 久永 雅敏 伴 年晶 鎌田 一夫

                                                                                                                     三浦 史郎 三宅 毅 福田 啓次 鈴木 進

・人と地域の再生哲学-放射能公害地域と向き合った七年         糸長 浩司

・日々の暮らしのまちづくり                      磯田 節子

・都市部での地域コミュニティの維持・発展の取り組みと最近の悩み    江國 智洋+松木 康高

・〈インタビュー〉新世代が仕掛ける新たなまちづくりへの期待-地域特性を生かした都市と農村の再編成の展望                                                                                                                             佐藤 滋

 

◆新建のひろば

千葉支部──新建千葉塾08、09「美しいまちを考えるpart01、02」の報告

神奈川支部──まち歩き「横須賀の昭和30年代の市営住宅めぐり」の報告

・奈良支部──奈良公園に高級宿泊施設を建設する計画についての意見表明

・復興支援会議ほか支援活動の記録(2017年11月1日~ 11月30日)

 

◆連載

《英国住宅物語10》マスハウジングの時代 近代ハウジングの挫折、GLC の方向転換    佐藤 健正

《新日本再生紀行12》鳥取県湯梨浜町                         済藤 哲仁

《普通の景観考3》ロンドンのアーバン・ビレッジ                    中林 浩

   

◆第31回新建築家技術者集団全国大会(大阪)報告

・新建第31回大会期全国役員

・第12回新建賞2017

・第12回新建賞2017 審査・表彰と課題

・第31回全国大会 大会決定

 

主張『家族の再生と地域コミュニティ』

新建全国常任幹事  山本厚生

 

 私は長い間、住宅の設計に専念してきて、たくさんの家族と出会いました。そこには、さまざまな生き方や暮らし方があることに興味を持ち、勉強会を続け、本も書きました。その間、気になって仕方がなかったのは家族の崩壊が世の中で進行していることです。
 家族は人間社会に必要で大切な存在なのだと思い続け、住まいづくりは良い家庭づくりの絶好のチャンスなのだと、本には書きました。しかし、家族崩壊は住まいづくりをするチャンスさえないような家族の間で起きているのです。そこまでで、私は立ち往生してしまいました。
 このたび、二つのことがきっかけで、家族問題を快方に向かわせるのに地域のコミュニティが大切な役割を果たすことが分かりました。
 ひとつは「子ども食堂」です。大田区で無農薬健康食品の八百屋をしている友人が、学校の先生から「一日にバナナ一本しか食べていない子どもがいる」と聞いていました。それが誰かは教えてもらえなかったようですが、それならばと友人は、子どもが一人できても食べられる食堂を、曜日を決めて開くことにしました。すぐに評判は広がり、疲れた母子も一人暮らしのお年寄りも、例のバナナの子も友だちと一緒に来て、なごやかに食べて
いくようになりました
 これを「子ども食堂」と名付けました。この食堂については本誌2016年12月号に詳しく紹介されています。
 評判を聞いた他区の人が呼び掛けて講演会を開いたり、TVに出たりして、またたく間に「子ども食堂」は全国にできてきました。そんなにもたくさんの家族で食べられない子や孤食の子がいるのですね。悲しくなりました。
 いまひとつは、私たちが里山に移り住んだことです。ここの暮らしにはコミュニティがあります。
 人々は自治の自覚が高く、回覧板が頻繁に回ってきますし、ゴミ当番もゴミの分別も約束を守ります。自治会もしっかりしていて、総会の他に新年行事も、「どんど焼き」も、盆踊りも、さまざまな競技大会も開かれます。長寿会では、カラオケや輪投げなどの遊びの集いがいっぱいあって誘ってくれますし、神社やお寺の掃除にも誘われます。
 このような地域コミュニティの人間関係はとてもなごやかです。企業ではないので、利潤追求も上司部下の関係もありません。近くに住んでいて、どこの誰だか分かっていますし、地域の話題も共有できます。また、生まれも職歴も個性も違い、それをよく承知しているので、自然に適切な分担ができています。
 さて、家族が抱える悩みに地域コミュニティはどんな役割をはたせるのでしょうか。四つの悩みを取り上げて考えてみます。
①忙しくてゆとりばなくバラバラな家族―↓楽しい催しや集いに呼びかけて誘います。地域だから何人もの人から声が掛ります。出席したらそれが家族の話題になるようにしむけます。
②心を病む人を抱えた家族―↓抱えた家族がストレスから少しでも解放されるように、信頼されている人が親身になって状況を聞いてあげることです。状況が分かっていれば、ことあるときに協力が可能です。
③子育てのストレスで疲れきっている家族―↓子育てでもっともたよりになる味方は、*近所のおばさん*子育て仲間*地域の子育て支援です。遠くにいる身内よりずっと頼りになる、これこそコミュニティです。
④老人の一人暮らしと介護の問題―↓ともかく孤独にしないこと。度々声を掛けて見舞うこと。身内の介護者がいるとしても、必ず地域で見守り続けること。
 こう考えてくると、少子高齢社会でこそ豊かなコミュニティが必要なのだと痛感します。

 


「建まちひろば」より

[千葉支部]- 新建千葉塾 08,09

       「美しいまちを考えるpart 01 ,02 」の報告 

  日時:2017年9月29日(金) 参加者 6 名

     2017年11月14日(火) 参加者10名

  場所:幕張町 アトリエ結

新建千葉塾は建築・街づくりにかかわる知識を得たり意見交換を行いながら気軽に参加できることを目指し、昨年から始めた企画です。

講師がこれまで訪ねた世界各地(もちろん日本も含まれます)を紹介し、少しのアルコールを入れながらワイガヤで質疑応答を行っており、これまで9 回開催しました。今回は鈴木進氏講師の 9 月 29 日「美しいまちを考えるpart 01」参加者 6 名と、11 月 14 日「美しいまちを考えるpart 02 」参加者 10 名の報告です。開催場所は幕張町のアトリエ結です。

  美しいまちとして、①建物や街並みが周辺の環境に調和しているまち②歩いて暮らせるまち③季節を感じるまち④建物の内外につながりのあるまち⑤心地よい空気と香りがあり、水のきれいなまち⑥統一性と多様性(個性)が調和のとれているまち⑦歩いて楽しいまち⑧休息のできる場所のあるまち⑨安全なまち⑩地域固有の資源を大切にしているまち⑪人々の優しさにあふれたまち⑫まちの歴史を感じるまち⑬住民が大切にし、誇りをもっているまち⑭住民が生き生きと暮らしているまち⑮住民や企業がまちづくりに参加しているまち、の15 項目を位置づけ、意見交換を行いました。重要文化財や重要伝統的建造物群保存地区を中心にpart 01 は佐原(千葉)、小布施(長野)、大内宿・前沢集落(福島)など、part 02 では奈良井・妻籠宿・松本(長野)、岩瀬地区・射水市内川沿い(富山)、伊万里・有田(佐賀)、富岡製糸場(群馬)などが紹介されました。

  part 02 の参加者のうち5 名は千葉大学の建築・都市計画系の留学生で出身はイタリア、

オランダ、ザンビア、フランス、メキシコです。それぞれの国で伝統的建築物や街並みをどう守るか苦労しているようで、建築 基準法や都市規制の制度がどう関わっているか質問がありました。新築の住宅や団地は日本と同じような建築家がかかわることは少なく、建設会社やデベロッパーが作っているとのことです。また、奈良井宿での出桁造りや庇を支える猿頭、湯布院の看板、酒田山居倉庫の深い庇や妻入り、有田や伊万里の登り窯などに興味を示していました。

  日本の建築や街並みに興味があるようで、ぜひ次回も開催しましょうと要望がありました。 たとえば留学生が好きな所や嫌いな所の写真を持ち寄り意見交換することで、我々が見慣れたものでも視点や考え方の違いを知ることができ、勉強になるのではと思います。この先、継続して企画する予定です。

(千葉支部・中安博司)


[神奈川支部]-  まち歩き「横須賀の昭和 30 年代の

                市営住宅めぐり」の報告

  日時:2017年11月12日(日)

  場所:横須賀 市営住宅

 

 11 月 12 日、好天に恵まれた晩秋の日曜日、昭和の30 年代に建築された横須賀の市営住宅の見学ツアーに参加しました。発案は会員の小野さんで、7 月の湯河原に続くまち歩きです。

午後1 時に京急田浦駅に集合でしたが、この駅は各駅停車の電車しか止まらないのです。参加予定8 人のうち、案の定3 人が特急 に乗って通り越したり、また、JRの田浦と間違えたりで 20 分 ほどの遅れでスタート。計画段階ではレンタカーの利用も検討したのですが、結論は歩くこととしました。

  横浜、川崎には木造の戸建ての公営住宅は残っていませんが、横須賀市には昭和 30 年代から 40 年代に建築された市営住宅が今も 5 カ所残されています。 1 部 は現在も居住されていますが、現状はほとんどが政策空き家(新規募集はせずに退去をすすめいている状況)となっています。今回見学したのはこのうちの 3カ所です。ご存知のように横須賀は三浦半島の東京湾の先端近くに位置し、歴史的にはペリー 来港以来軍港としての役割を負ってきた街です。地形的には山間部で公営住宅も台地、谷戸の平地に建てられています。

  京急田浦駅から徒歩 15 分から 20 分位の地域に、いまだにこれだけの市営住宅が残っているのは意外でした。訪れた住宅は戸建ての木造平屋とブロック造平屋の長屋形式の住宅でした。木造の住宅は外壁の一部壊れた部分から、当時はほとんどの住宅で使われていた小舞壁、間取りは 6 畳と 4 畳半( 3 畳)、浴室と台所、トイレで約 30 平方メートルです。ほとんどが同様のプランでした。現在は空き家となっていて募集はしておらず、横須賀市としては今後どうするか検討中とのことです。いずれにしても建築場所が狭い道路と丘の上で、結構広い土地ではあるものの跡地の活用の計画は大変だなと感じました。ほぼ、同じ計画、形式の住宅を 3 カ所見学し、帰りはバスで追浜に出て 24 時間営業の居酒屋で反省会を行い、終了しました。ちなみに当日の歩数は 1 万 4 千歩でした。    (神奈川支部・増田成司)

 

  特に印象に残ったところは、田浦月見台住宅です。台地の上にあり、そこからの東京湾の眺めは最高でした。花火がとてもきれいに見えるそうです。まわりの自然環境がよく、隣棟間隔も十分にあり、日当たり抜群です。最寄りの田浦駅からの上り下りがご高齢の住人には大変でしょうが、車かバイクがあれば問題ありません。空き家を有効活用し、日常品のお店でもできると便利です。月見台住宅のように条件の良い市営団地は、もっと若い家族を迎え入れて、コミュニティを育んでいけるような気がします。庭には畑や果樹があり、一部増築してあるところも見受けられました。住民が住みながら、自由にリフォームをし、維持管理できるとよいと思います。

(神奈川支部・永井幸)